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あの日に出逢えたことが全て-milk

 この春から晴れて大学生になった。新しい事がたくさんで楽しいけど少し疲れてしまう。授業も昨日始まったばかりで、あまり積極的な性格でもないため友達もまだ全然いない。

 その中でも特に疲れるのは人の多さだ。大学の総学生数というのは高校生の頃とは桁違いの人数で、1年生だし授業も多いから疲弊してしまう。

 特に大学で1番人通りの多いこの道は、部活やサークルの勧誘の量もすごい。どっか入ったら友達できるかな、と思いつつ人混みを精一杯歩いていると体の大きな人とぶつかって転んでしまった。


「すみません・・・。」


 見上げるともうその人は向こうに行ってしまっていて、手元の柔道部のチラシだけが目に入った。道ゆく人が私を不思議そうに見つめながら避けていく。慌てて立ちあがろうとするも咄嗟の出来事に手足がもつれうまく動けない。

 

「イッタ・・・。」

 右の手の平にできたかすり傷に気づいた時だった。


『大丈夫?』


 声がする方に振り向くと男の人が立っていた。うちの大学名と”tennis club”という文字が入ったトレーナーを着ているので、おそらく勧誘をしていたテニス部の人だろう。


「だ、大丈夫で、す。」


『立てる?』

 その先輩はそう言って手を差し出してくれた。


「あ、ありがとうございます・・・。」

 先輩に引かれ立ち上がると先輩の友達らしき人がやってきた。


『なになに〜?もう手出しちゃってんの??』

『そんなんじゃねえから。ごめんね、うるさいやつで。』

『あ、良かったらうちテニス部!マネージャーも募集してるから!よろしく!』

『ちょっと、さっきまで転んでた子にそんな失礼だろ。』

「いや、大丈夫です!チラシください!」

 前を向くとうるさい方の人はもういなくなっていた。

『本当?じゃあ、これ。日程ここに書いてあるから、良かったら来てみて。』

「絶対行きます!色々ありがとうございます!」

『じゃあ、またね。』


 テニスはやったことないけど、行ってみたいかも。というか、さっきの先輩すっごくかっこよかった・・・。


 それから講義中も電車の中でも家に帰っても、頭の中は先輩のことでいっぱいだった。今日まで誰かを好きになったり付き合ったりとかしたことなかったけど、これが一目惚れか・・・。


 次の日、また校内の例の道を歩いているとテニス部の勧誘スペースを見つけた。それだけで胸が躍って、まだ名前も知らない先輩のことを探している自分に気づいた。

 すると講義終わりでちょうど勧誘に合流した先輩と目が合った。驚いて思わず会釈をすると、先輩はこちらにニコッと笑いかけてくれた。それだけでとっても嬉しくて、でも緊張して話しかけられなかった。


 家に帰って手を洗っているときに鏡の中の自分と目が合った。今日目合った時、変な顔してなかったかなぁ。そう思って笑顔を作ってみると、「うわ・・・。なにこの顔・・・。」自分の微笑みがぎこちなさすぎて自分で引いてしまった。

「こうか・・・?いや、違うな・・・。」

 練習を何度もしてみるが到底可愛いとは思えない。

 諦めてベッドにダイブし、昨日もらったテニス部のチラシを見ると部活のSNSが記載されていた。気になって検索してみると、部員紹介と題してこの前のうるさい先輩の隣に例の好きな人が写っていた。

「へえ〜。」

 学部は違ったが、奇跡的に名前や学年などの情報と写真を入手してしまい思わず笑みがこぼれる。

「明日も会えるかなぁ。」そう思いながら眠りについた。


 次の日、起きて窓の外を見ると雨が降っていた。思わずため息をついたのは、雨という天気自体が嫌だからではない。勧誘が今日はやってないと察したからだ。

 大学に向かって歩いていると前にこの前のうるさい先輩を見つけた。

「そっちかよ・・・。」

 思わず悪態をつくと、横に先輩がいることに気づく。心の中でガッツポーズをして、先輩の後ろをついていく形になってしまった。これじゃまるでストーカーだ。でも朝から先輩のこと見れて、超ラッキーかも。心の浮ついたところを必死に抑える。


 大学生活が始まって初めての土曜日、テニス部の活動があり私はもちろん参加することにした。

 大学のテニスコートに着き、こんなところにあったんだ、と思っていると女性の方から声をかけてもらった。

『もしかして、テニス部の新歓?』

「あ、はい!」

『来てくれてありがとう。私は一応テニス部の部長やってます。

 でもあんまり上下関係とか厳しくないから友達みたいに思ってくれて大丈夫!』


 なんだかすごく良い人そうだな。


『あっちで着替えてもらって、準備できたらコートの方また来て!』


 運動着に着替えてコートに行き、人生で初めてテニスをした。しかし運動音痴な私は球があっちに行ったりこっちに行ったりしてしまい、球技はことごとく向いていないことを悟った。


 体験が終わり、部長が声をかけてくれた。


『どうだった?』

「そうですね・・・。球技は苦手みたいです・・・。」

『確かに、あっちまで球飛ばした人は初めてかも!』

「すみません・・・。」

『いや、褒めてる褒めてる!

 テニス部、どうかな?まだまだ練習すればいつかはうまくなると思うし、とりあえず入ってみない?』


 部長の話を聞きながら、私の目線はテニスコートの入り口へ向いていた。

『おはよーう。』

 寝癖をつけた例の先輩が部活にやってきた。

『あ、あれうちのエース、一応ね。寝坊とかするくせにテニスだけは上手いからなあ。

 だから次期部長候補なんだけd・・・、』

「入ります!!」

『お!』

 部長の話を遮って叫んでしまった。


「でも、マネージャーでもいいですか。

 皆さんのお世話、頑張ってやってみます!」

『大歓迎!テニス部へようこそ!!』


 部長の声が大きくて、眠そうな先輩の目はこっちを向いて丸くなっていた。


『この子!新入部員!マネージャー!』

 部長の荒い紹介を受けると、先輩がこちらへやってきた。

『おーこの前の。

 入ってくれるんだ。ありがとう。これからよろしくね。』


 そう言って笑う先輩の顔は、今日のために買った真っ白なテニスシューズより輝いていた。

 

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