観測記録6:黒傘雨葉編「十番目の傘と聖夜の約束を」
ケーキにチキン、それにオードブル
立派なもみの木に、作り出した星を飾ってこう叫ぼう
「メリークリスマス・・・はぁ」
今、何月だと思っているんだ。クリスマスシーズンにやる予定の観測記録を今更お出しするからって、倉庫に直したクリスマスツリーを出して来る羽目になるなんて
「・・・これもなにもかも、お節が悪い」
僕はそう言いながら、結晶の飾りがついた傘を手に取る
緑色の輝きを放つ結晶が飾られた道具だ
「美しいものは、常に誰かを殺している。人であっても、宝石でもあっても・・・理想でさえも。いつの時間でも、どんな世界でも・・・一人は必ず殺しているね」
数多の人間の色を奪い、死に追いやった輝きは・・・鈍くその輝きを見せた
「今回は、数多の人間を殺した石に生かされる青年の・・・少し昔のお話」
十番目の傘として選ばれた彼が、人であった時代の・・・
そして、小さなご主人様と過ごす、聖夜のひと時
「それでは、観測を始めようか」
十二月二十四日
白箱貴族お抱え料理人の俺・・・黒笠天羽は、今日も厨房の立ち入りどころか調理器具に触れることすら禁じられ暇を持て余していた
他の仲間も同じ。皆、こんな日にも料理長の横暴に付き合わされるのだ
「・・・はあ」
溜息は白い息に代わり、空へと昇る
仕方ない。やることもないし・・・あの子の元へ行こう
今日はあの子に文字の読み書きを教えた後、今日がどんな日か教えよう
同じく溜息を吐き続ける仲間に背を向けて、俺は廃棄区画への道を歩いた
その前に、本屋さんによって一冊の本を買う
彼女が好きそうな、生き物図鑑だ。結構お高いけど・・・
俺も白箱の貴族に使えているとは言え・・・賃金はさほど多いものではない
あまり多くの物を買い与えることはできないけれど、それでも今日は特別な日だから
贈り物用に包んでもらった本を抱えて、俺は再び道を歩く
そして、立入禁止と書かれている看板を無視して、柵の向こうに立ち入った
ここから先は廃棄区画。気を引き締めて行かないと
廃棄区画は、この白箱に住まう以上、収めなければいけない市民税を払うことができない人間が住まう無法地帯だ
俺たちが住まう第三白箱は、比較的マシな市民税
だからこそ、他の白箱の廃棄区画に住む人間はこの廃棄区画に住まう人間の事をこういうのだ
生きている価値のない、非生産物だと
いたるところに酔いつぶれたおじさんと、だらしなく倒れた女性
そして・・・死体が転がる道を抜けて路地へ入る
そこでたまに恐喝行為をしてくる人や、美人局とか、さらには水の人まで出てくるのだが・・・それをすべて無視して、俺は目的地へとたどり着いた
「こんにちは、一月ちゃん」
「・・・天羽お兄さん!」
「うん。久しぶりだね。なかなかこれずにごめんよ」
小さな彼女・・・・「十六夜一月」俺の顔を見て、凄く嬉しそうに俺に抱き着いてくれる
「今日はねー、三国と紳也も来てるよ!」
「どうも、お兄さん」
「こんにちは、お兄さん」
嬉しいよね、というような無邪気な笑みを浮かべる一月の後ろには、胡散臭い笑みを浮かべた三坂紳也君と、おっとりと笑う五ノ井三国君が立っていた
「こんにちは、紳也君、三国君。元気そうだね」
「はい。元気ですよ。一月ちゃん、僕らは家の事してくるから、ここで遊んでいられる?」
「うん」
「・・・一月、「積」に連れて行っちゃだめですよ」
「・・・わかっているよ」
紳也君に念押しされながら、俺と一月は二人の少年の後姿を見送る
彼らがいなければ、今すぐにでも彼女に普通の暮らしをさせるために俺と同じ場所に住まわせるための手続きをとっただろう
けれど、紳也君はそれを許さない。彼女の事を想うのなら、廃棄区画・・「淵」ではなく、一般市民の住む「積」に住まわせるのが一番のはずなのに
なぜ、妨害までしてくる・・・役所に手回しまでして、彼女に普通の暮らしを送らせない?
考えるたびに、気持ち悪くて・・・今では彼とは関りあいになりたくないと思うようになっていた
「お兄さん?」
「あ、一月ちゃん。うん・・・大丈夫だよ」
「あのね、僕、お兄さんに言われた通り、箱語?書けるようになった」
そういって一月は以前、俺が贈った紙束を取り出し俺に見せてくれる
子供の字だからまだ綺麗とは言えないけれど・・・ちゃんと文字として読める
「ええっと・・・あ、ま、は・・・俺の名前?」
「ん。早く書きたかった。その後ね、いつきって書いた。あってる?」
「うん。合ってるよ。凄いね、一月ちゃん」
五歳の少女は、想定していたよりも物覚えがいい
すぐに教えたことを吸収し、そしてそれを自分の形として蓄えて、出力する
とても賢い子だった。いつか、教えている俺自身が追い抜かれてしまうと思うほどに
だからこそ、常々思うのだ
彼女を、今のうちに普通の暮らしをさせてあげたいと
まともな教育を受けさせてやりたいと
彼女はきっと、いつか何かを成し遂げる人間になるだろうから
「お兄さん?」
「あ、ごめんね。どうしたの?」
「お兄さん、さっきから、ぼぼってしてる」
「ぼぼ・・・ああ、ぼーっとね。うん、少しだけ。でも大丈夫だよ」
小さな彼女を抱き上げる
「いつも通り、散歩しちゃおっか。二人には内緒だよ」
「うん!お兄さんのお家!」
僕は路地を抜けて、いつも通りバレないルートから廃棄区画を出ていく
少しだけ特別な一日は、こうして始まっていった
・・・・・
「出るなって言ったのに」
路地裏の影から二人を見ていた紳也は怒りをあらわにした表情で天羽を睨む
「紳也、一月の事を想うのなら・・・僕は天羽さんと一緒に暮らすのが一番だって思う。天羽さんは優しい人だし、何よりちゃんとお金も持ってる。一月も懐いているし、不自由をさせることはないんだよ?」
「それが気に食わないんだよ!」
同じく路地から二人を見守っていた三国はそう進言する
しかし、それは逆に紳也の心を逆なでする結果に終わってしまった
「・・・なんだ、ガキンチョ。金が欲しいのか?」
「娼館の親父か。俺も三国も・・・男娼になる気はないけど?」
「いやいや。そういう話じゃなくてな。ここ最近、三ノ久家から大きな依頼が廃棄区画宛に来たんだよ」
「・・・三ノ久?あの、貴族の?」
その名前を聞いて、三国はそっと紳也の影に隠れる
嫌な予感がしたから
「ああ。そこの主が気に入っている料理人が、最近廃棄区画をうろついているらしい。名前は黒笠天羽。知ってるか?」
「・・・いや、知らない」
情報を売ってもいいが、今は彼の側に一月がいる
まさか、若くして稼いでいる男だとは思っていたが・・・あの三ノ久の料理人だったとは
あの家のお抱え料理人は、素晴らしい腕を持っていると聞く
あの腑抜けた男からその要素は感じることはなかったが・・・事実であれば考えを改めなおしてやることもやぶさかではない
しかし・・・三ノ久が何を企んでいるのかわからないけれど、嫌な予感は紳也も薄っすらと感じた
「そうか。まあ、綺麗なおべべを着た兄ちゃんがきたら、間違いなくその黒笠って奴だろうさ。見つけたら連絡が欲しいとのことだ」
「見つかったらどうなるの?」
三国が恐る恐る、影から顔を出して男に問う
標的が自分でないことに安堵しているようだが、まだまだ彼の不安は拭えない
なんせ、産まれた時から面倒を見ている少女が彼の側にいるのだから
「さあ。けど・・・あの潔癖な三ノ久様の事だ。自分のお気に入りが最近、小さな子供向けの買い物をしていると聞いて・・・苛立ちを隠していないようだった。廃棄区画に隠し子か、お気に入りの子がいるんじゃないかって・・・。しかもそいつ、未婚だって聞く。前者だともっとヤバいな。使用人がそんな粗相をしていたと知ったら・・・殺すかも?」
そう言って、男は「見つけたら報奨金貰えるかもよ」といって、二人の前を去った
二人は、しばらく茫然と立ち尽くし、廃棄区画から出る道の方へ進みだす
彼の事はどうでもいい
それよりも、一月の無事を信じて・・・
・・・・・
一般市民の居住区である「積」
その小さなアパートの一室が俺の家だ
数ヶ月間、会っていない間・・・彼女は全くお風呂に入っていなかった
廃棄区画は好きに水が使える場所ではないから仕方ない・・・けど、流石にこれはどうかと思うのだ
早速お風呂に入れた後、ほくほく顔の一月ちゃんは俺のベッドの上でゴロゴロしていた
「お兄さんのお布団ふかふかかー」
「うん。しばらく寝てていいよ。その間にご飯作るから」
「ご飯!?」
その言葉は、一月ちゃんの眠気をすぐに覚ますほどの威力があったようで、彼女は目を輝かせてこちらへやってくる
「お兄さん、お兄さん!」
「なあに、一月ちゃん」
「いっちゃん」
「あー・・・はい。いっちゃん、どうしたの?」
一月ちゃんは、自分のあだ名である「いっちゃん」で呼ぶように俺に求める
二人だけの時。その名前で呼んでいいのは、俺と亡くなったお母さんだけのようだ
なんだか特別な感じを覚えて嬉しく思うが・・・紳也君の前では自慢できないな、なんて考えながら彼女を抱き上げた
「僕ねー、しちゅー!」
「シチューがいいの?」
「うん。僕ね、お兄さんのシチュー、大好き!」
一月ちゃんは楽しそうに俺の腕の中ではしゃぎ続ける
「うん。じゃあ、いっちゃんの為にシチューを作るね」
「やった!」
材料はまだあっただろうかと、食品を収納している箱を確認する
ニンジン、ジャガイモ・・・玉ねぎを手に取ると、一月ちゃんが凄い顔をする
まだ、苦手なのは治っていないらしい
牛乳もまだ残っているし、他のものも問題はなさそうだ
「いっちゃんはまだ玉ねぎさん苦手?」
「うん・・・」
「じゃあ、少し小さくしてあげるね。ニンジンさんと同じように」
「・・・頑張る」
「いい子だね。じゃあ、向こうで少し・・・あ、そうそう。渡すの忘れるところだった」
俺は一度、居間に戻って買ったばかりの本を一月ちゃんに手渡す
「これ、クリスマスプレゼント」
「クリスマス?何それ」
「ええっと・・・サンタさんが子供にプレゼントをあげる日、かな」
「お兄さんは、サンタなの?」
「俺はね、サンタさんからいっちゃんに渡してほしいって頼まれたんだよ。サンタさんも忙しい人でね。こうして、誰かにプレゼントを渡すのを代わってほしいって事前に頼みに来るんだ」
・・・とっさの嘘でも騙せただろうか、と考える
一月ちゃんの顔を見ると、初めて知った話だったのだろう
それはもう嬉しそうにはしゃいでいた
「そーなんだ!ありがと、サンタ!お兄さん!」
「サンタさんね・・・ほら、早速開けてみなよ」
「ん!」
俺がそう促すと、一月ちゃんは包み紙を乱雑に破り、本を取り出した
「・・・おさかな?」
「うん。お魚さん。シチューに入っているサケさんとか・・・ツナフレークになるマグロさんの事は知ってるよね。そのお友達が載っている本だよ」
「へえ・・・色々いるんだね。読んでいい?」
「うん。その間に、俺は料理をしてくるから、一人で待ってられる?」
「頑張る!」
「よし来た!じゃあ、いっちゃんの為に美味しいご飯を作ってくるね」
彼女が図鑑を見ている間、俺は再び台所へ戻って作業を行う
この白箱に、海という概念はない
だから、魚の図鑑と言っても実物を見ることは叶わない
今、俺が調理に使っている魚も・・・何百年も前に人類が残した保存食の一部
とても貴重で、限られた物なのだ
「ねえ、お兄さん」
「どうしたの、いっちゃん」
「海ってなあに?」
「さあ。水がしょっぱいらしいよ。箱の外にはあるらしいんだけどね」
けれど、何も生きてはいないだろう
なんせ俺たちは・・・全生物は・・・この箱の中でしか生きることが出来ないのだから
全てはあの、結晶塔と、それを囲う鉱石のせいで
「んー、じゃあ、そこにはたくさんお魚いるかな?」
「きっといるよ」
けれど、子供にそう伝えてもわからないだろう
彼女がもう少し大きくなって、物事を上手く理解できるようになったらきちんと伝えよう
この世界は、箱の外は・・・もう人が、生き物が住める場所ではないということを
「じゃあ、じゃあ、お兄さんといつか海に行こう!」
「俺と、海に?」
「うん。そこで、お魚いっぱい見て、食べて、遊ぶの!」
図鑑を大事そうに抱えた少女は俺に夢を語る
子供らしく、無邪気で何もわからないからこそ出てくる夢
包丁を置いて聞き言ってしまうほど綺麗な夢に俺は・・・
「うん。いいね。いつか行こう」
「どうやったらいけるかな・・・?箱、出るの難しいんでしょ?」
「そうだな・・・うん。いっちゃんが、研究者になればいいんだよ」
「研究者?」
「そう。箱の外を研究する人」
「そっか!頑張るね!でも、それだとお兄さんは・・・出られない?」
一月ちゃんはうんうん唸りながら、どうしたらいいか考える
俺はそれを微笑ましく見守りながら、調理を続けていった
やがて調理が終わり、完成が見えてきた頃
「そうだ!」
「どうしたの、いっちゃん」
「お兄さんはね、まず夢を叶えるの!料理で皆を笑顔にする夢!」
いつか、彼女に語った夢。まだ覚えてくれていたことに驚きと嬉しさがこみあげてくる
一月ちゃんはまだまだ止まらない
「それで、お兄さんは有名になるの!凄い料理人だって!それから、研究者になった僕が、お兄さんを指名して外に行くの!食材探し、その調理係で!」
「それは・・・」
無理かもしれないし、無理ではないかもしれない
やってみなければわからない、未来の話
「それはいいね。いつか、いっちゃんが指名しても恥ずかしくない料理人として名をあげるから・・・いつか、俺を迎えに来てよ」
「うん!その時は一緒にお外へ行こうね、お兄さん!」
嬉しそうに語る彼女の後ろで、扉のノック音が聞こえる
来客とは珍しい。何かあったのだろうか
コンロの火を止めて、俺は一月ちゃんに声をかける
「少し出てくるね」
「ん!」
そして、俺は玄関へと向かい、鍵を開けて・・・扉を開いた
それが、黒笠天羽としての最期の記憶となるなんて、夢にも思っていなかった
・・・・・
それから、十年の時が経った
あの日死んだはずの俺は、忌まわしいあの鉱石の力で十年前と変わらない姿のまま・・・この世界に留まっていた
「お兄さん、緊張していますか?」
「・・・三国君。うん、少しね。外に出るのは初めてだから」
しかし、彼らの時間は止まっていない。生きているのだから当然の話だ
白衣を揺らし、入り口の前に立つ三国君は、昔の呼び方で俺を呼ぶ
気が付けば彼に年齢を追い越されていた。今は二十四歳だそうだ
そうなると、ここにもいない紳也君も二十四歳か
あれほどまでに俺を嫌っていたはずなのに、生き返らせたのは偶然か・・それとも何らかの目的があったのか
それは全く分からない
そして、彼女もまた・・・
幼い面影はもうどこにもない。一人の少女は、大人になった
藤色の髪を揺らし、三国君と同じく白衣を羽織る彼女
「何をしているんだ、雨葉」
「・・・一月さん」
今の俺の一部である黒い傘を握り締めた彼女は、淡い青のリボンタイを掴みながら俺たちの前に現れた
足にはリボンタイと同じ色のリボンが結ばれている
十年前、足を怪我した彼女は自力で歩行するのが少しだけ難しい
だからこうして、もう一つの道具である彼の力を頼り、彼女は歩行機能を取り戻しているのである
「おい、雨葉」
「え、はい。なんでしょう」
「・・・具合はどうかと聞いているのだが」
「え・・・はい。すこぶる元気です」
「なら、いいんだ・・・」
彼女がすぐ隣にいたことに気が付かなかった
子供の時のように頬を膨らませて、不機嫌そうに俺を見た
反応が遅れた理由はただ一つ。名前が違うからだ
雨葉は今の俺の名前
本名を伏せておかないと・・・俺たちは死んでしまうらしい
だからこうして、新たな命を与えられたと同時に、人造生霊としての名前を俺たちは与えられた
改めて・・・俺は黒傘雨葉。十番目の傘として蘇った人造生霊
今はいっちゃんを、一月さんを主として彼女を支えている
十年という時は、人を大きく変えるのにとてつもなく長い年月だった
あの時の素直ないっちゃんはもうどこにもいない。世界を救うために、身を粉にして研究を続ける十六夜一月は、俺の夢を、自分なりの形で受け継いでしまっていた
俺の「料理で皆を笑顔にする夢」は一月の中で「研究で皆をこの歪んだ世界から解放させる夢」として彼女の中に存在していた
「一月さん!三国さん!そろそろ時間です!」
その後ろから、一通りの準備を終えた研究者の四十万浩二君が慌ててやってくる
そして、三国君と浩二君の道具である彼らも、そして一月のもう一つの道具である彼も合流したら・・・準備は整うのだ
「・・・雨葉」
「なんでしょうか。博士」
「・・・僕はこの世界を救うよ。必ず」
「・・・その夢を叶える日を目指し、俺も共に行きますよ、博士」
扉が開く前に、自分に言い聞かせるように彼女は語る
その夢を、俺は側で叶えたい
「今度はな」
「・・・!」
五歳の時の記憶を保持しているのか、それを聞こうとしても彼女はきっと答えないだろう
むしろ、俺の立場が悪くなる
今、彼女に生前の記憶がある事を指摘されるのは俺としても都合が悪いのだから
「さあ、行こう。雨葉・・・ここから先は、気を抜いたら死んでしまう。必ず守ってくれよ。命には代えるな。三人揃って生き残ろう」
「はい。博士。必ずお守りします」
首飾りとして身に着けている、緑色の光が輝く
そして、一月ちゃんは俺の媒体である傘を構えた
ここから先は、箱庭の外
かつて語った夢のような・・・のんびりとした探索ではない
これは、命を懸けた探索だ。のんびり観光なんてほど遠い話だ
「行こう、雨葉!」
「はい!」
二人揃ってあの日語った外の世界への道を、同時に一歩踏み出した
「おいおい、置いて行くなよ。お嬢様、十番目・・・」
包帯を巻いている青年・・・七中理一郎は、面倒くさそうに彼らの後を追う
「保護者は大変だね・・・」
「けど、理一郎が振り回されているのは面白い。行こう、三国」
三国と、彼の道具である十字架の銀さんはその後をのんびり進んでいった
そして・・・
「さあ行くぞ!お前も外でみっちり鍛えてやろう!早くその軟弱繊細な思考を捨て、俺の主に見合うだけの男になれ!」
「ちょっ、俺は見送り予定だけだったんですけど!?何勝手に連れて行こうとしてるんだ馬鹿御風えええええええ!?」
帽子の御風さんと、彼の主である浩二君は、二人の後を不本意な形で追うことになる
その先で何が待っているのかは・・・また、別のお話
「はい、観測終わり。お疲れ様」
残りはケーキだけとなった、クリスマス仕様のテーブルは少しだけ味気ない
「天羽さんはあの直後に殺される。そして庇護を失った一月さんは足を潰され、消えない傷を抱えてしまった」
そして、その十年後に・・・何の運命かわからないけれど、彼らは再び巡り合う
その再会が良きものなのか、悪いものなのかはわからないけれどね
「・・・あの、観測記録を受け取りに来ました」
「ああ。お疲れ様。はい、これ。残り物だけどね」
「は、はあ・・・」
観測記録の回収に来た彼女に、ケーキの一部を手渡す
イチゴのショートケーキ。彼女のお気に入り
「・・・ありがとう、ございます」
そう言って、彼女はそそくさと部屋を出て行く
僕はこっそりその後をつけてみた
・・・フードを外し、そのケーキを美味しそうに廊下で頬張る彼女
「んー!やっぱり、譲さんの作るケーキは美味しいです!一つというのは、凄く残酷ですね。もっと食べたいのに!」
「・・・それに、周りの子にバレたら、怒られちゃいますし。ここで譲さんが来るかもしれないという危険を冒して食べなければいけないというのは、やはり・・・んぐ!」
「でも、でも、美味しいです。もう何個でも行けちゃいますね!」
「そう?じゃあ、おかわりいっとく?」
さりげなく持ってきておいたケーキを彼女に手渡す
僕が隣にいることに気が付かない彼女は、何の疑いもなくそれを受け取った
「わー!ありが、え・・・・」
そのケーキを口に入れようとした瞬間、彼女はその異常に気が付いた
ゆっくりと、視線を僕に向ける
「久しぶりだね、時雨ちゃん。今日は逃がさないよ?」
「・・・・・やられた」
「やられたって、人聞きが悪いなぁ。君が引っかかっただけなのに」
彼女のマントを掴んで、もう一度観測部屋に連れ込んでいく
「さて、こんな風にあとがきで僕らのお話も進んでいく・・・のだけれど、この続きはまた今度かな。それではまた明日!」