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神様の退屈しのぎと、差し出された二つの黄金

もし、あなたの前に神様が現れて、こう言ったらどうしますか?

「一生、金に困らない権利」か、「一生、愛に困らない魔法」を授けよう、と。

多くの人は、どちらかを選んでハッピーエンドを迎えるでしょう。

ですが、この物語の主人公は、少しだけ……いえ、かなり「ひねくれもの」でした。

彼は、神様が提示した最高のショートカットを「退屈だ」と切り捨てます。

これは、最強の力を拒絶した少年が、あえて泥臭い「努力」という名の贅沢を選び、自分だけの物語を書き込んでいくお話です。

あなたなら、神様の誘惑を前に、何を思いますか?

 その日は、ひどく蒸し暑い放課後だった。

 校舎の裏、錆びついたベンチに座っていた僕の前に、唐突に「彼」は現れた。

 自らを「神」と名乗るその存在は、どこにでもいる少年の姿を借りてはいたが、その瞳の奥には、数千年の時を煮詰めたような深い退屈が沈殿していた。

 神は僕の隣に腰を下ろすと、まるで道端の石ころでも差し出すような軽さで、僕の人生を根底から覆す「選択」を提示した。

「おい、少年。退屈しのぎに一つ授けてやろう。一生、あらゆる女性を心酔させる魔法のチョコか。あるいは、何もしなくても毎年十億円が舞い込む権利か。どちらかを選べ。これは僕からの、気まぐれな贈り物だ」

 神の言葉は甘く、そして暴力的だった。

 その贈り物を受け取った瞬間、僕の人生から「不安」という二文字は消滅するだろう。愛を乞う必要もなく、生活のために頭を下げる必要もない。それは、人類が歴史を通じて追い求めてきた究極のゴールであるはずだった。

 しかし、僕はその煌びやかな果実を前にして、不思議なほど冷めていた。

 自分の内側にある「想像力」が、そのギフトを受け取った後の未来を瞬時にシミュレートし、そして、拒絶反応を示したのだ。

「……どちらも、いりません」

 神の眉がピクリと動いた。

「ほう? 意味がわからないな。無欲を気取っているのか、それとも自分の欲望に嘘をついているのか」

「いいえ、僕は欲張りですよ、神様」

 僕は努めて冷静に、自分の喉を震わせた。

「ただ、あなたが提示したものは、僕にとってはあまりに『単調』すぎるんです」

「単調、だと?」

「そうです。あなたが提示したのは『結果』だけだ。でも、僕にとっての人生の本質は、そこに至るまでの『プロセス』にあります。例えば、好きな人に振り向いてもらうために悩み、自分を変えようとあがく時間。あるいは、一円の価値を生むために泥を這うような苦労。魔法のチョコや十億円は、それらの豊かな時間をすべて『ショートカット』して消し去ってしまう」

 僕は神の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「結果だけが約束された人生は、すでに結末のわかっている退屈な映画と同じだ。そこには、僕の意志も、僕の選択も介在する余地がない。それは僕の人生ではなく、あなたの書いた脚本をなぞるだけの、死んだ時間になってしまう」

 神はしばらく沈黙していた。

 真夏の静寂が、僕たちの間を重く支配する。

 やがて、神の肩が小さく震え始め、次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。

「ははは! 傑作だ! 人間というのは、これだから面白い。与えられる幸福よりも、自ら勝ち取る苦痛に価値を見出すとは。君は、僕が用意した最高の安楽を、『退屈』という名のゴミ箱に叩き込んだわけだ」

 神は立ち上がり、姿を消す直前、僕にこう言い残した。

「いいだろう。なら、君のその『努力』という名の贅沢な遊びを、上から見物させてもらおう。一文字も僕の介入を許さないというのなら、せめてその結末くらいは、僕を驚かせてくれよ」

 神が去った後、ベンチの周りにはいつも通りの、何の変哲もない日常が残された。

 財布の中身は相変わらず寂しく、好きなあの子との距離も一ミリも縮まっていない。

 でも、僕の心は不思議なほど高鳴っていた。

 世界は依然として理不尽で、困難に満ちている。だが、その困難の一つ一つが、今は僕だけに許された「自由」の証に見えていた。

 僕は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

 ここから始まるのは、誰かに与えられた物語じゃない。僕が、僕の手で書き込む、泥臭くも輝かしいプロローグだ。

この物語を書きながら、私自身も何度も自問自答しました。

「もし目の前に神様が現れて、十億円を差し出されたら……自分は本当に断れるだろうか?」と。

 正直に言えば、喉から手が出るほど欲しいと思う瞬間もあります。ですが、この物語の主人公が言ったように、「結果」だけが手に入った後の人生を想像すると、どこか色が褪せて見えるような気がしたのです。

 効率やコスパが重視される今の時代、あえて「遠回り」や「不自由」を選ぶことは、一見するとバカげたことかもしれません。しかし、自分の頭で考え、自分の足で歩く。そのプロセスにこそ、誰にも奪えない「自分だけの物語」が宿るのではないでしょうか。

【読者の皆様へ】

 もしあなたがこの少年の立場だったら、神様の二つの提案、どちらを選びますか?

 あるいは、彼と同じように「第三の道」を突きつけますか?

 皆さんの「選択」や「感想」を、ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しいです。

 この物語が、あなたの「考える力」や「想像力」を少しでも刺激するスパイスになれば幸いです。

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