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死の狂信者

 俺は献上の珠を迷わずアリスに奉納する。

 次の瞬間、アリスの体が白く光った。


「……え、フユキ? 何をしたの?」


 千年前に閉じ込められたのなら、まだこの世界にやってくる俺たちプレイヤーはいなかったはずだ。だから、アリスにとって奉納の珠を送られるという体験は初めてのことだったのだろう。


 そう考えると、アリスが困惑しているこの状況が説明できる。


「俺がアリスを信仰する最初のプレイヤーになったんだ。それより、これでこの窮地を脱せるかもしれないぞ」


 俺がそう言ったのには一つの理由があった。

 なぜなら、送られてきた電子メッセージの中に気になる一文があったからだ。


《500ポイントを使って、女神アリスから授かるスキルと職業を選択してください》


 という言葉とともに浮かぶ様々なスキルや職業。そしてその効能。そんな中で、ひときわ異質な存在。


《職業【死の狂信者(ファナテック・モール)】 必要ポイント500

 この職業は、死の女神アリスへ最初に『直接奉納』した者のみがなれる職業である。この職業になった者は、死んだ者を蘇らせ仲間にすることが可能となる。なお死んだ者を必ず復活させられるわけではなく、体と魂が残っている状態でさらに互いの合意が必要となる》


 直接奉納とは、恐らく亀爺経由ではなく女神が近くにいる状態で直接奉納することだろう。

 まぁとにかく、これがあればアリスを助けられるかもしれない。スキルを持たない状態でゲームを始めることにはなるが、やるしかないだろう。


「……アリス、多分俺がこれからやろうとしていることは分かるよな」

「……やめて。きっと私と関わったら、大変なことになるから……」


 千年ずっと独りでここに閉じ込められていたアリスは、心を閉ざし切っていた。自分はこの世界で生きてはいけないのだと、そう思っているのだ。


「アリスに、笑ってほしいんだよ。俺は自分勝手だからさ」


 アリスがどんな事情を抱えているのかなんて、どうだっていい。これから俺のエデンクエストが普通じゃない展開を迎えるかもしれないなんて、考えていない。


 俺はただ、このエデンクエストというゲームを彼女を笑顔にするという目的のためにプレイしようと、心に誓ったのだ。

 この地獄で一人泣いている彼女を、この目で見た瞬間に。



「だから……俺はアリスを助ける」



「……フユキ」


 電子メッセージに表示された『はい』という文字を押す。次の瞬間、俺の全身を禍々しい髑髏のマークがついたローブが覆った。新たな力が、体の中にみなぎっていく。

 

「それじゃあ……いくぞ、アリス」

「うん」


 右手に握られた杖を構え――突き刺す。アリスはこの地獄で極限までHPが削られていたのか、この一撃によって絶命した。

 

 一瞬罪悪感を覚えるが、ここで立ち止まっている場合ではない。俺はすぐにもう一度杖を構えて、俺はただ一言つぶやいた。


甦れ(ルヴニール)


 死の狂信者によるこの蘇生術は、厳密にはそのまま蘇生しているわけではない。

 死んだ者の体を触媒として、そのものの魂を降霊させ再構築した体の中に入れるのだ。


 つまりどういうことかというと、もしこれが成功すれば、俺の目の前にいるのはバグにまみれた彼女ではなく――。


「フユキ……本当にありがとう」

「あぁ」


 鎖につながれず、自分の足でそこに立っていたのは紛れもなく死の女神アリスだった。何故かは知らないが、鬼のお面を頭の上にかぶっている。

 俺はとりあえずまず、彼女のステータスを確認した。



 名前:死の女神アリス


 レベル:289


 種族:女神


 信仰者:一人


 スキル:※異例判定のため、当面の間は制限


 所持アイテム:付喪面


 

 そこに表示されたのは、文字化けしていない本物のステータスだった。

 つまり、予測通り再構築された体には、バグが無くなっていたわけだ。


「……よし、やり遂げた」


 まるで手術が成功した時の外科医のように、俺は肩の荷が下りてその場に座り込む。そんな中、突然抱きついてきたのはアリスだった。


 きっと、寂しかったのだろう。千年間も一人でいて、寂しくならないわけがない。

 俺はアリスの頭を優しく頭を撫でる。アリスは恥ずかしかったのか少し顔を赤らめ、照れているようだった。アリスの姿を見ていると、まるで父親にでもなったみたいだ。


 ……もっとも、現実での俺は彼女さえ一度も出来たことが無いのだが。


「まぁそれより、早くこの地獄ステージを出ないとまずいんだろ?」

「うん。ここに長居しすぎたらまたどこかにバグが生じかねないかも。だから、でよう」


 俺はアリスの言葉に同意して、目の前にそびえたつ巨大な扉の前に立つ。しかし、その圧倒的な威圧感に思わず気が引けてしまう。


「……待ってくれ、よく考えたらこれを開けられる気がしないんだが」

「大丈夫。私の力があれば開けられるはず」


 アリスはそう言いながら、扉を開こうとする。

 しかし、何秒経過しても全く動くことはなかった。


「……アリス?」

「私の力、多分制限されてる。スキルも使えないし、力も普通の人間くらいしかなくなってた」

「まじか」


 恐らく女神を一人のプレイヤーが所有ことはできても、完全にその能力を使えることは出来ないのだろう。ただ、すべての能力を制限するというのも考えずらい。他に何か、別の形で補填されてしかるべきだろうが――と考えていると、俺は一通の電子メッセージが追加されていることに気が付いた。


「……何だ、これ」


《スキル【女神装甲(アームド)】を獲得しました。効果は以下の通りです》

・女神装甲:女神の力を身にまとい戦うことができる。


 いったいどうなるのかわからないが、とりあえず今ここを出るにはこれを使うしかないだろう。

 俺はそう思い、女神装甲を使おうとした――瞬間。


 ギギィという重たい金属のこすれる音と共に、目の前で閉ざされていた巨大な扉が突然開いた。


 そして、扉の向こうに見えるマグマのような地獄ステージから、一体の巨大な鬼が歩いてきた。全身は三メートルほどあり、巨大なこん棒を握るその鬼は、よく見ると金属質の体をしている。


 そんな鬼は、俺たちを一瞥すると無機質な声で言った。


「対象の脱獄を確認。これよりプログラムに則り、当方――地獄管理システムENMAは脅威の排除を開始します」

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