地味子の宝の持ち腐れ
私には若くして亡くなった前世の記憶が残っている。
とは言え別に悲惨な最期を遂げた訳でも裏切られた訳でも無いんだ。
ただ末端の貴族とは名ばかりのど田舎の男爵家のしかも四女として生まれて、華やかな社交界にもあんまり縁が無くって地味で平凡にひっそりと生きてきたんだ。
……のが続いたのはわざとじゃ無いよ。
広い心で許して貰おう。
ただ巻き込まれちゃったんだよね、流行りの婚約破棄騒動に。
あぁ、流行りのって何で知ってんの?って突っ込んだあなた鋭いね。
神様がほら流行ってんだ~って漫画つーの?見せてくれたんだ。
そして話は戻るけど運の悪い事に突き飛ばされて階段落ちした綺麗な女の子に、咄嗟に制服のスカートを掴まれて一緒に落ちた訳。
お陰か彼女はかっこいい男の人が受け止めて助かって、巻き添え食った私はあの世に来た訳なの。
理不尽ちゃ理不尽だよね。
それで神様があんまりにも気の毒だってんで生まれ変わるかって聞いてくれて。
だけど考えてみたらあんまり運がないから、今度は運のいい子に生まれたいんだがってお願いして。
運がいいってチョット並んでた列の捌けるのが早いとか、最後の一本の串焼きが手に入るとかを言ってるんだけど神様勘違いしてね。
何と気前のいい神様奮発して絶世の美少女に生まれ変わらせてくれたんだ!
自分で言うのもなんだけど、両親はあまりの可愛さに蝶よ花よと煽てて育ててくれたんだ。
私も鏡の中の人、私なのか信じられなかったもんね。
でもね前世の記憶があってお上品に振る舞う貴族が性に合わなくって、辛くて領地に広がる森に若隠居を決め込んだのよ。
両親は泣いて止めたけど私の意思は変わらなかった。
深い森の中の木こり小屋を自分でコツコツ木材を運んで、勿論力持ちなの顔に似合わず。
何でもやるよ、一人で。
修繕してそこを住処に整えて畑を作ったり井戸を修理したりして、着々と今流行りのスローライフ?を送る準備を整えた訳だけど若い貴族が続々訪ねて来た。
噂は恐ろしいって身をもって知ることになるんだけど、はぁ見世物では無いのになぁ。
静かに暮らしたいの、邪魔しないでくれると助かるのに「城に行きましょう」とか寝ぼけてんの?
アンタのその撒き散らしのキラキラもしや王子様と違うんかい?
こんな所で油売ってていいの?
私の事はほっといてくれると助かるんだけどソコ、居座んないで欲しいんだけど。
ソコ、見え無いかもだけど種を撒いてあるんだよ!
お付きのもん踏むんじゃねえ。
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ほとほと困った私は条件を出したんだ。
私の欲しいもん持って来てくれたら考えてみますって。
そしたら何でも言って言うからそれじゃ遠慮なくって、前世で欲しかったミチバナナサブロウ先生の良く切れる包丁と使った事無いけどネーミングに惹かれるタジン鍋っつーの?あれと……。
遠慮なく100個位言ってやった。
新生活に必要だもんね。
両親はなんでか泣いちゃうし、どうするかなぁって思ってたら王子や貴族は呆れて退散したみたいでやったラッキーってなったの。
実は私、顔のいい男って苦手なんだけどみんなキラッキラしてるから眩しくって〜。
正直帰ってくれてホント良かった〜ってなったのよ。
そしたらなんか一人だけ残っててアンタ何してんのって聞いたら好きですって。
私の何処が好きなのって聞いたら飾り気のない所って言うんだもん。
この言葉に一瞬で胸を撃ち抜かれて恋が始まった。
私の一番欲しい言葉をくれるこの人と恋をしてみたくなったんだもん。
顔?オークみたいな人って言えばいいんかな?
あったかくて〜懐の大きい人さ。
なんか食うかって聞いたら芋をふかしてくれって言うもんだからもう一発でノックアウトされた訳。
そんで一緒に暮らすかってなって結婚したっ!
今?最高に幸せっ!
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作中に方言ぽい物がありましたが、ご指摘頂いて訂正致しました。
もしご不快、ウンウン突っ込みたかったと仰る皆さま勉強不足の私をお許し下さい。