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百舌鳥の墓標  作者: 勝 ・ 仁
7/10

第七話 夜鴉の塚



「ほれ、目的地に着いたぞ、起きんか!」

「むう、ああ、わるい」


着いたのは工業団地の隅のまた隅にある、小さな倉庫兼事務所の建物の前だ。

中央の大通りは、深夜だと言うのに大型のトレーラーが引っ切り無しに行き交い

大きなターミナルには、人やフォークリフトが忙しそうに動いていた。


だが、俺の目的である倉庫は、その存在すら認識出来ないように、ひっそりと、

その姿を隠すように立っていた。

入口の門柱には、川田精密機器株式会社だと?呆れてしまった。

そりゃそうだろう、あの架空の三社は、郵便物さえ発送されていなかった、要は

事務員まで共犯者だった可能性が高い。


それにしても、その架空会社の場所に自社の看板を掲げる理由は何だ?

最も、その答えがここに有る可能性は少ないのかもしれない。

普通は真っ先に処分するだろうが、それでも調べれば何か尻尾ぐらいはと、期待

してしまう。


「何じゃ、入らんのか?」

「あそこに有るのは、多分監視カメラだ、セキュリティを呼ばれると面倒だ」

「そんな事か、ほれ」


一瞬、視界が揺れたと思ったら、二階にある事務所の中に立っていた。


「次元移動か、忘れてた」

「短距離なら、影響は無いと、言ったじゃろう」

「ああ、助かる」


しかし、閉ざされたブラインドの隙間から漏れる灯りに浮き上がった事務所の中

は綺麗に整理されているのではなく、そもそも何もない。

机も椅子も、それこそロッカーも書類棚も何もない。

片付けたのでは無く、そもそもここには最初から無かったようだ。

床に薄っすら溜まっている埃が、それを物語っていたが、なら、わざわざ事務所

を借りる必要が無い。


「何にも無いのぉ」

「最初から無いんだろうな、この有様じゃ」

「無駄足か?」

「ああ、一応、下の倉庫を見てから帰ろう」


そして、薄暗い階段を降りると、そこには外部コードの繋がった、真白な一台の

キャンピングカーが鎮座していた。


「そうか、そういう事か」

「何か、嬉しそうじゃのう」

「まだわからんさ、とにかく車の中を確認してからだ」


案の定、この車そのものが、架空会社だった。

何面もある起動したままのパソコンの画面が、それを如実に表している。

おまけに取引相手は、うちの他にも十社以上にのぼっている。

つまり、この車自体が物的証拠の塊、特級危険物だ、表面には絶対出せない。

だから、わざわざこんな物を用意したのだろう。

もし、実態が露見しそうになれば、車ごと逃げ出せばいい。

恐らく今回もそうする。


「それが何でまだ此処におる?」

「恐らく、そこまで緊急性を感じていないのと、次の準備が出来ないのさ」

「次の準備?」

「これだけ多量の電子機器を搭載バッテリーだけで維持するなら、そう長時間は

 持たない、いいとこ二日だ、だから次の補給先を探してるんだろう」


これだけの物を、ただの中小企業のうちの会社が用意出来る訳がない、相当な

金と人員が、某国から投入されているのがわかる。

当然中身も、それに見合う物が詰まっているはずだ。

キーボードを操作する指が震えた。


「で、笑っておるが、何が嬉しいんじゃ?」

「この画面に出ているのは原子力関係の会社で、こっちの取引履歴は特殊素材で

 どちらも、安全保障条約にもろ被りの軍事関連部品だ」

「それの何処に喜ぶ要素がある?」

「楽しいだろう、ただの違法取引じゃない、露見すれば、関わった連中は只では

 済まない、奴らも妻もだ」

「儂からすれば、殺した方が良い様に思うがのう」

「それじゃあ、復讐にならないと言ったろう」

「やはり、わからん」


問題はこの証拠の塊をどうすれば一番効果的か、何処に暴露するかだ。

公安か陸自か?だが、奴らはこれを某国との交渉材料にし兼ねない。

さらに恐らくこの中には、大物政治家や国の機関の一部も関与しているだろう事

は想像に難くない。

間違いなく絶好の取引材料になるだろう。

そして、散々利用した挙句にやっと公表、その時点で実行犯たちは国外逃亡した

後だったと言う事態になる可能性は十分にある。

彼らの頭には国家の利益と安全しか入っていない、当然そうなるが、俺がそれを

容認する義務は無い。


そんなことを考えていると、建物の外に車の止まる音がした。

裏門から、入って来たらしい車から降りた数名の男の声がする。


「家主のお帰りらしいが、どうする?消滅させるなら手を貸すが?」

「物騒だな、そうだ、全員気絶させる事は出来ないか?」

「出来ん事は無い、面倒じゃがな」

「なら、頼む」

「殺せば早いんじゃがのぉ・・・」

「・・・やめてくれ」


入って来た男達は三人、全員が某国の言葉を喋っている、恐らく、この区切られ

た空間なら、安全だと気が緩んでいる。

潜伏しているのに、母国語を使うなど、馬鹿のする事だ。

恐らく食事にでも行っていたのだろう、言葉の感じは軽く弾んでいたが、電灯を

点けた途端、俺達が車の脇に立っているのを見て、ガラリと雰囲気が変わった。

目は座り、顔から表情が消え、やや腰を落として懐に右手を入れた。


「こいつら、殺しに慣れていやがる」

「ほお、そうなのか?」

躊躇ちゅうちょなく、ナイフを構えやがった」

「ふん、まあどうでもいい情報じゃな、ほれ」


僅かに男達の姿が、蜃気楼のように揺れたと思った途端に三人共、その場に崩れ

落ちた。

よく見れば、ナイフを持っていたであろ右手は黒焦げになり、体のあちこちから

は、薄っすらと煙まで出ている。


「なんじゃ、こりゃ」

「おお、上手く行った様じゃな、よかった、よかった」

「いったいどうやったんだ?」

「電気だけで形成された世界に、ちょっとだけ次元移動させただけじゃ」

「そんな世界が・・・じゃあ、感電したのか、こいつら」

「一秒にも満たない時間だけじゃが、殺さないよう、調整がむつかしい」

「死なせない、それが、面倒ってことか」

「勿論じゃ」


そして俺はこいつらを晒しものにして、利用することを思い付いた。

隠蔽する事も出来ない様に、マスコミ各社にリークした後に公安連中に通報して

やれば、裏取引もクソも無いだろう。

男達を入口正面の柱にロープでグルグル巻きに拘束して、某国工作員と書いた紙

を、額に貼り付けた。

そした、ありとあらゆるマスコミには、翌日の正午丁度に、安全保障条約に触れ

た違法貿易のデーターの一部を一斉に送信する様に設定した。


「悪い顔をしておるのう」

「明日の午後には、ここは戦場と化すぞ、楽しみじゃないか」

「やはり、いまいち理解出来ん」

「別にいいさ、それより早く帰って奴らの逃げ道を潰してやらなきゃ」

「やれやれ、忙しないのお」

「急がないと、いつここに、お仲間がやってくるか解らんからな」

「そんな事か、なら扉は全て固定してやろう」

「固定?」

「扉の次元を少しだけずらせば、どうやっても開きはせん」

「とんでもねえな・・・だが、色々ありがとう」

「気にせんでいい、それよりも急いで帰るのじゃろ」

「ああ、そうだったな」



俺たちは再び夜の道をひた走った。


他人を欺いて手に入れた富を枕に惰眠を貪れるのも、今夜限りにしてやる。



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