七人の選ばれし者 エピソードゼロ
1
風に靡く桜が、佐々木隆介の本格的な浪人生活の始まりを示し、その日々の中で桜色の髪の女性に出会う。
平成二九年三月のことである。佐々木隆介は群馬県私立光ヶ丘商業大学付属高等学校の普通科進学コースを卒業し、新西第一衛生予備校に入学し、難関大学を目指し勉学に励んでいた。しかし、7月ごろに隆介の人生が変わっていく。
時刻は、夜七時の針を回った頃に、コーヒーが飲みたくなって、自動販売機がある一階に向かう。しかし階段を降りようとすると、突然、ある不思議な光が落ち、窓から漏れたその光が隆介の視野を白く包んだ。さらに雷のように鳴り響くと、瞬く間に龍介の耳に届き、痛みを引き起こした。急いで下に降りたが、雨の気配すらない真っ暗な空が広がっていた。
「いったい・・・?」
自動販売機で買ったコーヒーを手に持って、コーヒーを少し飲み、また勉強に戻った。
翌日、いつもの支度の準備にとりかかり、卒業した高校の担任の先生の言葉を頭の中に暗唱しながら使う使わない教材を分別していた。せっせと予備校に向かい勉学に励んだ。
予備校に到着し、そこにできた新しい友人と言葉を交わし、先生に会釈をして勉強にとりかかった。第1志望の合格を目指し、日々の葛藤と向き合いながら一生懸命に勉強に取り掛かる。
しかし、突然彼の周りに紫色の煙が立ち上り、その不思議な煙に包まれる。次第に仲間の姿も見えなくなり、焦りが募るばっかりだった。ところが、身体を動こうにも動けない、指一本すら動けない程のものであった。身体が恐怖に支配され、身体の感覚も消えて行き、意識を失った。
いったいなにが…。
「…」
かすかに自分を呼ぶ声がきこえるものの、意識が朦朧としている。
「…り…」
まただ…いったいなんだろうと疑問に思いながらも、目を覚まさすこともできず。
「隆介殿!」
ついに目を開けられたものの、目の前に見えるのは広大な農園に、赤染の門がポツンっと建ってあった。しかし、わたくしを呼ぶ声はいったいどこから…?
狐につままれたような、信じ難いような状況であったけれど、隆介は躊躇もなく前に進み、門をくぐった。しかし今度は、全く異なった光景を目にすることとなった。
ここは…?
隆介は注意深くまわりの背景に目を配ったが、目に映ったのが破壊された東京都だった。
少しぼーっとしたあと、彼は理解した。ここは現代ではないと。しかし混乱を拭えなかった。当然のことだ。そもそもなぜこのようなものを見えてしまっているのか。戦争でもあったのか?ついに核戦争がおこったのか?
しかし、彼を呼ぶ不思議な声は続いていた。「…」
その声が霞みはじめたことに気がついたところ、その瞬間に彼の身体は形を失い、ついにはまた、気が朦朧し始めた中で、眠りに入ったのであった。
目を覚めたところ、そこはもう予備校ではなかった。彼は伊勢崎市にある、ある病院に運ばれた。
呆気にとられている間に、近くを通り過ぎた看護師さんをすぐさま呼び、話をきいた限りだと、三日間眠り続けたとのことであった。
病気?
と疑ったが、この三日間の間病気と根拠づけられるような明確な症状もなければ、熱もなかった。医者もなす術なく、自然と目覚めるの待つことしかできなかった。
過労?
身体が全くの健康体で、睡眠もしっかりとっていた。倒れたことも、変なものをみてしまったことも、なぜそのようなことが起こったのか、当然全く訳が分からなかった。
2
隆介にはある一通の手紙が届いた。しかし差出人の名前も住所もなかった。
彼はすぐさま手紙を開封し、内容を確認した。
そこには、東京都渋谷区の住所が書かれてあった。それのみであった。
なんの悪戯だ?と不快に思いながらも捨てずに部屋の中で保管することにした。
翌日、また新たな手紙が届いた。実家暮らしであった隆介であったため、さすがに彼の母親は気味悪いと感じたこともあって、怪しげな手紙について警察に届け出ることを勧めたけど、さすがにそこまではできなかった。
不思議ながらも、この手紙には何かがあると感じ始めた。
しかし、大事なものであるならば・・・
彼はその新たな手紙を開封した。中身は、一つの鍵であった。その鍵を手に取った瞬間、手の甲に水色に輝くマークが表れた。そのマークの形はあまりにも不思議な形をしていたせいで、彼にはまだどういうマークなのかすぐに判明できなかった。しかし綺麗なマークであった。それをみた母親は驚き、その場に佇んでしまった。
彼は行かなければいけないことを理解できた。
「行かねば・・・」と彼は呟いた。
「どこに?」と母親は疑問を投げ掛けた。
「俺がゆくべきところに、たぶん、そこは渋谷にある」
「もし、ダメと答えたら?」
「それでも、いかなければならぬ気がします」
キッチンから現れた父親は話に割り込む形で促した。
「ならいけば?その変なマークはそう言っているだろう?」
父親の言葉をもって、隆介はすぐに支度をし、東京都渋谷区にある住所に向かった。
母親は危険の匂いを感じたようで、悲しげな気持で息子を送った。
「着いたら、ちゃんと連絡を入れてください」
「わかりました」こういって、部屋にあった手袋を手につけて去ったのであった。
時刻はまだ午前であった。
伊勢崎市から、電車に乗った。
東京の渋谷駅から徒歩7分の所で、住所が示す通りの人気の無いところに行ったところ紫色の煙がまた立ち始めた。
(あっ?!これ、前にもあった!)
周りの背景が歪み始め、気づいたら朱雀大路のように広々としたところで、周りに提灯がいくつもあった。ゆっくりと周りを見渡したところ、5人の見知らぬ人がその場にいた。
「君、名前はなんだ?」とサッカーをやってそうな体型をした高校生に見える人に話を掛けられた。
「おれは…りゅうすけです」
「よろしく、おれは矢作亮太」
「こんばんは」と高校で生徒会長をやってそうな雰囲気の女子が、挨拶をした。名前は橘七海で、髪型はセミロングの黒髪である。
他に天使のような姿をした、白にピンク色のドレスを着た女子、名前は杉田彩音という。
「おそらく君にも紫色の煙に囲まれ、ここに移動されただろ?」
涼しげな雰囲気で、亮太が聞く。
「そうです…」
「もう一時間ぐらい経つな…」とショートの黒髪で、スリムな体型をした女子が言う。名前は神藤愛理という。
「一時間も?」
「あ、そうさ」がイケメンパーマをした、モデルをやってそう体型の男子が頷いて答えた。名前は藤原涼という。
「ムカつく連中だな俺らこんなところに閉じ込めてどうする気なん?!」と亮太が愚痴をこぼした。
「愚痴をタラタラとこぼしても意味ないでしょ?」とイケメン爽やかに涼は返答する。
その時、前にあった台に突然紫色の煙が立ち上った。
「1人はいないな…」と、その煙から年配の男性が出てきた、服装はまるで平安時代にタイムスリップした、銀色染めの白い和服を着ていた。服装の形状は陰陽師が着るような服であった。袖がきらびやかな銀色粉で飾られていた。
「あなたたちをここに呼んだのは私です。この和の国の選ばれし者であるあなたたちにやってもらいたいことがあります…」
ところが、遮るように亮太はこう責め立てた。
「まずは名前を教えろ!」
「失礼なことをしました。私は陰陽師、余春麻呂と申します、古い読みだとよのはるまろという読みですね」
春麻呂は続く。
「あなたたちは我が国の選ばれし者です。およそ四百年前、当時最強の陰陽師が立ち上がって、あやかしの総大将を倒し、あやかしのいない時代を作ったと言われています。しかし…」
「待って!」
「最後まで言わせて」と涼が亮太を遮った。
「いいえ、少年の言いたいことは遠慮なくぜひ言ってください。」
「そのあやかしの総大将はアニメでよく出てくるぬらりひょんというのか?」
「そうです。闇の主、百鬼百行を率いるぬらりひょんです。しかし、あやかしの存在は日本にだけ限った話ではありません、こういうものを海外では悪魔というんです」
「悪魔…」このフィクションのような状況は亮太の胸を高鳴らせる。
「しかし、そのような邪悪なものは実際に存在します。強力な印により、今まで数百年の間、日本の場合はおよそ四百年ほど封印されていたが、その封印が弱まってきました」
「復活するのかい?そういう魔物が?」
「そうです…手の甲をご覧なさい」
輝く印が各々の手に存在し、やはり不思議な形をしていた。
「その印が証、君たちが和の国の神々に選ばれた証です。7日以内にあなたたちのところに、各々のサポートとなってくれる精霊が現れるだろう、その精霊を頼りにシキガミの使い方を習ってください…では、詳細はその精霊が説明してくれましょう、気をつけてお帰りください」と春麻呂は手を挙げ瞬く間に紫色の煙に囲まれる。
「待ってい!」しかし、亮太の声は届かずに、おのおのの選ばれし者は元の場所に戻った。