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冬将軍

冬の特区で通行許可証を書く冬。その理由は、冬将軍の到来で…!?

 令和日本の隣に存在する箱庭世界、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署では、本格的な冬の準備が行われていた。


 警備署のカウンターでスーツ姿の男が若手の署員に指示されながら書類を記入している。かなりの長身で前かがみになった背が窮屈そうだ。


「これが交通許可の書類です。この欄と、それから、ここです。お名前と、……住所ありますか?」


 若手の署員が男に確認をしたのは、相手が人間ではなく冬の権化であったからだろう。この街は人間も人間でないものも存在する不思議な街である。今、署員が案内をしているのは、人外の方だった。


 男が書類から顔を上げた。顔は人間のものではない。ネクタイが緩みもなく締められたグレーのスーツの上には、凛々しい眉毛をした丸い雪だるまの顔が乗っていた。この男は冬。四人いる四季のうちの一人である。


「住所と言える住所はないな。何せ、年中いろんな場所を周っていますから。定住している余裕がないんです。しかし、わかりやすく説明をありがとう! これで滞りなく特区に冬が訪れるだろう」


 雪だるまがはきはきと話す。まるで賞状を渡すように署員に提出された書類には、止め跳ねが目立つカクカクとした文字が書かれていた。


「それにしても、冬の通行許可を得たいというのはどういうことですか? 特区はもう冬が来て、雪もちらほら降っているのに」


 対応をした署員が冬に尋ねる。この雪だるまの顔をした冬が書いた申請書類は特区の中心を通過するための通行許可証だった。しかし、特区にはすでに冬が到来していて、わざわざ通行の許可を得なくてもよいはずだ。ほかの季節が許可証を書きに来たこともない。ただ、冬が几帳面なだけなのだろうか。


 署員の疑問に雪だるまが頷きながら答えた。


「警備署員さんの質問は、ごもっともですね。実はこれから特区を通るのは冬将軍でして……」


「冬将軍?」


 署員が聞き返す。冬将軍というと、一際寒い、厳しい冬の表現である。それが特区を通るというならば、これから一層寒くなるということか。


「でも、冬さんが通過するだけですよね? それなら、わざわざ通行許可を取らなくてもいいんじゃないですか?」


「とんでもない!」


 署員の言葉に冬がぴしゃりと反論した。真っ黒な眉毛がきりっと上がり、口がへの字に曲がる。本人はまじめな表情をしているのだろうが、雪だるまの顔ではいまいち迫力はない。


 しかし、冬が表情を変えた瞬間、警備署の室温が一気に下がった。突然の寒さに署員が思わず身震いをする。冷気は冬から発せられていた。季節達は感情が高ぶると周囲の環境に影響を及ぼすのである。目の前の署員がガクガクと震えだしたのを見て、自分が気温を下げてしまったのだと気が付いた冬が慌てて表情を緩めて言った。


「冬将軍の冷気は、私が滞在しているときの比ではないんです。私が冬将軍として特区の中央を歩む時には、想像を絶する寒さが通過する。今はこうして寒さを調節することができますが、冬将軍にはそれができませんから」


 凍てつくような寒さと特区の皆さんが鉢合わせしては大変だ、と冬は話した。


「そんな事情があるんですね。特区の安全を守るためにご配慮いただきありがとうございます! 当日、冬将軍の通行が滞らないよう、街の皆さんには徹底してアナウンスをしたいと思います!」


 冬将軍の通行許可は受理された。当日、なんの問題もなく冬将軍が通過することを願うばかりである。


 ***


 特区の中心部、メインストリートの通行を許可された冬将軍は、許可を得た時間にきっちりとスタンバイしていた。


 真っ白な馬の雪像の上には、真っ白な鎧と兜姿の男が座っている。鬼のように険しい顔を掘られたその男の眉は、あの通行許可証を書いていた雪だるまのそれであった。まるで、大名行列のように雪像、氷像を従えている雪だるま──冬将軍が歩き始める。


 険しい顔の冬がゆっくりと通過していく。雪交じりの風が吹きすさび、ダイヤモンドダストがキラキラと輝く。店の軒先にはつららが伸び、道路や街頭には薄く氷が張っていく。


 冬将軍が到来し、特区はすべて凍り付いた。


 この冷たく凍った街が解けるのはいつなのか、すべては冬将軍の歩み次第である。

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