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お地蔵様と桜の木

作者: 青空

タイアップ企画【耳で聴きたい物語】用の作品です。

想像力を働かせてくださいね!!

――白綿を着込んだ枝木の朝。


鼻を赤くした蕾が一つ、春の訪れを待っている。


偶然通りかかったのだろう青年が、


「今日は寒いだろうから」


と呟いて、首の巻物を置いていった。




――花びらが舞う満月の夜。


一人の少女がベンチに腰かけている。


月光に輝く桜色の髪は、楽しげに踊っているかのようだ。


少女は「ほぅ」と暖かな溜息を一つ吐くと、流れる花びらに願いを託した。




――深緑が青空に映える暑い昼下がり。


さわさわと涼しげに(なび)く影を傘に、一人の青年がベンチに腰かけている。


遠くに流れる入道雲をボーっと眺めながら、すぐ隣でジリジリと鳴く蝉の声を右から左へ聞き流す様は、まるで動じぬお地蔵様のようだ。


しかし、そんな青年も、道の向こうから突き抜ける甲高い声には反応せざるを得ないのだろう。彼は楽しげに片手を上げ、遠くの陽炎に溶けていく。


涼しげな影は、眩しい太陽の光にかき消された。




――夕暮れ色に染まったベンチ。


青年は震える手のひらで丁寧に落ち葉を払うと、ポケットから一枚のハンカチを取り出す。


並んで伸びる二つの真っ赤な影は、次第に距離を縮めると、やがて一つに重なった。


熱を帯びた秋風が「ほぅ」と漂い消えていく。


ベンチの横では、葉を全て散らした桜の木が寒々と震えていた。




――鈴の音が鳴り響く寒空の夜。


冷たい雨の中、一人の青年がベンチに(うずくま)っている。


やがて、風で飛ばされてきたのだろう傘が一つ、木の枝に引っかかった。


しかし、頬を伝う雨だけは止められなかった。




――青年の前に少女が一人。


桜色のマフラーを手にこう言った。


「今日は寒いだろうから」




――桜の木と寄り添うお地蔵様が一人。


ベンチに座る青い春を眺めて笑っていた。

お読み頂きありがとうございます!

よろしければあなたの解釈をお聞かせくださいね!

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