VS.クリスマスリース
街がクリスマスリースに襲われる!クリスマスリースの要求は、とある相手との決闘で…?
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署には今日も様々な事件が降りかかる――。
『緊急体制。緊急体制。大通りにクリスマスリースが接近中。応援よろしくお願いします』
「クリスマスリース?」
『クリスマスリースです! でっかい緑のリースが大通りを通ろうとしてるんです!!』
全く、この街と来たら想像の斜め上を行くような怪奇現象が起こるものだ。夏には秋の捜索を依頼され、ハロウィンにはカボチャの中身探し。クリスマスにはリースが街を襲うときた。
急行。しかし、大通りへの接近は止められなかったらしく、既に深緑色の巨大なドーナツ状のものがメインストリ―トをゆっくりと通行中だった。
同僚の言う通り、クリスマスリースである。ぐるりと一周するたびに付けられた鈴がリンリンとなり、通った後には飾りであろう、松ぼっくりやヒイラギが落ちた。
パトロール中だった警備署員があたりの通行人を脇に避難させ、どうにか怪異に道筋を作ったらしい。年度の初めに入職した署員の目まぐるしい成長には感心させられる。
「よくやったわね。ありがとう」
「お礼はいいので、怪異をどうするか考えてください!」
「リースの目的は?」
「全然わかりません!」
後輩の元気のいい声が響いた。
この先に行けば、商店街の皆が飾りつけした巨大なツリーにぶつかるだろう。クリスマスツリーも夢を集めて形を作った怪異である。物理的な衝突もだが、怪異と怪異が接触するのも避けなければならない。
署員はとりあえず、深緑色のふさふさのドーナッツ、もといクリスマスリースの前方に出て、メガホンで説得することにした。
「そこのクリスマスリース! 止まりなさい!」
後輩署員や見物人に、止まるかよ……と小声で言われたものの、住人たちの予想に反して、クリスマスリースは回転を止めた。
「この先には、大きなクリスマスツリーがあります。そのツリーも怪異です。ぶつかれば街の被害は甚大ですから、ひとまず、脇へ……、除けられないわね。ちょっと後退しませんか?」
リースは歩みを止めたまま。しかし、拡声器からの声を聴いて身体を揺すった。ざわざわという音と共に、ガチャガチャと装飾品が落ちる。
「そのツリーに会うのが目的だ!」
「どうしてです」
「あいつ、同じクリスマスの飾り物の枠なのに、リースよりも我が物顔をしやがって!」
決闘するんだよ! とリースが身体を震わせる。その震えに合わせて、飾り付けられていたベルが愛らしい音を鳴らす。
なるほど。そう言った理由ならば、なおさら警備署がこのリースを食い止めなければならないだろう。ここはクリスマス・年末商戦で賑わっている商店街。そこで巨大なクリスマスの怪異同士が決闘となれば、特区にプレゼントの雨が降り注ぐかもわからない。
「確かに、リースって地味ですよね」
「ちょっと、静かにしてて。……あなたの主張はわかりました。でも、クリスマスツリーが我が物顔だなんて、それはありません。リースだって立派なクリスマスの飾りです」
「何を、人間風情が小癪な!」
警備員の説得虚しく、リースはごろごろと前進をした。
「キャー!」
「大変だわ~!!」
住人の叫び声。リースが警備署員を踏みつぶしながら、広場へと向かって町が滅茶苦茶――。
「――おい、おい。起きて、起きて。なんかすごくうなされていたけど、大丈夫?」
夫に揺り起こされて、目覚めた時にはベッドの中だった。夢を見ていたらしい。クリスマスリースの怪物が街を襲って、クリスマスツリーに決闘を申し込んで、周囲が巻き込まれる夢だ。
「今年は、クリスマスリースのキャンペーンでも実施しようかしら」
「どうしたんだい急に……?」
翌朝。
警備署内ではクリスマスシーズンキャンペーンの話し合いが行われていた。
「そうだ。今年は、安全祈願リースでも作るイベントでもやりませんか?」
新人の警備署員が、子供たちとリースを作って飾るんです、とプレゼンする。事前に用意してあったのか、イラストまで添えて。リースを作って持ち帰ってもらうほか、クリスマスリースくんに登場してもらって、交通安全教室も開く。
「主役はクリスマスリースです!」
反対意見は出なかった。
「それ、私も考えていました」
「リースいいですね! 普段は紙ツリーに安全祈願のお願いを貼ってますが、一味違って楽しいかもしれないです」
「リースくんに交通安全というのもいいですね。ごろごろ回ってタイヤっぽくて」
その場にいた一同がいい考えと頷く。
「……みんなも、クリスマスリースの夢でも見たのかな?」
警備署長が不思議そうな顔をして呟く。その一言で全員が顔を見合わせた。
「正夢になっては大変ですからねぇ」
果たして、計画の成功や如何に。
そこ文、#私の冬創作での参加作品でした☺