あたしに無いもの持ってるから-No.7
人並みに恋愛をしてきた。学生時代から今まで付き合っては別れを繰り返してきて、最初の方はこの人が運命の人、このままずっと一緒にいよう、と思っていたけれど途中からそうではないことに気づいた。
のめり込んだ人ほど、別れると「あ、意外といなくても生きていけるな」って思うし、好かれ過ぎて愛が重いなと思って別れた人ほど「必要だったかもな」って思う。大好きって思うことって疲れるし、恋愛っていいことばかりじゃないからそれがツラい。人に自分の感情を左右されるほど苦痛なことはないし、恋愛をしなければそれが一つ減る。そんなふうに思っていた頃の出来事を今から書こうと思う。
ある程度大人になった私は、「恋人」も「友達以上恋人未満」も経験してきた。「友達以上恋人未満」って辛い場合が多いかもしれないけど、私はこの関係の方が楽だった。あまり相手に重きを置かなくて済むし、将来のこととか考えなくて済むからこっちの方が好きだ。
そんな話を酔っ払いながら居酒屋でしていたときそこにいたうちの1人が、後々同棲することになるあなただった。あなたは彼女と別れたばかりで、その日は彼女に荷物を届けにいった日の夜だった。スケジュールの違いから会える時間が少なくなって別れたらしく、本人は少し落ち込んでいる様子だった。
そんなあなたの姿を見ながら私が思ったことは「バカだな〜」であった。恋愛でこんな一喜一憂するなんて時間の無駄だし、そんなこと考えてる間にもっと他のことしたらいいのに、と。
でもお酒が進んでいくうちに話は熱くなっていって、その時友人がいっていた一言に少し「なるほどな」と思ってしまった。
『その人のことを思って涙が流せるって、すごく素敵なことだよ。』
確かに思われて嫌だと思うケースは多くはない。それが恋人同士で合ったなら尚更だ。タイパとか、コスパとか、そういう効率ばかり求めるのもいいけど、そればかり追い求めていたら人生は豊かにならない。
その瞬間から何だかあなたがとても魅力的に見えてきた。恋人だった人のためにそんなに感情を揺さぶれて、私よりも人生において感動する瞬間とか幸せな瞬間もたくさんあるんだろうな、辛さに目を向けられるからこそポジティブな瞬間もより一層輝くんだろうな、と思った。
恋愛対象、と言うより人間的に魅力的だったあなたは、今まで私が関わってきた人間と少し違かった。あなたが涙を流したあの日からもあなたとは何回か一緒に過ごす機会があり、最初は複数人で会っていたのがいつの間にか2人になって、いつの間にか恋人同士になっていた。
あなたといると私の中の冷たい部分が溶けていって暖かくなっているような気がして、一緒にいて幸せな気持ちになれた。あなたと手を繋ぐとなんだか胸の辺りがぽかぽかして、とても楽しい。
付き合って年月が経ち、私たちは一緒に住み始めた。都市部に程近い1LDKで、1人の時より少し大きめのベッドを買って、毎日すぐそばにいるわけではないけど、同じ時間を過ごした。
今日は仕事が在宅で、あなたは出社する日だった。といってもそんなに早い朝ではなかった。
8時半にアラームをかけていたが30分早く起きてしまった私は先にベッドを出て洗面所に向かった。顔を洗って歯磨きを済ませたあと寝室に戻ると、ベッドで目を擦っているあなたがいた。こちらに気づいたあなたは眠そうな顔をしながらこちらに両手を広げていた。
かわいいな、と思いながらその胸に飛び込んで、アラームが鳴るまで一緒に過ごした。
「おはよ。」
『おはよう。先起きてたの?』
「うん。目覚めたから歯磨きと顔だけ洗ってた。」
『そっか。』
至って普通の会話しかない。でもその会話一文字一文字がなんだか愛に溢れていて、こう言う時間こそ人生に必要なんだと実感する。
幸せな時間ほど早く過ぎてしまうのは何故だろう。頭上でアラームの音が鳴り、あなたはベッドを出てしまった。隣の毛布に残る温もりが愛おしくて寂しくて、ぎゅうっと抱きしめた。
そのままベッドでしばらく寝転んでいたが、あなたが愛おしくなり、あなたの影を追って洗面所に来た。
『どうしたの?』
「別に、来ただけだよ。」
『眠いなあ。』
「お仕事したくないね。」
『したくないけど、しなきゃね・・・。』
「今日も一日頑張ろうね。」
『うん。』
ネクタイを締めたあなたが玄関へ行ってしまったので慌てて追いかける。
『じゃあ行ってくるね。』
「あ、これ水道料金、払っといて欲しい。」
『お、わかった。帰り払っておくね。』
「いってらっしゃい。」
『いってきます。』
今までの人生で「出会えてよかった」ってたくさん言ってきた。あなたには恥ずかしくて言った事ないけど、1番そう思ってるよ。
あなたとの日々はドラマのように輝かしいわけではないけど、あなたと私がここにいる限り幸せなんだろうなって思う。ノーベル賞を受賞するような天才科学者でも、国民を救う王様でもないし、かわいいことなんてできなくて捻くれた顔しかできないけど、こんな私と一緒にいてくれてありがとうって、いつか伝えよう。




