ユメツナガリ
夢。不思議な夢を見ていた。
わたしはずっとベッドで眠っていて、外で遊んだりしたことはなかったのに。
わたしは、わたしの通うはずだった中学の学生服を着ていた。
どこだろう、ここ。
廊下だった。けど見覚えはない。小学生の頃の廊下じゃない。
学生服の集団が、授業を受けているのが、廊下側から見えた。
「ああ、わたしは、見えていないんだ。これ、夢だ」
つぶやいた声も誰にも聞こえていない。
授業は、何か難しい数学の授業だ。黒板を見ても、式の意味も分からない。
「ちょっとふざけてみようかな」
どうせ見えていないんだから。
わたしは、廊下からドアを開けて、教室に入った。誰もドアが開いたことも気にしない。
あそこの空いている席は、わたしの席だったりするのかな。わたしの夢は別に答えたりしない。教卓の上の名簿を見る。知らない生徒の名前が細かくのっている。我ながら、よく名前を思いつくものだ。
空いている席と照らし合わせば、わたしの席とわかった。
わたしは、他の生徒の視線を浴びることもないので、ずかずかと進んで、席に座った。
「せんせー、授業が難しすぎて、わかりませーん」
ふざけて声を出しても、誰も気しなーー。
ん、女子生徒の一人がこっちを見ていた。
あれ、1人は気づくという設定の夢なのか。
「……」
目があったのに、声を出そうとはしない。
当たり前だ。この夢の世界の人は授業を受けているのだから。
わたしは夢の中でもいない。
自分の席に座ってみる。誰も気づきはしない。教室に入っても分からないのだから。座っても気づかれはしない。
あ、いや、1人だけ見えてるか。でも、1人にしか見えない存在って、存在するのだろうか。
わたしの夢は、わたしにしか見えていない。
わたしの夢は、わたしだけが知っていて、だから、すぐに消えてしまう。
起きれば、それは目を覚ますということ。目が覚める。
今まで大事だと思っていたものが、一瞬でモヤのように曖昧なものになってしまう。
何か残したい。
わたしは、カラの机の中に手を入れた。何もない。
何か、わたしは書きたいんだ。
ここにいたって。
ポンっと、目があった少女のシャープペンが飛んできた。
可愛らしいストラップのついたピンクのシャーペン。
わたしは、机に落書きをし始めた。
大きく、大きく、机を全部使った落書きを。
それから、こんなに大きく書いたら目立ってしまって消されちゃう。
目立たないものの方が残りやすい。わたしは机の裏の木の部分に、わたしはわたしの名前を小さく書いた。小さな小さな夢を添えて。