1・転生
平均して一話に一回は現代知識のうんちくがあるような、読んだ後賢くなった気分になれるような、そんな感じの現代知識無双物語を書いてみます。応援よろしくお願いします。とりあえず今日中に書き溜めた話のうち十話までをどさっと出します。十九時までには十話まで全部上げる予定です。
約六千年ほど昔、古代メソポタミアで小麦粉を水でこねて焼いただけのパンが誕生した。ところで、どうして小麦粉を水でこねると粘土の様になり、それを焼くと固まるのだろうか。
その後、パン作りは古代エジプトへと伝わり、偶然によって発酵パンが誕生した。ところで、なぜ放っておいたパン生地は膨らむのだろうか。
当時の人々が先述した疑問を持っていたとは限らない。スマホを使っていてもインターネットのシステムやスマホの内部の電子機器について考えたことのない人間が多くいるように、当時の人々も何も考えていなかった可能性は高い。だが全く考えられていなかったわけではなかったらしく、例えば古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「無からパンが出来る」という自然発生説を提唱していた。
時は流れて十九世紀。ここでようやくグルテンがどうだの微生物がこうだのといった、パン作りにおけるメカニズムが科学的に判明した。
パンの誕生からパンが出来る仕組みの解明までには約六千年かかったのだ。その間のパンは、どうして出来たのか分からない物、という状態だったのだ。
今の俺はそのパンに近い。一言で書くと、俺は転生者なのだ。前世の記憶を持った赤ん坊なのである。令和の日本で警察官として奉職していたが、悪党に銃で撃たれて死に、記憶を持ち越して赤ん坊になったのだ。どうして転生出来たのか分からない。約六千年経てば、パンと同じ様に転生のメカニズムが解明するのだろうか。
さて、今の俺はどこに産まれたのだろうか。産まれたばかりの頃は眼も耳も発達していなかったためよく分からなかったが、成長するにつれて少しづつ判明していった。
まず、地球ではなかった。魔法こそ無かったものの、父親の髪色が赤色で、母親と俺の髪色が青色だったのだ。街の人々も随分とカラフルな髪色だった。染めているわけではなく、地毛が赤とか青とかの色なのだ。どう考えても地球の人間ではない。
文明レベルは前世の古代ローマ初期とほぼ同じように思えた。チュニカの上からトーガを羽織っている人々が石畳の道の上を歩いていると言えば想像がつくだろうか。オリーブを売っている店の存在や地中海気候により、街は前世の古代ローマ初期とそっくりである。その異世界のとある街のとあるパン屋の一人息子。それが俺だ。名前はシュウと名付けられた。
パン屋といっても、古代ローマ初期のパン屋である。前世のパン屋とは大きく違う。例えば、作っているのは硬い黒パン一種類だけだ。前世のパン屋のように、トングをカチカチ鳴らしながら様々なパンをトレイの上に取っていく事はない。また、支払いもない。パンは配給される物であり、無料だ。両親は公務員として、貴族から給料をもらっているのである。
そんな感じの場所で、俺の人生二週目は始まった。