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二人の太陽  作者:
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二人の太陽 2

 召喚術とはよく言ったものである。天使、精霊、悪魔、霊などの未知なる物への人間の想像力とは逞しいもので、古代魔法文明から延々と語り継がれる魔法が体系化され一般的になりつつある昨今でも尽きないようだ。

 

 今、私の視界には親しい友人が映った……と思う。見た目はほとんど同じなのだ。

 しかし、どこか違和感がある。バストヘイムに他の使者より一足先に着き、ぶらぶらと都中を歩いていると彼はいたのだ。

 なんだか他人の様で話しかけづらい。

 私は彼の後をつけることにした。彼は都の中をまるで初めて訪れたように彷徨い歩いている。路地裏の中へと入るようだ。


「少し先に行っていてくれ。後で合流する」


「そんな。アバニッシュ卿!」


 私を制止する護衛の声を無視し、駆け足で路地裏へと入る。そこには誰もいなかった。


「アバニッシュ卿!困りますよ。」


 追いついて来た護衛の声を無視して辺りを見回すが、どこにも彼の姿は無かった。


「アバニッシュ卿!」


「ああ、分かったよ。これからは勝手はしない。」


 空を見る。まさか空を飛んで行った訳ではないだろう。見上げた空は何やら暗雲が渦巻いていた。こちらに向かってきているようだ。


「なんだ。あの雲は。珍しいな見た事がない形だ。護衛の諸君、あんな物がこの地では普通なのかね?」


「いえ、あんな物は私も……雨雲……でも砂嵐の予兆でもないですね。何ですかね?」


 それを聞いているのはこっちであるが。


「まあいい。我が友サンと将軍はどこにいるのだ?」


「この要塞都市の最上部です。今からそこにお連れしようと言うのです。この中は元要塞なので入り組んでおりますので、もう勝手は――」


「ああ、分かった分かった。君たちに従うよ。勝手はしない」


 少し護衛の者たちを困らせてしまったようだ。困惑した様子の護衛の者に笑いかける。


「すまなかった。もう勝手はしない」


 どうやらここでは貴族という身分は人を困らせてしまうようだ。帝国では既に貴族などというのは名前だけで実力も伴わなければ何も役職に就く事すら出来ないのであるが、ここではそうでもないのであろうか。ふむ。


「君たち、我がナイルド・ラコンタは実力主義だ。私が貴族だからといって、何もそんなに畏まる事は無いぞ」


「そう言われましても、アバニッシュ卿は正規の使者でありますので、それ相応の対応をせねばなりませぬ」


「うむ……そうか……難儀なものだな」


 私も困ってしまった。こんな腫れ物に触るような扱いは初めてである。サンも私が貴族であると聞いた初めはこんな風に思っていたのであろうか。


「おい……なんだあれは!」


 護衛の一人が空を指さし叫んだ。私も振り返り見るとそこには暗雲の渦巻く中から何やら続々と何かが飛び出してくるようであった。

 あれは鳥か。

 いや違う人の様でもある。


「悪魔だ!あれは悪魔だ!」


 護衛の一人が叫ぶ。人間の想像力というのは逞しいものだ。


「ならどうするか!諸君!」


 私もだ。想像力が掻きたてられる。あれは何だ。興味が湧く。


「見ていろ。これであれが何だか分かるであろう!」


 私は腕をその暗雲に向けて掲げる。五本の指先に電流が走る。


「少し離れていろ!眩しいぞ!」


 護衛が私を止める間もなく私は閃光を放った。

 空中を光線が一直線に暗雲の周りを飛ぶ飛来物たちへと襲いかかる。

 魔法の雷は自然の雷とは違い指向性を術者が操れる。

 空間を走る閃光を見た飛来物たちはそれから逃げるように散っていこうとする。


 逃がす訳は無い。


 私が指先を器用に動かすとそれに応えるように閃光が投げ網の様に広がり一体の飛来物を包み込んだ。

 網に捕えられた獲物は一瞬で身動きがとれなくなる。感電するのだ。


「それ。止めだ」


 私は閃光の通った跡に這わせる様にすかさず二度目の閃光を放つ。

 今度は一本の矛の様に鋭く束ねる。

 理論はまだ分からないが魔法の雷の通った後は一瞬であるが、魔法の電流が流れやすくなる。高濃度の魔力で空間が一瞬満たされるためであろうか。

 雷の矛は見事に標的に命中した。

 黒い煙を出しながら落下していく飛来物。


「これでどうだ諸君。あれを調べて来るといい」


「アバニッシュ卿……」


「なんだそんな顔をして?悪魔を退治してやったのだぞ?」


 まだ暗雲の周りには飛来物が飛びまわっていた。一体やられたというのにこちらを見もしない。何かを探しているのか?


「あれは何だ。私が調べよう」


「それは困ります。勝手は。我々が向かいますので卿はこのまま将軍の元へ。おいお前。一人で卿を案内しなさい」


「は、はい。それではアバニッシュ卿、私について来てください」


 一番若い兵士が私の案内の命を受け、少しおどおどしながらも私の先を歩く。


「君、名は?」


「レインです。アバニッシュ卿」


「だからそんなに畏まるな」


「いえこれは、私の性分でして……」


「うむ、そうなのか」


「しかし、卿はいつもあの様なのですか」


「あの様とは?」


「先ほどの未確認の生物への干渉です」


「なんだ。君たちはあれを知りたいとは思わないのか」


「ですが、なにがあるか――」


「我々に魔法が齎されて何千年になると思っているのだ。あれが生物であろうが何であろうがこの世に怖い物などない。魔法で解明できぬ物でもないであろう?」


「――しかし、我々の国では魔法はあまり快くは」


「そうなのか?帝国では必須な訓練科目なのだが」


「しかし、真理の追究などというのは――」


「おいおい、混同しているぞ。それは。我々はただ天より齎された理を用いているだけだ。まさかアズールカの人の理などという物と混同されるとは」


「こ、これは失礼しました!しかし、私どもダイルトーアの習わしで言わせてもらいますと、本質が分からぬ物を恐れ敬うのが筋かと。無暗に扱い、神の怒りを買っては元も子もないです」


「うむ。そのように考えるのか君たちは」


「い、いえ。すみません。出過ぎた言葉を」


「いや、いいのだ。では勿論、あの科学とかいう物にも良い気持ちはしないのだな?」


「はあ。他の者は知りませんが、私はあまり」


「そうか。それは良かった。我々と近い考えだ。神より与えられた物で満足せずにさらなる神の所業の解明など。我々でさえまだ魔法の一端の解明と理解で手いっぱいであるのに――」


 それからのこのレインとの会話もなかなか身のあるものであった。なかなか知りえないダイルトーア人の感覚や考え方を学ぶ良い時間であった。


 要塞の最上部ではサンとギルバーク将軍が待っていた。

 サンの恰好は先ほど見かけた者とは違う。やはり見間違いか。

 先ほどの違和感はおそらくその服装にあったのだろう。

 サンは落ち着いた服をきっちりと着るが、先ほどの者は何やらサンのそれと比べるとだらしがなかった。

 髪も長かった気もする。

 応接間に招かれた私はサンと昔話や近況、先ほどの見間違いなども話した。将軍は来ていない。部屋には私とサンだけだ。


「それにしてもサン。お前がただの国の僕に甘んじているとはな。あの革命家然とした意気込みはどうした?」


「止めてくれアバニッシュ。あの時は私も若かった」


「たった数年前の事だが?」


「あれから私は一度本国に戻り、アズールカに向かったのだ」


「……それは聞き捨てならないな」


「なあに安心してくれ。あの地では辛酸を味わっただけだよ」


「ははっ、その話は興味があるな」


「止めてくれ。私は自分に自信が持てなくなったのだよ」


「たった数年で?それはそれは生き急いでいるな。そういう所は変わらないな。サン。お前は何事も早く決断したがる」


「君に言われたくないよ。アバニッシュ。あの集団への閃光は君の仕業だろう?」


「おお、あれは回収したのか?是非私も死体の解剖に参加したい」


「ほらそれだ。君のがせっかちじゃないか」


「私のは、ただの探究心だ。決断などは後回し、まずは行動に移す」


「それがせっかちだと――」


「私は考えて行動などしない」


「――それは厄介だな」


 その後も他愛のない話で盛り上がった。

 因みにあの飛来物は厳重に地下に保管したのだそうだ。

 まだ、空には暗雲が立ち込めている。それを見てサンは『まだあれに手を出すのは早い。将軍にもそうお伝えした。こちらへ危害を加えないのなら尚更だ』などと言っていた。


 それが早いというのだ。

 既に対応を決断している。

 後手に回るという。


 私なら決断は後回しにあれを皆殺しにするというのに。

 私たちの考え方とはやはり違う。

 私たちなら先に行動し、行動に責任の持てる決断を後でするのが常だ。

 まずは行動。話はそれからである。


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