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「春が来るとこの川辺は桜がめいっぱい咲き乱れるんだ」-桜の時

 大学3年の春休み、私は彼と出会った。


 大学生活、私の恋愛といえばそれはもうめちゃめちゃだった。朝起きて何も覚えていない、隣にいる人が誰かわからない、なんてよくある話で、男の人の家に行って20分しか滞在しないこと、業務連絡のようなメッセージ、間違えられる名前、すべてにもう慣れてしまっていた。そんな過去が原因で別れを切り出されることもあったが、それも含めて全部今の私なんだけどなーと思いつつ彼がどこの馬の骨かももう忘れてしまった。

 しかし私も恋愛体質で、幸か不幸か、異性のことをすぐ好きになってしまう。少しでも良いなと思うとその人のいいところしか見えてこない。ただそれは熱し易く冷め易いということで、別れてすぐに新しく好きな人を見つけるのは私の特技だ。


 あの日も誰かと別れた2,3日後だった。同じサークルの友達とバーで飲んでいると隣に座っていたスーツを着た2人組の男性に声をかけられた。

「お姉さんたちよかったら一緒に飲まない?」といったありきたりな誘い文句だったが、こんな私が断る理由はない。彼氏持ちの友人を無視し、誘いを快諾する。

 その日は楽しく話し、連絡先を交換して解散した。正直この後まだどこかへ行くのが普通だと思っていたから、イレギュラーな事態に少し困惑しつつも帰路についた。


 酔っ払っている私は部屋のベッドに寝っ転がり、一応人間的な時間に起きるためにアラームをセットしようとスマホを手に取った。


『今日はありがとう!めっちゃ楽しかったし可愛かった』

眩しい画面に飛び込んできたそのメッセージは、先ほど連絡先を交換した彼らのうちの1人だった。

話によると彼は有名大学を卒業した後1度就職したが、今は会社を経営していて割と忙しくしているらしい。仕事人間、といったような感じだったからまさかこっちの彼から連絡が来るとは思わなかった。

「こ、ち、ら、こ、そ、あ、り、が、と、う、っと・・・。」

ふわふわする頭でなんとか文字を打ち、すぐ寝てしまった。



 結局アラームに気づけず、スマホで時間を確認すると起きたのは夕方だった。

「気持ちわる・・・。」

昨日のお酒がまだ体内に残っている感覚があり、

「お酒・・・やめよ・・・。」

と今日限りの誓いを立てる。

 SNSでも徘徊しようとスマホのロックを解除すると昨夜の彼からのメッセージが目に入る。

『おはよう!昨日すぐ寝ちゃった笑』

 別に好意もないが一応連絡を返す。

[私もすぐ寝ちゃって起きたら夕方でした笑]

トーク画面を閉じるとすぐ返信がきた。

『俺は朝から頑張って起きて仕事してるよ(泣)』

[えらい笑]

『ありがとう!可愛い子に褒められると嬉しいわ』


 「バカかよ。」

 私もそれなりに恋愛はしてきたからこういう文面が常套句なのはわかっている。

 めんどくさくなって返すのをやめた。



 昨日のせいで狂った生活リズムにより、日付が変わっても寝られなかった。深夜のこんな時間は本当に何もすることがない。昨晩の彼の存在を思い出し、暇つぶし程度に返信をした。

[口が達者ですね〜]


 送信ボタンと同時についた既読が怖くなりトーク画面を瞬時に閉ざした。直後、返信が来る。

『いま何してるのかなって考えてたよ〜』

[何それ、こっわ笑]

『昨日楽しかったなーと思って!』

『いま何してんの?』

[おふとん入ってゴロゴロしてます笑]

『今からドライブ行かない?』


 来た。深夜、ドライブのお誘い。これがどういうことを意味するかはわかっている。

[行きたいです〜!]




 返信からものの数十分、彼が家の前まで迎えに来てくれた。

 経営者らしい外車に乗り込み、見慣れた景色をドライブする。


 気づけば数時間経っていた。私の予想とは裏腹にまだ車はエンジンの回転を続け、私と彼の会話も止まらない。ここまで話してわかったのは、会社を経営しているだけあって意外と賢いことと、どうやら私のことを20分で帰すあの男とは目的が違うことだ。他にも興味のあることが共通していたり、大学の学部が似ていたりして、久しぶりに人間に興味が湧く感覚があり、自然と敬語も取れて気づけば私の家の前に戻ってきていた。

「突然だったのに来てくれてありがとう!」

「こちらこそ運転ありがと、お酒入ってなくても楽しかったわ。」

ドアの方に体を向けるとまた言葉が飛んできた。

「よかったら、また一緒にどこか行きたい。」


 その瞬間私の中で何かが起こった。まるで寒い冬を超えて、蕾が膨らんできた桜の花びらが、ぱぁっと開いたような感じだった。

「うん!絶対行く!」


 4月になり、忙しいのにわざわざ時間を作ってくれた彼とお花見に行った。立ち並ぶ満開の桜はまるで私の心のようだった。「私のことが好き」ということはひしひしと伝わってきたが、年上の彼はやはり所々恋愛に慣れている部分もあって、そんな彼と肩を並べて歩けているのが私もちょっぴり嬉しかった。

 日が沈み、お昼間あんなに可愛らしかった桜はライトアップされ違う雰囲気を纏っていた。その美しさに私は思わず「綺麗・・・。」とこぼしてしまった。予想しなかった自分の発言に驚いて彼の方を見ると彼は言った。

「うん、とっても綺麗。」

 私は頷いた。


 その日私たちは付き合った。あの日繋いだ右手は今も私の掌にいる。春の訪れが連れてきてくれたこの愛は、あの日見た桜の花びらが朽ち果てても、変わらずここにある。

 彼とならどんな困難も乗り越えられる気がする。ずっとそう思えるように、彼が私の心に咲かせた桜をいつまでも大事にしていきたい。



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