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図書館と観測者のブレイクタイム!  作者: 鳥路
第二章:紅鳥と友愛の観測記録
25/33

観測記録19:巽夏彦編「神語りと雛罌粟の約束」

「やあ、ここでは久しぶり。元気にしていたかい?椎名さんちの譲だよ」

実に半年ぶり。え、つい最近会ったじゃない?いや、気のせいだよ?紅葉の誕生日をお祝いする中、気が緩んで大爆発起こしたり、失言して双子の心をキャッチしたりとかしてないよ?

「十二月になってしまった。最近おサボりが激しいのではなくて?あはは、あの子は現在進行形で社畜だからね。早起きして他部署の仕事手伝いだったり、午前中の業務を潰してお掃除手伝いに行ったり・・・で、止めに残業して通常業務みたいだから・・・」

「・・・ボーナス、欲しいな」

「・・・はっ、なんか変なものが憑依した気がする!?憑依してはいけない概念が、出てきてはいけない例のアレが出てきた気がするよ!?」

・・・まあ、そんな話は置いておいて、今回は自称神様と暮らしていた社畜だった神語りのお話

あの物語が始まるきっかけになる例の置物の購入話

一人の神語りと、神様の修学旅行と、とある約束を果たすまでのお話だ

「それじゃあ、観測を始めようか!」

夏彦が、うちに来てから一年が経過した


あの子の境遇のこともあるし、俺は学校側にも事情を話して、定期的に学校側と面談をさせてもらっていた

あの子は学校のことを話してくれない。そもそも、誰とも話してくれないのだ

だからこそ、俺たちがあの子の学校生活を知るためには学校と話さなければいけない


中学二年生になったあの子は、ベテランの先生が担任になった

正確には担当、というべきか

特殊な境遇のあの子には、過去「そういう生徒」を多く見てきた先生がついてくれている


「巽さん」

「ああ、先生。こんにちは。今日もお願いします」

「最近、夏彦君は自宅ではどんな様子でしょうか?」

「全然です。少しでも話したいとは思っているのですが・・・なかなか」

「では、もしかして・・・修学旅行が一週間後に控えているという話も、本人の口からは聞いていなかったり」

「そうですね。家内と二人、先生から頂いた用意するものを揃えているのですが・・・行く気は全くなさそうで、どうしたものかと」

「私が当日、ご自宅まで迎えに行きます。嫌がられるかもしれませんが、それでも私が巽君と修学旅行を楽しみたい。同時にたくさんの思い出を作って欲しいと思いますから」


これが、あの子が中学校の修学旅行に行くまでの「過程」

引き取られたばかりで荒んでいた孫である巽夏彦の修学旅行

そこで得たものはあの子の糧になり、同時に

二階堂鈴が、彼の側に寄り添えるキッカケを得る思い出話だったりする


・・


俺が悪い子だから、置いていかれた

喋ったから、ダメだったんだ

ご飯を食器で食べていいよと言われても、本当はダメだったんだ

言うことを理解できないから、捨てられたんだ

あの人たちにもたくさん迷惑をかけたから、いらない扱いをされたのだと思う

だから今、また俺はどこかに連れて行かれる


今度はどこへ行くのだろうか。お母さんとお父さんが待っている場所だろうか

そんなことはないだろう。俺は悪い子だから置いていかれたのだから・・・

二人が、俺を迎えに来てくれることはもうないだろう


じゃあ、どこへ行くのだろうか

・・・いらない子供を消す場所だろうか。その方が楽かもしれない

きっと、俺は生きていてはいけない人間なのだろうから。消された方が凄く楽だ


「・・・」

「夏彦、ほら、ご覧。景色が綺麗だよ」

「・・・」


みたこともない乗り物に乗って、どこかへ向かう

今日は、学校に行ったらいつも話しかけてくる男の人と一緒

施設の人とは違う、どこか友好的なその性格は・・・嫌いではないけれど

彼の言葉に、どう返すべきなのかわからなくて今日もまた、俺は口を閉ざしたまま彼の声に耳を傾けた


「興味、ないのかい?」

「・・・」


興味はある。どこに連れていかれるか、気になるから

けれど、聞いていいものなのかわからない


「それとも、お腹が空いたのかい?」

「・・・」


お腹は空いていない。そもそも、用意される食事は俺が食べていいものじゃない

お箸もあるし、食事は全て個別に用意された容器・・・お皿に、乗せられているのだから

俺が、食べていいのは床に置いてあるものだけなのだから


周囲はそれが「おかしい」と言う

お箸で食べていいと言うけれど、使い方がわからない

今まで通りに食事を出して欲しいのに誰も出してくれない

だからきっと、食べてはいけないのだ


「・・・制服、ぶかぶかだね。平気かい?」

「・・・」


首が締まる服を着せられた

周囲も同じような服を着ている。これは一体なんなのだろうか

しっかりした生地で作られているけれど、これは本当に俺が着て良い服なのだろうか


「本当に君は、お喋りをしないね。たくさんお喋りしても良いんだよ。たくさん君の声を聞かせて欲しい。咎める人なんて・・・」


ふと、彼の手が顔に、頭に伸びてくる

ああ、口ではそう言いながらも咎めるのか・・・この人は

諦めて目を閉じ、もう少ししたらやってくる痛みを耐える為に歯を食いしばった


「・・・ごめんね。怖かったね。頭を撫でようとしただけだったんだけど」

「・・・」

「ほら、夏彦。もう少しで京都だよ。先生と一緒に金閣寺を見て、清水寺に行って・・・って言ってもわからないか。パンフレットには目を通したかい?」

「・・・」

「ああ。そうか、君は字が読めなかったね。すまない。配慮し切れていなかった」


そう言って彼は、パンフレットを開いて「ここが金閣寺」「ここが清水寺」と写真を指差しながら、俺にこれから向かう場所を教えてくれる


実のところ字は、少しだけなら読める

最終目的地はどうやら清水寺らしい

清水の舞台から飛び降りる・・・俺、ここで処分されるのかな

再現をしてみようとか言って、清水の舞台から飛び降りることになるのだろう

・・・痛そうだなぁ。痛いのは嫌だなぁ


それに、写真に「それ」も映り込んでいるから尚更行きたくないし・・・

そう考えながら、目的地までの道中を過ごす

先生の話は、全く頭の中に入ることはなかった


・・


それから、俺は手を引かれつつ観光地を回っていく


「飲み物を買ってくるからここで待っていてね!」

「・・・」


そう言う先生を見送りながら、俺は近くの階段に腰掛けた

人が多い。うるさい、気持ち悪い・・・

変なのも沢山いる。頭に矢が刺さっている鎧の人もいるし・・・なんなのここ


「「はぁ・・・・」」


溜息を吐くと、同時に誰かが溜息を吐いた

隣には、着物姿の女の子。黄金色の狐尻尾とケモ耳付き。あ、これやばいやつだ

見なかったフリをしてその場から動こうとするのだが、そういう類の方々は勘が鋭い

見られていることなんて、すぐに気がつくのだ


「おい、人間。見えているな」

「・・・」

「しらばっくれるな、目が泳いでいるぞ!」

「・・・見えてるし、聞こえてるから。怒鳴らないで。怖い」

「あ、ああ・・・わかった。こちらも人から見られると思っていなかったので冷静さを欠いてしまった。非礼を詫びよう、神語り」

「神・・・何?」

「神語り!神様と話せる人間って凄く珍しい。だからそれをできる人間を総じて私たちは神語りと呼んでいるの」


「なるほど・・・ところで、君はどこの神様?」

「神様だってわかるの?」

「・・・うん。多少はね。幽霊とは、なんと言うか、オーラが違うから」


それに君、神様と話せる人間って表現したばかりではないか

人間は一応俺だとして、神様の部分に当てはまるのは目の前にいる彼女しかいない


しかし、なんというか神様相手なら、スラスラと言葉が出てくる

向こうもまた、厳格な口調ではなく少し砕けた口調で俺に話しかけてきてくれた


かつて、父さんは言っていた。神様は人を差別することがないと

だから俺みたいな存在でも、普通に話してくれる

人みたいにたくさんの制限が設けられていないから気を遣わなくて良い分、凄く楽だ


「オーラが違うって、何それ。確かにそうだけど、表現が面白いや。流石、天照様のお気に入りだね」

「?」

「あ、ううん。こっちの話。改めて、君の名前を聞かせてもらって良いかな?」

「俺は巽夏彦。よろしくね、神様」

「私は雛罌粟ひなげし。豊穣の神様やってます。まだ新米だし、小さい神様だけどね」


神様と握手して、挨拶はおしまい

雛罌粟は耳と尻尾を嬉しそうに揺らしながら、人間と友達になったー!なんて喜んでいる

俺なんかでも、喜んでくれるのか・・・なんだか申し訳ない


「ねえ、夏彦はどこから来たの?ここは観光地だからよく色々な土地の人が来るんだ」

「そう、なんだ。でも、ごめん。俺、どこから来たかわからなくて。地名とか、そういうのまだわからないんだ」

「そっかー・・・でも、ここには旅行で来てるんでしょ?」

「うん。修学旅行で」

「修学旅行!でも、同じ制服の人、いないね・・・はぐれちゃったの?」

「ううん。クラスメイトとは、別行動。俺だけ、先生と二人」


事実を告げると、雛罌粟は少し悲しそうな視線を向けてくる


「・・・ハブなの?」

「違う、とは言い切れない。ただ、その・・・俺は、普通じゃないから」

「普通じゃないって・・・確かに、神語りは普通じゃないけど、それ以外は全部、夏彦は普通の人間と大差ないと思うよ・・・?神様のお墨付き!」

「そう言ってくれるのは嬉しい。でも、俺は皆みたいに、良い子じゃないから。だから父さんも母さんも俺を捨てて、爺ちゃんも婆ちゃんも・・・多分、いらないって思って」

「・・・そんなことないと思うな」


雛罌粟は俺の手をとって小さく笑う


「修学旅行は、思い出作りの行事なんだよ。確かに夏彦の修学旅行は普通のそれじゃないけれど、君のお爺さんとお婆さんは決して、君をいらないなんて思っていない。もしもそうなら、修学旅行なんて行かせてくれないよ」

「・・・?」

「あ、わかってないね。旅行に行くのにはお金がたくさんいるんだよ。夏彦のことが嫌いだったら、そもそもお金を出して旅行に行かせようなんて思ってくれない。それに、荷物だって買い揃えてくれてるだろうし・・・だからね!」


ふんわりとした尻尾が俺に巻きついてくる

黄金色のそれで包んでくれた神様は、優しい声で言葉をかけてくれるのだ


「だからね、自分のこと、いらないなんて思わないでよ。大丈夫。君のお爺さんとお婆さんは君のことを大事に思ってくれているんだから。何があったかは知らないけれど、いらない扱いは絶対にされてない。これは、神様のお墨付き」

「じゃあ、俺はなんでここに・・・」

「だから最初に言ったでしょう?修学旅行は、思い出を作る行事なんだよ?お爺さんとお婆さんは、夏彦に遠い地へ旅をしてもらって、たくさんの思い出を作って欲しかったんだ」


「・・・じゃあ、どうしたら、喜んでもらえると思う?」

「思い出を作れば良いんだよ。二人に沢山の思い出を持って帰って、君の口からそれを話せば良いんだ。お土産とかも買ってね!」

「・・・どう、楽しめば良いかわからない」

「君は「よくある質問」の質問者側みたいにぽんぽん質問が出てくるね・・・。しょうがない!私が一肌脱いであげようじゃあないか!」


そう言って雛罌粟は俺から少し距離をとって宙返り

その瞬間、周囲に煙が舞い、その中心に一人の女の子が現れる

耳と尻尾がなくなった、黄金色の女の子。服装も、うちの学校にいる女の子が着ているようなセーラー服

耳も尻尾もないけれど、目の前にいる人物は間違いなく雛罌粟だ


「どう?人間擬態版。たまに視察とか、兄様のところにいく時とかに使ってるんだ。今回はこの擬態版で夏彦と修学旅行を過ごす!そして私は君の思い出作りに協力する!どうかな?」

「手伝ってくれるのは、とてもありがたい。お願いします、雛罌粟」

「うん。でも、人間版で雛罌粟は堅苦しいから雛って呼んでよ、夏彦」

「夏彦―・・・おや、君は?」


一通り話を終えると、先生が戻ってくる

そんな先生は不思議そうに雛罌粟を見るが、彼女はそんなことを気にせず堂々と人としての自分を名乗り始めた


「私、稲荷雛。この子が座り込んでたから心配で声をかけていたの。それで仲良くなって、修学旅行で来てるなら、地元だし観光案内ぐらいはできるよーって話をしていて・・・」

「話・・・そうなのかい?」

「うん。だよね、夏彦」


雛罌粟の言葉に、俺は無言で数回首を縦に振る


「ありゃ、さっきまで普通に話してくれていたのに。もしかして人見知りなのかな?」

「稲荷さん。気持ちは嬉しいんだけど・・・君、学生だよね?流石に頼めないよ。ありがとう。気持ちだけ受け取らせてもらうよ」

「あ・・・」

「夏彦、具合が悪いのなら予定を切り上げて宿泊先に向かおうか。慣れない土地で疲れたんだろう」

「・・・」


そりゃあそうか。今の雛罌粟は神様じゃなくて人間で、しかも学生にしか見えないのだから

先生が、一緒になんて許可を出してくれるわけがないか

しかし雛罌粟は諦めない

人から神様に戻って、俺だけにしか見えない状態に戻る


『思い出、この姿でも作れるように頑張るからね!』


それから雛罌粟はそう言ってくれ、ついてきてくれた

既にこうして「俺のことを気に掛けて、思い出作りを手伝ってくれる神様と巡り合えた」時点で俺にとっては大きな思い出と断言できる


なんせ、この出会いと、最後のお土産購入以外俺はなに一つ覚えていないだから

思い出した今でこそ言えるが、俺はあの後熱を出して寝込んでしまっていた

おそらく、神語りの影響だろう。小さい神様と言っていたが、人に化けられる時点でかなり高位だったはずだ

それでごっそり体力が削られてこうなったのではないかと思う


なにも覚えていないことに対して、俺に沢山よくしてくれた先生には申し訳ないと思う

中学校のアルバムも何もかも、昔の記録は高校進学前に処分してしまったから先生を追うものは俺の手元には残っていない

今、彼は元気にしているのか、それすらもわからない

それだけは、本当に申し訳ないと心から思う


・・


修学旅行の大半を休んで過ごしていたらいつの間にか最終日になっていた

お土産を買おうと先生に誘われて俺はこっそりついてきてくれている雛罌粟と三人でお土産コーナーに向かって行った


「どれを買うべきだろうか」

「中学生のお子様らしく、ああ言うドラゴン短剣じゃない?」


雛罌粟が案内したのは、ストラップコーナー

俺でも見たことがある八ツ橋を被った猫とか、五重塔と一緒にいる狸とかではなく、ドラゴンの剣を勧めてきた


「定番なの?」

「夏彦ぐらいの年代なら定番」

「本当かな・・・でも、俺はこっちの方が好きだよ。置物」


そう言いながら俺は、近くに置いてあったドラゴンの置物を手に取る

造詣とか、そういうのはわからないけれど・・・なんとなく、格好いい

よく見れば、ドラゴンは手に丸い石を持っている

赤に黄色、緑に・・・沢山の色があるようだ


「恋愛運、金運、健康長寿・・・ああ、よくあるお守り系のあれね。効果ないよ、これ。神力がないからね!」

「・・・」


知りたくなかった、そんなこと・・・

見るからにしょんぼりした俺に気がついて、雛罌粟は慌ててフォローを入れてくれる


「だ、大丈夫!神力ぐらい私がちょちょっと吹き込んであげるから!どれにする?やっぱり金運?それとも、優しい女の子に巡り合えるように恋愛運!?」

「・・・健康長寿がいい。それを、お爺ちゃんとお婆ちゃんに、渡す」

「二人に長生きして欲しいんだね」

「・・・ん」

「それ、買っておいで。部屋に帰ってから力を込めるから」

「わかった。ありがとう、雛罌粟」


それから俺は、それと八ツ橋をお土産コーナーで購入してから部屋に戻る

戻っていた雛罌粟に、置物へ力を込めてもらいつつ・・・最後の話を始めた


「ねえ、夏彦」

「なに?」

「私、これが終わったら家に戻るね。明日はバタバタするだろうし、お見送りにはいくけれど、こうして話すのは最後ってことで!」


しんみりとさせない、明るい空気で彼女は別れを告げる

寂しいけれど、これでいい。今生のそれではないのだから


「うん。色々ありがとうね、雛罌粟。俺の看病まで」

「まあ、慣れてないんだから仕方ないよ。それよりさ、夏彦」

「ん?」

「いつか、大人になったら今度はちゃんと旅行をしよう?私、今度はちゃんと案内するからさ。沢山、色々な場所を回って、思い出を作ろうね」

「わかった。約束」


「それと、できれば・・・おめでたい瞬間には顔を見せたいかな。豊穣の神様だけど、生活を豊かにする程度の加護は付与できるから」

「おめでたい・・・うん。もし、そんな瞬間がきたら絶対に雛罌粟を呼ぶよ」

「ありがとう。約束ね!」


当時の俺は、そんな未来はこないだろうと思っていた

だからこそ、一つここでミスを犯してしまっている

そう、彼女が住んでいる社の場所を聞いていないのだ


それに気が付いたのは、一ヶ月前のこと

おめでたい瞬間の約束を果たす為に慌てて雛罌粟を京都に探しに行こうとしたりしたのだが・・・思えば、彼女の兄は新橋神社の神様だ

彼経由で雛罌粟に連絡を取って貰い、約束を取り付けてもらった

そして今日、俺たちはその「おめでたい日」をする為に、新橋神社へと向かう

当時の俺が見たらひっくり返りそうな光景だと言えるだろう


「夏彦、何笑っているの?」

「ああ。今の俺を雛罌粟が見たら、驚くだろうなって思ってさ」

「前、話してくれた置物を買うきっかけになった神様?」

「そう。今日、お兄さん経由で呼んでいるんだ。鈴も会えると思う」


階段を上りながら、これまでのことを振り返りつつ歩いていく

誰からも必要とされることがないと思っていた

誰からも愛されることがないと思っていた

これからも一生一人だと、悲観したこともあった

そんな俺を、必要だと、大好きだと、一人にしない、一緒にいてくれると言ってくれる人が現れるなんて、思っていなかった


雛罌粟、俺は君にお礼をもう一つ言わなければいけないんだ

それは、君と再会した時に言葉にしよう

頭の中に告げるべき言葉を巡らせながら、進んでいく

彼女たちが待つ、あの場所へ


・・


「雛罌粟、この日に絶対、私の社へ遊びにおいで」

兄様からお願いというか、命令のような感じで私は兄様の社である新橋神社へと訪れた


「兄様、今日は何かある日なの?」

「黙って待っていなさい。ほら、来たよ」


階段を上ってやってきたのは、二人の夫婦

山吹色の髪は少し懐かしさを覚えてしまう

スーツをきちんと着こなした彼は、着物姿の女性と共に社の敷地へ足を踏み入れた

よく見ると、青緑色の髪を持つ女性の腕の中には小さな赤ん坊がいる


「お宮参り・・・?でも、ここは」

「最近は土地とか、祀ってある神様に関係ないそうだよ。彼がここを選んだのは、自分の伴侶が人に戻った場所であり世話になった場所というのも大きいが、何よりも、お前の兄である私がいるからと神語りの彼は述べた。そして同時に、私にお願いしてくれたんだよ」

「・・・神語り、まさか」

「そう。おめでたい日を、約束していたから・・・できれば、お前を。雛罌粟を今日、この日に呼んで欲しいと・・・おや、最後まで話を聞かず降りていってしまった。そこまで会いたかったのかい、雛罌粟?」


兄様の言葉を最後まで聞かず、私は三人の親子の前に降り立った

女性の方は驚いていたけれど、男性の方はそれがわかっていたように小さく笑う

ああ、とても大きくなった

それに笑えるようになっている

体つきも、痩せ細っていた同時に比べてしっかりとしたものになっている


「久しぶり。雛罌粟。京都にいく約束はまだ果たせそうにないが、こっちの約束は果たせた」

「久しぶりだね、夏彦。大きくなったね。あんなに荒んでいた君も、もうお父さんなんだ」

「ああ。君のお陰なんだよ、雛罌粟」

「私の?でも、修学旅行のあの日から私、君とは一度も・・・」


夏彦はポケットの中からそれを取り出す

あの日、私が神力を込めたドラゴンの置物だ


「お礼を言いたいことがあるんだ。一つは、君が込めてくれた力のおかげで、祖父は九十九歳まで生きられた。ありがとう」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんと、修学旅行のことは沢山話せた?」

「情けないことに生きている間は修学旅行の話どころか、普通の話すら全然・・・でも、神語りで、最期は話せたよ」

「そっか。それでも、話せなかったあの時よりは沢山成長できたんだね」

「ああ。それと、もう一つ」

「もう一つ?」


他に、何かしたのか覚えていない

あの時の私は健康長寿の力を置物に与えただけだから・・・それ以外の作用はないはずだ


「この置物のお陰で、鈴と・・・妻と出会えたんだ。出会いは少し特殊だけど、きっかけはこれだったと断言できる。ありがとう。君がこれを買うきっかけだったから、お礼を言いたかったんだ」

「そっか。じゃあ、どういたしましてを返そうかな。でも、君たちがその形に治まったのは君たち自身の力なんだから、それに関して私にお礼をいうのはナシね」

「わかった」


隣にいる女性・・・鈴は私と視線があって直ぐに小さく会釈してくれた

この子も色々と大変だったと竜胆から聞くが・・・こうして、幸せそうに笑っているのだ

今は夏彦にとっても、彼女にとっても・・・幸せな時間のはずだ


「ねえ、夏彦。子供は神語りが使えるのかな」

「おそらく。竜胆の話だとこの力は長子に遺伝するそうだ。だからこの子は君やお兄さん、他の神様にもお世話になるかもしれないし、何もないかもしれない」


腕の中で無邪気に笑う女の子

まだ、その目に映る全てが「ある」ものだと認識しているのだろう


彼のように力が強すぎる神語りはもうあまり存在しない

けれど、その力を継いでいる彼女は同じようにその強すぎる力を持て余したりする可能性もある

かつて、神語りが上手くできなくて精神に異常をきたした能力者を何人も見てきた

だからこそ、そんな人間をもう増やしたくはないと思う

何よりも、大事な友人の子供でもあるこの子にはそんな目にあって欲しくない


「でも、君の子供だもの。しっかり見守らせてもらうよ。悪いことがないように、越権行為と言われない程度に」

「ああ。日向のように、もう二度と目の前に現れてはいけないなんて規則が作られない程度に頼むよ。どうか、この子を、夏鈴のことを・・・見守っていて欲しい」

「うん。約束するよ。夏彦。私はいつだって、その子の成長を見守っている。たとえ遠くにいようとも、危機があれば真っ先に駆けつけるから」


あの時のように、笑いかけながら・・・あの日、京都で出会った少年が大人になって手に入れた家族を祝福する

これからも、三人が笑っていられるように祈りを込めながら私は彼らの子供の額に口づけを落とした

約束の加護は、本来なら夏彦とその伴侶に渡す予定だったのだが・・・こうして会えた今、加護を与える人間は一人しかいない


「沢山愛されて、沢山幸せを得て、毎日健やかに過ごしてね、巽夏鈴」


そう、小さな祈りと共に私と彼の再会は果たされた


もう一つの約束が果たされるのは、この時赤ん坊だった夏鈴が中学生になる頃

そして彼らの間に生まれることになる双子の男の子が小学生になった頃


神語りの夏彦と夏鈴、元神様の鈴

そしてそんな二人の間に生まれて、力はないけれど視える鈴彦と雪彦

京都に訪れてくれた巽家の観光案内を私が引き受けることになるのは遠くない、未来のお話だったりする

「観測終了だね。お疲れ様でした」

久しぶりの観測だから、なんというか、変な気分だったり

「雛罌粟さんのお兄さん、花菱さんは夏彦さんの初詣に当たる回に出ていたりするよ。正確には、半透明がタイトルに入っていた回だったと思うな」

「それから、先生の名前は五十嵐公孝さん。いつか彼もどこかでもう一度出てくるはずだよ。次は、黄金色の少女の元に向かうことになるのだから、そう遠くないうちにまた会えると思う」

「観測記録は今月もう1話あったりするよ。また明日会えると嬉しいな」

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