表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

図書室の闖入者、あるいは白瀬乃愛という不確定要素

「――あ、如月きさらぎ先輩。またこんなところで油売ってる」


 静まり返った放課後の図書室。僕とりんが、昨日呼び合った名前の余韻に浸りながら、こっそりグミを分け合っていたその時だった。


 図書委員の後輩、白瀬 乃愛が、ふわふわとした足取りで僕たちのテーブルに割り込んできた。


「……白瀬さん。今は図書委員の仕事中じゃないのか?」


「もう終わりましたよー。それより先輩、そちらの三宅先輩と何してたんですか? なんだか、すっごく……『入っちゃいけない空気』が出てましたけど」


 乃愛は屈託のない笑みを浮かべながら、僕と凛の間にストンと腰を下ろした。

 凛がビクッと肩を震わせ、隠していたグミの袋を慌てて鞄に押し込む。いつもの「氷の完璧主義者」の仮面を被ろうとするが、乃愛のあまりの距離の近さに、計算が追いついていないようだった。


「……別に、何でもないわ。ただの、事務的な会話よ」


「えー、事務的な会話でそんなに顔赤くします? 三宅先輩、噂通りお綺麗ですけど、意外と隙だらけなんですね。あ、如月先輩、この前の本、すっごく面白かったです! また『りつ先輩』のオススメ、教えてくださいね」


 乃愛が僕の腕に軽く触れながら、親しげに笑いかける。

 「律先輩」という呼び声が、図書室の静寂に響いた。


 隣で、凛の呼吸が止まるのがわかった。

 昨日、あんなに勇気を出して、顔を真っ赤にしながら呼んでくれた、特別な二文字。それを、この後輩はいとも簡単に、軽やかに使いこなしている。


「……如月、律」


 凛が、低く冷たい声で僕の名前を呼んだ。でも、その瞳には怒りよりも、もっと深い「拒絶」の色が混じっていた。


「……私、帰るわ。今日の分の『計算』は、もう終わったから」


「え、三宅さん? まだ……」


「……その子と、仲良くしてればいいじゃない。私みたいな、可愛げのない完璧主義者より、よっぽど楽しいでしょうし」


 凛は椅子を引く音を大きく立てて立ち上がると、僕の顔を見ることなく、足早に出口へと向かった。

 翠ヶ丘中等学校という名門で、常に「にぎやかさ」の中心にいたはずの彼女が、乃愛という本物の「にぎやかさ」を前にして、逃げるように去っていく。


「あーあ、行っちゃいましたね。私、何か変なこと言いました?」


 乃愛は小首を傾げて、僕の顔を覗き込んでくる。

 神様がいなくなったこの世界。

 誰かの指図ではなく、僕たちが自分の意志で繋いだはずの糸が、乃愛という不確定要素によって、今、ぷつりと解けようとしていた。

乃愛さんの登場で、律と凛の関係に大きな亀裂が入ってしまいました。

 凛さんにとって、自分がやっとの思いで手に入れた「律」という名前を、乃愛が当たり前のように使っていることが、何よりもショックだったのかもしれません。


 せっかく近づいた二人の距離が、また遠ざかっていく。

 名門校出身のプライドが、逆に「自分なんて」という卑下ひげに変わってしまう、凛さんの繊細な一面が描かれました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ