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いつかまた声を上げて泣く日が来たら-だから

 運命の人とは一度離れる。


 結構有名な言葉だけど、私は信じないようにしている。だって信じてしまったら、あの人とまたどこかで会えるって思ってしまうから。




 あなたと出会ったあの日、お互い目を合わせながらも会話はせず、照れていたのを覚えている。けど結局運命の人だからなのか、偶然の引き寄せ合いだからなのか、あなたと付き合うことになった。

 話の中で笑うタイミングとか、好きな音楽とか、共通点は探せば探すほどあって、その度に運命という言葉を否定せずにはいられなかった。

 時には親友のようで、時には恋人のようで、時には家族のようなあなたは、私が人生で初めて「結婚」という2文字を意識した相手だった。


 でもその言葉を拭わなければならない理由が一つあった。それはあなたと出会ったのが、私がこの地を離れる4ヶ月前だったことだ。

 私は自身の夢のために、8月にこの地を離れることが決まっていた。4月に出会って、5月に付き合い始めた時点でもう、遅すぎたのだ。


 もう少し早く出会っていれば、と何度も思い、時間やタイミングを恨んだ。だからと言って自分の夢を諦めるわけにもいかない。別れのタイムリミットとなる8月まで、たくさんの思い出を作った。


 デートに行けばたくさん写真を撮った。家に帰ったらその写真を使って日記を書いた。その日何をしたかとか、あなたが私にしてくれたこととか、私があなたに思ったこととか、いろんなことを書き込んで、その1日を忘れないよう形に残した。

 一緒にいる時間は一分一秒大切に過ごした。繋いだ手から伝わる体温、あなたの言葉の温もり、一緒に眠った時のあなたの腕の中、起きたらあなたの寝顔が隣にある幸せ、ぜんぶ全部忘れたくなかった。それでもいつか忘れてしまう日のことを思って、涙する日もあった。だから、たくさんの愛の言葉を伝えた。大好きって思ったらそう言葉にするし、あなたから受け取ったすべてを言葉にしてあなたに返した。態度にして、伝えた。





 それでも時間は残酷で、約束の時間が来てしまった。暑い8月の上旬、新幹線のホームにあなたと私はいた。あなたは困ったように笑って、私は泣いていた。



「・・・いつかまた、会える?」


『会えるよ、きっと。』


「大好きだよ、ずっと。」


『ありがとう。』



 私たちを急かすかのように出発のベルが鳴り響いた。私は新幹線に乗り込み、こちらに微笑みかけるあなたを見た。

 まもなく、新幹線のドアが閉まる音が聞こえ、あなたとの距離はあっという間に開いてしまった。


 窓から見える、あなたとの思い出がいっぱいのこの土地に思いを馳せながら、人目を気にせず思いっきり泣いた。

 私の感情とは裏腹に、時間は流れていく。







 私があの地を離れてから3年が経った。自身の夢のために変えた環境だったが、理想と現実のギャップを実感し、日々のやりがいが薄れていた頃だった。あなたから突然連絡が来た。



〈久し振り〉


 スマートフォンの通知欄に3年ぶりに登場するあなたの名前に、心の底が揺れた気がした。


〔久し振りだね、急にどうしたの?〕

〈今度出張でそっち行くから、よかったら会えたらいいなと思って連絡してみた〉


 話はとんとん拍子で進み、平日の夜に会うことになった。

 正直、舞い上がっていた。あれから少しいい感じの人がいた時期もあったが、やっぱりなんかしっくりこないことが多く、恋愛はご無沙汰、といった感じだった。けれど、今の私たちの年齢で久しぶりに会って改まって話すことといえば「結婚の報告」も考えられる。もちろん喜ばしいことではあるが、心からお祝いできるかと聞かれると返事を濁してしまう自信があった。





 早く来て欲しかったような、来て欲しくなかったような、あなたと久しぶりに会う約束の日がやってきた。

 今日は朝からソワソワして、いつもより30分早く起きてしまったり、いつもよりきつめに髪を巻いてみたりした。会う前に何度も鏡で自分の姿をチェックした。


 待ち合わせ場所に行くと、3年前とは変わってしまっているはずなのにあなただとわかる人の姿があった。






「久しぶり。」


 勇気を出して声をかけた。


『おー!久しぶり!』


「なんかちょっと、太った?」

『会って一発目がそれかよ!』


 ふと左手の薬指を確認するが、何もついていなかった。なぜか安心してしまった自分がいた。




 空いてしまった3年の時間はあっという間に埋め尽くされ、気づけばあの頃と変わらない私たちがいた。話せば親友のように楽しく、でも家族のように居心地が良かった。一緒にいる時間はあっという間に過ぎ、時計の針が真上でちょうど重なる時刻になってしまった。

 駅のホームに向かう足取りは、早めなければならないはずなのにゆっくり歩いていたかった。


「・・・あのさ。」


『ん?どうした?』


 あなたのことを呼んだ時に返ってくるこの返事が、あなたの優しさとかが全部詰まってる気がして私はとっても大好きだった。


「今回出張ってなって、なんで私のこと思い出してくれたの?」




『忘れたことなんて、一瞬も無いよ。』


「・・・え?」


『あの日から今日まで、考えなかったことなんて一瞬もない。』


「じゃあ、なんでずっと連絡してくれなかったの。」

 私の声は震えていた。


『せっかく追いかけてる夢だから、邪魔したら悪いと思ってた。』



「そういう優しいところがさ、大好きだったよ。」



『・・・だった?じゃあ、今は?』



「それは・・・。」





『あのさ、


 ずっと、ずっと忘れたことなんてなかった。

 夢を追いかけてる姿も好きだから、邪魔したくなかった。


 でも今回久しぶりに会って、1個思えたことがあるんだ。


 

 結婚しよう。』




「え・・・?」




『だから、結婚してほしい。

 大好きだ。愛してるから、もう離したくない。

 これから一生、ずっとそばにいてほしい。

 駄目かな。』




「・・・駄目じゃない。全然駄目じゃない!」




 気づけばあの頃と同じように、あなたの腕の中にいた。

 私はたくさん泣いていた。

 涙を拭ってあなたの顔を見てみると、あの頃と変わらないあなたの笑顔がそこにあった。


「大好き、すっごく。もう、もう絶対離さないで。」


『うん。絶対離さない。ずっと一緒だから。』





 そう言って私の頬に触れるあなたの手は、とても暖かかった。


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