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0.4

「ここが拘置所、座敷牢よ。食事は朝昼晩の三食持ってくるわ」


「えっ」


「?不満があるの?」


僕の口から溢れた「えっ」は不満の意味ではなく、何かいきなりフレンドリーになったんですけど、という意味だった。

男の方は僕を座敷牢に入れたあとにいなくなったけど、まさか女性の方がここまで態度が変わるとは・・・。


「あ、いえ、その口調が・・・」


「ああ、これからあなたのお世話役になるから柔らかくしただけよ。それとも、こちらの方が良いか?」


急に声と口調が硬くなる。お腹から声を出して威圧されてる感じだ。


普通に緩く過ごしたいので柔らかくお願いしますとお願いする。座敷に座ったままお願いしたから土下座みたいになっちゃった。


「そこまで畏まらなくていいわよ。長のお考えが全て分かる訳ではないけれど、貴方を丁重に扱うべきだとは分かったから」


「私を・・・ですか」


「ええ。この座敷牢もただの拘置所ではなく、高い位の者を隔離するためのモノなの。だから、外に出られないのを除けばかなり快適なはずよ」


周りを見渡すと確かに快適そうだった。僕が靴を履いてないのもあるけど、普通の和室みたいだし、なんならベッドとかは昔の平安貴族?とかが使ってそうな低い物だ。


しかし丁重に扱う、か。だったらいくつか質問に答えて貰ってもいいのかな?


「あの、質問いいですか?」


「私に答えられることなら答えるわ」


じゃあまず、一番頭に残っているアレについて尋ねる。


「あの、世界樹って何ですか?」


「あなた、世界樹を知らないの?あそこにいたのに?」


「はい。気づいたらあそこにいたので、ただの大きな木だと思ってました・・・」


確かに世界樹と言われてもおかしくない大きさだと思う。


「そうねぇ。まず、私達森の民、エルフにとって世界樹は崇拝すべき神よ。」


エルフ!?

世界樹の解説よりそっちの方に食いつきたいのだが!

だけど聞いた側の礼儀として口を挟まずに傾聴する。


「だけど人族であるあなたにとってはそれはあまり重要ではないわよね。」


「あ、いえ。今の言葉を聞いて、私があそこまで警戒された理由が何となくわかった気がします」


「・・・たぶん分かってないわね。ではあなたにとって重要な方を説明するわ。」


分かってない?


「世界樹に近づくためには、この村から特定の道を通るか、強い魔法でもって無理矢理近づくしか無いの」


「えっ!?」


魔法!?あるんだね!?いや、とりあえず強い魔法って!?


「世界樹が放っている強い幻覚魔法によって、そんじょそこらの国の軍などは世界樹に近づくことが出来ず彷徨うことになるわ。世界樹の魔法に対抗できる能力を持つ者でないと絶対無理なの。」


「そうなんですか・・・」


「更に、私達の村からの道も簡単ではないわ。まずこの村に入るためには私達の許可が必要。でないと結界に拒まれるようになっているの。つまり私達にとってあなたは、突然世界樹の近くに現れた謎の魔法師だったのよ」


少し端折られた気がするが、村の結界をすり抜けるのにも高度な技術が必要なのだろう。


彼女らにとって僕は、

①世界樹の幻覚魔法を突破する=やべー奴

②エルフの村の結界をすり抜けて誰にも気づかれる事なく世界樹に近づく=やべー奴

かもしれないということ。


どっちにせよ最大級の警戒をする前提だと思われる。

やべー奴で纏めてるが、実際にはすっごい強い魔法師?だという点も考えれば即殺されなかっただけ有難かったと思える。


あの場における自分の存在の異常さに気づいた僕は、つい黙り込んでしまう。


「理解したようね。ならもう一つ。あなたの格好も警戒を強めたわ。」


「格好?」


「そのワンピース?みたいな服に裸足でナイフの一つも持っていないんだもの。今なら何となく分かるけれど、あの時は異様に見えたわ」


「なんかしゅみません・・・」


そこにいるはずのない人間がありえないほど無防備な格好でいればそりゃあ危険性を感じるか・・・。


まだ靴を履いていたら。いや、それでも駄目だな。元の日本でもホラーの部類だ。


「スラグからの連絡もかなり動揺していたわ」


「スラグ?」


「ああ、ごめんなさい。さっきの男よ。私の名前も言ってなかったわね、クルスよ」


そういえば自己紹介されてなかった。魔法とか世界樹とか自分の異常性に頭がもっていかれてたから気にもしていなかった。


改めてクルスさんを見る。先の長よりも緑が濃い髪色。耳が尖っているが、髪から大きく飛び出る程ではないのでそこまで目立たない。

顔つき自体は小さく纏まっていて可愛いと思うが、戦士なせいか目がちょっと怖い。


でも総評としては美人さん。

長の言葉からすると、エルフは美人が多いのかもしれない。まあ、今の僕には目の保養になるかどうかも怪しいが。


そうだ。髪色について聞いてみよう。太陽の下に出たことで自分の髪色が完全な黒であることがわかった。

ただ、この髪色が珍しいのかそうじゃないのかが気になる。


「あの、クルスさん。エルフの皆さんはそのような髪色なんですか?」


「ええ、そうよ。子供の頃は緑で、成長していくほど緑が落ちて金色になっていくの」


「へぇ。ちなみに、私みたいに黒い髪の人っていますか?」


「そうねぇ・・・。私はあまり外に出たことが無いから詳しくないけど、今まで黒い髪は見たことが無いわね」


「そう、ですか・・・」


黒い髪の人がほとんどいないとなると、何かしらの迫害とか、もしくは神聖視とかがあるかもしれない。


魔法世界なら色での差別が無いだろうと思いたいが、生き物の本能として区別が無いとは思いづらい・・・。


「大丈夫よ。あなたの髪、とても綺麗だわ。黒と言っても全ての光を奪う闇ではなく、光と共生する夜だもの。見ていると落ち着くわ」


「そうですか・・・?なら良かったです」


こうしてクルスさんとお話していると、ふとお腹が鳴った。


エルフの話とか、クルスさんが聞いたことある人族の話とかを聞いているうちにかなりの時間が経っていたのだ。


「あ、ごめんなさい。少し長話が過ぎたわ。あなたと話していると舌が止まらないわね」


「私が話をねだってしまったのが悪いんです。気になさらないでください」


「すぐにご飯を持ってくるわね。少し待ってて!」


クルスさんは早歩きで牢の前から立ち去った。


一人になったので少し試しにベッドに寝転がってみる。

スプリングとかが無いので跳ねることはないが、ふわっと沈む。畳のような見た目でこの柔らかさは面白い。


自分の胸元から琥珀を取り出す。


僕の名前の元である宝石。長はこれを見たら納得した。何を納得したのだろうか。


「・・・やっぱり胸が膨らんでるのを見るとちょっとアレな気分になる・・・」


この嬉しいような寂しいような残念なような気持ちを感じなくなるときが、いつか来るのだろうか・・・。


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