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剣の魔術師  作者: 漆黒
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第4話

 3日後、固有魔術クラスでは、「魔術基礎理論」の講義が行われ、ハロルドが教壇に立っていた。

「魔術というのは、魔力と術式によって成り立っている。これらは互いに呼応して、魔術という形を成している訳だが、我々のような固有魔力保持者の場合、そもそも、術式を構成することが出来ないことが多い。では、そうでない場合と、何が違うのか」

 そう言うと、ハロルドは言葉を止めて、教室内を見渡す。そして、彼から見て、左奥の席に座っていたロイに視線を向けた。

「よし、ロイ、答えてみなさい」

「…………!」

 不意に指名されて、ロイは目を丸くした。

 ハロルドの話など、上の空で全く聞いていなかったのだ。

「……すみません、分かりません」

 ゆっくりと立ち上がり、仕方なくロイがそう答えると、ハロルドは小さくため息を吐いた。

「ロイ、人数が少ないんだから、話を聞いているかどうか、すぐに分かるんだ。まあいい、資料によると、君は《切断(ブレイク)》が得意らしいが、何故《剣》の魔術が、《切断》だったと思う?」

「それは、剣というものが、そういうものだから、でしょうか」

「うん、そうだね」

 と、ロイの答えに、ハロルドが首肯する。それを確認して、ロイは席に着いた。

「術式の構成は、イメージによるところが大きい。ロイが《切断》が得意なのは、剣というものに対して、そういうイメージを強く持っているからだ。しかしながら、それは《剣》という魔力の、ほんの一面に過ぎない。剣というものの表面上の性質をとらえ、魔術として昇華させたに過ぎないんだ。みんなも同じだ。これから、魔術師として、上を目指すなら、もう一歩踏み込んだ知識が必要となる」

「…………」

 ハロルドの言葉に、生徒たちは何も答えない。ただ、じっと彼のことを見つめ、講義の続きを待っている。

 ハロルドは全員の顔を見回すと、一拍おいて講義を続けた。

「それぞれの属性が持つ、歴史的、文化的な側面を掘り下げることだ。特に、祭祀や神話などは、魔術と密接な関係にある。今程魔術理論が確立していなかった古代の時代では、強い力を持った魔術師の偉業が伝わって、神話となったケースが数多く存在している」

 そう言うと、ハロルドは再び全員の顔を見回した。

 生徒らは、皆揃って渋い顔をしている。どうやら、彼の話があまりピンと来ていないらしい。

「ふむ。1つ例を出そうか。ロイ、それから、シド」

 再び指名されて、ロイは顔をしかめた。

「またか」と思いつつ、ゆっくりと立ち上がる。同じく指名されたシドも、同じようにして立ち上がった。

 チラリ、とロイがシドの方に目をやる。すると、同じようにしていた彼と目が合ってしまう。

 瞬間、自分の心がざわつくのをロイは感じた。

 昨日のオリエンテーションのときと同じだ。

 沸々と、怒りにも似た感覚が、自らの奥底から沸き上がってきて、すぐにシドから目を離せなくなった。

 シドも同じように感じているのか、真っ直ぐにこちらを睨み付ける瞳からは、敵意のようなものがはっきりと読み取れた。

 正に、一触即発の空気だった。

 と、そのときだった。

 パンパンと手を叩く音がして、2人の意識は、その音の方に向く。同時に、彼らの間で張り詰めていた空気も解き放たれる。

「はいはい、2人とも、そう威嚇するのは止めなさい。仕方のないこととはいえ、あまり、みんなを怖がらせるものじゃないよ」

 そう言って、2人をなだめるハロルドの言葉に、ロイはピクリと眉を動かした。その言葉に、引っ掛かりを感じたのだ。

 しかし、それを口にする前に、シドの方が先に言葉を発した。

「仕方のないこと、とは?」

 彼の声を聞くだけで、ロイはまた苛立ちを覚え、顔をしかめた。しかし、今度は1つ深呼吸をして、それを抑える。

 その様子を見て、ハロルドは大きくため息を吐いた。それから、2人に向かって、手を上下に振り、座って良いと合図をする。

「君たち2人が、互いの言動に昂りを覚えるのは、2人の魔力が共鳴しているからだ。古来より、魔剣や聖剣、そして、それらを携えた英雄の伝説は、世界各地で数多く残っている。また、その英雄たちが戦うのは、ドラゴンや、それに類する怪物であることが多い。見たところ、君たち2人の魔力は、水と油の関係にある。もしかしたら、そういった伝説の中には、君たちのような魔力を持った魔術師も、いたのかも知れないね。」

 ハロルドの説明に、ロイはなるほどと思う。

 魔力は持ち主の感情と、深く結び付いている。

 感情の起伏は、魔力を乱して、制御を誤る可能性がある。そのため、魔術師には冷静に、感情を制御することが求められた。

 今回の場合は、それが逆に作用した例だ。

 2人が対面した際に、互いに共鳴した魔力が昂り、結果として感情が乱れたのだ。

「このように、魔術が神話や伝承などと深い関わりがあることは、理解してもらえたかと思う。まあ、それを魔術として昇華できるかは、君たち次第だけど、参考にはなるんじゃないかな」

 そう言うと、ハロルドは教壇に両手をつき、身を乗り出して更にこう続けた。

「まあ、とにかく、闇雲に魔力を使っているだけじゃあ、駄目ってことさ。まずは、自身の魔力について学ぶこと。それから、出来ること、出来ないことをはっきりさせること。まあ、どうしていいか分からなければ、僕に聞いてくれればいい。そのための教師と学園だ」

 ハロルドはそう言うと、ニッと笑ってみせた。


「さすが、国内最高峰と言われるだけのことはありますね。最新の実験設備ばかりです」

 ロイと向かいの席に座って昼食をとるセシリアは、目を輝かせて、そう言う。

「講師の方々も著名な方ばかりで、まさか、ブライアン博士の授業が受けられるとは思いませんでした」

 ブライアン。その名前は、ロイにも聞き覚えがあった。たしか、魔術師であると同時に、科学者としても公明な人物だ。

 科学とは、「世界の心理を探求」を目的とした学問だ。世界の仕組みを研究し、それを利用することによる、社会の発展を目的としている。

 将来的に、魔力を用いずに、魔術と同じ現象を起こすことが出来るようになる、とまで言われている。あの蒸気機関車も、科学の産物だ。

 そして、セシリアの興味は、目下、その科学にあった。

「ブライアン博士は電磁気学の研究で有名な方です。電気は魔力に変わるエネルギーとして注目されていますから、研究の成果によっては、科学の大きな進歩となることは間違いないと思います」

 彼女は両目を輝かせ、熱弁を奮う。

「既に発電機の理論も、ほとんど確立していますから、電気が身近なものになるのも、そう遠くないと思いますよ。知ってますか、兄さん。生物の神経細胞から筋肉に信号を伝えるのにも、電気が使われているらしいです」

「あら、何の話をしているの?」

 と、科学の話で盛り上がる2人(主に盛り上がっていたのはセシリアだけだが)に、そう声をかける者がいた。

 声の方を振り返ると、そこには2人の女子生徒がいた。

 チェルシーとメロディだ。

「ここ、いいかしら?」

 自分たちの食事を運んできた2人は、そう言って確認をとる。ロイとセシリアは、それぞれ返事をした。

 それを受けてチェルシーがロイの隣に、メロディがセシリアの隣に座った。

 父親である国王が病に倒れてから、チェルシーは学園を休んでいたのだが、今日からは登校を再開したらしい。

「おはようセシリアちゃん。えへへ~、今日もかわいいね~」

 と、メロディが席に着くなり、セシリアに抱き着く。

 猫耳をピョコピョコ動かして、頬擦りする様子は、正に猫のようだった。ちょん、と鼻と鼻をくっつけたりもしている。

「お、おはようございます。メロディさん。チェルシーさんも」

 メロディの激しいスキンシップに、セシリアは驚いた表情をしていたが、一度、小さく咳払いをすると、そう挨拶を返した。

 入学式の日以来、セシリアとメロディの仲は良好だ。こうして、セシリアに会うたびにメロディが抱き着き、頬擦りをするのも、最早見慣れた光景だった。

「それで? 何の話をしていたの?」

 じゃれつく2人の様子を横目に見ながら、チェルシーがロイにそう聞く。

「ん? ああ、科学の話さ」

「科学?」

 ロイが答えると、チェルシーがそう聞き返した。

「あ、はい。この学園に、ブライアン博士がいらっしゃるので、ぜひお話をお聞きしたいな、と」

 チェルシーの問に答えたのは、セシリアだった。

 セシリアはメロディに抱きつかれた状態のまま、再び両目を輝かせた。どうやら、そのブライアンという人物のことになると、自分を抑えられないらしい。

「有名な方なの?」

 チェルシーが興味深そうな顔をして、そう聞いた。

「はい。科学界では、今注目されている方でして、電流と磁気の関係を研究されているんです」

 そうセシリアが説明したのを、チェルシーが感心したように声を漏らした。

「でも、何で科学なの?」

 そう質問したのはメロディだった。

「何で、とは?」

 質問の意図を読み取れず、セシリアがそう聞き返した。

「ほら、あたしたちみたいな固有魔術師ならともかく、セシリアちゃんは魔術が使えるんだから、科学なんて必要無いんじゃないの?」 

「そんなことないですよ」

 純粋な疑問を投げかけるメロディに、チェルシーがやや食い気味に答える。

「魔術だって、きちんとこの世界の法則に従っているんです。例えば――」

 言いながら、セシリアがパチンと右手の指を鳴らした。

 すると、彼女の指先に、小さな炎が灯る。

「こうやって、炎をおこすのにも、必ず必要なものが2つあるんです。つまり、可燃物と酸素ですね。例えば、空気中の水分を分解すれば、可燃性の水素と酸素ができる訳ですよ。簡単なことですけど、この法則を理解しているかどうかで、術式の効率が大きく変わるんですから、むしろ魔術師の方が、科学について学ぶべきだと思いますよ」

 そう言うと、セシリアはフッ、と息を吐いて、指先の炎を吹き消した。

「そうね」と、チェルシーは首肯する。

「私も、城下のお医者様に、師事しているわ。私の魔術も、そのままだと、体力を回復させるか、せいぜい傷を塞ぐくらいのことしか出来ないもの。ちゃんとした医学の知識を持って、初めて効果を発揮するの」

 薄く笑みを浮かべて、チェルシーはそう言った。

 それを聞いて、メロディは小難しそうに顔をしかめた。

「むぅ。チェリちゃんはいいよ。魔力の属性もわかりやすいし。あたしの《猫》の魔力なんて、科学でどうやって活かせばいいのか分かんないよ~」

 と、メロディはテーブルに突っ伏して、唸るような声を漏らす。頭上の猫耳も、萎れてしまっている。

 確かに、猫の生態について研究したところで、彼女自身が猫のようなものだ。そちらの方向で魔術の研究を進めても、徒労に終わるだけだろう。

 そして、それはロイにも言えることだ。

「だから、神話や伝承を調べるのが大事だ、って話でしょう。ねえ、英雄さん?」

 チェルシーがそう言って、ロイの方に目をやる。

「やめろ」

 その視線に、ロイは顔をしかめ、セシリアは不思議そうな顔をする。

「……? 何ですか? 英雄、って」

「伝説の剣を持った英雄よ。その力が、ロイの魔力に秘められているんじゃないかって話」

「ああ、英雄譚によく見られる展開ですね。民衆を脅かす怪物と、それを倒す英雄。英雄には怪物を倒すための武器や防具が送られる。古来より力の象徴とされている剣はその代表でもありますね」

 と、チェルシーが軽く説明しただけのことを、セシリアが補足した。

 あらかじめ、用意していただろうハロルドと同様に、説明をやってのけるセシリアに、他の3人は感心した。

「へえ、詳しいなセシル」

 そう言ってロイが彼女のことを褒めると、セシリアはその翡翠の両目を丸くした。

「べ、別に、個人的に興味があったので、少し調べたことがあっただけです! それだけです! 他に意味なんて無いです! 何か問題ありますか!?」

「いや、無いがないが……」

 顔を真っ赤にして詰め寄るセシリアに、戸惑いながらロイはそう答える。

 その様子を見て、チェルシーは嘆息を漏らし、メロディは「あはは」と乾いた笑いを漏らした。

(まったく、何なんだか……)

 そんな女子たちの様子に、納得のいかない思いがしたが、面倒なので口には出さないでおく。

「とにかく、そういう訳だ。けど、まあ、俺の柄じゃないだろ。英雄なんて」

 と、ふてくされたようにして、ロイはそう言う。

 その様子を見て、セシリアがスッと引き下がる。すると、彼女は少しそわそわした様子で、何か言いたそうにして、やめる。

 それを2・3度繰り返して、ボソリ、ボソリと、ゆっくりと言葉を吐いた。

「私は、そんなこと、無いと、思い、ます……」

 気恥ずかしそうに、顔を背けながら、セシリアはそう言う。

 最後の方はほとんど消えてしまいそうなほど、小さくなってしまっていたが、その場にいた3人は、誰一人として、その言葉を聞き逃さなかった。

「そうね。私も、ピッタリだと思うわよ」

「うんうん。強くて、優しくて、カッコいいもんね」

 と、チェルシーとメロディが、にやにやしながら、そう言う。

 メロディなどは、再度セシリアに抱き着き、「かわいいね〜」と頬擦りしていた。

 そんな皆のことを見て、ロイは大きく溜息を吐いた。

「どうだかな……」

 そう呟いて、ロイはコーヒーを一口飲む。

 そんな兄の様子に、セシリアは少し不満げにしていたが、それ以上は何も言わなかった。

「それより、チェルシー」

「ん? なあに?」

 真剣な表情をして呼び掛けるロイに、チェルシーが呑気に返事をした。

「お前、大丈夫なのか?」

 一層声を低くして、ロイはそう言った。

 その声音から、彼の言いたいことを察したチェルシーは、面白くなさそうに両目を細める。

「お父様のことなら、ただの風邪よ。そうとう疲労が溜まってたみたいだけど、もう大丈夫」

 ツン、と唇を尖らせて、チェルシーがそう言う。

《癒し》の魔力を持つチェルシーは、今回のことで多大な働きをしたことだろう。その疲れもあったのかも知れないが、彼女の機嫌が悪くなったのは、それだけでは無いだろう。

 恐らく、父親のことに関係して語られる、もう1つの話題が、チェルシーを不機嫌にさせている。

「いや、まあ、そっちも大事だが、それよりお前」

「そうそう、チェリちゃん、女王様になっちゃうの?」

 ロイの言葉を遮って、メロディがそう言った。身を乗り出して聞くあたり、よっぽど気になっていたらしい。

「別に、今すぐそうなるって訳じゃないわよ。お父様の気が変わることもあるでしょうし、そもそも、私よりもメルヴィンお兄様の方が政治に熱心だもの、断然、王位ふさわしいわ」

 第1王子のメルヴィン・ティル・アルクノア。

 眉目秀麗、文武両道、さらに温厚篤実で王族や国民からの信頼も厚い。次代の王候補として、まず名前が上がるのが、メルヴィンだった。

 その彼を差し置いて、チェルシーが指名されたのだから、周囲の混乱は凄まじいものだった。

 特に議会では、今でもそのことが話題に上がっているらしい。

 チェルシーも評判が悪い訳ではないが、政治的な手腕は、メルヴィンには遠く及ばない。

「ですが、伝説が本当なら、チェルシーさんが王位を継ぐのが、ふさわしいかと思いますけど」

 と、セシリアが口を挟むと、ギロリ、とチェルシーが睨み付ける。

「――――っ!」

 チェルシーの鋭い視線に、セシリアがピクリと肩を震わせた。

 しかし、チェルシーは特に何をするでもなく、セシリアから視線を外すと、やはり不機嫌そうにしながら、昼食のパンを頬張る。

 そのやりとりを見ていた、ロイが深くため息を吐いた。

「何だ? 伝説って」

「え……? あ、はい」

 セシリアはチェルシーのことを気にしていたが、一旦視線を外し、ロイの質問に答える。

「えっと、ローレンスの英雄譚はご存知ですか?」

「ああ、魔剣ブレイジング・デイジーを携えた英雄だな。聖女ソフィアと共に、不滅の魔王ヴィンセントを倒した」

 1500年以上前に実在したと言われる、魔王ヴィンセントと、英雄ローレンスの伝説は、この国で最も有名な伝説だ。

 童話として、分かりやすくまとめられたものもあり、母親が子どもに読み聞かせる定番でもある。

 幼い頃、ロイも母親に読んで貰った記憶があった。

「はい。ですが、不滅の魔王の名の通り、不死身の力を持った魔王は、彼の英雄の力を以てしても、倒すことが出来なかったんです」

 セシリアが話しているのは、伝説の終盤のこと。何度倒そうと立ち上がる、魔王ヴィンセントに、為す術を持たず、消耗する一方の英雄ローレンス。

 苦戦の末、聖女ソフィアの魔力で、魔王の魂を封印することによって、戦いは決着を迎えた。

「聖女ソフィアは、こう言い遺したそうですよ。数百年の後、私の封印は力を失う。しかし、恐れること無かれ。彼の時代の真なる王が、魔王の魂を討ち滅ぼすだろう。と」

「真なる王……」

 セシリアの言葉を、ロイが繰り返した。それから、チェルシーの方へと視線を動かす。

 話の流れから察するに、チェルシーがその真なる王ということらしいが。

「何でチェルシーなんだ?」

 チェルシーが次代国王に選ばれたことと、伝説との繋がりが、まだ語られていない。

 再びセシリアに目を向けると、彼女はゆっくりと口を開いた。

「聖女ソフィアが、チェルシーさんと同じ《癒し》の魔力を持っていた。と言われているからです」

「――――っ!」

 セシリアの言葉に、ロイが大きく目を見開いた。

 ようやく話が繋がった。

 つまり、伝説の聖女と同じ魔力を持つチェルシーが、再封印を施してくれることを期待しているわけだ。

 と、ガタン、音を立てて、チェルシーが立ち上がった。

「ごめんなさいね。少し調べものがあるから、図書室に行くわ」

 また後で。そう言い残すと、彼女は食べ終わった昼食を片付け、食堂を立ち去った。

 その後ろ姿を見送って、セシリアが口を開いた。

「あの、やっぱり、私のせいでしょうか……」

 気まずそうな表情で、彼女はそう言う。

「いや、たぶん、お前だけじゃないだろう」

 ロイは椅子に深く座りなおすと、大きく溜息を吐いた。

 確かに、セシリアが伝説の話を切り出したあたりから、あからさまに態度に現れてはいたが、その前から、王位継承の話が出たあたりから、チェルシーの機嫌は悪くなっていた。

 どうやら、彼女は女王になるのに乗り気ではないらしい。それどころか、強く反対しているようだ。

 ロイはもう一度、深く溜め息を吐いた。


 昼休みも終わりに差し掛かった頃、ロイはメロディと共に教室へ移動する。西棟3階、B-301が、次の授業、精霊学が行われる教室だ。

 教室の間取りが大きく変わることはないが、資料となる文献や、化石などの標本などが飾られている。

 教室には既にハルユキとシド、そして、チェルシーの姿があった。

 図書室で借りてきた本だろうか。何か小難しそうな本を読んでいた。

「よう」

 そう声を掛けて、ロイはチェルシーの隣の席に腰掛ける。メロディも、その隣に座った。

「どうしたのよ。この間は、隣に座られるのを嫌がってたのに」

 チェルシーはロイの方を一瞥すると、そう言った。

 そういえば、入学式の日に、そんなようなことを言ったか。あの時は、嫌がるロイを無視して、チェルシーはずっと隣に座っていた。

「まあ、あの時とは、関係が違うだろ」

 あの時は、王女であるチェルシーと、こんなに親しくなるとも思わなかったし、なりたいとも思わなかった。

「あなたって、結構友達想いよね」

 ロイの返答に、チェルシーはそう言ってクスクスと笑った。

「うるせえ」

 チェルシーの言葉に、ロイはそっぽを向く。

 その様子を見て、チェルシーはまたクスクスと笑い、それに釣られて、メロディも笑みをこぼした。

 楽しそうにそうにしている女子2人を尻目に、ロイは深く溜め息を吐いた。

「セシルが、自分のせいで気を悪くしたかも知れないから、謝っておいてくれ、ってさ」

「セシリアが?」

 ロイの言葉に、チェルシーが少し顔を落とす。

「別に、あの子のせいじゃないわ。昔から、歴史家や魔術研究家の間で言われていたことだし、慣れてるもの。ただ、本当にそうなるのかも、って思ったら、ちょっと嫌になっちゃっただけよ。私は結局、運命から逃れられないんだ、って思い知らされちゃった」

 憂いを帯びたチェルシーの横顔をロイはじっと見つめる。

 気丈な印象の強い彼女だが、彼女なりに悩んだりもするらしい。

 思えば、彼女が王女扱いされるのを嫌ったり、この間、1人で城の外を出歩いていたことも、その運命に抗おうという思いの、表れだったのかも知れない。

「そんなに嫌なら、辞退すればいいんじゃないのか?」

 ロイが何の気なしに言った言葉に、チェルシーは深く溜め息を吐いた。

「そうできるなら、そうしたいのだけどね……」

 チェルシーはまた不機嫌そうに唇を尖らせる。

「伝説の真偽はともかくとして、本当に魔王が復活するって、年輩の方の中には、結構信じてる人も多いのよ。そういう人たちの不安を取り除く意味もあるから、無下には出来ないのよね」

「……そうか」

 チェルシーの言葉に、ロイは返す言葉を持たなかった。

 はっきり言って、ロイには政治が分からない。

 しかし、国民の不安を拭い去ろうという、彼女の言い分は理解出来る。それでも、どこかチェルシーが不満気なのは。

「不安、なの?」

 隣で話を聞いていたメロディが、そう口を挟む。

 その言葉に、チェルシーは目を丸くし、そして、気まずそうに目を反らした。

「だって、どう考えても、お兄様の方が優秀だもの。後で止めとけばよかったとか、思われたくないわ」

?チェルシーは不貞腐れた表情でそう言う。

「私じゃあ、ちゃんと国をまとめられる自信が無いわ。付いて来てくれる人がいるかもわからないじゃない」

 そうは言っても、実際は神話を信じる者たちが一定数はいる訳で、そういう者たちの支持は得られているのだろうが、恐らく、彼女が言いたいのはそう言うことではないだろう。

 と、そこでチェルシーの瞳がロイの方を向く。

「だから、私のことを理解してくれる人間が1人だけでもいいから、欲しかったのよね」

「…………」

 イタズラっぽい笑みを浮かべて、自分の瞳を見つめるチェルシーに、ロイは何も返すことが出来なかった。

 そこで、ロイの中で話が繋がった。

 チェルシーがロイを騎士にしたがっていた理由だ。

 気の置けない相手に、自分のことを見ていて欲しいのだ。

 自分が道を間違えないように、正しい道を歩いて行けるように、近くで見張っていて、見守っていて欲しいのだ。

「…………」

 やはり何も言うことが出来ず、ロイは頭を抱えた。

(まったく……)

 不器用というか、素直じゃないというか、何と言うか、面倒な女だ。

「――あのね」

 不意に、メロディが身を乗り出して、チェルシーに声を掛けた。

「あたしは、その、何かできるって訳じゃないけど、チェリちゃんの、友達だから……。だから、その……」

 と、最初こそこそ勢いはあったが、途中から自信がなくなってしまったのか、徐々に言動から勢いは失われ、最後には口籠ってしまった。

 そんなメロディの様子を見て、チェルシーはクスクスと笑う。

「ふふっ、ありがとう、メル。やっぱりいい子ね、あなた」

 チェルシーは表情を綻ばせ、その笑顔を見て、メロディも自分の思いが伝わったことを理解したのか、釣られて笑顔を見せた。

「ほら、ロイくんも」

「ん?」

 2人の様子を見守っていたロイに、メロディが何かを促す。意味が分からずに聞き返すと、メロディは更にロイの肩を揺さぶって、急かした。

「ん? じゃなくて! ロイくんもチェリちゃんに何か言ってあげて!」

「あ、ああ……」

 言われてチェルシーの方に視線を移すと、彼女は何か期待するような瞳を、ロイへと向けていた。

 その真っ直ぐな視線から逃れるように、ロイは顔を背けため息を吐いた。

 それから、静かに口を開く。

「まあ、俺でよけりゃあ、いくらでも力を貸してやるさ」

 そう言った瞬間、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。

 程なくして、精霊学の先生、クリスティナ・シエラが教室に入ってくる。

 長い金髪を後ろで束ねた女性で、凛とした表情に赤い淵の眼鏡が良く似合っている。

「はい。じゃあ、授業を始めるわよ」

 淡々とした口調で、クリスティナは言う。

 その瞬間、教室の空気が変わる。多少の雑談さえ許されないような雰囲気だった。

 それっきり、ロイは授業が終わるまで、チェルシーの顔は見ていない。

 しかし、最後に言葉を交わしたとき、微かに笑っていたような、そんな気配があった。


「ねえねえ、チェリちゃん」

 授業後、セシリアと待ち合わせをしているラウンジに向かう途中で、メロディがチェルシーに声を掛ける。

「ん? なあに?」

「チェリちゃんは、どんな王様になるの?」

「どんなって?」

 メロディの質問に、チェルシーが更に質問を返す。

「えっと、ほら、チェリちゃんが王様になったら、どんな国にするのかな、って。公約? みたいな」

「あー、そうね~」

 チェルシーは顎先に指を当て、空を仰いで、少し考えるような仕草を取る。

 それから、視線をメロディに移す。

「まあ、あなたたちが、いらない苦労をしなくていいような国には、したいわよね」

 チェルシーの言葉に、メロディが頭上の猫耳をぴょこんと動かした。

 確かに、メロディのような獣人(ライカン)や、それを始めとする亜人たちが、心置きなく暮らせるような社会は、ゲイルガルドの、いや、世界中で目指すところではある。

 すでに、亜人たちの人権尊重が叫ばれるようになって、100年以上経つが、元来人間主義の強いこの国では未だに人種差別が根強く残っている。

 この間のように、メロディが嫌な目に合うことも、この先幾度となく訪れるだろう。

 友人として、何とかしてやりたい気持ちは、ロイにもあった。

 また、ロイのように、固有魔術師が迫害の対象にされることも、少なくはない。

 このゲイルガルド魔術学園が、固有魔術師の育成に力を入れるようになったとはいえ、まだまだ、手探り感が否めない状態だ。

「人間も、亜人も、貴族も、平民も、魔術師も、固有魔術師も、非魔術師も、男も、女も、みんなが同じように暮らせる国。そんな国になったら、素敵だと思わない?」

 チェルシーがイタズラっぽい笑みを浮かべてそう言う。それに釣られて、メロディも笑って「そうだね」と返した。

 まあ、理想論ではあるが、そういう理想を語るのは、ロイも嫌いではない。

「ねえ、ロイ?」

 チェルシーがロイに呼びかける。

 その視線に気付いて、ロイは顔をしかめた。この間、彼女が言っていた言葉を思い出して、嫌な予感がしたのだ。

「な、何だ?」

 先程、力を貸す、と言ってしまった手前、無視する訳にもいかず、ロイは恐る恐るそう聞き返す。

 ロイの考えに、チェルシーが気付いたかは分からないが、彼女はニヤリと笑みを深めた。

「改めて、お願いがあるのだけど」

「聞くだけ聞こう」

 改めて、という時点で、その先はもう読めてしまい、うんざりとした気持ちで、ロイは続きを促す。

 チェルシーは一瞬ムッと唇を尖らせたが、特に気にした様子は無く、また元の表情に戻って、口を開いた。

「私の騎士になりなさい」

 お願い、というようなかわいらしい口調ではなかったが、チェルシーの不器用な性格も、そろそろ分かってきた。

 予想していた通りのお願いごとに、ロイはうんざりした気持ちが強くなるのを感じていたが、2度目ともなると、少しばかり落ち着いていた。

「理由は?」

 この間は、「面白いと思った」などと言っていたが、そんな適当な言葉で誤魔化されるのは、ロイは御免だった。

 理由いかんで引き受けるとは言わないが、折衷案を考えるくらいのことをするつもりはある。

「そうね。あの時とは違うものね」

 ロイの言葉を受けて、チェルシーが顔を引き締めて、そう呟いた。

 確かに、前回それを言われた時とは、彼女の立場が違う。

 第4王女と、次代の国王候補。その違いは、小さなものではないだろう。彼女の身を守る騎士の責任もだ。

 あの時は、面白いというだけでよかった理由も、多少はまともなものを用意していて貰わないと困るというものだ。

「まず、さっきも言ったけど、私を支持する人間が欲しかった、というのがひとつ。そのために、家柄と実力が伴う人物である必要があった、というのがひとつ。仮にも騎士だものね。」

「家柄はともかく、俺は魔術師としては半端者だ。実力の方は保証しかねる」

災厄の(カラミティ・)魔女(クイーン)》と呼ばれる祖母を持ち、父親も宮廷魔術師だ。自分で言うのも何だが、家柄の方は申し分ないだろう。

 だが、かく実力の方はというと、話は別だ。

 魔力が特殊なだけではない。魔力量は人並み以下で、術式構成も下手。この間、ヴィートリヒも言っていたが、学生間の魔術戦で辛勝を挙げた程度の実力では役不足だろう。

「けど、あなたの限界は、そんなものじゃないでしょう?」

「は?」

 チェルシーの言葉に、ロイは驚きの声を上げた。

 限界も何も、この間、ウィリアムとの決闘で倒れた。実に不甲斐ないことだが、あれがロイの限界だ。チェルシーもその様子を目の当たりにしていたはずだ。

 何を以てして、彼女はロイの限界を疑うのか。

「気付いていないの?」

 ロイがどうしても腑に落ちないでいると、チェルシーが不思議そうな表情でそう尋ねた。

「何がだ?」

 勿体ぶった言い方をするチェルシーに、怪訝な表情でロイは聞き返した。

 自分のことで、自分の知らないことがあるというのは、どうにも気持ちが悪いというものだ。

 不機嫌そうに眉を寄せるロイに、チェルシーは少し考えるような仕草をして、口を開いた。

「シドと対面していたときのあなたは、もっと凄まじかったわよ」

 チェルシーの言葉に、ロイは両目を見開いた。

 そして思い出す。

 今日の授業中、ハロルドに指名されて、シドと対面した時のこと。その時の昂ぶりを。

 湧き上がる怒りにもにた感情、あの時湧き上がってきたのはそれだけでなく、魔力の増大もロイは感じていた。

 魔力は感情と強く結びついている。今考えれば、あの感情の昂ぶりは、魔力の増大から来たものだったように思う。

「あれは凄かったよね~。潰されちゃうかと思った」

「そんなにか?」

「そうね。魔力量だけで言えば、宮廷魔術師でもそうはいないと思うわよ」

 にゃはは、と冗談めかして言うメロディに、ロイがそう聞く。チェルシーがそれを肯定した。

 自分では意識していなかったので、ロイには確かめようも無いが、彼女らの言い分から察するに、相当なものだったのだろう。そういえば、ハロルドが「みんなを怖がらせるな」というようなことを言っていたか。

(俺に、そんな力が……)

 ロイは自分の右掌を見つめる。

 考えてみても、なぜそんな力、自分に宿っているのか、答えは出ない。いや、ハロルドの弁によると、ロイとシドの魔力が、共鳴しているとのことだったが。

 ロイは右手をグッと握りしめる。

「何にせよ、いざという時に使えないんじゃあ、意味が無い」

 敵が毎回、竜人という訳では無い。

 使えない武器など、持っていないのと同じだ。

 そのことはチェルシーも分かっているだろうが、彼女は真剣な表情のまま、更に続けた。

「使えないのなら、使えるようになりなさい。あなたの力なら、あなたにどうにか出来ない道理はないでしょう?」

 チェルシーは力強く言い切る。

 その言葉に、ロイはムッと唇を尖らせた。

(簡単に言ってくれる……)

 しかし、彼女の言うことも理解できる。それだけに、ロイは反論することが出来ずにいたのだった。

 ロイは気まずそうに顔を背けて、口を開いた。

「別に、俺じゃなくてもいいだろ……」

 家柄がよくて、実力もそれなり、チェルシーのことを理解してくれる人物。例えば、ヴィートリヒにでも、任せておけばいいおけばいい。つい最近知り合ったばかりのロイよりも、ずっと信頼できるだろうに。

「だって、あなたは――」

 と、うだうだと煮え切らない様子のロイに、チェルシーが声をかけた。そのときだった。

 バチンッ――。

 何かが弾けるような音が学園に鳴り響き、その音に釣られて、ロイは空を仰いだ。

 いや、「音」ではない。

 それを感じたのは聴覚ではなく、もっと意識的な感覚だ。

 気のせいかとも思ったが、見ると、チェルシーとメロディも、同じように空を眺めていた。どうやら、2人も同じものを感じたらしい。

「なんか、静かになったね」

 不意に、メロディがそう呟く。

 が、ロイもチェルシーも、それには答えなかった。

 静かになった、という言葉の意味が、2人には理解できなかったからだ。

 しかし、ロイも、自分が見ている、いや、感じている世界に、違和感を感じていた。

 何と言うか、視覚も、聴覚も、肌で感じる空気さえも、いつもよりクリアに感じていたのだ。

 それを静かになった、と表現したのかと思い、ロイはメロディの方に目をやる。と、彼女に起きている異変に気付く。

「おい」

「ちょっと、メル!」

 同じく、そのことに気付いたチェルシーが、慌てた表情で声を上げた。

「あなた、耳はどうしたの!?」

 メロディの頭上、彼女のトレードマークとも言える猫耳が、無くなっていたのだ。

「ふぇ……?」

 チェルシーの言葉に、メロディは目を丸くする。彼女は両手を自分の頭上、普段なら猫耳のある辺りを触り、それが無いことを確認すると、今度は頭の側面、通常、人間の耳がある部分を触り、その感触を確認する。それから、メロディは自分の腰に手を当て、尻尾も無くなっていることを確認する。

 また、自分では気付いていないが、メロディの金の左目は、右目と同じ銀色になっている。

 メロディはどこからどう見ても、普通の女の子のようになってしまっていた。

「何、で……?」

 ロイは思わずそう声を漏らす。

 メロディは、魔力との親和性が高く、獣化が解けることはないと言っていたが、それが今は解けている。

 おそらく、きっかけはさっきの「音」だが、その正体が何か分からない。

 ドオオォォーーン!

 そのとき、校内に爆音が鳴り響いた。今度ははっきりと、聴覚でそれを感じる。

 音は校舎の外から聞こえていた。窓から確認すると、学園の中央、講堂の方から、煙が上がっているのが見えた。

 講堂から、多くの数多くの生徒が駆け出して、逃げるのが見える。数人の教員たちが、避難誘導に当たり、また数人の教員たちが消火活動に当たっている。

 が、その消火活動をしている教員たちの様子が、どうにもおかしい。

 消火のための術式構成が、上手くいっていないのだ。

 誰が術式を構成しても、術式は形を成すことが出来ず、霧散してしまう。

 ハッとして、ロイは上空に目を凝らした。

 組めない術式、そして、クリアになった感覚、メロディの獣化解除、それらをつなぐ鍵が、そこにあった。

「《反魔術機(スペルジャミング)》か!」

 魔術感覚を狂わせ、術式を阻害する魔道具。

 魔道具の効果で、ロイですら気付かなかったが、微かにその術式を読み取ることが出来た。その規模までは、完全に把握することは出来なかったが、学園全体に張られているものと考えていいだろう。

(反魔術機まで用意して、学園を混乱に陥れる理由。考えられるものとしては、恐らく……)

 反魔術機は、その性質上、精度の高い調律が求められる。質の低いものでは、高位の魔術師には破られてしまうからだ。

 しかし、国内最高峰と呼ばれる魔術学園で、その教員すら封じてしまう反魔術機となると、軍用か、それに匹敵するレベルのもの。

 当然ながら、その精度に比例して、価値も跳ね上がるそれを使用してまで、学園を襲撃した理由となると。

 ロイはチェルシーに視線を移す。

 彼の頭に浮かんだのは、チェルシーと初めて出会ったときのこと。

 混乱に乗じて、彼女の暗殺を企むというのは、いかにもありそうなことだ。

「行くぞ」

 一刻も早くチェルシーを避難させる必要がある。この場に彼女が孤立している状況は、実によくない。

 ロイの提案に女子2人も頷く。言わずとも、彼女らも状況を理解しているらしい。

 それを確認して、ロイは歩き始める。2人もそれに続いた。

 校舎の出口に向けて、3人は歩を進める。

 幸いにも、少し先の廊下の突き当りまで行けば、3階から2階、そして1階へと降りる階段がある。

 が、その手前で、ロイが足を止めた。釣られて、女子2人も足を止める。

 ガキン――ッ!

 次の瞬間、金属同士がぶつかる音が、その場に鳴り響いた。

 階段手前の曲がり角から飛び出してきたナイフを、ロイが剣で受け止めたのだ。

 続けて、そのナイフの持ち主が、間合いを取りつつ、その姿を見せる。

 覆面で顔を隠していたが、男の纏う空気感から、ロイは悟る。

(この間の奴か)

 一度剣を交えたことから来る勘でしかないが、間違いない。以前、チェルシーを襲ったのと、同じ男だ。


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