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私説 西遊記の遊戯  作者: 光闇居士


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第十七回:孫行者、大いに黒風山を騒がし。 観世音、熊の怪を収める。

挿絵(By みてみん)

『黒風山神威降妖図(こくふうざん しんい こうようず)』

天上の慈悲(観音菩薩)が、地上の荒ぶる力(黒熊の怪)を鎮め、その仲立ちとして、天の性を持ちながらも地の獣である孫悟空が存在する。


【しおの】

観音院の危機と孫悟空の帰還

さて、孫悟空が筋斗雲に乗って天高く飛び去ると、観音院の大小様々な僧たちは、皆そろって天を仰ぎ、ひれ伏しました。

「おお、お聖人様! あのお方はやはり、雲に乗り風を駆る神聖なお方だったのだ。道理で、猛火の中にあっても傷一つ負わぬわけだ。それに引き換え、あの方を見抜けなかった、あの欲深い老いぼれめ。己が蒔いた種で身を滅ぼすとは、まさに自業自得よ」

そんな僧たちに、三蔵法師が静かに語りかけます。

「皆の衆、もうお立ちなさい。嘆いていても始まりません。これから袈裟が無事に見つかれば万事解決ですが、もし見つからなければ……。私の弟子は、見ての通り少々気性が荒い。その時、あなたたちの命がどうなることか。誰一人として、逃れることはできぬやもしれませんぞ」

その言葉に、僧たちは皆、恐怖に身を震わせました。ただただ、袈裟が見つかり、それぞれの命が救われることだけを、天に祈るのでした。

一方、孫悟空は天に駆け上ると、腰をひらりとひねり、あっという間に黒風山へとたどり着きました。雲を止め、眼下を注意深く見やれば、そこには実に素晴らしい山が広がっています。折りしも春たけなわ、その景色たるや、

無数の谷は流れを競い、千の峰は美を誇る。鳥のさえずりは聞こえども人の姿はなく、花は散っても木々の香りはなお芳しい。雨上がりの青い岸壁は潤いを含んで空に溶け込み、風が吹けば、松の木々がまるで緑の屏風のように揺れ動く。山には若草が芽吹き、野には花が咲き乱れ、切り立った崖と険しい峰々が続く。蔦葛が生い茂り、美しい木々が立ち並ぶ、高く険しい頂。仙人の姿もなければ、木こりの声も聞こえない。谷間では二羽の鶴が喉を潤し、岩の上では野猿が好き勝手に戯れている。そびえ立つ山々は、まるで巻貝を積み上げたかのような深い藍色をなし、雄々しく連なる緑が霞の光と戯れているかのようだ。

悟空がしばし山の景色に見とれていると、不意に、草の生い茂る斜面の向こうから、人の話す声が聞こえてきました。そこで彼は足音を忍ばせ、岩陰に身を潜めると、そっと様子をうかがいます。

そこにいたのは、三人の妖魔でした。地面に腰を下ろし、上座には黒い衣の男、その左手には道士、右手には白い衣の秀才といった風情の男が座っています。彼らはなにやら高尚な議論を交わしており、錬金術の秘儀や、道教の奥義について熱心に語り合っているのでした。

話が途切れたところで、黒い男が笑みを浮かべて言いました。

「明後日は、わしがこの世に生を受けた日だ。お二人とも、ぜひ祝いに来てはくれまいか」

白衣の秀才が応じます。

「大王の長寿のお祝いは毎年のこと。今年に限ってお断りするわけがありましょうか」

すると黒い男は、ことさらに声を弾ませました。

「昨夜、錦襴の仏衣という、世にも稀なる宝物を手に入れたのだ。実に見事な代物でな。明日はこれを祝いの品とし、盛大な宴を開きたい。近隣の山の道士たちも招き、この仏衣を披露するのだ。いっそ、これを『仏衣会』とでも名付けて祝おうではないか」

道士が手を打って笑います。

「妙案、妙案! それは素晴らしい。では、私は明日まずご長寿のお祝いに参り、明後日改めて宴に馳せ参じましょう」

「仏衣」という言葉を聞いた悟空は、それが自分の袈裟に違いないと確信しました。こみ上げる怒りを抑えきれず、岩陰から躍り出ると、両手に如意金箍棒を振りかざし、大音声で叫びます。

「この盗人どもめ! お前たちがわしの袈裟を盗み、何をたくらんでいるかと思えば! さあ、今すぐ返せ!」

「逃がすか!」と一喝し、棒を振り上げて打ち下ろしました。慌てふためいた黒い男は一陣の風と化して逃げ、道士も雲に乗って姿を消します。ただ一人、白衣の秀才だけが避けきれず、一撃のもとに命を落としました。

悟空がその骸を引き寄せてみれば、それは一匹の白い斑を持つ蛇の化け物でした。悟空はそれを五つ、七つに引き裂くと、そのまま深山へと分け入り、あの黒い男の行方を追いました。

黒風洞の様相と孫悟空の挑戦

尖った峰を回り、険しい尾根を越えると、切り立った崖の前に、一つの洞窟が口を開けていました。その佇まいは、

霞が遥か彼方にたなびき、松や柏が鬱蒼と茂る。霞は門を満たし、松柏の緑は戸口を彩る。朽ちかけた木の橋を渡れば、峰の頂は蔦葛に覆われている。鳥は赤い花弁をくわえて雲の谷間から現れ、鹿は芳しい草を踏んで岩の台に登る。門前には折々の花が咲き、風がその香りを運んでくる。岸辺の柳では鶯が鳴き、桃の木には紋白蝶が舞う。俗世から離れたこの地は、まさに仙境、蓬莱山の景色にも勝るとも劣らない。

悟空が門前まで来ると、二枚の石の扉が固く閉ざされています。門の上には石の看板が掲げられ、そこには「黒風山黒風洞」という六文字がくっきりと刻まれていました。

悟空はすかさず棒を振り上げ、「門を開けろ!」と怒鳴ります。

中から門番の小妖怪が出てきて言いました。

「お前は何者だ。なぜ我らが仙人の住まう洞窟の門を叩くのか」

悟空は罵ります。

「この死に損ないめ! どこが仙人の住まいだ。お前のような輩が『仙』を名乗るとは片腹痛いわ。さっさと中に入って、お前らの黒い親分に伝えろ。この悟空様の袈裟をすぐに返せば、一味の命だけは助けてやると!」

小妖怪は慌てて洞窟の奥へと駆け込み、報告しました。

「大王、大変です! 仏衣会どころではございません。門の外に、毛むくじゃらの顔をした雷神のような口の和尚が来て、袈裟をよこせと息巻いております」

あの黒い男は、悟空に追い立てられて洞窟に逃げ帰り、門を閉ざして一息ついたばかりでした。腰も落ち着かないうちにその報告を聞き、心の中で毒づきます。

「どこの馬の骨か知らぬが、無礼千万なやつだ。わしの縄張りまで乗り込んでくるとは」

彼はすぐさま甲冑を身につけ、一本の、黒い房飾りのついた槍を手に取り、門の外へと躍り出ました。悟空は門の外に身構え、鉄棒を手に、目を凝らして相手を見据えます。

その妖怪の姿は、実に恐ろしげなものでした。

漆黒の兜は鈍く光り、烏金の鎧が輝きを放つ。黒絹の上着は風をはらみ、黒緑色の組み紐が長く垂れている。手には黒い房の槍、足には黒革の靴。その瞳は黄金の光を宿し、稲妻のようにきらめいている。まさしく、この山の主、黒風王でありました。

悟空は心の中でせせら笑いました。

「この悪党め、まるで炭焼きだな。石炭を運ぶ男とそっくりじゃないか。きっとこの辺りで炭を焼いて暮らしているに違いない。でなければ、どうしてこうも全身真っ黒なのだ」

妖怪は声を張り上げ、叫びました。

「お前はどこの坊主だ。よくも我らの前でそのような無礼な振る舞いができるな」

悟空は鉄棒を構え、眼前に飛び込むと、一喝します。

「問答無用! さっさと、この悟空様の袈裟を返すのだ!」

妖怪は言いました。

「お前はどこの寺の者だ。袈裟をどこで失くしたというのだ。なぜ、わしのもとへ取り返しに来る」

悟空が言い返します。

「わしの袈裟は、真北にある観音院の奥の間、方丈に置いてあった。あの寺が火事になったのを幸いと、お前がどさくさに紛れて盗み出したのだろう。それを己の誕生祝いにし、『仏衣会』などと嘯くとは、よくも白を切れるものだ。今すぐ返せば命だけは助けてやる。もし半言でも『否』と申すなら、この黒風山を根こそぎ薙ぎ倒し、黒風洞を踏み潰し、お前たち妖怪一味を、残らず肉塊にしてくれるわ!」

妖怪はそれを聞くと、冷たく笑いました。

「この悪党め、それならば昨夜の火事はお前が放ったものだな。お前があの方丈の屋根の上で風を起こし、騒ぎ立てた。わしが袈裟を一枚いただいた。それがどうした? お前は一体どこの何者だ。どれほどの腕があって、そのような大口を叩く」

悟空は言いました。

「お前はこのわしのことを知らぬと見えるな。わしは、大唐国の皇帝陛下の弟君、三蔵法師の一番弟子。姓は孫、名は悟空、またの名を行者という。このわしの腕前を知りたいか? 聞けばお前の魂は凍りつき、その場で息絶えることになるぞ」

妖怪は言います。

「お前のような者には会った覚えがない。どのような腕前があるというのか、話してみろ。聞いてやろう」

悟空は笑って言いました。

「小僧、しかと立って、耳の穴をかっぽじってよく聞け。わしはな、

幼き頃より神通力に長け、風に従い変化を操る英傑よ。

真理を修め、長き年月を耐え、輪廻の輪から解き放たれし身。

ひたすら道を求め、霊台山にて仙薬を採った。

その山には老仙人がおり、その齢は十万八千歳。

わしはその方を師と仰ぎ、不老長生の道を授かったのだ。

仙薬は己の内にあり、外に求めるは無駄だと教えられ、

天仙の秘訣を授かったが、その修行は並大抵ではなかった。

内に光を巡らせ、心を鎮め、陰陽の気を交わらせた。

万事を忘れ、全ての欲を断ち、六根を清めて我が身は鋼となった。

若返りはたやすく、聖人の道も遠くない。

三年の修行で仙人の身体となり、俗世の苦しみとは無縁となった。

十洲三島を遊び巡り、海の果て、空の彼方まで歩いた。

齢三百を数えるも、まだ天に昇ることは許されなかった。

海に潜り龍を屈服させ、手に入れた宝がこの如意金箍棒よ。

花果山の頭領となり、水簾洞で妖怪どもを束ねた。

玉皇大帝に招かれ、斉天大聖という最高の位を授かった。

天宮では何度も大暴れし、王母様の桃も幾度となく盗んだ。

十万の天兵がわしを討ちに来たが、槍や刀の森も物ともせぬ。

天王どもを打ち負かし、哪吒太子は傷を負って逃げ帰った。

二郎神は変化の術に長けていたが、わしは真っ向から勝負を挑んだ。

老子に観音、玉帝までもが、南天門から見物していたが、

太上老君の不意打ちにあい、二郎神に捕らえられ天上の役所へ。

降妖柱に縛り付けられ、首を斬られようとも、

刀で斬られ、槌で打たれても、雷に打たれ、火で焼かれても、

この悟空様は、びくともしなかったのだ。

老君の八卦炉に放り込まれ、六丁の神火で焼かれたが、

期が満ちて炉が開くと、わしは飛び出し、鉄棒片手に天を駆けた。

遮るものなく、三十三天で暴れに暴れた。

だが、釈迦如来の法力には及ばず、五行山に押さえつけられた。

五百年もの間、山の下にいたが、幸いにも三蔵法師が唐より旅立つ際に救われたのだ。

わしは今、仏に帰依し、西方にある雷音寺を目指している。

さあ、天地のどこででも聞いてみるがいい。わしこそは、歴史に名を馳せた天下第一の妖怪よ!」

妖怪はこれを聞いて、鼻で笑いました。

「なんだ、お前は、あの天宮で大騒ぎした、ただの馬番ではないか」

悟空が何よりも腹を立てるのは、人からそう呼ばれることでした。その一言は、悟空の心の最も触れられたくない傷に、塩を塗り込むようなものでした。彼は怒りに燃え、罵ります。

「この悪党め! 袈裟を盗んだ上に、このわしを辱めるとは! 逃がさんぞ、この棒を食らえ!」

黒い男は身をかわしてそれを避け、長槍を構えて迎え撃ちます。二人の戦いは、凄まじいものとなりました。

如意棒と、黒い房の槍。二人は洞窟の前で、互いの剛勇をぶつけ合う。

心臓を狙い、顔を打ち、腕をめがけ、頭を砕かんとする。

一方は隙を突く横薙ぎの棒、もう一方は急所を狙う三度の突き。

白虎が山を駆け上り爪を振るうが如く、黄龍が地に伏して身を翻すが如し。

妖しい霧を吹き、光を放ち、二人の妖仙の力量は計り知れない。

一方は修行を積んだ斉天大聖、もう一方は化生の黒大王。

この山中での争いは、ただ一枚の袈裟のため。互いに一歩も引く気はない。

妖怪の逃亡と孫悟空の計略

妖怪は悟空と十数合ほど打ち合いましたが、勝負はつきません。ちょうど太陽が真上に差し掛かった頃、黒い男は槍で悟空の鉄棒を受け止め、言いました。

「孫行者、ひとまず武器を収めようではないか。わしは食事をしてくる。その後で、また雌雄を決しよう」

悟空は吐き捨てるように言いました。

「この卑怯者め、それでも男か。半日戦ったくらいで飯を食うとはな。この悟空様など、山の下で五百年も飲まず食わずだったのだぞ。腹が減ったなどと、言い訳をするな。逃げるでない! わしの袈裟を返せば、飯でも何でも食わせてやる!」

しかし妖怪は槍で空を払うと、身を翻して洞窟の中へ入ってしまい、石の扉を固く閉ざしてしまいました。そして小妖怪たちを集め、宴の準備をさせ、招待状を書いて、近隣の魔王たちを祝いの会に招こうとしたのです。

悟空は門を攻めましたが、びくともしません。仕方なく、彼は観音院へと戻ることにしました。寺の僧たちは、すでに老和尚の亡骸を弔い、方丈で三蔵法師に仕えていました。

朝食が終わり、昼食の準備をしているところへ、悟空が空から舞い降ります。僧たちは平伏して彼を方丈へ迎え入れ、三蔵法師に引き合わせました。

三蔵法師が尋ねます。

「悟空、戻ったか。袈裟はどうなった?」

悟空は答えました。

「師父、手がかりは見つかりました。幸い、ここの和尚たちを疑ったのは間違いでした。袈裟を盗んだのは、あの黒風山の妖怪です。わしがこっそり奴を探しに行くと、白衣の秀才と道士と三人で話しているところに出くわしました。奴らは自ら白状したようなものです。明後日が自分の誕生日だから、妖怪仲間を招いて祝いの宴を開くこと、昨夜、錦襴の仏衣を手に入れたから、それを披露する『仏衣会』を開くと話していました。わしはすぐに飛び出しましたが、黒い男は風になって逃げ、道士も見失いました。ただ、白衣の秀才だけは打ち殺しました。あれは一匹の白い蛇の化け物でした。

すぐに奴の洞窟まで追いかけ、一戦交えました。奴も袈裟を盗んだことは認めました。半日ほど戦いましたが、決着はつきませんでした。奴は飯を食うと言い訳して洞窟に閉じこもり、出てきません。仕方なく、師父にご報告に戻った次第です。これで袈裟のありかがはっきりしました。奴が返さないわけにはいきません」

それを聞いた僧たちは、ある者は手を合わせ、ある者は頭を下げ、「南無阿弥陀仏! これで手がかりが見つかった。我らの命も助かった」と口々に唱えました。

悟空は言います。

「お前たち、喜ぶのはまだ早い。まだ袈裟は手に入っておらんし、師父もまだ旅立てぬのだ。袈裟が戻り、師父が無事に出立できてこそ、お前たちも安心できる。もし何かあれば、この悟空様が相手になることを忘れるな。師父に良いお茶と食事は出したか。馬に良い餌は食わせたか」

衆僧は皆、「はい、はい、少しも手抜きはしておりません」と答えました。

三蔵法師も言います。

「お前が行ってから半日、私はすでに三度お茶をいただき、二度食事をいただいた。彼らは私を丁重にもてなしてくれた。だが、お前は一心に力を尽くし、袈裟を取り戻してきておくれ」

悟空は請け合いました。

「ご心配なく。手がかりが掴めたのです。必ずやあの悪党を捕らえ、元の物を取り返してみせます。どうぞ、ご安心を」

話していると、住職がまた精進料理を整え、悟空に食事を勧めてきました。悟空は少しだけ口にすると、再び雲に乗り、妖怪を探しに出かけました。

招待状の入手と変身の策

悟空が進んでいくと、一人の小妖怪が、脇に花梨の木箱を抱えて道を歩いてくるのが見えました。悟空は、箱の中に招待状が入っているに違いないと見当をつけ、棒を振り上げて頭めがけて一撃。哀れ、小妖怪は一撃のもとに、ぐしゃりと潰れてしまいました。

悟空は亡骸を道端に引きずり、箱の蓋を開けてみます。すると案の定、一通の招待状が入っていました。そこには、こう書かれています。

「侍生、熊羆、頓首。大闡金池老上人様へ。度重なるご厚情、心より感謝申し上げます。昨夜の火難の折には、お助けすることもできず、申し訳ございませんでした。老仙長にご異状なきことと信じております。さて、私め、たまたま仏衣なるものを手に入れましたので、ささやかながら宴を催したく存じます。酒肴をご用意し、清談を楽しみたく、謹んでご案内申し上げます。期日には、どうかご足労いただき、一献傾けていただければ幸いです。二日前にて」

これを見た悟空は、腹を抱えて大笑いしました。

「あの欲深な老いぼれめ、死んでも惜しくないわ。やはり妖精と仲間だったのか。道理で二百七十歳まで生きたわけだ。きっとあの妖怪から、仙術の真似事でも教わって長生きしていたのだろう。よし、あの老和尚の姿はまだ覚えている。わしがあの老いぼれに化けて、奴の洞窟へ行ってやろう。袈裟がどこにあるか確かめ、隙あらばそのまま持ち帰るのが手っ取り早い」

さすがは悟空。呪文を唱え、風に向かって一変すると、まさしくあの金池長老そっくりの姿になりました。鉄棒を隠し、歩き出すと、まっすぐ洞窟の入口へ向かい、「門を開けよ」と声をかけました。

門番の小妖怪が扉を開け、その姿を見ると、慌てて奥へ駆け込み報告します。

「大王、金池長老がお見えになりました」

妖怪は驚きました。

「たった今、小僧を招待状を持たせてやったばかりだ。まだ着くはずがないのに、どうしてこんなに早く来たのだ? 小僧とすれ違ったわけでもなかろう。きっと、孫行者が長老をそそのかして袈裟を取り返しに来たに違いない。者ども、仏衣を隠せ。見られてはならぬぞ」

黒熊の怪の疑心と孫悟空の変化

悟空が化けた長老が門をくぐると、中庭には松や竹が青々と茂り、桃や李が美を競い、色とりどりの花が咲き乱れ、蘭の香りが漂っていました。まことに仙境と呼ぶにふさわしい場所です。二番目の門には、

「静かに深山に隠れて俗世の悩みなく 幽かな仙洞に住み、天真を楽しむ」

という対句が掲げられています。悟空は心の中で感心しました。

「この悪党も、なかなか風流を解するではないか」

三層目の門を抜けると、そこは絵画の施された梁や柱、色鮮やかな窓で飾られた広間でした。黒い男は、黒緑色の絹の服の上に、鴉の羽のような黒い外套を羽織り、黒い頭巾をかぶり、革靴を履いていました。

悟空が入ってくると、彼は衣を整え、階段を降りて出迎えます。

「金池の老友、しばらくご無沙汰しておりましたな。ささ、どうぞこちらへ」

悟空も礼儀正しく挨拶を返し、席に着きました。茶が出され、飲み終わると、妖怪が身を乗り出して尋ねます。

「先ほど、招待状をお届けにやりました。明後日お越しいただくはずでしたが、どうして今日は早々にお越しになられたのですか」

悟空は答えました。

「ちょうどご挨拶に伺おうと思っていたところ、途中で招待状を拝見いたしました。仏衣の宴を開かれるとのこと、ぜひとも拝見したく、急いで参上した次第です」

妖怪は笑って言いました。

「老友、それはおかしい。あの袈裟は唐の僧のもので、あなたの寺に泊まっていたのですから、あなたはご覧になったはず。なぜ、わざわざ私のところまで見に来たいなどとおっしゃるのか」

悟空は言いました。

「貧僧は借り受けたものの、夜だったため、まだ広げて見ておりませんでした。まさか大王様が手に入れられるとは。火事で寺は焼け、家財も失いました。あの唐の僧の弟子は少々腕が立ち、あちこち探しておりましたが、見つからなかったようです。やはり、大王様の大きな幸運によって手に入れられたもの。それゆえ、ぜひとも拝見したく参ったのです」

ちょうど話していると、見張りの小妖怪が駆け込んできて報告しました。

「大王、大変です! 招待状を持って行った小僧が、孫行者に道で打ち殺されていました。行者は書状を奪い、金池長老に化けて、仏衣を騙し取りに来ています!」

妖怪はこれを聞き、心の中で「やはりな」と思いました。

「どうりで、あの長老が今日、しかもこんなに早く来るわけがない。やはり孫行者だったか」

妖怪はすぐさま立ち上がり、槍を手に取ると、そのまま悟空に突きかかりました。悟空も耳の中から素早く棍棒を取り出し、元の姿に戻って槍を受け止めます。二人は洞窟の広間から中庭へ、そして門の外へと飛び出して戦い始めました。

洞窟の中の妖怪たちは皆、恐れおののき、魂を失いました。この山での戦いは、先ほどよりもさらに激しいものとなります。

猿の王は大胆にも和尚に化け、黒い男は抜け目なく仏衣を隠す。

言葉のやり取りは機を見て巧みであり、状況に応じた変化に抜かりはない。

袈裟を見ようとするも叶わず、宝の行方は実に奥深い。

小妖怪が見回り、災いを告げ、老いた妖怪は怒りを発して威を示す。

身を翻し黒風洞から飛び出し、槍と棒で正邪を争う。

棒と長槍がぶつかり、音は響きわたり、槍は鉄棒を迎え撃ち、火花を散らす。

悟空の変化の術は人間界に稀であり、妖怪の神通力も世に類がない。

一方は仏衣で長寿を祝い、もう一方は袈裟なくしては帰ろうとしない。

この激しい戦いは、もはや仏が仲裁に入っても解くことはできまい。

妖怪と悟空は十数合戦いましたが、勝負はつきません。日が西に傾き始めた頃、妖怪は槍で鉄棒を受け止め、言いました。

「孫悟空よ、ひとまず手を止めよ。今日はもう日が暮れた。これ以上戦うのはよそう。お前は去れ。明日の朝、再びここで雌雄を決しようではないか」

悟空は叫びます。

「小僧、逃げるな! 戦うなら正々堂々と戦え。日暮れを言い訳にするとは何事だ!」

悟空が容赦なく棍棒を打ち続けると、黒い男はまたしても一陣の風と化し、自分の洞窟へと戻ると、石の扉を固く閉ざして出てきませんでした。

悟空もどうすることもできず、観音院へ戻り、雲から降りて「師父」と声をかけました。三蔵法師は待ちかねており、悟空の姿を見て大変喜びましたが、その手に袈裟がないのを見て、また不安に襲われます。

三蔵法師が尋ねました。

「なぜ、今回も袈裟がないのだ」

悟空は袖から招待状を取り出し、三蔵法師に手渡しました。

「師父、あの化け物は、あの死んだ老いぼれと仲間でした。これは、奴が小妖怪に届けさせた招待状です。わしはその小妖怪を打ち殺し、あの老和尚に化けて洞窟へ行き、一杯茶をご馳走になりました。袈裟を見せろと頼みましたが、奴は出そうとしない。そのうち、見張りの小妖怪に正体を見破られ、また戦いになりました。日が暮れるまで戦いましたが、決着はつかず、奴は洞窟に引きこもってしまいました。それで、一時戻ってきたのです」

三蔵法師は尋ねます。

「お前の腕前は、彼に及ばなかったのか」

悟空は答えました。

「大して勝てませんでした。互角の戦いです」

三蔵法師は招待状を見ると、それを住職に手渡しました。

「お前の師匠も、まさか妖怪だったとはな」

住職は慌ててひざまずきました。

「お聖人様、私の師匠は人間でございます。ただ、あの黒大王様が人としての道を修めておられたため、しばしば寺に来ては師匠と仏の教えを語り合い、養生の術などを伝えておりました。それで、友としてお付き合いしていたのです」

悟空は言いました。

「この和尚どもに妖気はない。皆、人間だ。ただ、わしより太って背が高いだけだ。あの招待状を見なされ。『侍生、熊羆』と書いてある。この化け物は、きっと黒熊が化けたものに違いありません」

三蔵法師は言いました。

「古人の言葉に、熊は猩々に似ていると聞く。どちらも獣ではないか。どうして化け物になれるのだ」

悟空は笑いました。

「このわしとて獣ですが、斉天大聖になりました。奴と何が違いましょう。およそこの世の生き物で、九つの穴を持つものは皆、修行すれば仙人になれるのです」

三蔵法師はまた尋ねます。

「お前は彼の腕前と互角だと言ったが、それではどうやって勝ち、私の袈裟を取り戻すつもりなのだ」

悟空は言いました。

「ご心配には及びません。わしには策があります」

観音菩薩への懇願と計略

話していると、僧たちが夕食を運んできたので、師弟は食事を済ませました。三蔵法師は灯りをつけさせ、再び前の禅堂で休むことにします。僧たちは壁に寄りかかり、苫で覆われた小屋で眠りました。夜が静まり、

天の川は影を落とし、大空には塵一つない。

満天の星はきらめき、水面の波紋は収まる。

万物の音は静まり、千の山の鳥の声も絶える。

谷間の漁火は消え、塔の上の仏灯はか細い。

昨夜は僧たちの鐘の音が響いたが、今宵はすすり泣きの声が聞こえるばかり。

その夜、三蔵法師は袈裟のことが気になって、とても眠ることができませんでした。ふと寝返りを打つと、窓の外が白み始めているのに気づき、急いで起き上がると悟空を呼びます。

「悟空、夜が明けたぞ。早く袈裟を探しに行きなさい」

悟空が飛び起きると、僧たちがすでに湯水を用意して控えていました。悟空は言います。

「お前たちは心を込めて師父にお仕えしろ。わしは行ってくる」

三蔵法師は床から降り、彼を引き止めました。

「お前はどこへ行くのだ」

悟空は答えました。

「わしは思うに、この事態はすべて観音菩薩の落ち度です。菩薩はここに禅院を設け、人々の供養を受けていながら、すぐ隣にあの妖精を住まわせていた。その妖精が師父の袈裟を盗んだのに、何度頼んでも返さない。わしは南海へ行って菩薩に直談判し、ご自身で袈裟を取り返しに来てもらいます」

三蔵法師は言いました。

「今から行って、いつ戻るのだ」

悟空は言います。

「早ければ食事を終える頃、遅くとも昼までには、事を成して戻りましょう。和尚たちよ、師父を頼んだぞ。わしは行く!」

「行く」という声が消えぬうちに、その姿はすでにかき消えていました。

瞬く間に南海へ到着し、雲を止めて見渡します。そこには、

広大な海が遥か彼方まで広がり、その勢いは天にまで続いている。

めでたい光が宇宙を包み、瑞祥の気が山河を照らす。

千層の雪のような波は青空に向かって吠え、万重の霧のような波は白く渦巻く。

雷鳴のような水しぶきが四方に飛び散り、稲妻のような波が周りを巡る。

その中央に、五色の光を放つ宝の山が浮かんでいる。赤、黄、紫、黒、緑、青が混ざり合う、観音菩薩の住まう聖地、南海の落伽山である。

山峰は高くそびえ、頂は天を貫く。

中腹には千種類もの珍しい花、百種類ものめでたい草が生い茂る。

風は宝の木を揺らし、日は金の蓮を照らす。

観音殿は瑠璃の瓦で覆われ、潮音洞の門には玳瑁が敷き詰められている。

緑の柳の影では鸚鵡がさえずり、紫の竹林の中では孔雀が鳴く。

瑪瑙のような岩の上には護法神が威厳をもって立ち、瑪瑙の浜辺には木叉が雄々しく控えている。

悟空はその絶景にしばし見とれていましたが、すぐに雲を降り、竹林の中へと進みました。すると守護の神々がすぐに出迎えます。

「大聖、菩薩様は以前、あなたが善に帰依したと我らにお話しになりました。今、唐の僧をお守りしている最中のはず、どうして暇を得てこちらへお越しに?」

悟空は言いました。

「唐の僧をお守りする途中で、少々厄介なことに見舞われ、菩薩様にお会いしに来ました。お取り次ぎを頼みます」

神々が洞窟の入口へ報告に行くと、菩薩は悟空を入れるよう命じました。悟空は礼儀正しく進み、宝の蓮台の下でひれ伏します。

菩薩が尋ねました。

「何のために参ったのですか」

悟空は言いました。

「わしの師父があなたの禅院を通りかかったのですが、あなたは人々の供養を受けながら、あの黒熊の化け物を隣に住まわせていた。その妖精が師父の袈裟を盗んだのに、何度取り返しに行っても返さない。今日は、その訳を問い質しに来ました」

菩薩は言いました。

「この猿は、なんて無礼なことを言うのでしょう。熊の化け物が袈裟を盗んだのなら、なぜ私に催促しに来るのですか。すべては、あなたという思慮の浅い猿が、自慢げに宝物を見せびらかしたのが悪いのです。おまけに、あなたは行儀悪くも風を呼び火を起こし、私の寺院を焼き払った。その上、私のところへ来て無理を言うとは、どういうつもりです」

悟空は、菩薩が過去も未来もすべてお見通しであることを悟り、慌てて頭を下げました。

「菩薩様、どうか弟子の罪をお許しください。まさしく、その通りでございます。ただ、あの化け物がどうしても袈裟を返そうとしないのです。師父はまた、あの呪文を唱えようとなさる。わしは頭の痛みに耐えられないので、こちらへ参上いたしました。どうか、菩薩様の慈悲の心をもって、私を助け、あの妖精を捕らえ、袈裟を取り戻してくださいますよう、お願い申し上げます」

菩薩は言いました。

「あの化け物は多くの神通力を持ち、あなたにも劣りません。よいでしょう。唐の僧の顔を立てて、あなたと一緒に行ってあげましょう」

悟空はこれを聞いて深く感謝し、再び礼を述べました。すぐに菩薩を外へ案内し、二人でめでたい雲に乗り、あっという間に黒風山へと到着しました。雲を降り、道に沿って洞窟を探します。

凌虚子の正体と菩薩の変身

ちょうど進んでいると、山道の斜面から一人の道士が現れました。手にはガラスの皿を持ち、その上には二粒の仙丹が乗せられています。悟空は彼と真正面から出くわすと、棒を取り出し、頭めがけて一撃。哀れ、道士は脳漿をまき散らし、胸から血を噴き出して、その場に倒れ伏しました。

菩薩はたいそう驚いて言いました。

「あなたという猿は、まだそんなにも乱暴なのですか。彼は袈裟を盗んでいませんし、あなたと知り合いでもない。何の恨みもないのに、どうして彼を殺したりするのです」

悟空は言いました。

「菩薩様、あなたは彼をご存じない。彼はあの黒熊の化け物の仲間です。昨日、あの白衣の秀才と一緒に草むらで話していました。明後日は黒熊の誕生日で、彼らを招いて仏衣会を開くのです。彼は今日、先に長寿の祝いに来たに違いありません。だから、わしには彼だとわかったのです。きっと今、あの妖怪に挨拶を済ませた帰り道でしょう」

菩薩は言いました。

「それならば、仕方がありませんね」

悟空がその道士を引っ張ってみると、それは一匹の蒼い狼でした。傍らの皿の裏には、「凌虚子製」という四文字が刻まれています。

これを見た悟空は、腹を抱えて笑いました。

「これは好都合、好都合! わしにとっても都合が良いし、菩薩様のお手間も省ける。この化け物は、打たずして自らその素性を明かしたようなもの。これであの妖怪も今日で終わりです」

菩薩が尋ねます。

「悟空、それはどういうことですか」

悟空は言いました。

「菩薩様、わしには敵の策を逆手に取るという考えがあります。菩薩様、わしに従っていただけますでしょうか」

菩薩は言いました。

「申してみなさい」

悟空が続けます。

「この皿の上にある二粒の仙丹は、我々があの妖魔に贈る手土産になります。皿の裏に刻まれた『凌虚子製』という四文字は、縁を結ぶ手がかりになります。もし菩薩様が私に従ってくださるなら、私が良い策を立てます。そうすれば、武器を交えることもなく、戦う苦労もありません。妖魔はすぐに災難に見舞われ、仏衣はすぐに見つかるでしょう。もし従っていただけないのなら、菩薩様は西へ、わしは東へ。袈裟はくれてやったものとし、三蔵法師の旅はここでおしまいといたしましょう」

菩薩は微笑んで言いました。

「この猿は、口が達者ですね」

悟空は言いました。

「とんでもない。これは一つの計略でございます」

菩薩は言いました。

「あなたの計略とは、どのようなものですか」

悟空は説明しました。

「この皿に『凌虚子製』とあるからには、この道士の名は凌虚子に違いありません。菩薩様、どうかあなたがこの道士に化けてください。わしはこの仙丹を一粒食べ、もう一粒を少し大きな仙丹に変化します。菩薩様は、この皿と二粒の仙丹を持って、あの妖怪に長寿の祝いに行ってください。そして、この大きい方の仙丹を奴に勧めて飲ませるのです。奴がそれを一口で飲み込んだら、わしがその腹の中で一芝居打ちます。もし奴が仏衣を差し出さないようなら、わしは奴の腸を織って、一枚の袈裟を作ってやりますよ」

菩薩は他に良い方法もないと見て、うなずいて従うことにしました。悟空は笑って言いました。

「いかがでしょうか」

黒熊の怪の降伏と守護神への道

その時、菩薩は広大な慈悲と限りない法力、億千万の化身の力をもって、たちまちのうちに凌虚仙子へとその姿を変えました。

鶴の羽衣は仙人の風格を漂わせ、その足取りは軽やかである。

青白い顔は松や柏のように老いて、その気高さは古今に類がない。

去りゆくも留まることなく、真の姿は自ずと特別である。

すべては一つの法に帰するが、今はただ、邪なる者の肉体を借りている。

悟空はそれを見て言いました。

「素晴らしい、素晴らしい! これは妖精が菩薩に化けたのか、それとも菩薩が妖精に化けたのか」

菩薩は微笑んで言いました。

「悟空、菩薩も妖精も、すべては一つの心から生じるもの。本来を論じるならば、どちらも無なのです」

悟空は心の中でその意味を悟り、身を翻して一粒の仙丹へと変化しました。

皿の上でころころと転がり、円く光り、まだ定まった形はない。

仙丹を練る秘法が合わさり、仙術の技が試される。

瓦は溶けて黄金の炎となり、仏の宝珠は昼の光を放つ。

外側の鉛と水銀は、その量を測り知ることはできない。

悟空が変じた仙丹は、やはり少々大きいものでした。

菩薩はそれを見定めると、ガラスの皿を手に、妖怪の洞窟の入口へと向かいました。そこは実に、

崖は深く、谷は険しく、雲は嶺に湧き、柏と松は青々と茂り、風は林を吹き抜ける。

崖が深く谷が険しいのは、妖邪が出没し、人影が少ないからだ。

柏と松が青々と茂るのは、仙人が隠れ住み、道を修めるにふさわしいからでもある。

山には谷があり、谷には泉があり、とうとうと流れる水は琴の音のように響き、耳を洗うに心地よい。

崖には鹿、林には鶴がおり、幽かな仙人の楽の音が山中に響き、心を楽しませる。

これこそ、悟りの縁あって慈悲の心が降臨する場所である。

菩薩はこれを見て、心の中でひそかに喜びました。「この悪党は、この山を根城にしているが、少なからず仙道に通じる縁があるようだ」。こうして菩薩の心には、すでに慈悲の念が宿っていたのです。

洞窟の入口へ行くと、門番の小妖怪たちは皆、菩薩の化けた姿を知っており、「凌虚仙長がお見えになりました」と言って、中へ取り次ぎ、出迎えました。

妖怪はすでに門前へ出て、言います。

「凌虚殿、わざわざお越しいただき恐縮です。この賤しい洞窟に光を賜りましたな」

菩薩は言いました。

「ささやかながら、一粒の仙丹を献上いたします。千年のご長寿を祝う、心ばかりのしるしです」

二人は礼を交わし、席に着くと、また昨日の話の続きをしようとしました。

菩薩は答えず、すぐに仙丹の皿を取り上げ、「大王、まずは私のつまらない心ばかりをお受け取りください」と言い、大きい方の仙丹を妖怪に勧め、「大王の千寿を願って」と言いました。妖怪もまた、もう一粒を菩薩に返し、「凌虚殿と共にお祝いいたしましょう」と勧めます。

譲り合った後、妖怪が仙丹をまさに飲み込もうとした瞬間、その薬はするりと喉の奥へと滑り落ちてしまいました。悟空は腹の中で元の姿に戻り、手足を思い切り踏ん張ります。妖怪は苦しみに地面を転げ回りました。

菩薩は元の姿に戻り、妖怪に袈裟を返すよう問い質します。悟空はすでに鼻の穴から外へ飛び出していました。菩薩は、この妖怪が後々無礼を働くことを案じ、彼の頭に一つの金の輪を投げつけました。

妖怪は起き上がると、槍を手に菩薩に突きかかろうとしましたが、悟空と菩薩はすでに空中に飛び上がっており、菩薩が静かに呪文を唱え始めました。すると妖怪は再び激しい頭痛に襲われ、槍を捨てて地面を転げ回ります。空では美猴王が高らかに笑い、地では黒熊の怪がもがき苦しむのでした。

菩薩は言いました。

「悪党め、今こそ仏に帰依しますか」

妖怪は言いました。

「心から帰依いたします。どうか、命だけはお助けください」

悟空は手間取るのを嫌い、すぐに打ち殺そうとしましたが、菩薩が急いで止めました。

「彼の命を奪ってはなりません。私に使い道があるのです」

悟空は言いました。

「このような化け物を殺さずに、どこにお使いになるというのですか」

菩薩は答えました。

「私の落伽山の裏には番人がいません。彼を連れて行って、山を守る大神としましょう」

悟空は笑いました。

「まこと、慈悲深き観音様は、一つの命も無駄にしない。もしわしにそのような呪文があれば、奴らの母親に千回でも唱えてやる。この辺りの黒熊どもを、一匹残らず片付けてやるものを」

妖怪は長く苦しみ、痛みに耐えかねて、地面にひざまずき、「命をお助けくださるなら、必ずや悟りの道に従います」と哀願しました。

そこで菩薩はめでたい光を降ろし、彼の頭をなでて戒律を授け、彼に長槍を持たせて、自分の脇に従わせました。あの黒熊は、今、その野心を捨て、尽きることのなかった悪しき性を収めたのでした。

菩薩は悟空に言いつけました。

「悟空、あなたは帰りなさい。唐の僧によく仕え、今後は怠けたり、騒ぎを起こしたりしてはなりませんよ」

悟空は言いました。

「菩薩様には、遠路はるばるお越しいただき、深く感謝いたします。弟子がお見送りしましょう」

菩薩は「見送りは無用です」と言いました。悟空は袈裟を抱えて頭を下げ、別れを告げます。菩薩もまた、熊の化け物を連れて、大海原へと帰っていきました。

この出来事を証する詩があります。

めでたい光が靄のように立ち込め金色の像を結び、

万の道筋が美しく入り乱れる様は、実に誇らしい。

世の人々を広く救い、憐れみを与え、

法界のすべてを見渡し、金色の蓮を咲かせる。

今、来たのは多くは経典を伝えるためであり、

去りゆく姿には元より一点の曇りもない。

妖怪を降し、真の姿となって大海へ帰り、

仏門は錦の袈裟を再びその手に取り戻した。

さて、この後、一行の旅路がどうなるのか。それはまた、次回のお話といたしましょう。


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第十七回 要約

お寺が火事になったドサクサで、三蔵法師の超レアな袈裟けさが盗まれてしまいました。犯人を探しに行った孫悟空が見つけたのは、黒風山に住む黒熊の妖怪。この妖怪、とんでもなく強く、悟空とガチで戦っても互角の実力者でした。

悟空は一度、妖怪の知り合いの和尚に変身して騙そうとしますが、すぐに見破られて失敗。二度戦っても決着がつかず、妖怪は洞窟に引きこもってしまいます。

「もう埒が明かない!」とキレた悟空は、最終手段として、観音菩薩のところへ「あなたの管理するエリアで起きた事件なんだから、なんとかしてください!」と助けを求めに行きます。

話を聞いた観音菩薩は、悟空のトラブルメーカーぶりに呆れつつも協力することに。観音菩薩が妖怪の友人に変身し、悟空は「誕生日プレゼントの不老不死の薬」に化けて、まんまと妖怪に飲み込まれます。

妖怪のお腹の中から悟空が大暴れし、外からは観音菩薩が呪文で締め上げるという、体内と体外からのダブル攻撃で妖怪はついに降参。

無事に袈裟は取り戻され、降伏した黒熊の妖怪は、その強さを見込まれて観音菩薩の弟子(山の警備員)としてスカウトされ、一件落着となりました。

第十七回の真髄:三つの「執着」と、それを超える「慈悲」の物語

この回の核心は、登場人物たちが示す三種類の「執着」と、それを解決する観音菩薩の「慈悲と智慧」の対比にあります。

 観音院の老僧:「物欲」への執着

270歳まで生きた老僧は、長寿や地位を得ながらも、美しい袈裟という「物」に心を奪われ、嫉妬と強欲から身を滅ぼします。これは、地位や名声を得ても、根本的な煩悩から解放されなければ、結局は破滅に至るという仏教的な教訓の象徴です。

 黒熊の妖怪:「知性と風流」への執着

この妖怪はただの乱暴者ではありません。錬丹術を語り、洞窟は風流に整え、友人と高尚な議論を交わします。彼は「力」だけでなく「知性」や「文化」を持つ、いわば「インテリ妖怪」です。しかし、彼の知性や審美眼もまた、美しい袈裟を「自分のものにしたい」という所有欲、つまり「我欲」に結びついています。彼の行動は、教養や知識も、正しい心(仏性)に向けられなければ、単なる自己満足や煩悩の道具に過ぎないことを示しています。

 孫悟空:「力とプライド」への執着

悟空は正義のために戦いますが、その根底には「わしの袈裟を盗みおって!」「この斉天大聖を誰だと思っている!」という強烈な自負とプライドがあります。彼は自分の「力」で問題を解決しようとしますが、自分と互角の力を持つ相手には行き詰まってしまいます。これは、暴力や個人の能力だけでは、世の中の複雑な問題を根本的には解決できないという限界を示しています。

これら三者三様の「執着」が行き詰まった時、解決者として現れるのが観音菩薩です。菩薩は力で妖怪をねじ伏せるのではなく、「変化」という智慧を使い、最後は殺さずに「守山大神」という役割を与える「慈悲」で事態を収拾します。

つまり、この回で作者が描きたかった真髄とは、「物欲、知性、武力、そのいずれへの執着も人を迷わせるが、それらを乗り越えるのは、相手を理解し、その力を善なる方向へ転換させる智慧と慈悲の力である」という、極めて高度な仏教的テーマなのです。


【視点を変えた深掘り】

さらに視点を変えて、この物語に隠された社会風刺や文化的な暗号を読み解いてみましょう。

 1. 「インテリ妖怪」は明代の「隠者気取りの俗物」への皮肉か?

黒熊の妖怪が住む「黒風洞」の描写は、非常に詩的で美しいものです。これは、当時の文人や官僚が憧れた「俗世を離れた隠者の書斎(書斎)」のイメージそのものです。彼らは山水に囲まれた庵で詩を詠み、友と茶を飲み、高尚な議論を交わす生活を理想としました。

しかし、作者はあえてその理想郷の主を「熊の妖怪」に設定しました。これは、「口では高尚なことを言いながら、やっていることは強盗と変わらない」という、当時の知識人や権力者たちへの痛烈な風刺と読み取れます。彼らは表向きは風流を気取る「貴族」のようでも、その本質は欲望にまみれた「俗物」ではないか、と問いかけているのです。妖怪が開催しようとした「仏衣会」は、現代で言えば、盗品を自慢するために開くセレブパーティーのようなものであり、その欺瞞性を笑い飛ばしています。

 2. 孫悟空の「敗北」が示す、個人の武力と「組織(天界)」の力の違い

悟空は単独で無類の強さを誇りますが、この回では黒熊の怪を倒せません。これは物語の重要な転換点です。花果山で王だった頃の彼は、自分の力だけが世界の全てでした。しかし、三蔵法師の弟子となってからは、自分一人では解決できない問題に直面し、より大きな秩序(観音菩薩や天界の神々)の助けを借りることを学びます。

これは、個人の英雄主義の限界と、「組織」や「システム」の重要性を示唆しています。明代は中央集権体制が強化された時代であり、個人の力がいかに強くとも、国家や社会という大きな秩序の前では無力であることを、作者は寓話として描いたのかもしれません。悟空が観音菩薩に助けを求める行為は、一個人が法や秩序(この場合は仏法)に助けを請う姿の象徴とも言えます。

 3. 袈裟は「権威」の象徴。それを巡る争いは政治闘争のメタファー

この物語のキーアイテムである「錦襴の袈裟」は、単なる美しい布ではありません。観音菩薩から下賜された、「正統な仏法の継承者」であることの証明、つまり「権威の象徴」です。

観音院の老僧は、この権威を横取りして、自分の寺の箔を付けようとしました。

黒熊の妖怪は、この権威を奪うことで、自分がただの妖怪ではなく、文化的な価値を理解する「格の高い存在」であると誇示したかったのでしょう。

これは、皇帝の玉璽や由緒ある宝物を巡る政治闘争の縮図です。民衆の生活とはかけ離れた場所で、権力者(俗物貴族や地方の有力者)たちが、見栄や支配の正当性のために「権威の象徴」を奪い合う。その様子を、滑稽な妖怪たちの物語として描いているのです。

 結局、その「権威」の正統性は、最終的な権威者である観音菩薩の介入によって保証される、という結末も非常に示唆に富んでいます。


このように第十七回は、単なる冒険活劇ではなく、人間の欲望の愚かさ、知識人の欺瞞、個人の力の限界、そして社会の秩序といった、時代を超えて通じる普遍的なテーマを、極上のエンターテインメントとして描ききった、非常に奥深い一章なのです。

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