表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書館と観測者のブレイクタイム!  作者: 鳥路
第一章:略奪乙女と愛情の観測記録
18/30

観測記録16:椎名愁一編「守護者と永久に続く二つの想い(前編)」

生きていく過程で避けられないことがいくつかある

そのうちの一つである「好きになること」「嫌いになること」

・・・様々なものに対して好き嫌いというものを覚えるだろう

どんな食べ物が好きだとか、何をするのが好きで、嫌いなのかとか


「それを、どういう基準で決めていると思うか、久遠」

「相変わらず変なことで難しく考えるんだから・・・」


本土より少し離れた場所にある人工島「鈴海」

五つの区域に分かれているその島の第三区域

中央街から離れた土地にある大きな屋敷。それが俺の生家である「椎名家」

この鈴海を作ったと言われている家だ

俺「椎名愁一しいなしゅういち」はそこの長男として、次期当主として生を受けた


「難しいことではないだろう。生きている間、好き嫌いからは逃げられないんだぞ。俺は生きている間には避けられないと言える課題ではないか」

「いや、それを深く考える人いないから。好き嫌いなんてなんとなくだから」

「そうなのか?」

「そうだよ・・・これだから椎名家の恥さらしとか、名家に生まれた奇人変人とか不名誉な呼び方されるんだよ、愁一」

「そんな呼び方をされていたのか?」

「されてるんだよ。自覚ないの?」

「ない」

「断言したらダメじゃない?」


俺の正面で呆れた視線を送るのは「華清久遠かすみくおん

幼少期から一緒な、どこか危なっかしい幼馴染

家同士の付き合いもあるし、彼女がわりと面倒見がいいこともあって今もなお縁が続いている


「本当にどこか抜けてるよね、大丈夫?それで家の跡継げる?」

「祖父からはこいつに継がせるのは胃がキリキリすると言われている」

「ダメじゃんそれ・・・自分でも自覚症状あるなら少しは直しなよ」

「無理だ。これは俺の生来の性質であり、否定してはならないもので・・・」

「御託はいいから。それじゃあ大人になっても苦労するよ」


凄くまともなことを、彼女はいつもぶつけてくる

それが正しいのだが、俺にとってはまだそれは受け入れたくない事実であり、未来の話

子供なのだから、楽観的に生きたいと言うのに・・・なぜこうも現実を突きつけるわけなのだろうか


「・・・久遠は小学生なのに将来に対して現実的だな」

「そう言う愁一は将来を深く見据えてないね?仮にも鈴海の創設者一族なんだから、威厳の一つ身に付けなよ。後、常識」

「久遠が椎名の子供に生まれたらよかったのに」

「私が椎名の家に生まれても、椎名の家は男の子を絶対に跡継ぎにするんでしょう?意味ないよ」

「古臭い家だからな。まあ、その時は、魔法で久遠を男にしたらいい。子供のうちなら男になれる・・・魔法だったはずだから」

「はあ」


久遠が呆れた表情で俺を見つめてくる


「・・・私ね、今凄く愁一の将来が心配になってきた」

「どこに心配になる要素があるんだ」

「全部。もう、これだから放って置けない・・・!なんでこう、なんか歯車が噛み合ってないと言うかおかしなことをするんだろう・・・!」


頭を抱える彼女に、首を傾げる俺

面倒見のいい久遠と、何かがずれている俺

これは、そんな二人が大人になるまでの物語


少しずつ、過去を振り返っていこう

少ししか関われなかった「お前」に、俺たちがどんな人間だったか、理解してもらうために


・・・・・


「久遠、久遠」

「何?」

「なんで久遠は毎日うちに遊びにきてくれるんだ?」


今日また、久遠と過ごす

放課後の時間、親が迎えにくるまで。二人きりで過ごすのだ

久遠だって忙しいはずなのに毎日のようにここへ遊びにきてくれる

その理由はわかっているけれど、久遠の口から聞きたいのだ


「・・・わかってるんだよね」

「うん。だから久遠の口から聞きたい。なぜ遊びにくるのか」

「・・・両親の言いつけだよ。愁一と仲良くなって、椎名家に懇意になれば、将来が安泰だからって。それだけ。愁一が嫌いなパターンだよ。どう?軽蔑した?」

「そうか。別に軽蔑しないぞ。久遠だからな」


俺は教科書を開いて、机の上におきながら用意していた言葉を述べる

鈴海で上手くやっていくために、俺の家の名前は大きすぎる

その嫡子である俺と仲良くして、両親に取り入り利益を得ようとするものは少なくはない


久遠の両親もまた、同じ

久遠だって、少なからず恩恵は受けているだろう

だからと言って、俺は「他」と同じような扱いを久遠には強いない

彼女は、恩恵を受けるべき人間なのだから


「久遠」

「何?」

「俺、いつも久遠にお世話されてます。毎日おはようからおやすみまで」

「愁一がマイペースすぎるからね、遅刻しないか心配で。心配するなら起こそうかと」


そう。ずぼらな俺の面倒を久遠はいつも見てくれている

毎日朝、決まった時間に起こしてくれる

ご飯も一緒に食べてくれる。好き嫌いしたら怒るのだけは嫌だけど

登校だって一緒だ。寄り道して遅刻しそうな俺を引っ張りながら歩いてくれる

学校生活だって、少しずれていたらそれを直しに隣の教室からすっ飛んで来てくれる

・・・クラスが違うのに迷惑をかけっぱなしだから、そこはどうにか直したいのだが、なかなか上手くはいかない。何かがずれている


下校も、夕飯も、勉強も・・・おやすみまで何もかも久遠が一緒にいてくれる

久遠がいなきゃまともに生活できない?

それは違う


「俺は久遠がいるから、俺はまともに生活できている」

「なっ・・・」

「俺の権力が必要な時は頼ってくれ。絶対に力になる。日頃の感謝を込めて。そうだ。権力券を作ろう。十枚綴り?」

「バカ。肩たたき券のノリでそんなことしない。そんなのいらないし、作る暇があるのなら、一人で起きられるようになって」

「ああ」


呆れながらも嬉しそうな久遠の笑顔を眺めながら、いつもの生活に戻っていく


「久遠」

「まだ何かあるの?」

「これからもよろしくな」

「・・・もちろん!」


子供の頃、何も考えずに過ごしていた日々

いつもの当たり前な時間だと思っていたそれは、いつしかかけがえのない時となり、気がつけば過ぎ去っていた


・・・・・


「ほほう、久遠。俺と言う面倒見がいの男がいると言うのに、学内で男を作るとは何事や、何事や〜」

「その言い方で愁一がからかい混じりで遊んでいることだけは理解した。そうだよ、告白されて付き合い始めた。一つ上の先輩」


気がつけば、小学生だった俺たちも高校生になっていた

その間も変わらない生活をしていたのに、ここに来て大きな変化という波がやってきた


「同じ音楽科の先輩か?」

「うん。ピアノ専攻の」

「この前の発表会で久遠とコンビで参加した奴か。まあ、おめでとう」


雑にお祝いをしておく。さて、あの男なら潰すことに良心も痛まない

久遠が不幸になる前に、きちんと処理をしておこう


「ありがと。愁一は?彼女とか作らないの?」

「久遠は、自分より権力が好きな異性を好きになれるのか?」

「愁一にはまだ遠い話か・・・」

「そう言う久遠も、色々いいながら俺みたいなダメ人間拾ってくる確率高すぎ。男見る目養った方がいいと思う」

「・・・それは、まあ。でも今回は大丈夫だと思う!いい噂しか聞かないし!」


むしろそれが怪しいんだよ・・・なんて今の状態で言えるわけもなく

浮かれる久遠の浮かれた話を聞きながら、静かに行動に移し始めた


・・・・・


後日、疲れ気味の久遠がうちにやってくる

話したいことはわかる。あいつのことだ


「愁一、知ってたの?先輩のこと」

「何が?」

「いや、だから五股じゃなくて・・・後鞠先輩のこと。私含めて五股かけてたって」

「さあ。元々そう言うやばい奴だったからお縄についただけじゃないの?それが偶然久遠が付き合い始めたタイミングだっただけで」

「これ、今回で三十二回目なんだけど」

「むしろ三十二回もダメ男と付き合った久遠の男を見る目が怖いよ、俺は」


そう、今回で三十二回目

明るい性格で、取っつきやすい。反応もいいし、何よりも可愛いお嬢様

周囲の久遠の評価は基本的にいいものばかりで、そんな久遠にハイエナの如くやってくる連中は多くない

いいのも、ダメなのも多種多様


しかし久遠の男を見る目が壊滅的にないものだから、三十二回も問題ありの男に引っかかってしまうと言うわけだ


「いつも愁一に付き合う報告した後に相手の問題が浮き彫りになるんだよね。何か手を回してるんでしょう?」

「さあ。それは偶然じゃないのか?」

「二十五回目から愁一だけにしか報告してないから、絶対そう。友達は付き合ったこと知らないからね。他に何か言いたいことある?」

「・・・ありません」


まさか裏でそう言うことをしていたとは。俺の行動もこうしてバレてしまった


「もう。いつも助かってるからいいけどさ・・・ありがとうね」

「どういたしまして」

「でもなんでこう黙って行動するかな。相談の一つぐらいしてくれたらいいのに」

「なんか恥ずかしいだろう」

「いいじゃん。それぐらい」


「久遠には貴重な友人として幸せになってほしいから。俺にできるのはせめていい男ぐらい見つける手伝いぐらい。変なのは潰すから」

「それは心強い」


楽しそうに笑う久遠は、いつも通り上機嫌な時俺の髪を撫でてもみくちゃにするのだが・・・

今回は違った


「・・・でもさ、愁一」

「なんだ?」

「もし愁一が私と付き合ったらどうするの?潰せる?」

「その時は・・・」

「その時は?」

「どうしよう・・・自分自身を潰しに行かないといけない。自分自身で自分を公開処刑しないといけないじゃないか・・・」

「・・・考えるところそこなんだ」


もしもだけれど、結構深刻な議題に頭を悩ませる

問いかけた疑問に対する反応がおかしいと久遠は思いながら、俺の反応を黙って頭を抱えながら眺めていた


・・・・・


高校二年生の秋ぐらいだったか


「・・・・」

「愁一が悩み事?珍しいね。どうしたの」

「一度でもいいから修学旅行に行きたいなと」

「・・・わりとどうでも良さそうで、愁一にとっては凄く大きな悩みだね。でも、仕方のないことだって

自分でも言っていたよね」


いつも通り、久遠が向かいの椅子に腰掛ける

俺が悩みを抱くのは珍しいことではない。ただ、人に晒さないだけだ


しかし、今回は・・・自分の力が及ばないところ

久遠の知恵を借りたところで、結論は変わらないだろう

しかし、希望論を述べるぐらい俺でも許されるだろう


「ああ。でも、鈴海の外も知りたいんだ・・・何があるとか、空気がどんな感じなのか、人々の暮らしとか。本土には一部都市を除いて能力者がいないとも聞いているし」

「ううん・・・結構興味があるんだね。ネットじゃ物足りないから実際に見てみたい?」

「ああ。けど、繭籠の条件がある限り、俺はここから出られないし」

「出してあげようか?」

「できるわけないだろう?」

「できるよ。その代わりさ、愁一。思い出すの手伝ってね?私、星紋を使ったら少しだけ記憶が消えちゃうからさ」

「え」


久遠は俺の疑問に答える前に、これまで一度も見せなかった星紋を展開する

彼女の趣味は、ヴァイオリンを弾くこと。特技とも言ってもいい

生活の大半を ヴァイオリンに捧げる彼女の星紋は「ヴァイオリン」だった

「らしい」といえばらしいのだが・・・なんだか嫌な予感がする


「久遠、止まれ」

「奏でるは、願いの調べ。彼の願いは私の願い。欠片を焚べて、運命を切り開きましょう「流奏りゅうそう」。私の願いを、叶えて頂戴?」


形式文を述べた後、彼女はゆっくりと演奏を始めていく

止めないといけないのに、止められない

その光景に目を奪われてしまったから


演奏するたびに、糸のようなものが七色に輝きながら久遠の周囲を舞う

今まで、何度も演奏する姿は見てきた

けれどそれは今まで見てきたそれとは全く異なる幻想的な光景


「・・・久遠」

「愁一、大丈夫。私が必ず連れ出すからさ。こんな些細な運命、絶対に変えて見せるよ」

「連れ出すってお前・・・待て。思い出すのってまさかその星紋はっーーーーーー!」


彼女の演奏が止まる

膨大な力を消費したようで、疲れを顔に浮かばせた彼女はそのまま床に座り込む

自然と具現化を解除したあのヴァイオリンはどこにもない


「・・・久遠。大丈夫か?」

「・・・変えられた。修学旅行の時期に、繭籠を解除しても問題ない事象が起こるように調整した。最後の修学旅行、一緒に行けるね」

「・・・なんでこんなことで、そんなに」


かなりの負荷と代償が久遠にかかったはずだ

運命を変える星紋なんて、聞いてことがないから

そんな代物を久遠が持っていることも驚きだ

ふらつく彼女を支え、息が整うのを静かに待った


「そう、だなぁ・・・」


疲れながらも笑顔をその顔に浮かばせながら、理由をゆっくりと語ってくれる


「お礼っていうのが大きいかもな。色々と助けてくれたでしょ?」

「それは・・・」

「それに小さい頃から夢見てたでしょ?鈴海の外に出ること。いつか叶えてあげたいなって思っててさ、今回ぐらいしかチャンスがないから。絶対にこうしたかったんだ」


それが、久遠が能力を使った理由

自分の為じゃなくて他者の為になんでここまで・・・


「それでもだ。こんなふうになることがわかってなかったわけじゃないんだろう?」

「うん。わかった上で能力を使った。誰にも言ったことがない、運命改変の星紋。凄いでしょ。私、こんな願いを持ったんだよ」

「・・・ああ。凄いよ」

「いつか話させてね。私がこの能力を得た理由」

「ああ。その時は俺も話すよ。俺の繭籠が生まれた理由を」


星紋は願いを具現化した能力

その全てに「具現化した理由」というのが出てくるのだ

俺の繭籠も、久遠の流奏も・・・例外ではない


「・・・今回忘れているのは、ここ一年半の高校生活か。まあ、その程度で済んでよかった」

「忘れていいのか?」

「別に?大したことじゃないし。でもよかった」

「なんで?」

「一番大事な記憶じゃ、ないからさ」


長年付き合いがあるが、俺はまだ久遠の知らない一面があるらしい

きっと、他にも・・・


「・・・少し、変な感じだ」

「何か言った?」

「なんでもない」


まだ立ち上がる元気のない久遠の体を支えながら、落ち着くのを静かに待つ

変化は、少しずつ俺たちの間に


・・・・・


それからしばらく

久遠が言った通り、鈴海大社が俺の繭籠を解除して新たな防衛システムの実験を行うらしい

自衛組織である鈴海大社が、前々から俺の繭籠に頼りきりという状況をよくないと説いており、色々と防衛システムを開発してくれていた


実験日は俺の修学旅行の日。繭籠の解除を依頼された俺は、父さんにも自由にしていいと言われ、修学旅行に行けるよう手続きをしてくれた


「・・・久遠」

「あ、愁一。こっちだよ!」


初めての外。初めての外泊

予定通りに行動する生活は初めてではないのだが、こんな集団で行動するのは初めて

やっと、自由時間になった夜

俺は久遠から呼び出されて、宿泊施設の外に呼び出されていた


「・・・なんだ、これ」

「何が?」

「・・・まだ学生だというのに、こんなに浮ついて。人前だというのに」

「愁一が堅物すぎるだけだよ・・・こんなの普通だってば。側から見たら私たちもそうだからね?」

「む?」


外には同じく学生らしき少年少女が寄り添うように過ごしている

こんなのが外で行われているのが普通なんて、よくわからないな。最近の世の中は


「で、なぜここに呼び出したんだ?」

「なんだろうね。愁一と一日一回こうして話さないと違和感があるというか」

「なるほど」


買ってきたペットボトルの紅茶を二人して飲む

俺がミルクティーで久遠がストレートだ。味覚の差を感じる


「・・・愁一とペットボトルのアンバランスさ」

「久遠もティーカップの方が似合っているぞ。それで、今日は何を話す?」

「話してなかった能力の理由かな」

「おお」


まさかこんなところで重要そうな能力があれになった理由か

ペットボトルを両手で持ちながら、久遠の話に耳を傾ける


「覚えてる?小さい頃の話。愁一のお母さんが病気で亡くなった時の事」

「ああ。覚えてる」


俺の母さんは、俺が小さい頃に病気で亡くなった

それからはずっと父さんと爺さんと三人で暮らしている


「愁一は、ずっと泣いていたでしょう?自分は守る能力者なのに、お母さんを病気から守れなかったって」

「そうだな。うん・・・」

「その時にさ、愁一にも守れないものがあるんだなって思ったんだ」


俺が守れるのは、物理的な害だけだ

病気や、精神的な害は繭籠でも守れない

それにもう一つ。俺の繭籠には決定的な弱点がある


「それからもさ、愁一は色々なところで私を守ってくれた。けど、私は守られてばっかりでしょう?私は、願いの原型として「愁一が守れないものを守りたい」って思うようになったんだ。それで、流奏が生まれたんだよ」


俺が守れないものを、守りたい

その願いで、代償をもって運命を改変する力を久遠に授けた

俺が守れないもの・・・病気や心の問題

それを解消するには、運命を変える必要があると判断した結果だろう


「それに、よく見れば、繭籠は愁一を守ってないんじゃないかって思ってさ」

「よくわかったな・・・誰にもバレないように細工していたのに」

「しっかり見てますから」

「お気づきの通り、繭籠は俺を守らない。それは、俺の願いに起因しているんだが、話していいか?」

「うん。聞かせてよ。愁一の願い事」


頷いた後、俺は紅茶を一口飲んで願いを抱いた時の話を始める


「本当に些細なことなんだ。前、二人で椎名家の庭を探索して久遠が転んだ時があっただろう?」

「庭の探索・・・あ、うん。確かに転んだ。え、まさか・・・それで?」


「転んだだけ。けど、痛いのには変わりないじゃないか」

「そうだね。そうだけど・・・」

「傷付けば痛い。あの時の久遠はすごく泣いていて、痛いことから守ってあげられればよかったのにと思ったんだ。それが俺の願い。繭籠が生まれた願いだ」


繭籠は「守る」ことではなく、「守ってあげたい」願いを叶えている

その為、繭籠が守るのは俺以外の全員になる。繭籠で守ってあげたいのは他者であり、俺ではないから


「なんだろう。愁一らしくないっていうのが、第一印象かな。いい話なのに、こんなこと言ってごめんね・・・」

「自分でも思っている。気にしないでくれ」


話をひと段落させて、互いに残りの紅茶を飲む

紅茶が終わった。それは、話す時間の終わりなのも意味している

もう夜も遅いし、明日も早い。切り上げて帰るべきだ


「でも、二人揃って願いに互いが関与しているんだね」

「そう言われればそうだな」


月明かりと街灯だけが照らす場所

少しだけ雰囲気が異なる久遠と視線が合った


「それほどまでに、互いが大事だから?」

「それは、そうかもな・・・久遠は俺にとって必要不可欠な存在だし」

「え、ちょ・・・それはどういう・・・!」

「これからも側にいてくれよ?久遠がいない生活は面白みがない」

「それは、遠回しの告白ですかね、愁一さん?」

「む?」

「・・・ん?」


知らない土地、普段では絶対に会わない時間に、普段と違う雰囲気を纏う彼女と会話をする

いつもと変わらないはずの、俺と久遠の関係も

少しずつ、動き出す

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ