夏の残業
秋の失踪シリーズ作品第二話です。
シリーズ第一話 秋の失踪 https://ncode.syosetu.com/n0333ka/7/
夏は不貞腐れていた。
秋が逃げたせいで夏を延長せざるを得なくなったからだ。
ただでさえ、春に早く来すぎだ、と小言を言われていい気分ではなかった。春が短くなった分、夏は長く稼働する。その上、秋がいなくなったとなれば、さらに長く仕事をすることになるだろう。夏の残業である。
昨年も同様のことが起こった。秋は引き籠り出てこなかった。いざ、冬が来る前にと冬が秋を引っ張り出し、数週間の秋を作って事なきを得たが、その間、夏はずっと仕事中である。
今年は秋はいなくなった。冬の出番はまだだから、秋を探すものは誰もいない。
夏は不貞腐れた。結果、夏は自分のコントロールをサボタージュしている。
もともと夏は暑いものである。それを言い訳にして、徐々に気温を上げていくような細かいことなど気にしない。温度は上がりっぱなしで猛暑日は続く。夜に気温を下げるようなこともせずにただただ、夏として存在しているだけだった。
夏だって省エネで仕事をしてもいいだろう、と。
しかし、季節のコントロールをしなければ、次に来るかもしれない冬にも注意を受けるかもしれなかった。秋が見つからなければ、当然、次には冬が来る。
小言は避けたかった。夏は作戦を立てた。
『秋を探していたら、熱中してしまった』
何かに没頭すれば人間、過熱して他の事を忘れてしまうものだよ、と。
さらに、予防線を張った。
夏は街の警備署の遺失物課を訪れた。
秋が逃げたから、探してほしい、と依頼するために。