初日
TURN WEI
翌朝、勇は軍導師の指示通り、七時に起床した。
「おはようございます」
挨拶をして施設中央の作戦室に入ると、そこには朝食とそれを囲む五人がいた。
「おはよう。この組織では朝食と夕食はできる限りみんなで食べることにしているんだ」
軍導師がそう言うと、他の四人も快く勇を迎えた。
「慣れない環境だとは思うが、調子を崩したりはしていないかね?」
「すごくいいベッドだったので、よく寝られました」
「聞き忘れていたが、昨日の一件でどこかケガをしたりとかは?」
「大丈夫です。優しく対応してくれたので」
「それはよかった。大切な新人を入団試験で傷つけたりしたらリーダー失格だからね」
食事中の軍導師との会話は、勇のなかにあった警戒心を完全に取り払った。
朝食後、メンバーの一日の予定が発表された。勇はこれから一週間づつ五人の手伝いをし、仕事を覚えていくことになった。
「一週間よろしくお願いします」
自己紹介の順番と同じらしく、(喜ばしいことに)撃殺姫が最初に回ってきた。
「勇さんは趣味とかはありますか?」
「スポーツと、ゲームを。友達に合わせるような形になってましたけど」
「それもいいことです。大切にするべきものが真っ直ぐ見えているんですから」
不思議な問答だ。姫には何が見えているのだろうか。
午前中はSASの使い方や報告書の作成などの、デスクワークを中心に教わった。
「この通りの書式でいいでしょうか?」
「そう。それとこのコマンドがショートカットになるので便利です。効率的な覚え方はそれぞれのキーの要素をつかんで...」
姫の説明はとても分かりやすく、新人の最初の教育係として理想的だと勇は思った。そして気づいたことが一つ、この人はプライベートスペースが狭い!説明のときに顔が触れ合うほど近くに来ていた。
他のメンバーが外出中だったので、昼食は姫と二人でとることになった。
「午前の訓練はどうでしたか?」
「覚えることはたくさんありましたけど、分かりやすくてなんとか習得できそうです」
「よく言われます。自覚はしていないんですけどね。」
姫は親しみを込めた笑みを浮かべた。
午後は下層にある訓練場での基礎訓練だった。姫のアドバイスのもと、勇は筋トレを中心としたメニューをこなしていく。かつて趣味として行っていたものとは比べ物にならない負荷だったが、決意と姫の応援により、しっかりとこなすことができた。
夕方になり、SASで訓練の成果を確認した。
「やっぱりすごい...」
姫は驚きを隠せない。
「私の大体五倍の速度で上がっています」
「僕にもよく分からないんですよ」
「ここに来る前も筋トレはしていたんですよね?いきなり力が強くなった経験は?」
「なかったです」
「向上性が変わるということは有り得ません。実験体にされちゃいそうですね」
「いやいや...」
苦笑しながらも、冗談を言う姫の笑顔は、やはり美しいと思った。
今日の任務はなかったらしく、全員そろって早い時間に夕食となった。
「どうだね勇くん?大人の飲み物を知るのも大切だぞ」
軍導師は酔った様子でビールを勧めた。突然の襲撃があったらどうするのだろうか。
「未成年飲酒などという理由で保安局に目をつけられるなんて御免だぞ」
滅射鬼はお茶を飲みながら言った。
「そんなこと言わないでよ鬼くーん」
「酔っ払いは苦手だ!」
そんな様子に、勇は安心感を得た。