水仙 もう一度愛してください
彼と別れて1年が過ぎた
微かに残る冬の冷たい風が私の横を足早に通っていった
よく一緒にひと休みしていたこの土手
「未練がましい…かな」
一年の間何度も足を運んだこの場所
彼が来てくれないか・・期待してた
ゆっくりと川沿いを歩く
一歩一歩歩くたびにたくさんの思い出が甦る
「かず…」ぽつりと呟いた声とともに
土を踏みしめる音がした
亜紀はゆっくり顔をあげた
[亜紀・・?]
見開いた瞳に映ったのはずっと思っていた彼の姿
「か、一哉! どうして…」
時計の針が止まったような感覚が胸を締め付ける
[久しぶり]
そう言って髪を触る目の前の彼は間違いなく一哉
[元気だった?]
明るく尋ねる一哉に亜紀は頷くので精一杯だった
「一哉も・・元気そうだね」
震える声を抑えて大人ぶる私に
そうでもないよと手をひらひらさせた
[それ…まだ付けてくれてるんだね]
一哉は亜紀の首に光るモノを指差した
それは一哉が前にくれたネックレス・・
「あ、これ可愛いし!捨てるのも勿体無いから…」
慌てたように声を荒げる亜紀に寂しそうに笑った
昔と同じような小さな沈黙さえ今は苦しい
[俺、ここにずっと来てたんだ] 「・・え?」
隣で歩く亜紀に一哉は前を向いて話しかける
[仕事で失敗した時とか、辛いことがあった時とか・・亜紀を思い出す時]
「……」[後悔してたんだ・・別れたこと]
一哉はぴたりと進める歩を止めた
[だから…今ここで会えて浮かれてるんだ、自惚れてもいいのかなって]
足元に視線を落とす一哉の姿に高鳴る鼓動が口元を小刻みに震わせていく
「私も・・来てたよ、ずっと」
一哉の瞳に私が映っている
「一哉が忘れられなかったから」
亜紀は瞳に映る自分の姿に恥ずかしそうに微笑んだ
一哉は不満気な表情にきつく結んだ唇を緩め
隙間からかすかな笑みをこぼした
そっと繋がれた手が暖かい
それと共に小さな足音が聞こえた
「あ,水仙の花」 [スイセン?]
それは2人の言葉を耳をすませて聞いているかのように
小首をかしげて咲いていた
「ねぇ、スイセンの花言葉知ってる?」
――もう一度愛してください――




