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天使

私の名前は天使鳳梨(あまつかほうり)


人は私のことを天使(てんし)だと言う。


でも、私は自分のことを一度も天使だと思ったことは一度もない。


だって私は性格がものすごく悪いから。


兄である竜葵にも性格が悪いと言われたことがあるし、その友達にも言われたことがある。


そのせいで、中学校時代は一人も友達がいなかった。


欲しいとも思ったこともなかったが。


色々と問題を起こしすぎて、高校では猫を被って生活をしていたら、いつの間にか「天使」と呼ばれていた。


大勢の友達がいると思われているが、猫かぶってできた友達を友達と呼んでもいいのかは疑問だ。


今日も一日、猫を被って過ごす学校生活が始まった。




※※※




「おはよう。天使てんしちゃん」


「おはようございます」


毎度、毎度、朝から面倒くさい絡みをしやがって、と男子生徒に鳳梨は腹を立てる。


一発ぶん殴ってやりたい気持ちを押さえて、笑顔で挨拶を返す。


「はぁ。今日も天使てんしちゃんは可愛いよな」


「あれで、性格も天使なんだから。本当に完璧だよな」


(いいえ。性格はクソですよ。あなたたちの顔面をコンクリートに埋めたいと思うほどには)


男子生徒の言葉に心の中で返事をしながら、ストレス発散をついでにする。


この世のどこに毎日、毎日、ジロジロと顔を見られて、勝手に想像を押し付けられて、それと違ったら批判されるのに、性格がいい人間がいるんだよ、と悪態を吐きながら今日も登校する。


「あ、鳳梨。おはよう」


クラスメイトで私を利用して、イケメンと仲良くなろうと必死の自称友達の一人、愛香あいかが挨拶してきた。


「おはよう」


(あぁ。最悪だ)


本当なら私も素で学校でも過ごしたいが、中学校時代はそれで、なんどか大変なことになったので仕方なく仮面をかぶっているのだ。


中学校時代に愛香がもしもいたら、間違いなく鳳梨をいじめる側のグループに存在していただろう。


「ねぇ。今日空いている?和泉高とさ、今日合コンやるんだよね。鳳梨もこない」


「ごめん。放課後は用事あるんだわ」


「えー。いつもそうじゃん。たまには遊ぼうよ」


甘えるような声で言ってくる愛香に鳥肌が立った。


「ごめんね」


困ったように笑いながら、言えば渋々愛香は引き下がる。


彼女が毎回、誘ってくるのは仲良くなりたいとかではなく、鳳梨と仲の良い友達と言う肩書が欲しいのだ。


実際、彼女はよく他校と遊ぶとき自慢していた。


たまたま、その場面を見たことがあり、離していた内容も聞こえたが、ほとんどが嘘ばかりだった。


そのとき彼女とは仲良くするのをやめようと決意したのに、毎日、毎日、付きまとわれ、作った性格のせいで文句も言えない。


毎日、ストレスが溜まる。


自分で決めたことなので、誰にも文句は言えないが、腹が立つのは仕方ないことだ。


愛香の独り言を聞き流しながら登校していると、いつの間にか学校に到着し、他のクラスメイトと出会った。


「おはよう」


「おはよう」


挨拶をしてから、昨日のドラマ見た、と言う話になった。


「あの俳優格好よかったよね」


「新人かな?初めて見たよ」


ドラマは見ないので、何を言っているのかさっぱりわからず話に入らないでいると、それに気づいた仁美ひとみが話を振ってきた。


親切心から振ってくれたのはわかっていたが、見てもないドラマの話を振られても「ごめん。見てないから。わかんないや」としか言えない。


「え、そうなの。面白いのにもったいないよ」


心底信じられないと言った感じで、感想をずっと話していた里穂りほに驚かれた。


「へー。そんなに、面白いんだ。見てみようかな。あ、でも、もう結構進んでるよね」


「あー。だね。再放送もしてないし、今から見ても話しはよくわからないかも。結構、設定難しいし」


助け舟を出してくれたのか仁美がそう言った。


「そうなんだ。残念だな。あ、それより、今日小テストが……あったよね」


幽霊がいるなんて慣れた光景なのに、さすがに今回のは驚いて言葉に詰まってしまった。


鞄を机の上に置き、一瞬目を閉じただけなのに、開けたら目の前に幽霊がいた。


それだけならいいが、鼻と鼻の隙間が一ミリしかなく、キスできそうなほど近い。


例え女性の幽霊だとしても、知らない幽霊がそんなに近くにいたら驚く。


というか、嫌すぎる。


ここが教室でなかったら、間違いなく消し去っていただろう。


「ん?どうかしたの?」


ほんの一瞬、言葉に詰まっただけなのに愛香は見逃さなかった。


「ううん。なんにもないよ」


まだ顔の前に居座る幽霊に腹をたてながら、鳳梨は笑顔を浮かべて誤魔化すようにそう言った。


「そう?それならいいけど」


「それより、小テストってどの教科?私、やばいかも」


里穂は絶望したような顔で助けを乞う。


「あー。確か、英語と歴史と科学じゃなかったっけ?」


仁美が後ろの時間割黒板を見て言う。


「うそ!?三教科も!?終わった。はい。まじで、終わったわ。わたし」


里穂は魂が抜けたみたいに、机に倒れると微動だにしなくなった。


それに続いて愛香も「私もやばいかも」と言って、鞄からノートを急いで取り出して勉強をし始めた。


そんな二人を見た仁美は呆れるようにため息を吐いた後、自分の席へと向かっていった。


鳳梨も自分の席に向かった。


みんなが羨ましがる、窓側の一番後ろだ。


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