1話,精霊界
はるか昔_まだ光も闇名を持たぬ頃、世界は"創造主"の息吹によって、2つの形を得た。
人間界と精霊界。それぞれが独自の秩序を持ち、時を刻むこととなった。
「-…ね………リア」
丘陵にポツンと佇む大樹の下で、すやすやと寝息を立てている少女の耳に微かな音が届く。髪を揺らす程度のそよ風と大樹の葉の隙間からさす日差しが心地よく、まだ寝ていたいと思わずにはいられない。
「-ね…カ…‥リア」
しかし、徐々に聞こえてくる声に流石に目も覚めてくる。
誰かが私を呼んでいるのだろう。
「ねえ、カナリア」
今度ははっきり聞こえてきた。少し高めのその声の主に、私は目を瞑ったまま答える。
「…なに?」
今、目を開けたら絶対眩しいだろうな、などと考えていると、少しむくれた声が返っきた。
「えー、忘れちゃったの?今日はあなたの誕生日だから、人間界に一緒に遊びに行こうって約束でしょー?」
「あ…‥そうだったね」
すっかり忘れていた。もう13歳になるのだ。
「ーーっ!」
突然、痛みが私を襲う。
くっっ、眩しい。思い出した衝撃で、目をかっぴらいてしまったのだ。
しかも、私を見下ろしている彼女、セルのは私と同じく、風属性の高位精霊であるため、薄く緑がかった白髪なのだ。反射する光で、…さらに眩しいっ……!
眩しさで悶えている私を見ながら、セルは横たわる私の側にしゃがんで、呆れながらも
「ふふっ…だと思った」
と、優しく笑った。
カナリアは差し出されたセルの手に引かれて、立ち上がり、腰まで流れる髪を軽く整えた。髪をいじる自分のロングスカートついた葉っぱを払うセルをカナリアは同い年ながらも姉の様に感じていた。
「-じゃあ、縮霊化しょっか」
カナリアがそう言い、セルがにっこりと笑うと、2人は祈るような姿勢をとり、やがて淡く、優しい光に包まれた。
光を纏う2人に共鳴する様に草花が優しく揺れる光景は、とても神秘的なものである。
やがて光が収まると、2人は手のひらサイズほどに縮み、先ほどまでの姿では使っていなかった羽で浮遊していた。
高位精霊は、普段、羽こそ生えているものの、人間に近い形_人型をとっている。そのため、エネルギーの消費が激しい人間界に行くには遊びに行くのなら基本、縮霊化と呼ばれる中位精霊の様な、手のひらサイズの姿_精霊型になる必要があるのだ。
「南の森からにする?」
「んー、それもいいけど……ん?」
気配を感じて辺りを見回してみると、下位精霊が集まってきていた。多分、先ほどの縮霊化が気になって見にきたんだろう。大樹や草木の隙間からこちらを伺っている。
どの子も隠れているつもりなんだろうが、いくら下位精霊が小さくとも、精霊という存在はどの階級でも薄く光を纏っているので、丸見えである。まぁ見えてないと思って、必死に隠れてるのが可愛いんだけど……
そんなことを思っていると、ある光の精霊である黄色く光る下位精霊がこちらにフワフワと近づいてきてだ。しかも、キュウキュウと言いながら、激しく頬擦りを始めたのだ。
あまりの勢いに「わっ、ちょっ……」と思わず声が出てしまう。下位精霊は光の塊の様な存在で顔もないが、小さい体で必死に動く姿を見ていると可愛すぎてにやけてきてしまう。
下位精霊の思考力や感情表現は人間でいう赤子程度なので、会話はできないが、ストレートに感情を伝えてくれるのだ。
頬擦りをしてくるということは、好かれているということだろう。
光精霊の動きを皮切りに、赤、青、紫、緑、茶と下位精霊が次々と出てきて、カナリアとセルの周りを飛んだり、頬擦りを始めた。
セルは「ふふっ……どうしたのかしら?」と言いながらとても楽しそうだ。
ある程度遊び終えると、彼らはカナリアの左手の甲に興味があるのか、不思議そうにぐるぐると周りを飛んでみたり、つついたりし始めた。
セルはカナリアの手に群がる下位精霊達に近づき、
「んー?…なにかあるの?」
とくるんと内巻きにされたセミロングの髪を揺らし首を傾げた。
そんなセルの様子を見たからかはわからないが、近くにいた水下位精霊がかしげる様な動きをする。
可愛すぎてびっくりした。下位精霊とセルは反則なんじゃないだろうか。そんなことを考えつつ、しばらくセルと下位精霊のやり取りを眺めていると、丘陵の麓から人型の誰かが手を振りながら近づいてくるのに気がついた。人型、つまり高位精霊である。
「ねぇ…セル…誰かがこっちに来てる」
「んー?…あれ…ラルセルドさんじゃな〜い?」
ゆったりとした口調でセルが答えたラルセルドとは風の高位精霊のまとめ役の様な存在で、かなりの長い年月を生きてると言われる精霊だ。家族という概念がなく、仲間意識もほとんどの精霊が薄くしか感じない精霊界では、彼のような存在のおかげで精霊界は回っていると言えるのだ。
私は幼い頃、彼に何度も歳を聞いたが教えてもらえなかった。何度も当てようとセルと頑張ったのだが、失敗に終わり、悔しかったのを覚えている。
そもそも精霊は無限に等しい時を生き、一定の年を取ると成長も止まるので今考えてみれば、年齢の予測はほぼ不可能なのである。
「何かあったのかな?」
向かってくる様子が心なしか焦って見えて、心配になってくる。
「カナリア、…ラルセルドさんの顔に落書きでもしたの?」
「してないよっっ!!そんなことするわけないじゃん!」
驚きのあまり大きな声を出してしまう。
私‥そんな人だと思われてた……?!
「でも、昔…よくイタズラして怒られてなかった?」
「うっっ……」
セルの穏やかな声が胸に突き刺さる。そう、図星だ。
確かに私は小さい頃やんちゃをしてラルセルドさんを困らせていたのだ。
でも…今は!悪いことしてないし?!大丈夫、大丈夫!と心で威張ってみるが、まだ見つかってないイタズラが、今になって掘り起こされた可能性が頭をよぎり、胃がキリキリと痛んでくる。
「ううっ……」
情けない声を出していると、
「一緒に謝ってあげるから…大丈夫よ」
と、励ましてくれた。セリの後ろに後光が刺して見える。私がやらかしたと決めつけているのには引っかかったが、まぁ気のせいだろう。
読んでくださり、ありがとうございます!!
小説を書くのは初めてなのでとても緊張しています。
ゆったりしていて、急すぎる展開もない予定なので、疲れた時の息抜きにしていただけるとと嬉しいです。




