第1話 ロディアの街
ニーナはロディアの街にある公園へと立ち寄り、公園のベンチに腰をかけて、先程、市場で買った果物が入った茶色い紙袋の中から果物を取り出し食べ始める。
「美味しい……!」
取り出した赤い林檎を頬張りながら、公園にいる人達を見ていると、一人の少年と目が合ったかと思えば、その少年は私の方に走り寄って来て。
「あの、もしかして魔女ですか……?」
「え、ええ、魔女だけど」
「やっぱりそうなんですね! あの、いきなり見ず知らずの他人からこんなことを頼まれるのは迷惑かもしれませんが、俺の母親を救ってほしいんです……!」
少年はそう言いニーナに頭を下げてくる。
ニーナはそんな少年の唐突な行動に慌てて、手に持っていた林檎を落としそうになりかける。
「頭を上げてください! えっと、とりあえず話しを聞かせて下さいますか?」
「はい、勿論です」
少年は私が座る横に腰を掛けると、ゆっくりと話し始める。
「俺の母親は治し方が解明されていない病に侵されていて、ずっと寝たきりの状態なんです。俺には妹がいるんですけど、母親は動けない状態なので。俺は妹と母親が生活していけるように住み込みで今、酒場で働いていて……」
「そうなんですね」
少年の話しを聞き終えた私は引き受けるか少しばかり迷う。
しかし、母親の病を治してあげたい。という少年の気持ちを叶えてあげたいと強く思った私は少年を見て優しく笑い返事を返す。
「わかりました。貴方の母親の病を治す薬を作らせていただきます。その代わり対価はきちんと頂きますよ」
「本当ですか! ありがとうございます」
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「此処が俺が働いてる酒場です」
少年が私を連れて酒場の中へと入るなり、店主らしき男が少年を出迎えて声を掛けてくる。
「お、帰って来たか、ラクス。ん? その人は?」
「ただいま、ディゼット。この人は公園で会った魔女さんだよ!」
「初めまして、ニーナと言います。えっと、ラクスさんとは公園で知り合いまして」
私は酒場の店主らしき男に軽く挨拶してから会釈する。
「おお、そうなんだな! 俺はこの酒場の店主をしているディゼットだ」
「じゃあ、ディゼット、ちょっと2階に行くから、何か手伝わなきゃいけないことあったら呼んで」
「ああ、わかった」
ラクスと共に階段を登り、私はラクスの母親がいるであろう2階にある部屋へと訪れた。
「母さん、ただいま!」
部屋へと入るなり、ラクスは母親が寝ているベットへと歩み寄る。
「おかえり、ラクス。あら? そちらの方は?」
「公園で知り合った魔女のニーナさんだよ!」
「えっと、初めまして、ニーナと言います」
「初めまして、ラクスの母親のユアーネです。
ラクスが何か迷惑をかけてないかしら?」
少し心配そうにそう問いかけてきたユアーネに私は優しく笑いかけて『迷惑はかけられていないので、大丈夫です』と返答する。
「あの、ラクスさんからユアーネさんの病を治してほしいと頼まれまして。私は魔女なので、ユアーネさんの病を治す薬を作ることが可能なのですが、どうしますか?」
「そうだったのね、私の病は治すことが出来ない病だとお医者様には言われたのよ。だけどね、奇跡や魔法があるならこの病を治してほしいとそう強く思うわ」
ユアーネの言葉に私は強く頷き返し、宣言する。
「私がユアーネさん、貴方の病を治す薬をお作り致します」
「ありがとう、ニーナさん」
その日から私は酒場の手伝いを条件に酒場の店主のディゼットから住み込みの許可を貰い。
ラクスの母親であるユアーネの病を治す薬を作る為に、港や市場に足を運び、人々の感情から生まれる光を集め始める日々を送り始めることになった。