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if「もしもあの時縋れていれば」


「攪真……」


 その目が俺の目と合う。そして悲しげに歪められた。


「な、んで…………ぁ、は、なし……きいて」


 顔色悪くふらふらと揺れる織理はそのまま倒れた。精一杯の言葉、「話を聞いて」。何をこれ以上……そう思うのに何が聞けるのか気になっている俺がいて。


 髪を撫でながらその言葉を待つ。介抱した方がいいのはわかっている、でもここまでやったのに? 万が一にも洗脳を使われたらまた負ける。

 けれど、ここで聞かなければもうコイツと話すこともなくなるのだろう。少しくらい……そうして俺はただ待った。その目だけを布で塞いで申し訳程度に封印して。

 暫くして目が覚めた織理は俺の体にもたれつつ言葉を紡ぐ。俺の心臓は壊れそうだった。目隠しを取ろうとはしなかった。


「ぁ、――あ、擾繰……お願い、聞いて……」

「……うん、聞いとるよ」

「ごめん、なさい……、授業、の時お前を操って。それを気にしてるんだよね?」


 そういえばそうだったかもしれない。思えば遠くへ来てしまったものだ、あの頃と今では憶えている感情が違う。あの時俺は「見せ場なく倒されたこと」に怒っていたんだ。

 でも、それも風化してしまった。ただこいつに勝ちたいと言う感情だけを残して。


「違う。俺はただお前が好きで」

「すき、ってなに……俺、お前に何もしてない」


 何を言ってるんだ、コイツは。どうしてそんなに泣きそうな目をしているんだろう、好きがわからないってどう言うことや。


「だって、そんな風に洗脳してない……俺なんかを好きになる理由が無い」

「な、に言うてんの……。洗脳しなくともお前は……俺の好みのヤツ、だったんよ」


 たまに感じていたコイツの自己肯定感の無さ。嫌味なのは自分が嫌いだからなのか、と察する程度には自悪的。


「好きや、織理……。お前のこと、もっと知りたい……お前とキスしたいし、お前を抱きたい」


 もう全て正直に言おう。多分コイツは隠していても察してはくれない。


「キス……、痛くしない?」

「どないしたら痛くなんねん」

「俺なんかを、好きになるわけないって……」


 何でそんな迷子みたいな顔して言うん。俺は思わず織理の頬を掴み口を重ねた。

 目を見開いた織理だったが口を小さく開けてそれに応えてくれる。可愛い――へったくそなキスやけど、それこそがコイツのはじめてを奪えている証拠だ。


「っ、はぁ……擾繰……ほんとに、好きなの……?」


 涙目でそう問うてくる織理が可愛すぎて。俺がどんだけお前のせいで道を踏み外してるのかもわからないんだろう。


「攪真って呼んで。当然やろ、お前から目を離せんのや。だからこうして……」


 また少しだけ脳を掻き回す。


「ぅ、ぁ――や、め、これ、変になる……おかしくなる……!」


 まるで情事の時の懇願のように甘い声で静止を呼びかける織理。良くない感情だがたまらなく愛おしい、もっといじめてみたい。


「お前であれば壊れててもええと思ってる。好き、織理……俺のモンになって」

「攪真……俺、も多分嫌いじゃなかった……俺に優しくしてくれたの、打算があっても、攪真だけ……」


 腕に力が入る。織理から息が漏れた。何でこんなに可愛いこと言うんやろ、何でそんなに自分を愛されないと思っているんだろう。


「なぁ、何でそんなに自分のこと卑下するん……嘘やないんや、本当に……」

「だって、気持ち悪い……じゃん」

「誰がそう言ったん?」


 答える声はない。けれどいくら俺でもわかる、こうなったのは周囲の環境のせいだろうと。きっとそうして言われてきたのだ、誰にも馴染まずに。

「俺だけは織理の事気持ち悪いと思わへんよ。愛してる以上に、同じような能力やからな……」

 きっとただ甘いだけの言葉は聞かない。それよりももっとわかりやすい「同族意識」を植え付ける。

 現に織理は肩を振るわせた、少し嬉しそうに笑った。


「攪真……好き、好きになる……だからもう、俺を嫌いにならないで……」

「ならへんよ。お前が俺を嫌っても離さんから。ずうっと一緒にいよな、織理……」


 あぁ、こんな簡単だったんだ。コイツを負かせるのも、手に入れるのも。

 そのまま二人で肩を寄せ合って過ごす。たまにキスをしてめいいっぱい可愛がって。

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