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私説 西遊記の遊戯  作者: 光闇居士


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第二十五回:鎮元仙追いかけて取経僧を捉え、孫行者大いに五荘観を鬧がす

挿絵(By みてみん)

静寂の崩壊と混沌)孫悟空大鬧五荘観


静謐せいひつの 五荘観ごそうかんの庭 さる一人ひとり 暴風あらしとなりて 神仙しんせんの 夢をやぶりぬ


神聖で静寂に包まれていたはずの五荘観の庭園が、孫悟空という一匹の猿によって混沌の渦に巻き込まれる。


【しおの】


 三蔵法師の弟子たち三人は、殿上に戻ると師匠に言葉をかけた。

「飯は出来上がりましたが、また何か御用でしょうか」

 三蔵は諭すように言った。

「弟子たちよ、飯のことではない。この道観どうかんには人参果にんじんかとかいう、嬰児みどりごそっくりの果物があるそうだが、お前たちの誰かがそれを盗んで食べたのか?」

 猪八戒ちょはっかいが口を尖らせた。

「俺は正直者ですから知りやせんよ。見てもいねえです」

 仙童の清風せいフウが声を張り上げた。

「ニヤニヤしてるそいつだ、そいつがやったんだ!」

 孫悟空そんごくうが鋭く言い返す。

「俺様は生まれつきこういうツラ構えなんでな。お前らが果物を見失ったからって、笑うことさえ許されねえのか?」

 三蔵はたしなめた。

「悟空、怒るでない。我らは出家した身、嘘をつくことも、心にやましいものを食らうことも許されぬ。本当に食べたのなら、素直に謝りなさい。どうしてそう強情を張るのだ」

 師匠の理に適った言葉に、悟空も観念したように白状した。

「お師匠様、俺だけのせいじゃございません。八戒が壁越しに童子たちが人参果を食う話を聞きつけて、どうしても一つ味見したいと言い出したもんだから、俺様が三つ叩き落として、兄弟三人で一つずつ食ったんです。もう腹に収まっちまいましたが、どうしろって言うんで?」

 もう一人の仙童、明月めいげつなじる。

「四つ盗んでおいて、まだ泥棒じゃないと言うのか」

 八戒が割って入った。

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ! 四つ盗んだなら、どうして三つしか分け前がねえんだ? こいつら、最初から一つくすねてやがったな?」

 このいのししは、ここぞとばかりにまた喚き散らす始末である。

 二人の仙童は事実を掴むと、いよいよ勢いづいて激しく罵り始めた。これには斉天大聖せいてんたいせいも怒り心頭、鋼のような歯をギリギリと食いしばり、火眼金睛かがんきんせいをカッといからせ、金箍棒きんこぼうを握りしめた。だが、ぐっとこらえて考えを巡らせる。

(この小僧ども、面と向かって人を罵るくらいなら我慢もするが、こうまで言われちゃ黙っていられねえ。ひとつ根絶やしの計略を食らわせて、誰一人食えなくしてやる)

 悟空は後頭部の身外身しんがいしんの毛を一本抜き、仙気を吹きかけて「変!」と唱え、偽の悟空に変身させた。偽物は唐僧に従い、悟能(ごのう/八戒)、悟浄ごじょうと共に童子の雑言ぞうごんに耐えているふりをする。

 その隙に本物の悟空は元神(げんしん/魂)を抜け出し、雲に乗って裏手の人参園へ飛び込んだ。金箍棒を取り出すや、大木に向かって強烈な一撃を見舞い、さらに山をも動かす神力を込めて幹を押しやった。

 あわれ、青葉は散り、枝は折れ、根は土からむき出しになり、道士たちの誇る不老長寿の秘薬「草還丹そうかんたん」の命脈はここに絶たれてしまったのである。

 悟空は木を倒した後、枝の間を探したが、実は半分も見つからない。この宝物には妙な性質があり、「きんに遇えば落ち、土に遇えば入る」のである。彼の如意棒の両端は黄金で覆われ、鉄もまた五行の金に属するため、叩けば落ちるのだが、落ちればたちまち土へと潜ってしまうのだ。そのため、木の上には一つとして残っていなかった。

「よしよし、これでお開きだ」

 鉄棒を耳の穴に収め、前殿へ戻ると、身を震わせて毫毛ごうもうを回収した。凡人の目には、何が起きたか知る由もなかった。

 さて、仙童たちも罵り疲れてきた頃、清風が言った。

「明月、この和尚たちも我慢強いな。鶏でも追い立てるように散々言ったのに、一言も言い返さない。もしかしたら本当に盗んでいないのかもしれないぞ。木が高くて葉が茂っているから数え間違えたのかもしれん。濡れ衣を着せちゃ悪いから、もう一度確かめてこよう」

「兄さんの言う通りだ」

 二人が園へ行ってみると、そこには無残にも倒れ伏した木と、葉の散った枝があるばかりで、果実の影も形もなかった。

 清風は腰を抜かしてへたり込み、明月は腰砕けになって尻餅をついた。二人は魂が飛び出るほど仰天した。その凄惨な光景は、まさに絶望というほかない。

三蔵、西のかた万寿山に臨み、

悟空、草還丹を断送す。

枝は折れ葉は落ち、仙根露わに、

明月と清風、心胆寒からしむ。

 二人は土煙の中に突っ伏し、わけのわからぬことを叫ぶばかりであった。

「どうしよう、どうしよう。五荘観の宝を台無しにしてしまった。仙家の命脈を断ってしまったのだ。師匠がお帰りになったら、どう申し開きすればいい?」

 ややあって、明月が知恵を絞り出した。

「兄さん、叫ばないで。まずは身なりを整えて、あの和尚たちを警戒させないようにしよう。これは他人の仕業じゃない、きっとあの毛深い雷公らいこう面の奴だ。あいつが分身の術を使って、俺たちの宝物を壊したんだ。今問い詰めれば、あいつは必ずしらを切って争いになる。喧嘩になったら、俺たち二人であの四人に敵うわけがない。それより、あいつらを騙した方がいい。実は数は合っていた、数え間違えていたと言って謝るんだ。飯も炊けたことだし、食事の時におかずでも添えてやろう。奴らがそれぞれ茶碗を持った隙に、お前は左の扉、俺は右の扉に立って、バタンと扉を閉めて鍵をかけちまうんだ。何重もの扉を全部閉めて閉じ込めておけば、師匠が帰ってきてからどうにでも処分できる。師匠の旧友だから許すと言うなら、それも師匠の温情だし、許さないなら、俺たちは泥棒を捕まえたってことで、罪を免れるかもしれん」

 清風は頷いた。

「もっともだ、名案だ」

 二人は気力を奮い立たせ、無理に笑顔を作って、後園から殿上へ戻り、唐僧に深く頭を下げた。

「師父、先ほどは粗暴な言葉で無礼を働きました。どうかお許しください」

 三蔵はいぶかしんだ。

「どういうことだ?」

「実は数は合っておりました。葉が高く茂っていて見えにくかったため、数え間違えていたのです。もう一度よく調べたら、元の数通りでした」

 これを聞いて八戒が得意になる。

「この小僧っ子め、年端も行かないくせに生意気に罵りやがって。人を泥棒扱いして、とんでもねえ奴らだ」

 悟空はすでに悟っていたが、口には出さず心中ひそかに嗤った。

(嘘だ、嘘だ。果物はもう終わっちまったのに、なんでそんなことを言う? 木を生き返らせる法でもあるってのか?)

 三蔵は言った。

「誤解が解けたなら、飯を盛ってくれ。食べて出発しよう」

 八戒は飯を盛り、悟浄は机と椅子を並べた。二人の童子は急いでおかずを持ってきた。瓜の醤油漬け、茄子の醤油漬け、粕漬け大根、酢漬け豆、塩漬け野菜、芥子菜のおひたしなど、七、八皿並べて師弟たちに振る舞った。さらに良い茶を一壺と茶碗を二つ用意し、左右に控えた。

 師弟四人が茶碗を持ったその瞬間、童子たちは左右からバタンと扉を閉め、二重の銅の錠前をかけた。

 八戒は呑気に笑った。

「童子たち、間違ってるぞ。ここの風習は変わってるな、扉を閉めて飯を食うのか?」

 明月が言った。

「そうだとも、せいぜいよく味わってから開けてやるよ」

 清風は態度を一変させて罵った。

「この食い意地の張ったハゲ泥棒め! 俺の仙果を盗み食いしただけでも重罪なのに、あろうことか仙樹を推し倒して、五荘観の霊根を断ちやがったな。それでもまだ減らず口を叩くか。西天で仏に会いたければ、背中の皮でも剥いで生まれ変わってくるんだな」

 三蔵はこれを聞くや、茶碗を取り落とし、胸に大石を乗せられたような心地になって青ざめた。

 童子たちは前門、中門と全ての扉に鍵をかけ、正殿の入り口に戻って、散々に悪態をつき続けた。日が暮れるまで罵り続け、ようやく食事をとりに部屋へ戻っていった。

 唐僧は悟空を恨めしげに見つめた。

「この猿め、次から次へと災いを招きおって。果物を盗み食いして罵られたくらいなら我慢すれば済むものを、なぜ木まで倒したのだ? 訴えられたら、お前の親父が役人だとでも言って逃げるつもりか」

 悟空は言った。

「お師匠様、騒がないでください。童子たちは寝静まりました。奴らが熟睡したら、夜のうちにずらかりましょう」

 悟浄が不安げに尋ねる。

「兄貴、何重もの扉に鍵がかかっていて、しっかり閉ざされているのに、どうやって逃げるんだ?」

 悟空は不敵に笑った。

「任せておけ、俺様に考えがある」

 八戒が言った。

「お前のことだから心配だ。虫にでも化けて格子の隙間から飛んでいけるだろうが、俺たちは化けられないんだから、ここで身代わりに置き去りだろう」

 それを聞いて唐僧も声を強める。

「もしこいつがそんな真似をして、私とお前たちを置いて行くようなら、私は『緊箍児呪きんこじじゅ』を唱えるぞ。こいつの頭はどうなるかな?」

 八戒は呆れ半分、笑い半分で言った。

「お師匠様、何を言ってるんです? 仏教には『楞厳経りょうごんきょう』『法華経ほけきょう』『孔雀経くじゃくきょう』『観音経かんのんきょう』『金剛経こんごうきょう』があるとは聞きますが、『緊箍児呪経』なんて聞いたことありませんぜ」

 悟空は言った。

「弟よ、お前は知らんだろうが、俺の頭のこの輪っかは、観音菩薩様がお師匠様に授けたものだ。お師匠様に騙されて嵌められたら、根が生えたみたいに取れなくなっちまった。これを『緊箍児きんこじ』と言って、その呪文が『緊箍児経』だ。これを唱えられると頭が割れるように痛むんだ。だから俺にはこの手は使えない。お師匠様、唱えないでくださいよ。俺は絶対に見捨てませんから。みんな一緒に連れ出して見せます」

 話しているうちに日はとっぷりと暮れ、東の空に煌々と月が昇った。

「しんと静まり返って、月明かりもいい。今が出発の時だ」

 悟空が促すが、八戒はまだ信じない。

「兄貴、でたらめ言うなよ。扉は全部鍵がかかってるのに、どこへ行くんだ?」

「俺の手並みを見てろ」

 悟空は金箍棒を取り出し、「解錠の術」を使って扉を指差した。ガチャンという音と共に幾重もの扉の錠前が外れ、パラパラと開いていくではないか。

 八戒は舌を巻いて笑った。

「たいした腕前だ。鍵屋に細工させたって、こう鮮やかにはいかねえや」

「こんな扉なんぞ屁でもない。南天門なんてんもんだって指一本で開けられるさ」

 悟空は師匠を連れて外へ出し、馬に乗せ、八戒には荷物を担がせ、悟浄は馬の手綱を引いて、西へと道を急いだ。

「お前たちはゆっくり行っててくれ。俺様はあの二人の童子が一ヶ月ほど眠るように手当てをしてくる」

 三蔵は案じて言った。

「弟子よ、命まで奪ってはならんぞ。また罪を重ねることになる」

「分かってますとも」

 悟空は再び道観へ戻り、童子の寝ている部屋の外へ立った。腰には「睡眠虫」を隠し持っている。これは以前、東天門で増長天王ぞうじょうてんのうと賭けをして勝った時に手に入れた品だ。二匹取り出し、窓の隙間からピンと弾き入れると、虫は童子の顔に飛び込み、二人は忽ち高いびきをかいて眠り込んだ。これなら当分起きることはあるまい。

 悟空は雲に乗って唐僧たちに追いつき、大通りをひたすら西へと急いだ。

 一行はこの夜、馬を休めることもなく走り続け、白々とした夜明けを迎えた。

 三蔵は言った。

「この猿め、私の寿命を縮める気か。お前の口のせいで、一晩中寝ずに歩く羽目になった」

「文句ばかり言わないでくださいよ。夜も明けたことだし、道端の林で少し休んで、英気を養ってからまた行きましょう」

 長老は仕方なく馬を下り、松の根元を禅床ぜんしょう代わりにして腰を下ろした。悟浄は荷物を下ろしてうたた寝をし、八戒は石を枕に眠り込んだ。孫大聖だけは疲れ知らずで、木に飛び移っては枝を揺すって遊んでいた。

 ――さて、あるじ鎮元大仙ちんげんたいせんである。彼は元始天尊の宮殿で散会した後、弟子たちを率いて兜率天とそつてんを離れ、雲に乗って万寿山五荘観の門前に戻ってきた。

 見れば、観の門は大きく開け放たれ、地面は綺麗に掃き清められている。

 大仙は顔をほころばせた。

「清風、明月もやるではないか。普段は日が高く昇るまで起きようともしないのに、今日は我々が留守だというのに早起きして、門を開け掃除までするとは」

 弟子たちも皆喜んだ。しかし殿上まで行くと、香の火は消え失せ、人の気配もない。明月と清風はどこにもいなかった。

 弟子たちが騒ぎ出した。

「あの二人、私たちがいないのをいいことに、物を持ち逃げしたのでは?」

 大仙は一喝した。

「馬鹿な! 仙道を修める者が、そんなこそ泥のような悪事を働くはずがない。きっと昨晩戸締まりを忘れて寝てしまい、まだ起き出していないのだろう」

 皆で二人の部屋へ行ってみると、確かに扉は閉ざされ、中から高いびきが聞こえてくる。外から叩いても叫んでも起きる気配がない。扉をこじ開けて入り、寝台から引きずり下ろしても、まるで泥のように眠り続けている。

 大仙は笑った。

「呆れた仙童だ。仙人たるもの、気が満ちれば眠気など起きぬはずなのに、どうしてこんなに眠りこけているのか? これは誰かに術をかけられたのかもしれん。水を持ってこい」

 童子が急いで水を半杯持ってきた。大仙は呪文を唱え、水を一口含んで二人の顔にプッと吹きかけ、魔を祓った。

 二人はようやく目を覚まし、ぼんやりと目をこすりながら顔を上げると、そこに師匠である鎮元子と兄弟子たちが立っているではないか。

 清風と明月は、はっとして慌てて平伏した。

「お師匠様、お師匠様の旧友だという東から来た和尚は、強盗団です。とんでもない悪党です!」

 大仙は笑って言った。

「驚くな、ゆっくり話してみろ」

 清風が訴えた。

「お師匠様、あの日お別れした後すぐに、確かに東土の唐僧一行四人と馬がやってきました。弟子は言いつけ通り、来意を尋ね、人参果を二つ差し上げました。しかしあの長老は俗眼ぞくがんで愚かなため、仙家の宝を知らず、『三日も経たない赤ん坊だ』と言ってどうしても食べようとしませんでした。そこで私たちが一つずつ頂いたのです。ところが、彼の手下に孫悟空という行者がいて、盗んで四つ食べてしまったのです。私たちが理を説いて少しばかり苦言を呈すると、奴は逆上し、分身の術を使って……ああ!」

 二人の童子は、無念のあまり涙が止まらなくなった。

 兄弟子が尋ねた。

「その和尚がお前たちを殴ったのか?」

 明月は首を振った。

「殴られはしませんでしたが、人参樹を……打ち倒されてしまいました」

 大仙はそれを聞いても怒る様子もなく、淡々と言った。

「泣くな、泣くな。お前たちは知らぬだろうが、その孫という奴は太乙散仙たいいつさんせんで、かつて天宮で大暴れした神通力の持ち主だ。宝樹を倒されたのは定数というべきだろう。しかし、その和尚たちの顔は覚えているか?」

「全員覚えております」

「覚えているなら、ついて来い。――弟子たちよ、刑具を用意しておけ。私が捕まえて戻ってきたら懲らしめてやる」

 弟子たちは直ちに従った。

 大仙は明月、清風と共に瑞祥ずいしょうの光に乗って三蔵を追いかけた。ひとっ飛びで千里のかなたへ。

 大仙は雲の上から西を眺めたが、唐僧の姿は見えない。振り返って東を見ると、なんと九百里余りも行き過ぎていた。長老は一晩中走り続けたといっても、足が遅く、せいぜい百二十里(約六十キロ)しか進んでいなかったのだ。大仙の雲は一飛びで九百里(約四百五十キロ)も行ってしまうからだ。

 仙童が指差した。

「お師匠様、あの道端の木の下に座っているのが唐僧です」

「見つけたぞ。お前たち二人は戻って縄を用意しておけ。私が一人で捕まえてくる」

 清風、明月は先に観へ戻っていった。

 大仙は雲を降り、身を揺すって変身し、旅の道士の姿になった。

つぎはぎだらけの法衣ほうえを身に纏い、腰には荒縄を帯として締める。

手には麈尾(しゅび/払子)を揺らし、漁鼓ぎょこを軽く打ち鳴らす。

足には三つの耳がついた草鞋、頭には九陽巾きゅうようきん

風をはらんで袖はひるがえり、「月児高げつじこう」の曲を口ずさむ。

 彼はまっすぐ木の下へ行き、唐僧に向かって高らかに言った。

「長老、ご挨拶申し上げます」

 長老は慌てて礼を返し、「お見それいたしました」と応じた。

 大仙は尋ねた。

「長老はどちらから来られましたかな? なぜこんな道端で座禅などを?」

「貧僧は東土の大唐から西天へ経典を求めに行く者です。通りかかったので、少し休んでおりました」

 大仙はわざと驚いたふりをした。

「長老は東から来られたなら、私の寺を通られたはずですが?」

仙官せんかん様の宝山とはどちらでしょう?」

「万寿山五荘観、それが貧道の住まいでございます」

 側で聞いていた悟空は、心にやましいことがあるため、慌てて否定した。

「行ってません、行ってません。俺たちは別の上ルートから来ましたから」

 大仙は彼を指差して笑った。

「この猿め! 誰を騙そうとしている? お前は私の観で人参果樹を打ち倒し、夜逃げをしてここまで来たのに、まだ認めず誤魔化そうとするか? 逃がしはせんぞ、さっさと戻って木を返せ」

 悟空はこれを聞いて腹を立て、鉄棒を取り出し、問答無用で大仙の頭めがけて打ちかかった。

 大仙は身をかわして瑞雲に乗り、空へ舞い上がった。悟空もすかさず雲に乗って追いすがる。

 大仙は半空で、おもむろに本来の姿を現した。

頭には紫金の冠を戴き、身には無憂むゆうの鶴氅(かくしょう/羽織)をまとう。

足には履を穿ち、腰には錦の帯を締める。

童子のように若々しい姿、輝く美人のごとき顔立ち。

顎には三房のひげが漂い、びんには漆黒の髪が重なる。

武器を持たずに行者を迎え撃ち、ただ手には玉の麈尾しゅびを弄す。

 悟空は上も下もなく棒を振り回して猛然と打ちかかった。大仙は玉の麈尾で左に受け流し右に防ぎ、二、三合ほど軽くいなした。

 そして秘術「袖裏乾坤(しゅうりけんこん/袖の中の宇宙)」を繰り出す。雲の端で、羽織の袖を風に向かってふわりと広げたかと思うと、シュッと一振り、四人の僧と馬をひとまとめにして、巨大な袖の中に吸い込んでしまった。

 八戒が悲鳴を上げた。

「まずい、俺たちはみんな袋に入れられちまった」

 悟空が言った。

「呆め、袋じゃない、奴の袖の中だ」

「大したことねえよ。俺の釘鈀ていはで穴を開けて脱出してやる。『うっかり落っことしちまった』って言わせてやるさ」

 八戒は鈀で内側から滅多打ちにしたが、まるで歯が立たない。手触りは柔らかいのに、突くと鉄より硬く強固なのである。

 大仙は雲を返し、五荘観に降り立って座り、弟子たちに縄を持ってこさせた。弟子たちは待っていましたとばかりに準備する。

 見れば大仙は、まるで人形劇の人形でも取り出すかのように、袖からひょいと唐僧をつまみ出し、正殿の柱に縛り付けた。続いて残り三人も取り出し、それぞれ柱に縛り付ける。馬も出して庭に繋ぎ、飼料を与えさせた。荷物は廊下に放り出した。

 大仙は告げた。

「弟子たちよ、この和尚たちは出家した身だ。刀や槍、斧やまさかりを使って傷つけてはならん。牛皮の鞭を持ってこい。こいつらを叩きのめして、人参果の無念を晴らしてやる」

 弟子たちはすぐに一本の鞭を持ってきた。――これは牛や羊の皮などではない、龍の皮で作った「七星鞭しちせいべん」で、水に浸して引き締めてあったものだ。力自慢の弟子が鞭を構えて問う。

「お師匠様、誰から打ちましょう?」

「唐三蔵は指導者としての尊厳に欠ける。まずは彼から打て」

 悟空はこれを聞いて思った。

(あの老いぼれ和尚は打たれ弱い。もし鞭で打たれて死んじまったら、俺の罪になっちまう)

 彼はたまらず口を開いた。

「先生、間違ってますぜ。実を盗んだのも俺、食べたのも俺、木を倒したのも俺だ。なんで俺から打たねえんだ? あいつを打ってどうする?」

 大仙は笑みを浮かべた。

「この猿め、狡猾だが少しは気骨があるな。よし、それならこいつから打て」

 弟子が聞いた。

「何回打ちますか?」

「果実の数に合わせて、三十回だ」

 弟子は鞭を振り上げた。悟空は仙人の法力が強いのを恐れ、目を見開いてどこを打つか見定めた。狙いは脚だった。悟空は腰をひねり、こっそりと術を使った。

(変!)

 脚を二本の熟鉄じゅくてつに変え、打たれるがままにしたのである。

 弟子はビシッ、バシッと三十回打った。打ち終わる頃には、もう日は西に傾いていた。

 大仙はさらに命じた。

「三蔵も打つべきだ。弟子のしつけが悪く、悪戯を放任した罪だ」

 弟子がまた鞭を振り上げた。悟空が再び叫ぶ。

「先生、また間違ってますぜ。実を盗んだ時、師匠は知らなかったんです。師匠は殿上で童子と話してて、俺たち兄弟が勝手にやったことだ。たとえ監督不行き届きの罪があっても、弟子である俺が身代わりに打たれるのが筋ってもんでしょう。俺を打ってください」

「この猿、悪賢いが孝行心はあるようだな。よし、またこいつを打て」

 弟子は言われるままにまた三十回打った。悟空が頭を下げて見ると、両脚は鏡のようにピカピカに磨き上げられ、痛みも痒みも感じなかった。

 すでに日は暮れかけていた。大仙は言った。

「鞭は水に浸しておけ。明日の朝また詮議してやる」

 弟子たちは鞭を片付け、それぞれ部屋へ戻った。夕食を済ませ、皆寝静まる頃となる。

 長老は涙を流し、三人の弟子を恨んで言った。

「お前たちが災いを招いたせいで、私がこんな目に遭うとは。どうしてくれよう」

 悟空が言った。

「文句を言わないでくださいよ。六十回打たれたのは俺一人、お師匠様は打たれてもいないのに、なんで泣くんです?」

「打たれてはいなくても、縛られて体が痛いのだ」

 悟浄もこぼした。

「お師匠様、ここには付き合いで縛られてる奴もいるんですよ」

「騒ぐな、もう少ししたら逃げるぞ」

 八戒が吐き捨てた。

「兄貴、また大法螺か。ここは水で濡らした麻縄でガチガチに縛られてるんだぞ。殿上に閉じ込められた時とは違う、鍵開けの術じゃどうにもならねえよ」

「自慢じゃないが、濡れた麻縄だろうが、腕ほどの太さの棕櫚シュロ縄だろうが、俺にかかりゃ秋風に吹かれる枯葉のようなもんだ」

 話しているうちに、あたりは静まり返り、夜気は深まり真夜中になった。

 悟空は体を縮めて縄をすり抜け、

「お師匠様、行きますよ」

 と言った。悟浄は驚喜した。

「兄貴、俺たちも助けてくれ」

「静かに、静かに」

 彼は三蔵を解き、八戒と悟浄を下ろし、身なりを整えさせ、馬に鞍を置き、廊下の荷物を持たせると、一斉に観の門を出た。

 そして八戒に言いつけた。

「崖の柳の木を四本切ってこい」

「何に使うんだ?」

「使い道があるんだ、早くしてくれ」

 八戒は力仕事ならお手の物、鼻先で四本の木を掘り起こし、抱えて戻ってきた。

 悟空は枝を払い、兄弟二人を再び中へ入れ、元の縄で柳の木を柱に縛り付けさせた。

 大聖は呪文を唱え、舌先を噛み破って血を木にプッと吹きかけ、

「変!」

 と叫んだ。

 すると、一本は長老に、一本は自分自身に、残りの二本は悟浄と八戒に変わった。顔つきもそっくりで、問われれば答え、名前を呼ばれれば返事をするように術をかけたのである。

 二人は急いで外に出て師匠に追いついた。この夜も休まず走り続け、五荘観から遠ざかっていった。

 東の空が白み、夜が明けた。長老は馬上でもうつらうつらしていた。悟空は苦笑した。

「お師匠様はだらしないなあ。出家人がそんなに辛抱なくてどうするんです? 俺様なんて千夜寝なくても眠くならないぞ。馬から下りて、通行人に笑われないように、山陰で少し休んでから行きましょう」

 師弟が道中で休んでいる間、大仙は夜明けと共に起き出し、朝食を済ませて殿上に現れた。

「鞭を持て。今日こそ唐三蔵を打つ番だ」

 弟子が鞭を振り上げ、柱の唐僧に向かって「打つぞ」と言うと、柳の木も「打て」と答えた。ビシッ、バシッと三十回。

 次に八戒に向かって「打つぞ」と言うと、柳の木も「打て」と答えた。悟浄も同様に打たれた。

 最後に行者に向かって打とうとした、その瞬間――遥か彼方の道中で悟空が不意に背筋に寒気を覚えた。

「まずい!」

 三蔵が驚いて尋ねた。

「どうした?」

「俺は四本の柳を身代わりに変えてきたんですが、昨日は俺が二度打たれたから、今日は打たれないだろうと思ってました。ところが今、俺の分身が打たれたもんで、本体の俺に寒気が走ったんです。もう十分でしょう、術を解きます」

 悟空は慌てて呪文を唱え、遠隔で術を解いた。

 するとどうだ。五荘観では、弟子たちが恐怖に震え、鞭を放り出して報告した。

「お師匠様! 最初に打ったのは唐の和尚でしたが、今打っていたのは……全部ただの柳の根っこでした!」

 大仙はこれを見て呆気にとられた後、呵呵大笑かかたいしょうした。

「孫行者、真に素晴らしい猿王だ。天宮を騒がせ、いかなる天羅地網てんらちもうをも逃れたと聞くが、なるほど頷ける。――逃げたなら逃げたでいいものを、柳の木を身代わりにしてからかうとは、許しておけん、追いかけるぞ」

 大仙が「追う」と言って雲に乗ると、すぐに西の方、荷物を担ぎ馬を急がせて歩く一行の姿が見えた。

 大仙は雲を降りて叫んだ。

「孫行者、どこへ行く? 私の人参樹を返せ」

 八戒は震え上がった。

「終わった、天敵がまた来やがった」

 悟空は覚悟を決めた。

「お師匠様、慈悲の心はしまっておいてください。俺たちがひと暴れして、あいつを片付けてから逃げましょう」

 唐僧は震えて返事もできない。

 悟浄は宝杖ほうじょうを、八戒は釘鈀を、大聖は鉄棒を構え、一斉に進み出て、空中で大仙を囲んで乱打した。この激闘、まさに詩にあるごとし。

悟空知らず、これ鎮元仙、

世と同君どうくんの妙、さらに玄なり。

三件の神兵、猛烈を施すも、

一本の麈尾、自ずと飄然ひょうぜんたり。

左に遮り右に防ぎて来往に随い、

後ろに架け前に迎えて転旋に任す。

夜去り朝来たるも脱体し難く、

何れの日か西天に到らん!

 三兄弟は神兵を振るって攻め立てたが、大仙はハエ叩きのような麈尾一本で、全て軽くあしらってしまう。半時もしないうちに、彼は袖を広げ、またしても四人の僧と馬と荷物を一網打尽にしてしまった。

 雲を返して観に戻ると、仙師は殿上に座り、袖から一人ずつ放り出した。唐僧は階下の低いえんじゅの木に、八戒と悟浄は両側の木に、悟空はまたも縛り上げて転がした。

 悟空は言った。

「今度は尋問でもするつもりか?」

 やがて縛り終わると、大仙は長い布を十匹ひき持ってこさせた。

 悟空は茶化して笑った。

「八戒、先生は気前がいいな。布を出して俺たちに中袖ちゅうそでの服でも作ってくれる気か? 節約して一着で十分だぜ」

 弟子たちが布を持ってきた。大仙は冷然と言い放った。

「唐三蔵、猪八戒、沙和尚を布でぐるぐる巻きにしろ」

 弟子たちは一斉に巻き付けた。悟空はまた笑った。

「いいぞ、いいぞ、生きながら納棺のうかんってわけだ」

 やがて巻き終わると、今度はうるしを持ってこさせた。弟子たちは自家製の生漆と精製漆を持ち出し、三人の全身に塗りたくった。顔だけ出して、体はカチカチに固められたのである。

 八戒が文句を言った。

「先生、上の方はいいけど、下の方は穴を開けといてくれよ。用が足せない」

 さらに、大鍋が運び込まれる。

 悟空は笑った。

「八戒、運がいいぞ。鍋が出てきたってことは、飯でも炊いて食わせてくれるらしい」

「そうだな、飯でも食って、満腹で死ねるなら本望だ」

 弟子たちは大鍋を階下に据えた。大仙は薪を積み上げ、強火で焚かせた。

「清油(植物油)を鍋いっぱいに注げ。煮立ったら、孫行者を放り込んで唐揚げにし、人参樹の仇を討ってやる」

 悟空はこれを聞いて、恐れるどころか内心喜んだ。

(俺様の望むところだ。しばらく風呂に入ってなかったから肌が痒かったんだ。ひとっ風呂浴びさせてもらうとしよう)

 やがて油がぐつぐつと煮立ってきた。大聖は用心し、仙法で油鍋に細工ができないかもしれないと考え、急いで周囲を見回した。台の東には日時計の台、西には石獅子いしじしがあった。

 悟空は身をひねって西へ転がり、舌先を噛んで血を石獅子に吹きかけ、「変!」と叫んで、自分そっくりの縛られた姿に変えた。本人は元神を抜け出し、雲の上から道士たちを見下ろした。

 弟子が報告した。

「お師匠様、油が煮えたぎっております」

 大仙は命じた。

「孫行者を放り込め」

 四人の仙童が持ち上げようとしたが、びくとも動かない。八人かかっても動かない。さらに四人加えても動かない。

「この猿、小さいくせにやけに重いです」

 結局二十人の小仙が総出で担ぎ上げ、鍋の中へドボンと放り込んだ。

 バシャーン! と凄まじい音がして、煮えたぎる熱油が四方に飛び散り、小道士たちの顔に水ぶくれを作った。

 火番の童子が叫んだ。

「鍋が漏れた! 鍋が漏れた!」

 言う間もなく、油はすべて漏れ出し、鍋底は割れてしまった。中を覗けば、そこには大きな石獅子が一つ、黒々と転がっていた。

 大仙は激怒した。

「この猿め、無礼極まりない! 目の前でこんな手品を使いおって。逃げたならまだしも、私の釜戸かまどまで壊すとは。この猿、捕まえようとしても砂を掴むようなものだ。ええい、もうよい。奴は放っておけ。唐三蔵を下ろせ。新しい鍋に換え、あいつを揚げて、人参樹の仇を討ってやる」

 弟子たちは本当に三蔵の布と漆を解き始めた。

 悟空は半空でこれを聞き、胸を痛めた。

(お師匠様は弱い体だ。油鍋に入れられたら、ひと煮立ちで死に、ふた煮立ちで焦げ、三回も煮ればドロドロの和尚になっちまう。助けなきゃ)

 大聖は雲を降り、進み出て手を合わせて言った。

「布と漆を解くのはもったいない。師匠を揚げるくらいなら、やっぱり俺が揚がりましょう」

 大仙は驚いて罵った。

「この猿め! どうやって私の釜戸を壊した?」

 悟空はへらへらと笑った。

「あんたが俺に会ったのが運の尽き(倒灶=釜戸が壊れる=不運)さ、俺のせいじゃないね。俺も油風呂に入りたかったんだが、あいにく小便がしたくてな。鍋の中で漏らしたら、せっかくの油が汚れて料理に使えなくなるだろ? 今はすっきりしたから、いつでも揚げてくれ。師匠じゃなく、俺にしてくれよ」

 大仙はこれを聞いて呵呵冷笑し、殿上から歩み出るや、ガシッと悟空の胸倉を掴んだ。

 果たしてどのような言葉が交わされ、いかなる結末を迎えるのか。

「調子に乗って高級品を壊した不良少年と、とんでもなく怖い地主の仁義なき戦い」

発端(完全犯罪の失敗):

悟空たちは超高級フルーツ「人参果(食べると不老不死)」を盗み食いし、逆ギレしてその果樹(家の家宝)を根こそぎ破壊してしまいます。さらに、生意気な店員(童子)を睡眠薬で眠らせ、夜逃げを敢行。

強敵登場(鎮元大仙):

家主である鎮元大仙ちんげんたいせんが帰宅。彼は天界の神々すら敬意を払う「仙人のドン」でした。逃げた悟空たちを雲に乗って追跡します。

絶望的な実力差(袖裏乾坤):

悟空たちは得意の武器で応戦しますが、大仙は武器すら使いません。「袖を一振り」しただけで、全員を異次元空間(袖の中)に収納して完全勝利。これが格の違いです。

拷問と意地(油風呂の刑):

捕まった悟空は、師匠の三蔵がムチ打ちにされるのを哀れみ、自分が身代わりになります。さらに「油で揚げて殺す」という処刑に対し、石の獅子を身代わりに変え、釜戸ごと爆破して脱出を試みますが……。

結末(手詰まり):

どんなに逃げても、どんな術を使っても、鎮元大仙の手のひら(袖の中)からは逃げられない。ついに悟空は「物理的な戦い」での勝利を諦め、物語は解決編(医術を探す旅)へと続きます。


このエピソードは、単なる「妖怪退治」とは一味違います。作者・呉承恩ごしょうおんが生きた明代の社会情勢と、宗教的なヒエラルキーが色濃く反映されています。

「通俗貴族」への皮肉と「官僚社会」の縮図

傲慢な門番(童子):

清風と明月という二人の童子は、権威を笠に着て三蔵一行を見下し、汚い言葉で罵りました。これは明代の「権力者の虎の威を借る下級役人(門番や秘書)」の横暴さを風刺しています。「礼儀を知らないエリートの使用人」が、結果として組織(五荘観)に災厄を招くという教訓です。

人参果という利権:

食べれば寿命が4万7千年伸びる果実は、当時の皇帝や貴族が熱中していた「錬金術・不老長寿薬(丹薬)」への行き過ぎた執着を皮肉っています。特権階級しかアクセスできない「富と命」の象徴です。


宗教的メッセージ:「地上の王」は「天上の神」より強い?

鎮元大仙の立ち位置:

彼は「地仙の祖」と呼ばれます。仏教(三蔵・悟空)とも、天界の政府(玉帝)とも違う、「独立した地方実力者(封建領主)」です。

孫悟空は天界の軍隊(十万の兵)を相手に大暴れできましたが、この「地上の古い仙人」には手も足も出ませんでした。これは、「中央集権(天界)の肩書きよりも、地に足をつけ、長い時間をかけて研鑽した実力(地仙)の方が本質的に強い」という道教的な実力主義を示唆しています。

宗教的教訓としては、「仏教徒であっても、土着の神々(道教や古い信仰)への敬意を欠いてはならず、自然の摂理(霊木)を破壊すれば必ず報いを受ける」という戒めが込められています。


悟空の精神構造:なぜ「木」まで倒したのか?(五行説の暗号)

普通なら実を盗んで終わりですが、悟空はなぜ木を根こそぎ倒したのでしょうか?

これには五行思想のメタファーが隠れています。

悟空=金(金属): 金箍棒を持つ石猿。

人参樹=木(植物): 東方・春の気。

五行では「金は木に勝つ(斧が木を切る)」という相性があります。悟空が癇癪かんしゃくを起こして木を倒すのは、彼の属性(荒ぶる金属の気=暴力)が制御できずに暴走した状態を表しています。物語の後半で、観音菩薩(水)が来て木を再生させるのは、「水が木を生む」という五行のサイクルで調和を取り戻すためなのです。


チート技「袖裏乾坤しゅうりけんこん」の恐ろしさ

鎮元大仙の必殺技「袖で吸い込む術」は、西遊記の中でも最強クラスの捕縛術です。

悟空の「筋斗雲」は光の速さで移動する術ですが、これは「距離」を移動する魔法です。

大仙の「袖」は、空間そのものを歪めて閉じ込める「次元系の魔法」です。

どれだけ速く動いても、「空間そのもの」をパッケージ化されてしまえば逃げられません。悟空が物理攻撃(棒で叩く)しかできないのに対し、大仙は「概念」で戦っているため、勝負にならないのです。これは、悟空の成長限界(まだ精神的な悟りが足りない)を示しています。


明代の司法制度批判?(拷問シーンのリアルさ)

大仙は捕まえた一行に対し、即座に死刑にせず、「鞭打ち」や「油鍋」といった拷問にかけます。特に「皮の鞭を水で濡らして打つ」描写は、当時の役所で行われていた実際の拷問・処罰の手順と重なります。

罪状認否のプロセス(誰から打つか? 言い分は? というやり取り)が妙に事務的であることから、当時の「形式的で容赦のない司法システム」への風刺、あるいは「法の前では聖僧も野獣も平等に裁かれる」というドライな現実観が見え隠れします。


この連続の2回分は、

「傲慢な若手社員(悟空)が、老舗の大企業(五荘観)に喧嘩を売った結果、会長(鎮元大仙)の圧倒的な政治力と実力にねじ伏せられ、世の中の厳しさと『礼儀』を叩き込まれる研修期間」

と言い換えることができます。

読者に対して、「力自慢だけでは渡っていけない世間の仕組み」と「伝統への畏敬」を、壮大なファンタジーアクションを通して教えているのです。

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