黒髪の撃殺姫
TURN WEI
翌日、勇はより実践的な訓練を受けた。
「これからレーザーポインターをあなたへと照射します。それを避けてください」
姫はそう言うと、拳銃につけたポインターの電源を入れた。先ほどまでとは裏腹の、殺気をたたえた美しさを露わにする。
まずい!勇の本能が叫ぶ。アパートの部屋での感覚がよみがえる。
勇は走り、姿勢を変えて何とか避けようとする。しかし訓練場に遮蔽物はなし、幾度となく光に捉えられる。
「また...!厳しすぎませんか!?」
「保安局の戦略は巧妙です。これを遥かに超える苦境に追い込まれることも多いです」
極限状態へと誘われていく。
「もう疲れました...」
「上司にそんなことを言っていいんですか?」
午後からの戦法講義が始まる前、勇はひどい疲労に襲われていた。
「疲れてからの座学も訓練の内なんですよね...」
「手負いでの撤退、敗走術も大切ですよ。死んでしまったら何にもなりませんからね」
「よし頑張れ佐藤勇!」
勇は眠気覚ましに自らの頬を叩く。
「この陣形のときに最も脆い箇所は...」
やっぱり眠い。
翌日は射撃訓練だった。訓練場は前日とは打って変わり、長机とはるか先に人型の的がある、射撃場へと変わっていた。
「あなたの能力値からして、近接戦闘を得意とするでしょうが、戦術の柔軟性は大切です。今日は拳銃での人型的の頭部への直撃を目標とします」
拳銃の基本的な使用法を伝えられ、的へと銃口を向ける。照準を合わせ、トリガーを引く。
確かに頭部を打ち抜いたはずだったが、弾は逸れ的の端にも当たらなかった。どうやら反動を想定し、自分の力で抑えなければいけないようだ。
肉体的な疲労は前日よりはるかに小さいが、とにかく目が疲れる。頭痛に耐えながらの訓練だった。
「やった!」
姫の(距離が近い)アドバイスを受けながら、夕方までかけてようやくクリティカルを決めた。
その後四日間、勇は訓練では射撃武器への適性を高め、講義では実務や戦略のコツを教わっていった。
最終日の講義終了後、姫は勇に提案した。
「私、味方に自分のことを深く知ってもらうのも大切だと思うんです」
「えっ...。」
微かな期待が胸に浮かぶ。
「うそ、誤解しないでください!」
焦った姫もかわいい。
「今からするのは私の身の上話です。あ、嫌だったら適当に聞き流してしまって構いませんので」
「私は大企業の社長の家に生まれました。自慢じゃないけどお嬢様なんです。だから幼いころから、世間一般的に偉い人たちと会話をする機会も多かったんです。
私の親はお嬢様であることを強制せず、私の意思を尊重してくれました。だからこそ高校は公立に進んだんです。
だけど、だんだんと違和感を感じるようになったんです。自分で進路を決めようとしない周囲への卑下でしょうか。それとも自分へのコンプレックスでしょうか。よくはわかりません。
だから高校卒業後、進学せずに旅に出たんです。親不孝者ですよね。その先で見ました、ヲタ帝国による搾取を。とても悲しかったです。そしてやりたいことが決まったんです。軍導師さんと出会い、みんなと一緒に戦って、そしてあなたがここに来ました」
勇は何も言えなかった。