観測記録18:星月悠翔編「時越えアイドルと時間旅行直前金策プロジェクト(前編)」
「ついに始まってしまいました。観測記録第二章。今日は少し真面目に前置きを始めるよ」
本編に関わったり、はたまた全然関わらないお遊びをかまして早十八回目になりました」
ここまでお付き合いいただきありがとうございます
お察しの通り、ハードディスクに眠ってる子たちの分もやる気なのでこれからもお付き合い頂くことになるかと思うかな
「あの子から退路を断つために始めたんだけど、退路がないと理解してふざけ始めるのはどうかと思うよね・・・後でお叱りをしておくから、安心してね」
さて、今日は・・・第二章一発目だし、遊び度が近い観測をして行こうかな
「・・・本編に関わると言えば関わるけど、空気が合わないからこっちでやるらしいね。まあ、納得だけど」
今回の対象は星月悠翔君。僕の友人である彼方さんの知り合いで、今注目のアイドルだそうだよ
そんな彼の裏の顔は時間旅行をする飛行船を指揮する立場にいる特殊な作り物
これは、そんな彼と三人の乗務員が織りなす・・・金策のお話
「それじゃあ、観測を始めようか!」
ある初夏のこと
「悠翔、こっちに来なさい」
「なんですか、お父さん」
戦時中に生まれた私は、兵器工場で働く父とその中で暮らしていました
私は、この外に許可なく出ることが許されません
それは簡単な理由です。私がこの工場の所有物だから
私は兵器として作られました
低コストな人造生命体。殺すことだけを目的にした量産型兵士・・・その実験体の一人として、私「ラインハルト・スターカイン」は生まれたのです
なぜ日本名ではなく「ラインハルト」が商品名なのかと問うと、その名前はどうやらお父さんが好きな小説の主人公だとか
境遇が似ているから、その名前をもらったそうです
「今日も冒険譚を聞かせよう。俺が覚えている範囲になるけれど・・・」
「ラインハルトの冒険譚ですか?」
「ああ」
百人いる小人のラインハルト。彼らは理想の住処を求めて様々な国を旅します
しかし、九十九人のラインハルトとは異なり、一人のラインハルトは他の子とは同じではない思考を持ち、その旅から離れてしまうのです
私が星月悠翔と名付けられているのは、そんなラインハルトに擬えているからとか
私は、この名前が大好きです
例え作られた存在でも、お父さんの息子のように思えるから
愛されていると、思えるから
「お父さん」
「なんだい?」
「ラインハルトは、どうなるのですか?」
「ちゃんと話すから急かさない」
お父さんの手が優しく僕の頭を撫でてくれました
それから、お父さんはまた一つ、ラインハルトの物語を語ってくれます
残念ながら、お父さんの口からその続きを聞くことは叶いませんでした
この後、大きな戦いがあり、私は兵器として戦場に駆り出されてしまうのですから・・・仕方のない話です
兵器として生まれたのですから、本望と言えるでしょう
戻ったら、続きを聞きたい
その一心だけで戦い続けました
数年後、生きて戻れた私は・・・真っ先に家であった兵器工場へ向かいました
しかし、そこには何もありません
話によると、空襲にあってしまったらしく・・・
父は、倒壊した建物の下敷きになって死んでしまったと父と共に兵器を作っていた朝比奈巴衛に聞きました
「悠翔、博人はどうだった?」
「朔也・・・」
同じ戦場を駆け抜けた友人であり、お父さんの話し相手にもなってくれていた一ノ瀬朔也は両親に挨拶を済ませてからここに駆けつけてくれた
彼もまた、お父さんに会いたい人だっただろうから
「朔也。よかった・・・お前も無事で」
「巴衛・・・!お前こそ無事で何よりだ!このあたり空襲が酷かったと聞いていたから心配でな。それで二人とも、博人は・・・」
「お父さんは・・・もう」
「・・・そうか」
これが、戦争なのだから仕方ない。生き残れたことはとても幸運なのだ
お父さんは、幸運じゃなかっただけなのだ
やるせない思いはどこにもぶつけることはできない
腰にかけた二つの短剣の柄を握りしめた
「・・・続き、聞けませんでしたね」
ふと、顔をあげる
朔也も巴衛も泣いてお父さんの死を悲しんでいるのに
・・・何も感じられないのは、どうしてか
きっと私が人の心を持たない兵器だからでしょうね
・・・ごめんなさい。お父さん
僕はお父さんの「作りたかったもの」にはなれそうにありません
・・・・・
それからまた数年経過しました
戦争が終わり・・・それぞれが別の道を歩むことになりました
私は「ある方」のお願いで、手始めに巴衛と共にあるものを作り上げました
その前に一つやることがあったのですが・・・こちらはまた別のお話にしましょう
軽くお話しすると、私はまず巴衛を脱獄させなければなりませんでした
巴衛は数年前、殺人の罪で投獄され、死刑を待つ運命にありました
しかし、目的を成すためには彼の力が必要
お父さん以上の発想力と技術力でタイムマシンを作れというのが、ある方の任務でした
それを成すために監獄に忍び込んで早三年
誰も来ないような山奥で、私と巴衛はタイムマシンを作っていました
朔也もいれば楽しかったでしょうが・・・生憎、彼は戦場で行方不明
しかし、なんとなく生きてそうだと思うのはなぜでしょうか
「しかし、何度考えてもおかしいですよね」
「何が・・・だ!」
タイムマシンの最終調整を進めている巴衛の作業を見守りながら私は声をかけます
・・・理論上、作りあげられたタイムマシンはなぜか飛行船の形をしていました
巴衛曰く「博人と作っていたものだから」だそうです
「巴衛より私の方が人を殺しているのに、なぜ罪に問われるのでしょう」
「お前は大義。俺は私欲。その差だろうさ」
「私は、巴衛の殺意も理解できますよ?貴方の無罪だって把握していますのでご安心を」
「そうか・・・よっ!」
最後のネジを閉め終えた巴衛はそのまま私の隣に腰掛けます
「水、どうぞ」
「あんがと。ほら、できたぞ。早速入り込んでみるか?」
「ええ。旅は急がなければいけないですからね」
「?」
作業を終えた彼はいつも思考をリセットするために水を飲みます
飲んで一息ついた後、彼の案内でできたばかりの飛行船に乗り込んでいきます
設備はまだ何もない無機質なものですが、これから整えていけるでしょう
あの方からの予算もがっぽがっぽですし
しかし、あの方はどこから私の行動を監視しているのでしょう?
気になることは多いですが、これから探っていけばいいだけの話でしょうね
「じゃあ、早速実験しようぜ。目指すは!」
「そうですね・・・では、まずは戦争が始まる前あたりにでも飛びましょう。腕利きの男を拾いにね?」
「・・・あ、ああ?じゃあ、昭和初期ぐらいに飛ぶぞ!」
巴衛がセットした時間に、飛行船は向かっていく
こうして、私たちの時間旅行は始まっていきます
これから色々と苦難が待ち受けているでしょうけど、きっと大丈夫
使命を掲げた時間旅行ですが、楽しくやってーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんてことをしてくださったんですか巴衛ぇ!!」
「・・・ごめん、悠翔」
それから数年後のこと
時間旅行を続けている私たちに大きな試練が立ち塞がりました
私と巴衛。それから正二。そしてつい先日合流した正二の兄である正太郎の四人で旅をしていた時期だ
「かまぼこさん」という名称で作られた高性能医療機械
この機械を使って、災害にあったばかりで片手片足取れかけ片目欠損状態の死にかけ正太郎を治療したのですが・・・まさか、まさかこんなに費用をかけていたなんて
「おまかせ」と言ったのは私ですが・・・
家計簿を睨みながら、同時に正座で震えている巴衛を睨みつけます
「・・・悠翔。つまり今の状態は・・・どういう」
「よくぞ聞いてくれました。正太郎。この瞬間を持ちまして・・・」
私は正太郎と正二に見えるように家計簿を掲げる
残高は0!紛れもなく0!
あの方がこっそり枕元に置いてくれている資金も即日0!
「今月は三ヶ月分置いて行く」と書き置きされていたし!再来月まで0のまま!
「貯金が、尽きました・・・」
「俺のせいか・・・」
「マジですか・・・」
項垂れる二人の横で、少しでも情報を把握しようとしてくれる正太郎
メンタルが弱めの二人とならば、きっとこの事態にも対処できずにいたかもしれない
まだまだ無知である彼は、大きなハンデを抱えている
不慣れな部分はあるだろうけど、かつてしていた仕事の経験か予想外の事態に冷静に対処できるところは、素直に評価できますね
いい拾い物をしました。同じ筧なら・・・先に彼を拾いたかったです
「早速問題発生か・・・時間旅行も大変だな」
「貴方には負担をかけますね、正太郎」
「いや。元はと言えば俺に原因があるだろう。まだこれには慣れないが・・・頑張るよ」
まだ皮に覆われていない機械仕掛けの腕をかざしながら彼はそう告げました
本来ならカバーである人工皮膚を作る予定だったのですが、それを作れるほどのお金もありません
・・・そのおかげで、資金枯渇が判明したと言ってもいいのですが
「義肢の調子はいかがですか?」
「まだ慣れない。即戦力にはなれそうにないけど、できることは」
「そうですか。無理はしないように」
「心遣い感謝するよ。ほら、朝比奈さん、正二。そろそろ項垂れる時間は終わりにしてくれないと困る」
彼の合図で、項垂れていた二人はのんびり立ち上がってくれる
「うぅ・・・こいつしっかりしてるな!」
「当然ですよ。僕の兄さんなんですから・・・凄いんですよ。帝国一の役者ですよ!歌だって凄く上手なんですから!」
「今ここで褒める部分じゃないだろう、正二」
長い話になりそうだったからとりあえず三人を椅子に座らせる
特に片足がまだ慣れない義足な正太郎はきついだろうから
・・・後の二人は正座でいいと思うけどね
なんせ、うちの資金難は彼らが原因の大部分を占めているのだから
「さて。今回の件は主に調子に乗って機能を積みまくった巴衛のせいですが、何よりも資金管理を甘くしていた私にも責任があります」
「そうだそうだ」
「正二。貴方もずいぶん大食いで。うちの支出の一割は貴方の食費ですよ」
「へ!?」
「・・・正二」
さて、私をなぜか目の敵にするうるさい男も黙ったし本題に入っていきましょう
「さて、これからどうする悠翔。まずはお前の意見を聞きたい」
「そうですね。内蔵でも売りますか?」
「俺、肝臓を初めとして内臓の一部を朝比奈さんが作ってくれたもので代用しているのに。これ以上自分のものを失いたくないんだが・・・」
そうですね。内蔵
巴衛に作れないものは基本的にありません。倫理に反することだって、容赦無く作りあげられる。それが彼なのです
と、いうことは・・・その技術はかなり特異的なものであり、引く手数多なのでは?
「そうですね」
「!?」
「あ、いえ。内臓を売りましょうという話ではないんです。巴衛、貴方はどこかの企業に自分の技術を売り込んで損失分を回収しなさい。できるでしょう?」
「・・・まあ、それが現実的かね。この時代だったら兵器を作れとも言われないだろうし、気楽にやるよ」
まずは巴衛が立ち上がる。早速行動に移してくれるらしい
それならば・・・できることを、させていこう
「正二、貴方は全部食べれたら無料!賞金あり!な店を回って腹ごなしも兼ねて賞金稼ぎしてきなさい。ちょうどいいでしょう?」
「・・・たくさん食べれるなら、まあやりますかね」
彼もまた同じように席を離れて行動に移ってくれる
「それじゃあ、俺は・・・」
「正太郎はまず義肢に慣れる練習。私も手伝いますから」
「悠翔は何をするんだ?」
「そうですね・・・人殺しの依頼を求めてふらついてみようかと。私はこれしかありませんからね」
「・・・いたたたた。傷が痛む。いつ痛むかわからないから側にいて欲しい。いたた」
「貴方それでよく舞台役者なんてやれてましたね?」
私でもできそうなことを告げると、正太郎は演技だとあからさまにわかる反応で苦しみだす
しかし、それが本当ならば・・・放っておくわけにもいきません
私は正太郎と共に、二人の出稼ぎを留守番して待つという道へ進みました
・・・・・
それから一ヶ月後
まだまだ飛行船のお金稼ぎは続いています
巴衛と正二は着々と稼いではいるし、生活も徐々に安定を見せています
しかし何ということでしょう
巴衛が借金までしてかまぼこさんの製作を急いでいたのは初耳でした
さらにいうならば、正太郎の義眼と義足と義手。これら全ての開発費も・・・借金の中に含んでいました
正太郎の前では気を遣って彼は口を噤んだので、この事実を知るのは私と巴衛だけです
私たちは借金を返済しつつ、人としての尊厳を失わない程度の暮らしをしていました
最も、私は人ではないのですが
飛行船が停泊している山の中で食べられる草を二人で採取しつつ、日中は過ごします
彼と一番関わる時間が多いのは私なので、その些細な変化にも気がつきます
お父さんがくれた「作りたかったもの」に至るための機能かもしれませんが、そんなことはどうでもいいのです
「正太郎。動きが鈍いですよ」
「ああ。すまない。少し疲れてな」
「・・・義肢の調子が悪いのなら、巴衛に調整をお願いしてください」
「あ、ああ・・・」
妙に反応が薄い。気にかけて欲しい部分はそこではないのでしょうか?
今まで見てきた三人の様子を思い返す
正二はかなり元気・・・しかし巴衛は若干怪しい状態です
三人の差は、食事量ですかね
まさか・・・栄養不足でしょうか
こんな草だらけの生活。たまに鹿や猪、兎の肉が取れる程度ですし・・・栄養バランスはかなり偏るはずです
私は人ではないので、そのあたりは関係ありませんが・・・人には重大な話
正二は食べ歩いているから大丈夫でしょう
巴衛は技術を売り込んだ先の会社に勤めているので、今は問題ないでしょうけど・・・朝と夕もしっかり食べさせてあげないと大変なことになりそうです
問題は、私と同じ生活をしている正太郎
少食とはいえ、成人男性が本来取らなければいけない栄養は間違いなく不足していると思います
「栄養問題を解決しなければいけませんね・・・」
「栄養って・・・?」
「わかりやすくいうと、人が生きるのに必要なものです」
「なるほど・・・で、具体的にはどうするんだ?」
「そうですね。肉はその気になればどうにかなるので、野菜を・・・」
飛行船の五階にちょうどいいスペースがある
時間はかかるが、そこで野菜を量産することができたら、ずいぶん変わるだろう
「正太郎」
「何だ?」
「義肢の訓練も兼ねて畑を作りましょう。その管理を、貴方にお願いします」
正太郎を畑の管理で飛行船に残す意図は簡単
私が人でないところを見せないためです
今もなお、共に戦場に駆け抜けた健脚と武器は健在です
彼に合わせて抑えていましたが・・・本来の力を発揮できれば、ここより遠い山奥まで入り込めるでしょう
今まで以上を見込める。何もかも
「わかった。後で詳しい話を聞かせて欲しい」
「わかりました」
今後のことを密かに考えながら、再び草採取に戻っていく
他にも何かできることがあるはずだ。大きくお金を稼げる方法・・・
「―――――――――」
ふと、隣から優しい音色が聞こえてきました
聞いたこともない不思議な音
低くも細く、そして周囲に響く優しい音を発するのは隣で草を採取する彼だ
「・・・正太郎。さっきのは何です?」
「ん?ああ、知らないのか。鼻歌」
「鼻で歌が歌えるのですか?」
「歌えるよ。悠翔は変なところで知らないことがあるよな。確か朝比奈さんと一緒で戦争が激しかった時代から来たんだっけ」
「ええ。お父さんも朔也も・・・はたまた巴衛も、歌を歌うような人ではなかったので初めて聞きました。それが鼻歌ですね」
「普通の歌もあるんだぞ?」
「よければ、歌ってみてください。聞いてみたいです。歌を」
「いいぞ」
彼は大きく息を吸い込んで、胸に手を当てる
そして今まで見たこともないような真剣な表情で、誰かを想うように伸びる声で歌うのだ
普段、話す時の声とは全然違う・・・歌う時の声
声量だって、声音だって、全部違う
何よりも、体の中に響いてくる感覚がある。動かされているのだ。歌に、声に自分自身が
心が震える?私は人ではないのに、心がないのに?
「・・・こんなものだ。練習を怠っていたから、まだ舞台復帰できるほどではないな」
「かつては舞台役者でしたっけ。帝国一の劇団に所属する・・・花形役者」
調査資料の内容だと、変幻自在の天才役者と呼ばれた役者
どんな役でも完璧にこなす。彼のイメージがある普通の青年だけではない。ゴロツキから、気弱な書生、さらには女形だって彼は最後まで演じきる
何よりも評価されていたのはその歌声。役者でありながら、レコードを出したりと面白い部分はあるが、それほどまでに大衆からの評価を得ていたようだ
そして、後世の役者にも少なからずの影響を与えた存在だったとか
「照れるからやめて欲しい。かつての話だ。今はもう違う」
それに、と彼は付け加えた
「・・・やめる予定だったんだよ。次の永海で予定していた地方公演を演じ切った後にな」
「どうして、ですか?こんなにも上手なのに、演技だって、見たことないけれど歌のように凄いのでしょう?」
「俺がやめると決めたのは、ある人を愛したからだ。それ以外の理由はない」
「・・・愛、ですか?」
「ああ」
彼の歌声の中で感じた、ある想いはきっと・・・その人物のものだろう
しかし、それだけで舞台役者をやめる理由はない
「仕事が、嫌いではなかったのですよね?」
「ああ。しかし・・・うちの劇団は帝国一を守るために厳格なルールがあった。現役である以上、ファンがいる。劇場に足を運んでくれる人は、役者の演技に顔に、歌に惚れてきてくれているんだ。そんな役者側が特定の誰かを好きになることは許されない。それは「裏切り」だから。俺は、劇団はそう思っている」
それで全てを理解した
大衆の為に、個人の為に・・・理解できないことは多いが・・・彼の思うことは理解できた
「・・・貴方は、誰かを愛し、劇団が定めるルールに則って舞台から降りようとした。その矢先の震災だったというわけですね」
「ああ。結局、俺は夏花を迎えにいけなかった。彼女は・・・結局どうなったんだろう」
「調べましょうか?」
「調べられるのか?」
「ええ。貴方を拾った時代で貴方と同じぐらいの年齢ならば、この時代では間違いなく亡くなっていると思いますが・・・その後を辿ることぐらい造作もないです」
新橋夏花のひ孫が調査対象になっているから、実はもう彼女がどうなったか知っているんですけどね
正太郎と駆け落ち予定だった彼女は、正太郎が属していた劇団の役者から彼が震災で亡くなったことを伝えられる
それから、家に決められた通り・・・許嫁と婚姻を結んだ
息子が一人・・・六十八で病に伏せるまで、あるものを隠す神社を守り続けた
その息子が跡取りになってから娘が一人生まれた
そしてその娘が息子と娘を一人ずつ産んで、娘が産まれて半年後に夫婦共に亡くなった
それが永海バスハイジャック事件。調査対象である岸間雅文と一葉拓真・拓実兄弟にも関係がある話
話を戻すと、そんな新橋夫妻の娘である少女が私の調査対象となっています
時間旅行の参加者。終末日のその先を切り開く可能性のあるもの・・・
例え冬月彼方と春岡夜がいなくとも・・・運命の先に辿り着ける可能性がある者を探す為に
その調査も、あの方からの指令です
全く。やることが多すぎて大変ですね・・・
調査対象で渡された人たち全員何らかの事件に巻き込まれていて特殊すぎるんですよ
「・・・助かるよ。せめて、彼女が幸せになったかだけでもいいから」
「ええ。任せてください。正太郎。その代わり」
「その代わり?」
「私に歌を教えてください。私、歌ってみたいです」
「わかった。俺にできる範囲で教えるよ」
歌は、私のないと思い込んでいた心らしいものを動かした
もしもこれを極めれば・・・私は人に、お父さんが作りたかったものに近づけるかもしれません
心を得られるのかわかりません。作りたかったものになれるかもわかりません
でも、可能性はあるのですから
やらない選択肢は、ありません
・・・・・
その日の晩
トイレの扉。その奥から彼が苦しむ声が聞こえてきます
何でしょうね。やっぱり呻き声は好きです
特に、嫌いだからでしょうか。正二の呻き声は本当に心地いい
「星月悠翔ぉ・・・お前、夕飯のキノコに何を仕込んだぁ・・・!」
「悠翔、俺の炊き込みご飯にはキノコ入ってなかったぞ。何でくれなかったの」
「貴方の大好きなお兄様からのプレゼントですよ!お便秘気味な貴方にね!」
「えっ・・・」
「兄さんは効果を知っている上で毒キノコを混入するような真似はしない!お前の差し金だろう・・・!ふざけるなよぉ・・・うぐぅ!?」
「気がつくのが遅いんですよ。ヴァアアアアカッ!!」
ギュリュリュリュリュリュと聞こえたのちに、正二の声がしなくなる
文句を言う余裕すらなくなった証拠でしょう。大食いが命取りになるなんて、可哀想に
「・・・悠翔。流石にやりすぎだぞ。どうして正二にだけこうあたりが強いんだ」
「同族嫌悪です。これはもう変えられない」
「・・・?」
「さあ、正太郎。行きますよ。正二、脱水症状にならないように水だけ置いていきますね」
「え、ちょ・・・悠翔!?」
正太郎の腕を引いて、夕飯の片付けをする為に食堂へ戻ります
そこでは巴衛が食事をまだ摂っていました
「巴衛、何を食べているんですか?」
「んあ?金魚。焼いて醤油かけたらそこそこいける」
「金魚」
おかしいですね。私の知る金魚は食べる魚ではなく鑑賞用の魚だったはずなのですが
最近は食用、出たんですかね。あんなに小さいのに食べられるとは・・・
「俺にも一つ」
「おうよ。ほれ、口開けろ?」
巴衛が金魚の切り身を一口分、醤油につけて正太郎の口に運ぶ
「ん。意外と淡白でいけるな」
「夏祭りの出店でたくさん釣れたんだよ。まだあるぞ?食べるか?」
「食べる」
私は若干ノリノリで二度目の夕飯に進んでいく正太郎の後ろ姿を眺めながら、背を返し、自分の部屋に戻ります
・・・何だか、面白くない




