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私説 西遊記の遊戯  作者: 光闇居士


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第二回:悟りを開いて菩提の真の妙理を究め、魔を断ち切って本来の神(真の自己)に合一する。

挿絵(By みてみん)

【修練の日々】

霊台方寸山・斜月三星洞の朝霧

爛桃山の七年

師の怒りと謎かけ


【しおの】

名を授かった美猴王は、喜びに堪えず、菩提祖師に深くこうべを垂れた。祖師はすぐさま他の弟子たちに命じ、孫悟空を二の門の外へと連れて行かせ、日々の務めである掃き掃除から、受け答えの仕方、立ち居振る舞いの礼儀作法に至るまでを教えさせた。

門の外に出た悟空は、改めて兄弟子たちに礼を尽くし、廊下の片隅にささやかな寝床をしつらえてもらった。次の日の朝からは、兄弟子たちの輪に加わり、言葉遣いや礼儀を学び、経典の講義に耳を傾け、議論を交わし、書を学び、香を焚く作法を身につけた。これが、彼の明け暮れとなった。

務めの合間には、暇を見つけては庭を掃き清め、畑を耕し、花や木々の世話をし、薪を拾い集めては火をおこし、水を汲み、器を洗うなど、洞府での暮らしに必要なことは何でも甲斐甲斐しくこなした。こうして、仙人の住まう洞府のうちにあって、いつしか六、七年の歳月が流れておりました。


ある日のこと、祖師は法壇に上がり、弟子たちをことごとく集めて、大道の教えを説き始めた。その様は、まさに、

天からは妙なる花が舞い落ち、地からは金色の蓮が湧きいずるかのよう。三乗の教えの奥義を説き明かし、万法の真理をあまねく網羅する。ゆるりと払子を揺らしながら紡がれる言葉は珠玉の如く、その響きは雷鳴となって九天を震わせる。ある時は道の教えを、ある時は禅の教えを語り、儒、仏、道の三教が元は一つであることを説き明かす。万物が一つの根源に帰する理を示し、生命の源である「性」の真髄を悟る道筋を指し示した。

かたわらでその教えに聴き入っていた孫悟空は、あまりの嬉しさに、思わず耳を掻き、頬を撫で、目を細めて笑みをこぼし、手足を躍らせて踊り出してしまった。


ふと、祖師はその姿に気づき、孫悟空に声をかけた。「そなた、皆の中にありながら、何故に狂人の如く飛び跳ね、私の話をないがしろにするのか」

悟空は答えた。「弟子は一心に聴き入っておりましたが、老師父のあまりに玄妙なるお説法に、心の喜びが抑えきれず、つい体が動いてしまいました。何卒、お許しくださいませ」

祖師は言った。「そなたが玄妙なる教えを解したというならば、一つ問おう。そなたがこの洞府に来て、どれほどの月日が経った」

悟空は答えた。「弟子はもとより愚かで、日月の数え方も存じません。ただ、かまどの火種が絶えた折には、いつも山の裏手へ薪拾いに参りますが、そこにそれは見事な桃の木がありまして、七度、かの桃を飽きるほどに食した覚えがございます」

祖師は言った。「かの山は爛桃山と申す。七度食したとあらば、七年の歳月が過ぎたのであろう。さて、そなたは今、私からいかなる道を学びたいと望むか」

悟空は答えた。「ただ、尊師の御心に従うばかり。わずかでも道の気配あるものならば、弟子はすぐにでも学びとうございます」

祖師は言った。「道の門には三百六十の傍門がある。傍門とて、それぞれに正しき果報があるものじゃ。そなたは、いずれの門を学ぶつもりか」

悟空は答えた。「すべて、尊師のお心のままに。弟子はただ、謹んで従うのみでございます」

祖師は言った。「では、術の門の道をお前に授けようか」

悟空は尋ねた。「術の門の道とは、いかなるものでございましょう」

祖師は言った。「術の門とは、仙人を招き、神託を受け、卜占を行い、筮竹を用いて、吉凶禍福の理を知る術のことじゃ」

悟空は言った。「そのような術で、長生きは叶いましょうか」

祖師は言った。「叶わぬ、叶わぬ」

悟空は間髪入れずに言った。「いえ、それは学びますまい」

祖師はまた言った。「では、流の門の道をお前に授けようか」

悟空は再び尋ねた。「流の門には、いかなる教えがございますか」

祖師は言った。「流の門には、儒家、釈家、道家、陰陽家、墨家、医家といった教えがあり、経典を読み、念仏を唱え、あるいは神仏を祀り、聖人を拝むといった類のものじゃ」

悟空は言った。「そのようなもので、長生きは叶いましょうか」

祖師は言った。「長生きが叶うとしても、それは壁の内に柱を立てるようなものよ」

悟空は言った。「師父、私は朴念仁ゆえ、そのような俗な譬えは分かりかねます。壁の内に柱を立てるとは、いかなる意味でございましょう」

祖師は説いて聞かせた。「家を建て、堅固にしようとて、壁の間に柱を立てる。だが、いつか大廈が傾く時には、その柱もまた朽ち果てる定めよ」

悟空は言った。「左様でございますか。それでは長くはもちますまい。それもまた、学びとうはございません」

祖師は言った。「では、静の門の道をお前に授けようか」

悟空は尋ねた。「静の門には、いかなる修行がございますか」

祖師は言った。「これは、穀物を断ち、清浄無為を守り、座禅瞑想に耽り、言葉を慎み、斎戒を守る。あるいは寝ながら、あるいは立ちながら行う功法、入定や坐関といった類のものじゃ」

悟空は言った。「そのようなものでも、長生きは叶いましょうか」

祖師は言った。「それも、窯の上の素焼きの土塊のようなものじゃ」

悟空は笑って言った。「師父は、少々意地悪でいらっしゃいますな。私が俗な譬えが分からぬと申したばかりなのに。窯の上の素焼きの土塊とは、いかなる意味でございましょう」

祖師は説いて聞かせた。「窯の上で形をなしたばかりの煉瓦や瓦のことよ。形はあれど、いまだ水火の練りを得ておらぬゆえ、ひとたび大雨に見舞われなば、たちまち崩れて土に還ろう」

悟空は言った。「それも長くは続きそうにございませんな。学びますまい、学びますまい」

祖師は言った。「では、動の門の道をお前に授けようか」

悟空は尋ねた。「動の門の道とは、いかなるものでございましょう」

祖師は言った。「これは、有為有作の修行じゃ。采陰補陽、弓を引くが如き動作、腹をさすり気を巡らすこと、薬草を練り、丹炉にて丹薬を練ること、紅鉛、秋石、女乳を服するといった類のものじゃ」

悟空は言った。「そのようなものでも、長生きは叶いましょうか」

祖師は言った。「それで長生きを望むのは、水中の月を掬うが如し」

悟空は言った。「師父、また始まりましたな。水中の月を掬うとは、いかなる意味でございましょう」

祖師は説いて聞かせた。「月は天にあり、水面に映るのはその影にすぎぬ。姿は見えども、掬い上げることは叶わぬ。所詮は虚しい骨折り働きに終わるのじゃ」

悟空は言った。「それも、学びますまい、学びますまい」

これを聞いた祖師は、「うむ」と一喝し、法壇から飛び降りると、戒尺を手に悟空を指差し、声を荒らげた。「この猿めが。これも学ばぬ、あれも学ばぬと、一体何を待つつもりか」

そして、ずかずかと悟空の前まで歩み寄ると、その頭を三度、軽く打ち据えた。そのまま背中に手を組み、奥へと入っていくと、ぴしゃりと中央の扉を閉ざし、弟子たちをその場に残して去ってしまった。

聴講していた弟子たちは皆、驚き恐れ、口々に悟空を責め立てた。「このふざけ猿め、あまりに無礼であろう。師父がわざわざ道法を授けてくださるというのに、なぜ学ぼうとせず、師父に口答えなどしたのだ。これでは師父のお怒りを買ってしまったではないか。いつお出ましになるかも分からぬぞ」

誰もが悟空を恨み、軽蔑の眼差しを向けたが、悟空は少しも腹を立てることなく、ただ満面の笑みを浮かべていた。

挿絵(By みてみん)

実のところ、この猿王は、祖師が頭を三度打ったのは「三更の刻に来たれ」という合図であり、背中に手を組んで中央の扉を閉ざしたのは「裏門より入り、密かに道を授けん」という謎かけであると、たちどころに見抜いていたのであった。それゆえ、皆と諍うこともなく、ただ黙ってその場を耐え忍んでいたのだ。

その日、悟空は兄弟子たちと穏やかに過ごし、三星洞の前で、ただひたすらに夜の帳が下りるのを待ちわびた。

黄昏時となり、皆と共に寝床に入ると、悟空は目を閉じ、寝入ったふりをしながら、静かに呼吸を整え、精神を研ぎ澄ませた。山中には時を告げる鐘も太鼓もない。彼はただ、自らの鼻から出入りする息吹を数え、時を計った。

夜半、子時を回った頃合いを見計らい、そっと身を起こし、衣を整えると、忍び足で表門を開け、皆に気づかれぬよう外へ出た。頭上を仰げば、まさに、

月は皓々と輝き、冷たい露が光を放ち、八方の空はどこまでも澄み渡り、塵一つない。深い木立に鳥は静かに宿り、源より流るる水の音のみが聞こえる。飛び交う蛍は光を散らし、過ぎゆく雁は雲間に列をなす。まさに三更の好機、真理の道を訪ねるべき時である。

彼は来た道筋を辿り、裏門の外へと至ると、果たして、その門は半ば開かれていた。

悟空は心の中で喜んだ。「やはり、老師父は私に道を授けてくださるおつもりなのだ。だからこそ、こうして門を開けて待っていてくださったのだ」

彼はそっと足を進め、体を滑り込ませるようにして門をくぐり、祖師の寝台の下まで進み出た。祖師は体を丸め、奥向きに眠っている。悟空はあえて師を驚かすことなく、すぐさま寝台の前に跪いた。

ほどなくして、祖師は目を覚まし、両足を伸ばして身を起こすと、口の中で詩を吟じた。

「難し、難し、難し。道は最も奥深く、金丹の妙法、軽々しく語るべからず。真の師に巡り会い、妙訣を授からずんば、口先の空論に終わるのみ」

悟空はすぐさま声を上げた。「師父、弟子はここに。久しく跪いてお待ち申し上げておりました」

祖師は、その声が悟空であると聞き、すぐさま衣をまとい、結跏趺坐して一喝した。「この猿め。表で寝ておらず、何故この裏手におる」

悟空は答えた。「師父は昨日、法壇にて、弟子に三更の刻に裏門より参り、道を授けるとのお許しをくださいました。それゆえ、大胆ながら、老爺の寝台の下に罷り越した次第でございます」

祖師はこれを聞き、心から喜び、密かに思った。「この者は、やはり天地が生み出した稀有な存在よ。でなければ、どうして私の謎かけを、こうも容易く解き明かせようか」

悟空は言った。「この場には、弟子の他には誰もおりませぬ。何卒、師父、大いなる慈悲を垂れ給い、長生の道をお授けください。この御恩は、決して忘れませぬ」

祖師は言った。「そなたには縁がある。私も喜んで授けよう。謎を解き明かしたからには、さあ、近う寄れ。心して聴くがよい。そなたに長生の妙道を伝えん」

悟空はこうべを垂れて礼を述べ、耳を澄まし、心を込めて寝台の下に跪いた。

祖師は言った。

「顕密円通の真の妙訣、ただ性命を惜しみ修めるにあり。全ては精、気、神の三宝に帰す。これらを固く守り、漏らすことなかれ。漏らさず、身の内に蔵すべし。我が道を伝え受ければ、おのずと栄えん。口訣を忘れず、邪念を払えば、心は清涼を得ん。清涼を得て、光は輝き、丹田の台にて月を観よ。月に玉兎、日に烏が宿るが如く、亀と蛇はおのずと交わり結びつかん。交わり結びつき、性命は堅固となり、火中に金蓮を咲かせることができる。五行を逆さに用い、功成りなば、たちまち仏とも仙人ともなろう」

この時、道の根源が説き明かされ、悟空の心は豁然と開け、福慧がもたらされた。彼は口訣を固く心に刻み、祖師への深い恩に感謝し、礼を述べて裏門から出た。見れば、東の空はわずかに白み始め、西の空には暁の金星が強く輝いていた。

彼は元の道筋を辿り、表門へ戻ると、そっと扉を開けて中に入り、自らの寝床に腰を下ろした。そして、わざと寝具を揺すりながら言った。「夜が明けたぞ、夜が明けたぞ、皆起きよ」

他の弟子たちはまだ深い眠りの中におり、悟空が妙法を授かったことなど、知る由もなかった。その日からも、悟空は皆の中に紛れながら、密かに、昼夜を問わず呼吸を調え、修行を続けたのであった。

こうして、瞬く間に三年が過ぎた。祖師は再び高座に上り、弟子たちに説法をしたが、今回は表面的な教えや譬え話に終始し、深い奥義には触れなかった。

ふと、祖師は尋ねた。「悟空はどこにおる」

悟空は進み出て跪いた。「弟子は、ここにおります」

祖師は言った。「そなたは、この間、いかなる道を修めたか」

悟空は言った。「弟子は近頃、法の真髄をいくらか会得し、道の根源も次第に堅固になってまいりました」

祖師は言った。「そなたが法の真髄を解し、根源を会得し、神が身に宿ったとて、ただ三災の厄を避けねばならぬ」

悟空はこれを聞き、しばし考え込んでから言った。「師父のお言葉は、何かの誤りではございませんか。道が高く徳が満ちれば、天と同じく長寿を得、水火が調和すれば、百病も生じぬと聞き及んでおります。それなのに、何故に三災の厄があると仰せられるのですか」

祖師は言った。「これは並大抵の道ではない。天地の造化を奪い、日月の玄機を侵す道じゃ。丹が成りた後には、鬼神もこれを許さぬ。確かに若さを保ち、寿命を延ばせるが、五百年の後、天から雷災が降り、そなたを撃つ。それまでに本性を見極め、心を明らかにして、あらかじめこれを避けねばならぬ。避けられれば、寿命は天と等しくなるが、避けられねば、そこで命運は尽きる。

さらに五百年の後には、天から火災がそなたを焼く。この火は天火にあらず、凡火にあらず、陰火と申す。そなたの湧泉穴より燃え上がり、泥垣宮まで突き抜け、五臓は灰となり、四肢は朽ちて、千年の苦行も水泡に帰す。

さらに五百年の後には、また風災がそなたを吹き払う。この風は東西南北の風にあらず、和風にあらず、贔風と申す。そなたの顖門より六腑に吹き込み、丹田を通り抜け、九竅を抜け、骨肉は散じ、体は自ずから崩壊する。ゆえに、これら全てを避けねばならぬのじゃ」

悟空はこれを聞き、恐ろしさに総毛立ち、こうべを垂れて拝礼した。「何卒、老爺様、お慈悲を。この三災を避ける法をお授けください。この御恩は、決して忘れませぬ」

祖師は言った。「これも難しいことではないが、そなたは他の者とは少々異なるゆえ、そのままでは授けられぬ」

悟空は言った。「私も頭は天をいただき、足は地を踏んでおります。同じように九竅、四肢、五臓六腑がございますが、どこが他の者と違うのでございましょう」

祖師は言った。「そなたは人の姿に似てはいるが、人よりも頬が少ないのじゃ」

悟空は手を伸ばして自らの顔に触れ、笑って言った。「師父、それは早計というもの。私は確かに頬は少ないですが、人よりもこの袋が多いではございませんか。これで差し引きできるでしょう」

祖師は言った。「それもよかろう。そなたはどちらを学びたい。天罡数には、三十六般の変化がある。地煞数には、七十二般の変化がある」

悟空は言った。「弟子は多い方で稼ぎたいので、七十二般の変化を学びとうございます」

祖師は言った。「ならば、近う寄れ。お前に口訣を授けん」

そう言うと、祖師は悟空の耳元で、密かに奥義を伝えた。この猿王は、一竅通じれば百竅通じる才の持ち主であったので、その場で口訣を会得し、自ら修練を重ね、七十二般の変化の術をことごとく身につけたのであった。

ある日、祖師は弟子たちと共に三星洞の前で、夕暮れの景色を眺めながら語らっていた。

祖師は尋ねた。「悟空、修行は成ったか」

悟空は答えた。「師父の海よりも深き御恩のおかげで、弟子の功は成り、霞に乗って空に昇れるようになりました」

祖師は言った。「ならば、一つ飛んでみせよ」

悟空は腕前を見せんと、ひらりと身を躍らせ、とんぼ返りを打って、地面から五、六丈ほど飛び上がり、雲に乗って去った。しかし、一服するほどの時で舞い戻り、その道のりは三里にも満たなかった。彼は師の前に降り立ち、手を組んで言った。「師父、これが飛翔し雲に乗る術にございます」

祖師は笑って言った。「それは騰雲とは言えぬ。せいぜい這い雲じゃな。古より『神仙は朝に北海に遊び、暮れに蒼梧に遊ぶ』と申す。そなたのように、半日かけても三里を行けぬようでは、這い雲にも数えられぬわ」

悟空は尋ねた。「いかにすれば、朝に北海に遊び、暮れに蒼梧に遊ぶことが叶いましょうか」

祖師は答えた。「およそ雲に乗る者は、早朝に北海を発ち、東海、西海、南海を巡り、再び蒼梧の地に戻ってくる。四海の外を一日で巡り尽くしてこそ、騰雲と申すのじゃ」

悟空は言った。「それは難しい、それは難しいことでございます」

祖師は言った。「世に難しいことはない。ただ、志ある人を恐れるのみじゃ」

悟空はこの言葉を聞き、こうべを垂れて拝礼し、懇願した。「師父、事を成すなら最後までと申します。何卒、大いなる慈悲を垂れ給い、この騰雲の法も、私にお授けください。決して御恩は忘れませぬ」

祖師は言った。「仙人たちの騰雲は、皆、足を踏み鳴らして飛び立つが、そなたはそうではあるまい。今見れば、そなたはとんぼ返りをして、ようやく飛び上がった。ならば、そなたのその身のこなしにちなんで、觔斗雲を授けよう」

悟空が再び拝礼して懇願すると、祖師はまた口訣を授けた。「この雲は、印を結び、真言を唱え、拳を固め、身をひと振りして飛び上がれば、一回のとんぼ返りで、十万八千里の道のりを飛ぶことができる」

弟子たちはこれを聞き、皆笑いながら言った。「悟空は運が良いな。この術を覚えれば、人の使い走りでも、文運びでも、どこへ行っても食いっぱぐれはなかろう」

師弟たちはやがて夕暮れとなり、それぞれ洞府へと帰っていった。

その夜、悟空はすぐに精神を集中して術を練り、觔斗雲を会得した。それからは、何ものにも縛られず、自由気ままに飛び回り、これもまた長生の喜びとなった。

ある日、春が過ぎて夏となり、弟子たちは皆、松の木の下で長らく講義を交わしていた。

弟子たちは言った。「悟空、そなたは前世でいかなる功徳を積んだのだ。先日、老師父がそなただけに耳打ちされた三災を避ける変化の法は、もうすっかり会得したのか」

悟空は笑って答えた。「兄者たちに隠し立てはしませぬ。一つには師父の伝授のおかげ、二つには私が昼夜を問わず励んだおかげで、それらの術はことごとく会得いたしました」

弟子たちは言った。「折角の良い時節だ、一つ、我らのために披露してはくれぬか」

悟空はこれを聞き、意気揚々と腕前を見せつけようとした。「兄弟子たち、どうかお題を。私に何に化けてほしいか、仰せください」

弟子たちは言った。「では、その松の木に化けてみよ」

悟空は印を結び、真言を唱え、身をひと振りすると、たちまち一本の松の木に姿を変えた。その様は、まさに、

煙を帯びて四季を通して青々とし、雲を突き抜けて真っ直ぐに、清らかな節操を示す。妖猿の面影は一片もなく、すべては霜雪に耐える枝振り。

弟子たちはこれを見て手を叩き、大笑いしながら、「見事な猿だ、見事な猿だ」と囃し立てた。

この騒ぎが、祖師の耳に入った。祖師は慌ただしく杖を引き、門から出てくると、「誰がここで騒いでおるのか」と尋ねた。

弟子たちは祖師の声を聞き、慌てて身なりを整え、前に進み出た。悟空も元の姿に戻り、皆の中に紛れて言った。「尊師にご報告します。我らはここで講義を交わしており、他所者はおりませぬ」

祖師は声を荒らげた。「お前たちの大声は、修行者の振る舞いではない。修行者は、口を開けば気が散り、舌を動かせば是非が生じるもの。何故ここで笑い騒ぐのか」

弟子たちは言った。「師父に隠し立てはしませぬ。ただ今、孫悟空が変化の術を披露しておりました。彼に松の木に化けるよう申しましたところ、実に見事に化けましたので、弟子たちが皆で褒め称え、その声が師を驚かせてしまいました。何卒、お許しください」

祖師は言った。「お前たちは下がれ」そして、「悟空、前に出よ。そなた、何を企んで松の木などに化けたのか。かかる術を、人前で見せびらかして良いものか。人が見て、己が持たぬ術なれば、必ずそなたに教えを乞うてこよう。そなたが災いを恐れるならば、伝えねばなるまい。もし伝えねば、必ずやそなたに害をなしに来る。そうなれば、そなたの命も危うくなるのじゃぞ」

悟空はこうべを垂れて言った。「何卒、師父、お許しください」

祖師は言った。「そなたを罰しはせぬが、ただ、そなたはここを去れ」

悟空はこの言葉を聞き、目に涙をためて言った。「師父、私をどこへ行けと仰せられるのですか」

祖師は言った。「そなたが来た場所へ、帰るがよい」

悟空ははっと悟り、言った。「私は東勝神洲、傲来国、花果山の水簾洞より参りました」

祖師は言った。「早く帰るがよい。さすれば、そなたの命は全うできよう。もしこの地に留まるならば、断じて許さぬ」

悟空は罪を認め、尊師に言った。「私も故郷を離れて二十年になります。昔の仲間たちのことは気になりますが、師父の海よりも深き御恩にまだ報いておりませぬゆえ、帰りとうはございません」

祖師は言った。「そこに何の恩義があろうか。そなたがただ、災いを起こさず、私に累を及ぼさなければ、それで十分じゃ」

悟空はもはや致し方ないと悟り、別れの挨拶を述べ、皆に別れを告げた。

祖師は言った。「そなたは、この先、必ず災いを招くであろう。そなたが、いかに事を起こし、乱暴を働こうとも、決して私の弟子であると申してはならぬ。もし半文字たりとも口にすれば、私はたちどころにそれを察し、そなたという猿の皮を剥ぎ、骨を砕き、その魂を九幽の底に貶めて、万劫にわたり転生できぬようにしてやるぞ」

悟空は言った。「師父のことは、決して一文字も口にいたしませぬ。ただ、私自身が会得した術であると申すのみにございます」


悟空は礼を言い終えると、すぐに身を翻し、印を結び、とんぼ返りを一つ打って、觔斗雲に乗り、まっすぐに東勝神洲を目指して帰っていった。

わずか一刻も経たぬうちに、早くも花果山と水簾洞が見えてきた。美猴王は、その速さに心の中で喜び、密かに自らを讃えた。

行きは凡夫の骨肉で重かったが、道を得た今は身も心も軽い。世の人は志を立てぬものだが、志を立てて奥義を修めれば、奥義はおのずと明らかになる。かつては海を渡るのに波に阻まれたが、今日の帰還はかくも容易い。別れ際の師の言葉はまだ耳に残るが、まさか瞬く間に東の海を望むことになろうとは。

悟空は雲を押し下げ、花果山に降り立つと、道を探して歩き始めた。すると突然、鶴の鳴き声と、猿の悲痛な叫び声が聞こえてきた。鶴の声は天を衝き、猿の声は悲しみに満ちていた。

悟空はすぐに大声で叫んだ。「子猿たちよ、私が帰ってきたぞ」

崖の下の岩陰や、花や草むら、木々の間から、大小さまざまな数え切れぬほどの猿たちが飛び出してきて、美猴王を真ん中に取り囲み、こうべを垂れて叫んだ。

「大王様、あなたは何と呑気なことか。何故に一度行かれてから、これほど長くお帰りにならなかったのですか。我らを置き去りにし、皆、飢えるようにしてあなた様をお待ちしておりました。近頃、一匹の妖魔が現れ、我らをいじめ、この水簾洞を無理やり奪おうとしております。我らも命がけで戦いましたが、家財道具を奪われ、多くの仲間が捕らえられてしまいました。そのため、昼夜を問わず、この山を守らねばならぬのです。幸いにも大王様がお帰りになりましたが、もしもう少しお戻りが遅ければ、この山も洞窟も、すべて他人のものになってしまうところでした」

悟空はこれを聞き、心頭に血が上り、言った。「どこの妖魔が、かくも無礼な振る舞いをするのか。そなたたち、詳しく話してみよ。私がそやつを探し出し、仇を討ってくれよう」

猿たちはこうべを垂れて報告した。「大王様に申し上げます。そやつは混世魔王と名乗り、この真北の方角に住んでおります」

悟空は尋ねた。「ここから、そやつの住処まで、どれほどの道のりがある」

猿たちは言った。「そやつが来る時は雲に乗り、去る時は霧と化し、あるいは風雨雷電を伴いますゆえ、どれほどの道のりがあるのか、我らには分かりませぬ」

悟空は言った。「ならば、案ずるな。しばし遊んでおれ。私がそやつを探し出してくる」

腕利きの猿王は、身をひとっ飛びさせると、觔斗雲に乗って北へ向かい、上空から見下ろした。すると、一つの高い山が見えたが、それは実に険しく、荒々しい山であった。

筆先の如く峰はそそり立ち、曲がりくねった谷は深く沈む。峰は天を貫き、谷は地の底に通じる。両岸に花木は美を競い、松竹は緑を誇る。左に龍は従い、右に虎は伏す。常に鉄の牛が耕し、しばしば金銭の種が蒔かれる。鳥のさえずりは奥深く、鳳凰は朝日に向かう。岩は奇々として、波は清らか。古風にして奇妙なる魔性の気が漂う。世に名山は多けれど、花咲き、花散る山は数多し。されど、この景色の如く、四季を通じて変わらぬ山がどこにあろうか。誠にこれぞ、三界の水の源、坎源山、五行の水の臓、水臓洞である。

美猴王が黙って景色を眺めていると、人の話し声が聞こえたので、山を下りて探しに行った。

険しい崖の前が、まさしく水臓洞であった。洞窟の門の外では、数匹の小鬼が踊り狂っていたが、悟空の姿を見ると逃げ出した。

悟空は言った。「待て。そなたの口を借りて、我が思いを伝えさせよ。我は正南方に在る花果山水簾洞の洞主なり。そなたらの、あの混世の鳥魔が、度々我が仲間を辱めたゆえ、特別に訪ねてきた。そやつと、雌雄を決しようではないか」

小鬼はその言葉を聞き、慌てて洞窟の中に駆け込み、報告した。「大王様、大変でございます」

魔王は言った。「何が大変だ」

小鬼は言った。「洞窟の外に猿頭の者がおり、花果山水簾洞の洞主と名乗っております。あなたが度々彼の仲間をいじめたので、雌雄を決しに来たと申しております」

魔王は笑って言った。「いつも、あの猿どもが、自分たちの大王は出家して修行に行ったと申しておったが、まさか今戻ってきたのか。そなたたちは、彼がいかなる身なりをしておったか見たか。いかなる武器を持っていた」

小鬼は言った。「武器は持っておりませぬ。丸坊主の頭に、赤い衣、黄色の帯を締め、足には黒い長靴を履いておりました。僧でもなく、俗人でもなく、道士や仙人のようでもなく、素手で門の外で喚いております」

魔王はこれを聞き、「我が武具と武器を持て」と命じた。小鬼はすぐさまそれらを持ってきた。

魔王は鎧をまとい、刀を手に取り、小鬼たちを率いて門から出ると、大声で叫んだ。「水簾洞の洞主とは、いずれの者か」

悟空は急いで目を凝らして見ると、その魔王は、

烏金色の兜は日に映えて輝き、黒絹の衣は風にひらめく。黒鉄の鎧をまとい、革紐を固く締め、花柄の長靴を履いた様は、勇ましき将軍の如し。胴回りは十囲、背丈は三丈。手には一本の刀を握り、その刃は鋭く光る。混世魔と名乗り、その姿は堂々として恐ろしげであった。

猿王は一喝した。「この大魔王め、それほど大きな目をしておきながら、この老孫の姿が見えぬのか」

魔王は悟空を見て笑った。「そなたは背丈四尺にも満たず、齢も三十にはなるまい。手に武器も持たぬのに、何故にかくも大胆で、我と雌雄を決しようなどと申すのか」

悟空は罵った。「この大魔王め、やはり目が節穴か。我を小さいと思うなら、大きくするも難しくはなし。我を武器なしと思うなら、この両手は天の果ての月をも掻き寄せられるわ。恐れるな、老孫の拳を、まずは一発食らうがよい」

悟空は飛び上がり、魔王の顔めがけて打ちかかった。

魔王は手を伸ばして受け止め、言った。「そなたはかくも小さく、我はかくも大きい。そなたが拳を使うならば、我は刀を使うまい。刀を使えばそなたを殺してしまい、人に笑われよう。刀を置き、そなたと拳で打ち合ってやろう」

悟空は言った。「それでこそ、男だ。かかってこい」

魔王は構えを取って打ちかかり、悟空は身をかわして迎え撃った。二人は拳で打ち、足で蹴り、突き合い、ぶつかり合った。長い拳は空を切り、短い体から繰り出す一撃は重く鋭かった。

魔王は悟空に脇腹をえぐられ、股間を打ち上げられ、幾度かの関節技で深手を負った。彼は身をかわすと、分厚い鋼の刀を取り上げ、悟空の頭めがけて真っ二つに切りつけた。悟空が素早く身を引いたため、魔王の一撃は空を切った。

悟空は魔王の凶暴さを見て、身外身の法を用いた。彼は一本の体毛を引き抜き、口の中で噛み砕き、空中に吹きかけながら「変」と叫んだ。

すると、たちまち二百とも三百とも知れぬ小猿に変化し、周りを取り囲んだ。

仙体を得た者は、精神を放つことで、その変化に限りはない。この猿王は、道を得て以来、体には八万四千の毛があり、その一本一本が意のままに姿を変えることができたのである。

小猿たちは目が利き、動きが素早い。刀が来ても避け、槍が来ても傷つかない。彼らは前後に飛び跳ね、魔王に飛びつき、抱きつく者、引っ張る者、股間に潜り込む者、足を引っ張る者、叩き、蹴り、毛をむしり、目をえぐり、鼻をつねり、魔王を徹底的に打ちのめした。

そこで悟空はようやく魔王の刀を奪い取ると、小猿たちをかき分け、その頭めがけて一撃し、真っ二つに切り裂いた。

そして、仲間を率いて洞窟に攻め込み、大小の妖精をことごとく討伐した。

悟空が体毛を一振りして身に収めると、収まらぬ者たちがいた。それは、魔王が水簾洞から捕らえてきた小猿たちであった。

悟空は言った。「そなたたちは、何故ここにいる」

三十とも五十とも思われる猿たちが、皆涙ながらに言った。「大王様が修行に行かれてからこの二年、我らは奴に襲われ、ここに連れてこられました。あれは、我らの洞窟の家財道具ではございませんか。石の器も、みな奴に奪われてしまいました」

悟空は言った。「我らの家財道具ならば、皆で外へ運び出すのだ」

そして、すぐに洞窟の中に火を放ち、水臓洞を焼き尽くし、跡形もなくした。

悟空は皆に向かって言った。「そなたたち、我について参れ」

猿たちは言った。「大王様、我らがここへ来た時は、ただ耳元で風の音がするばかりで、いつの間にかこの地に着いておりました。道が分かりませぬ。今、どうやって故郷へ帰れましょうか」

悟空は言った。「それは奴が使った術よ。案ずるな。私もその術が使える。皆、目を閉じておれ、恐れることはない」

腕利きの猿王は、真言を唱え、一陣の狂風を巻き起こし、雲に乗って舞い降りた。

「子猿たちよ、目を開けよ」

猿たちは、足がしっかりと故郷の地を踏んでいるのを感じ、皆大喜びで、洞窟の門へと駆けつけた。

洞窟にいた猿たちも皆一緒に集まり、身分や年齢の順に並び、猿王に拝礼した。酒と果物を並べ、祝宴を開き、魔王を討ち、仲間を救い出したことについて尋ねた。

悟空は一部始終を詳しく語った。猿たちは褒め称えるばかりで、「大王様がどこへ行かれたのか、まさかこれほどの神通力を身につけられるとは」と言った。

悟空はまた言った。「子猿たちよ、もう一つ嬉しいことがある。我ら一門は皆、姓を持つことになったのだ」

猿たちは言った。「大王様の姓は、何と仰せられますか」

悟空は言った。「私は今、孫という姓で、法名は悟空という」

猿たちはこれを聞き、手を叩いて喜んだ。「大王様は老孫、我らは二孫、三孫、細孫、小孫。一族の孫、一国の孫、一山の孫でございます」

皆が老孫に仕え、大小の器に椰子の酒や葡萄酒、仙花、仙果を並べ、まさに一家団欒の喜びであった。

一つの姓を通じて身は元の本性に帰り、あとは仙人の名簿に名を連ねるのを待つばかり。

さて、この後いかなる事が起こり、いかにしてその生涯を全うするのか。それはまた、次回のお楽しみ。


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第二回の要約【本当の強さを求めて】

「孫悟空」という名前をもらった猿は、仙人の弟子として下働きからスタートします。掃除や水汲みといった地味な雑用をこなしながら、兄弟子たちと礼儀作法や学問を学び、あっという間に七年が経ちました。

ある日、師匠である菩提祖師は悟空に「どんな術を学びたいか?」と尋ねます。祖師は、占いのような「術」、様々な学問を学ぶ「流」、座禅や瞑想を行う「静」、薬を作ったりする「動」といった、いかにも仙人らしい術を次々と提案します。しかし悟空は、それらがどれも「長生きはできるかもしれないが、いずれは廃れる不完全なものだ」と見抜き、「そんなもの、いりません!」と全て断固拒否します。

この生意気な態度に祖師は激怒したフリをして、悟空の頭を三回叩き、奥の部屋へ消えていきました。しかし、これは祖師が出した謎のメッセージ。悟空は「夜中の三時に、裏門から密かに来い」という師匠の真意を即座に見抜き、その夜、師匠の寝室に忍び込みます。

祖師は悟空の才能を認め、ついに**「不老長生の真の妙法」**を授けます。これは、小手先の術ではなく、自らの生命エネルギー(精・気・神)をコントロールする、究極の修行法でした。

さらに三年後、祖師は悟空に、この究極の力を手に入れた者には、500年ごとに雷、火、風の「三つの災い」が襲いかかり、それを避けねば全てが無に帰すと教えます。そして、その災いを避けるための切り札として、悟空に**「七十二般の変化の術」と、一瞬で十万八千里を飛ぶ「觔斗雲きんとうん」**の術を授けました。

ところが、力を手に入れた悟空は、兄弟子たちの前で松の木に化けて得意満面になります。それを見た祖師は「人前で力を見せびらかせば、必ず災いを招く」と激怒し、悟空を破門。「今後、決して私の弟子だと名乗るな」と固く誓わせ、故郷の花果山へ追い返してしまいました。

故郷に帰った悟空は、仲間たちが「混世魔王」という妖怪にいじめられていることを知ります。悟空は早速、身につけたばかりの力で魔王をあっさりと倒し、仲間たちを救い出しました。故郷のヒーローとして迎えられた悟空は、「孫」という姓を仲間たちにも与え、「俺たちは今日から孫一族だ!」と宣言し、平和な日々を取り戻したのでした。

冒頭部分の解説:作者が本当に伝えたかったこと

この第二回の冒頭、悟空が様々な術を「学びません!」と一蹴する場面は、単なる面白いやり取りではありません。ここには、作者がこの物語を通して読者に伝えたかった、非常に深いメッセージが込められています。

1. 時代背景と作者の意図

『西遊記』が成立した明の時代は、皇帝も貴族も民衆も、「不老不死」への憧れが非常に強い時代でした。特に権力者たちは、怪しげな方士(仙人や占い師の類)を雇い、水銀などの危険な薬を「仙丹」と信じて飲んだり、様々な健康法に大金をつぎ込んだりしていました。

作者は、こうした社会の風潮を**「まやかしだ」と批判したかった**のです。

占い(術の門): 吉凶を占うだけで、根本的な解決にはならない。

学問や念仏(流の門): 知識や祈りだけでは、肉体の衰えは止められない。「壁の中の柱」のように、いつかは朽ちる。

座禅や断食(静の門): 形だけの修行は、雨に濡れれば崩れる「素焼きの土塊」のように、脆い。

薬や精力剤(動の門): 外部のものに頼る健康法は、結局は虚しい「水の中の月」をすくうようなものだ。

作者は悟空の口を通して、これら世間で流行している「まやかしの長寿法」を全て否定させました。そして、菩提祖師が本当に授けたのは、「自分自身の内なる力をコントロールする」という真の道でした。

2. 読者へのメッセージ:本当の強さとは何か

つまり、作者が示したかった真髄は以下の点に集約されます。

真の力は外から与えられるものではなく、内から湧き出るもの:肩書きや財産、怪しげな秘術に頼るのではなく、自分自身の心と体を鍛え、精神をコントロールすることこそが、本当の強さと長寿(充実した人生)に繋がる道である。

本質を見抜く眼を持つことの重要性:悟空は生まれながらにして、何が本物で何が偽物かを見抜く力を持っていました。世の中の流行や権威に惑わされず、自分にとって本当に価値あるものを見極めなさい、というメッセージです。

宗教や思想の統合:菩提祖師が仏教、道教、儒教の教えを語る場面は、これらの教えが根本では「一つの真理」に繋がっているという、当時の柔軟な思想を反映しています。宗派や形式にこだわるのではなく、その根底にある普遍的な真理を求めなさい、と説いているのです。


この第二回は、単なる冒険の準備編ではなく、『西遊記』という壮大な物語全体のテーマである「本当の悟り(強さ)とは何か?」という問いを、読者に鋭く突きつける、極めて重要な導入部なのです。

孫悟空(美猴王)のネーミングの変遷、特に原型とされるキャラクター名がどのように変化し、最終的に「孫悟空」に行き着いたのかについて、深掘りして解説します。


孫悟空のネーミングと名称の変遷

『西遊記』の物語が口承や演劇、写本などを経て発展していく中で、猿の主人公の呼び名は時代や作品によって変化してきました。

 1. 最も古い原型:猴行者こうぎょうじゃ

孫悟空のネーミングとして確認できる最も古い原型は、南宋時代の『大唐三蔵取経詩話』に登場する名称です。


| 時代 | 作品名 | 名称 | 意味・役割 |

| 南宋代(12~13世紀) | 『大唐三蔵取経詩話』 猴行者こうぎょうじゃ | 猿の修行者、猿の旅人。三蔵法師を護衛・導く役割を持つ。 |

  「こう」は猿を意味し、「行者ぎょうじゃ」は仏道修行者を指します。

この名前は、単に「三蔵の旅に付き添う猿の修行僧」という、機能的で素朴な呼び名です。この時点ではまだ「孫」という姓や、「悟空」という法名は登場していません。

 2. 元代の演劇における変化:孫吾空?

宋代から元代にかけて、玄奘の旅を題材とした雑劇(ざつげき:演劇)が盛んになり、キャラクターはより具体的で複雑になっていきます。


| 時代 | 作品名 | 名称 | 意味・役割 |

| 元代(13~14世紀) | 元代の雑劇(例:『西遊記雑劇』) 孫行者そんぎょうじゃ孫吾空そんごくう | 「孫」姓が定着し、猿行者から人間味のあるキャラクターへ進化。名前には「空」の概念が登場。 |

姓の定着:「孫」姓

猿(マカク猿)は中国語で「猢猻こそん」と呼ばれるため、この音に通じる「そん」が、演劇や語りの中で自然と姓として採用されたと考えられます。

『西遊記』第一回で菩提祖師が「そん」から獣偏を除いて「孫」の姓を与えるという設定は、この民間伝承の姓を、後付けで物語に組み込んだものです。

名前の出現:「吾空」

元代の雑劇には、「吾空」という名前の表記が見られます(ただし、「吾」の字については諸説あり)。

これは仏教の「くう」の概念(物事に実体はないという真理)を悟るという意味合いを含んでおり、後に呉承恩版の「悟空」につながる重要な変異点です。

 3.呉承恩版での完成:孫悟空そんごくう

明代の呉承恩による小説『西遊記』で、孫悟空のネーミングは決定的な形を迎えます。

| 時代 | 作品名 | 名称 | 意味・役割 |

| 明代(16世紀) | 『西遊記』(呉承恩著) 孫悟空そんごくう、美猴王、斉天大聖 | 祖師から正式な法名を授かり、仏教の悟りの道を進むことが明確になる。 |

法名の授与(「悟空」):

第一回で菩提祖師が、「廣、大、智、慧、真、如、性、海、穎、悟、圓、覺」の十二字の系統(派名)の、「悟」の字を授け、「孫悟空」と名付けます。

「悟」は「悟る」こと、「空」は仏教における「空」の真理を意味し、「空の真理を悟る者」という、彼の修行の核心を示す名前となります。

自称・尊称:

美猴王びこうおう: 花果山で王となったときに自ら名乗った尊称。

斉天大聖せいてんたいせい: 天界で暴れた際に玉帝に認めさせた、天とひとしい偉大な聖人という意味の称号。


このネーミングの変異まとめ

「猿の修行者」の名称は、以下の大きな変異をたどりました。

機能名: 猴行者(猿+修行者)

姓の獲得: 孫行者(孫姓+修行者)

名前の獲得: 孫吾空(「空」の概念の導入)

正式な法名: 孫悟空(「悟」の字による仏道への位置づけ)

このように、孫悟空のネーミングは、ただの猿の護衛者から、「空の真理を悟る」という仏教的テーマを背負った、深みのある主人公へと進化していった歴史を反映しています。

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