生きるため
熱い…………苦しい…………誰か、……
地面に顔をつけている部分が冷たくて気持ちがいい。それでも熱は相変わらず高く、息も苦しい。
私、このまま死ぬのかなぁ…短い人生だった。でも私………ここでは死にたくないかな…
倒れてる場所はどこかの森の中で、周りにはヨダレまみれの犬型魔獣が今にも私を食べようとしている。
しかし何故か襲いかかってこない。私の周りに何かあるみたいに、一定の距離から1歩も動いてないのだ。なので、森の中で地面に倒れている死にかけの私とその周りにお預けをくらっている魔獣という何とも変な画になっている。
ああ……死ぬなら魔獣に看取られるんじゃなく、せめて人に看取られたい…
そう思いながら、目を閉じるとドンという音ともに周りにいた魔獣からギャン!と声を上げたので、ゆるゆると瞼を上げると、今まで周りにいた魔獣達が逃げ惑いながら、頭上に向かって唸り声上げていた。しかし、また何かに攻撃され、一瞬私を見てから森の奥へと逃げ去って行った。
ご馳走を諦めるしかないって顔だったな…
食べられたくはなかったけど、私のせいじゃないからね?
森の奥を見ていたら、ぼやけた視界に人の足が降りてきたと思ったら、抱き起こされ男性の顔が視界いっぱいになった。
「おい、しっかりしろ」
眉間に皺を寄せながら、ぺちぺちと私のほっぺを叩く。
…………てか、痛い!!この人力加減違うと思う!
声も出せないほど弱っているので、うーーという声しか出せないため頬を叩く手を止められない。しかし、声が聞こえたのもあったのか頬を叩く手は止まり、少しほっとした顔になった。
「―――…っ様!!」
上空にいた仲間だろうか。
男性が上を見上げ「離脱する!」と声を上げ抱き上げられたと思ったら、あっという間に空に飛んでいた。
そこで私の意識はぷっつりと消えた。
――次に目を覚ました時には私は、ふっかふかのベットの上だった。天蓋で覆われ周りがよく見えない。身体を起こすと、汗で身体がベタベタしていて気持ち悪かったが、今まで経験したことがないぐらいに身体が軽かった。
うん?首に何かかかってる……なんだろ、石?
首を傾げていると、天蓋の外から人が入ってきた。
「あら?起きたのですね、良かったわ」
にこやかな笑顔の女性が私の方に近づき、額に手を当てて熱があるか確認をした。
「熱は下がったみたいですね。…あなた、1週間も起きなかったのよ?」
え、1週間!?
女性は困りげに首を傾げ、「目を覚ましてくれて本当に良かったわ…」と安堵の息を吐いた。なんで見ず知らずの子供をここまで心配して看病するのだろうかと疑問に思った。そして、この女性は入った時から瞼を伏せているので、恐らく目が見えてないのだろうけど、テキパキと動くので目が見えてないことが分からないぐらいだ。
「………あの」
「そうだわ。首に下げてるの見せてくれるかしら?」
女性に言われ、首にかかっている石を女性に渡した。
「あらぁ……もうこんなに溜まったのね。代わりのものを頂いといて良かったわ」
クスクスと笑いながら、ベット脇の机の上に置いた箱から同じような石のネックレスを取り出し私にかけて、外さないようにと一言付け加えた。
「さあ!お風呂に入ってさっぱりしてから、ご飯を食べましょう。自己紹介がまだでしたね。私はフェアリーゼ。あなたは?」
「リーシャ」
フェアリーゼは優しい笑みを浮かべ頷いた。
浴室はとても豪華な場所だった。自分で出来ると言ったが、フェアリーゼに問答無用に洗われ、用意していた服に着替えさせられ部屋の椅子に私は座って、髪を拭かれている。
身体はポカポカ出し、人に髪を触ってもらってるのって結構気持ちがいい。あんなに寝たのに眠気が襲ってきて船を漕ぎ始めると、フェアリーゼからクスクス笑い声が聞こえ、咄嗟に姿勢を元に戻した。
「いいですよ、でももうちょっとお待ちなさい。食事だけしてから寝ましょう。さすがに何かお腹に入れないと薬が飲めないから」
こくりと頷き、ふと思った。そういえば…あの時助けてくれた男性は、この屋敷にいるのだろうか。頬っぺたは大変痛い思いはしたが、助けてくれた人物なのでお礼は言いたい。
「フェアリーゼさん」
「なんですか?」
「私を助けてくれた方ってここにいるんですか?」
「ええ。この屋敷の主があなたを助けた方ですよ。明日会えるはずですから、今日は食事をして明日に備えましょう」
出来たとご機嫌な声で、私の頭を軽く撫でて抱き上げると私をベットに下ろし、簡易的な机を私の前に出し「少しお待ちになって」と言って部屋を出ていった。
その間手持ち無沙汰なので、首にかかっている石のネックレスを手に取ってまじまじと見た。
石は半透明で中に水のような薄黄色の液体が、3分の1ほど溜まっている。
この液体はなんだろ?さっきはこんなのあったかな?首を傾げ、うーんと唸っているとフェアリーゼがお粥を持って帰ってきた。
「ゆっくり食べなさい」
「ありがとうございます」
いただきますと言って温かいお粥を1口食べると、何も食べていなかったからかじんわりと温かさが広がっていく感じがした。ゆっくり食べつつあっという間に食べ終わり、久しぶりにお腹いっぱいになった。
ふぅと一息ついてると、フェアリーゼが薬を私に渡した。その時点で薬の匂いにうっと鼻をつまんでしまった。
こ、これは…………絶対に飲めないやつ!!!
無理だよ、これ薬!?せっかく美味しかったお粥が、一瞬にして薬の味になりそう…
本当にこれ飲むんですか?という顔で、フェアリーゼを見ると困り顔で頬に手を当てて「あの方が作る薬は本当に効くのだけれど、味は壊滅的なのよね…」と言う。
これはやっぱり飲まなきゃいけないみたいだ。ゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めて一気に薬を流し込む。
「~~~~っ!」
口元を押さえ、声にならない叫びが口の端から漏れる。
薬を何とか飲みきったが口の中はずっと薬の味のまま……
苦さのあまり思わず机に突っ伏してしまった。思わず足がバタバタと動いてしまう。
こんな薬二度と飲みたくない!!
そんな私をベットに寝させて布団をぽんぽんと優しく叩くフェアリーゼは苦笑気味に「明日も飲みますからね」と絶望的な言葉を放ち、開いた口が塞がらなかった。
イヤイヤと首を振るが、困った様な顔をするだけで「もう寝なさい。明日には体調はもっと良くなってるはずだから」と言い部屋から出ていった。
明日も同じ薬なんて……
もっと飲みやすい薬にして欲しい…
絶望に昏れながら布団を頭まで被り、あっという間に眠りについた。
―――翌朝。ふっかふかの布団でぐっすり寝てスッキリ目が覚めた私は、昨日とは比べ物にはならないほど絶好調に身体が良い。
羽が生えたように身体が軽いのだ。試しにベットの上でジャンプをしてみた。
か、軽い!私の身体じゃないみたい!
ヤッホォーー!!
調子に乗ってベットの上で飛び跳ねていたら、直ぐにバテてゼェゼェとベットに倒れてるのを、フェアリーゼに見つかり慌てさせてしまった。
「支度のために部屋に来てみれば………
体調が良いからと言って、暴れたりするのはダメですよ。体力が戻ってないんですからね!」
「………ごめんなさい」
シュンと項垂れながら、用意された服に着替えさせられた。
誰かのお下がりだろうか。とても生地が良い。
膝丈ぐらいのヒラヒラしたスカートと袖に可愛らしいデザインで少し心が浮き立つ。
けれど、私がこんな綺麗な服着てもいいのだろうか…
「さぁ、こっちに来て髪を整えましょう」
鏡の前に誘導され、抱きげられて椅子の上に座った。
櫛で髪をとかれ鏡越しにフェアリーゼを見ているとうっとりしながら私の髪を触っていた。
「昨日も思ったけど、とても綺麗な髪ね。まるで闇の精霊のような濃い紺色の髪色で」
闇の精霊…………ってなに?
「そう……ですか?」
「ええ。その大きな金色の瞳も光の精霊のようで………精霊様たちに愛されてそうね」
精霊って何だろう?と思いながらも、いちばん疑問に思ってる事を口に出した。
「あの、なんで色とか分かるんですか?
目を閉じたままだから気になって……」
「……ふふ。この目の事ね。実は魔術具で見ていて、これがないと何も見えないのです。
ここの屋敷の主でわたくしの主でもあるルーデル様が作ってくださったってわたくしにくれたのですよ」
首にかかっているネックレスを服から取り出し、私に見せてくれる。
薄い紫色の石の周りに装飾が施され、小さいながらもとても綺麗だった。
その後、髪を両サイド編み込まれ顔周りがスッキリして自分の顔が良く見える。
「まぁ……とても可愛いわ!顔周りをスッキリさせると顔立ちがよく見えますね」
鏡で自分の顔を見てる暇もなく、抱き抱えられ食事の席に移動し、すぐさま食事が運ばれてきた。
昨日と同じお粥と、果物、消化の良さそうなおかずが追加されとても美味しく頂いた。
ふうと一息つき、また苦い薬を飲んでから少し身支度して初めて部屋から出た。
部屋の感じからしてとても立派な屋敷だと思ったが、部屋の外の廊下を出てそれは確信に変わった。
私を助けた人はとてもお金持ちだ…。
フェアリーゼに抱き抱えられ、屋敷の主の元へと行き、1つの精密なデザインがされた扉の前で下ろされた。
わー……凄く綺麗な扉だなぁ。
そう思っていると、フェアリーゼは扉についてる石に手をかざし、「連れてきました」と言うと石から「承知した」と声が聞こえびっくりしてる間に扉が開いた。
え、え?それどうなってるの?
びっくりした状態で中に入ると、扉の横に剣を腰にさした男性が一人立っていた。
私を見下ろしている顔に表情はないものの、警戒と疑問が揺らめいている瞳をしていた。
「来たか。こちらに座りなさい」
男性から声がした方に顔を向けると、あの時助けてくれた人が立っていた。
……とても綺麗な顔立ちだけど、眉間にシワが寄っていてなんだか不機嫌…?
その後ろに人当たりが良さそうな男性も立っていた。
恐る恐る促されたソファーへ歩いていき座ると、男性は向かいのソファーに座り、人当たりが良さそうな男性は後ろに立ち控え、フェアリーゼはお茶を用意していた。
「体調はどうだ」
「…すごくいいです。今までこんなに体調いい事なかったのに」
「そうか、ならば良い。君は……リーシャと言ったか?」
こくりと頷き、机の上にお茶が着々と用意されていく。
「私はこの屋敷の主、ルーデルだ。君にはいくつか聞きたいことがある」
机に置かれたカップを持ちゆっくりと香りを楽しみ飲むと少し眉間の皺がなくなった。
…が、私の方に目線を戻す時には戻っていた。
「君は何故あの森にいた」
何故と言われても………
あの時は熱で意識が朦朧としててよく思い出せないし、思い出そうとすると白いモヤがかかったように何も思い出せない。
「…………よく思い出せないです。なんであそこにいたのか…私は部屋のベットからあまり動けなくて、いつも母さんが看病してくれてたんです。けど、目を覚ますとあの森にいてルーデル様に助けられてました」
そう言うと、より一層眉間の皺が深くなった。
この人そのうち皺取れなくなっちゃうんじゃない……?
「君がいたあの森は魔獣が出る場所だ。そんな所を子供がたった1人無防備にいては直ぐに殺されているだろう。しかし、私が君を見つけた時ディグルは君と一定の距離を保ったまま襲いかかろうとしていなかった。……一体何をした」
それこそよく分からない。
私に聞かれてもどうしようもない質問で、首を横に振った。
「私は何も分かりません。あの魔獣………ディグルが私に近ずきたくても近ずけない様子だったのは気づいたんですけど……私は何もしてないんです」
じっと真偽を確かめようと見つめてくる瞳に、負けじと見つめ返していると、ルーデルがふっ…と目を閉じ再び目を開けて「これ以上聞いても無駄のようだな」と言い、違う話に移った。
「君のその体調不良について話をしよう。
まず、君がどこまで知っているのか聞きたい。この世界が精霊によって成り立っているのは知っているか?」
さっきもフェアリーゼが言っていた闇の精霊とか言っていたあれだろうか………。その時初めて聞いた単語なのでもちろん知らないから首を横に振った。「…ということは、魔力というものがあるのも知らないということだな」と考えるように言いながら、ルーデルの後ろに立っていた男性がスッ…と何かを渡した。渡された物をテーブルに置き話し始めた。
「…これは魔力を測る魔術具だ。これをやる前に精霊や魔力について話をしておこう」
そう言い精霊や魔力の話を始めた。
長い話であったが、この世界は光と闇の精霊が水の精霊 リュールライセン、火の精霊 ボートリック、土の精霊 シャリルライン、風の精霊 フィーネリリーを生み出した。この世界は精霊たちによって魔力に満たされ、次第に魔力を持つ人間が出てきた。精霊達は意志を持つ生き物に魔力が宿ったと喜び、その者に色んな知恵を教えた。それが今の国王がその子孫だとか…。
「…話は戻るが、君の体調不良は魔力によるものだと思われる。これはその人物がどの程度魔力を持っているか調べられる魔術具になっている」
ルーデルはテーブルに置いた箱を開け、中心に置いてある大きな魔石を指差し、「ここに手を置いてみなさい」と言われ手を置いてみると、自分の中の何かが魔石に向かって吸い出される感覚がし、びっくりして手を離しそうになったが、ルーデルが私の腕を掴み「まだ終わってない」と睨まれ視線はまた箱に戻った。
すると魔石から魔法陣が出ると、箱を覆い尽くす大きさになり、私の手首まで上がってきた。ここまでにびっくりする事ばかりで、「ひえっ!」とか「わっ!」とか驚くたびにルーデルから物凄い眉間に皺を寄せて睨んで腕を離さないので、ちょっと涙目になりながら早く終わるのを待ってると、箱に入っていた大きな魔石の周りにあった魔石が浮かび上がり、魔法陣を囲むように次々動きながら青く光り定位置に着くとその場に留まった。
その数は12個でそれ以上は動かないのか残りは箱の中に戻った。ルーデルは特に反応はなく、魔法陣に浮いてる魔石をじっ…と見ていたが、周りは驚愕の声を上げていた。
「まさかこのような事が……!」
「………これは…凄いですね」
フェアリーゼたちが声を上げる中、ルーデルは私の腕を離し、私も魔石から手を退けると魔法陣はスーッと消えていき、浮いていた魔石は箱の中に戻って行った。
ギブアンドテイクな関係になりました。
リーシャの世界が広がった瞬間ですね。
今ちょっと訂正中です