2話『女神様の夢に心を打たれました』
『お届けものでーす!』
俺がヒモ生活を提案して、アトネがそれを許可するとその声は突然どこからか響いてきた。
「はいはーい、今出ますので、少し待っててください」
アトネはそう言うと俺を手招きして呼び寄せる。
「荷物なんですが、いつも一人で運ぶのつらいので、早速手伝って貰ってもいいですか?」
「おう、任せとけ!」
とりあえずよく分からないが荷物を運ぶのを手伝えばいいらしい。
アトネは先程のスイッチのある壁らしき場所まで歩いていく。
「ちょちょちょっタンマ! やっぱりさっきのは無しでさようならって言うのはないよな?」
「ありませんよ? 何を言っているんですか?」
そう言ってアトネはスイッチを押そうとする。
「いやいやいや、そのスイッチ!」
「なんでしょうか? このスイッチが何か?」
「俺を強制送還する的なものではないでしょうか?」
「あー、えっと違います。見れば分かりますよ。ポチッとな」
アトネがスイッチを押すとゴゴゴゴッ!という漫画表現的な文字が空中何個も出現する。
「なんだこれ!?」
「これに関しては演出なので、気にしないでください」
ゴゴゴゴッという文字が消えると、辺りの景色が様変わりしていた。先程まではまるで宇宙空間のような景色だったが、今は景色というか、普通の女の子の部屋のように見える。
「えーこれが、本来の姿です。スイッチ一つでいろいろな景色に変えることが可能なので、便利なんですよ」
どうやら、先程のスイッチは別に俺を強制送還するためのものではなかったらしい。
「てことで、とりあえず荷物を受け取りに行きましょうか」
アトネに付いていき、玄関らしき扉の前までやってきた。
ガチャっとアトネが扉を開ける。
「えっと、《E地区・異世界転生指導係》のアトネ・ピアララス殿でよろしいでございますでしょうか!」
元気よく声を上げる少女は人間で言えば小学一年生程だろうか、体が小さい。小柄な体に大きな真っ白い羽が生えているので彼女も女神だろう。
「はい、問題ありません。E地区担当のアトネ・ピアララスです」
「では、ここに神意印とサインをお願いします」
差し出された紙にアトネは指を近づける。すると先程と同じように光輝く文字が現れ、用紙にはあっという間に印とサインの両方が記入されていた。
「はい。問題ありません。ではこちらがお届けものになります」
そう言って小学一年生くらいの体躯の少女は何もない空間にアトネと同じように光輝く文字で円を描くと、その円の中心に腕を突っ込む。
「えっと、何? あれ?」
円から出てきたのはぐるぐると何重にも袋のようなものが巻かれた物体だ。大きさは調度俺と同じくらいだろうか。その品物を小学生くらいの少女が軽々持っているのだ。まぁ見た目に反してとても軽い可能性もあるが、その光景は異様だ。
「えー、とりあえず二人で運びましょうか」
「わかった」
とりあえず小さな少女から荷物を受けとる。
ドスっと腕にかなりの重量がかかる。
「ちょっ!? これ重すぎだろ!?」
片側をアトネが持っているがアトネの表情はかなり険しいものになっている。
「やっやっぱり、かっかなり二人でもきついですね。いっいつもは引きずっているのでして!」
「そっそうなのですか!? 生モノなのでもっと気をつけて運んでください! 後、必ず三日以内には開けてくださいねっ、と、私はまだ配達が残っているのでお先に失礼します!」
バタンッと小さな少女はドアを閉めて行ってしまった。
--てか、これ生モノってことは……。
とりあえず余計な事は何も考えずにその物を部屋の中心まで運んでいく。
「ほっと、よっと、あっと」
アトネは必死に荷物を運んでいる。
俺が先頭を行き、後ろからアトネンが続く形だ。
「やっぱり、かなり重いですね」
何故かさっきからアトネの台詞は聞き覚えのあるものばかりだ。
「気をつけろよ!」
と言葉を放った時には既に遅かった。
「あわっ!なっなんか躓きましたって、あわわ!!!」
アトネが物から手を放す--と言うか俺に向かって投げ飛ばしたように見えたんですけど!?
「グベェッ!!!」
と叫び声を上げて俺は意識を失った。
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「もしもーし」
今、俺はどうやら冷たい床の上で寝ているらしかった。
「あのー聞いてますか?」
目を開けるとそこは先程の部屋だった。
「もしもし? いい加減返事してもらってもいいですか?」
--いったい、何が起きたんだ?
「あのー」
さっき俺は『お届けものでーす!』という言葉を聞いて……ダメだそれ以降の記憶が思いだせない。
「私のせいなので、悪いと思うのですが。そろそろ起きてくれませんかー」
--デジャブ?
「聞いてますかー」
そうだ、さっき見た光景だ。
「こりゃダメですね。とりあえず、説明はまた今度にして私だけで進めましょうか」
もしかして、俺は--
「やっぱりこの包装を解くのは、毎度毎度のことですがっ大変ですね!」
--帰って来た!?
「くっ取れないですね! よっと」
「まさか、タイムリープなのか!?」
「ってあわ!? きゅっ急に大きな声出さないっでくだって、あわわ!?」
ドサッと俺の体に誰かが、覆い被さる。
ポヨンッと俺の手のひらにら柔らかい感触があった。
「えーと、起きましたか?」
「はい。起きました」
「ていうか、貴方は私の胸を揉まないと起きられない病にでも掛かっているのでしょうか? まぁいいです。とりあえず話してください」
「えーと、とりあえず、ごめんなさい」
俺がアトネの胸から手を離すと、アトネは立ち上がる。
「不思議ですね、先程は嫌悪感がありましたが、今は全くありませんよ」
やはりアトネは度が付くほどのチョロインだった--。
「えっと、これはどういう状況だ?」
部屋の真ん中には大きな荷物が転がっている。
「えー、ざっくり言うと二人でこれを運んでいて、そしたら私が躓いて荷物を放り投げてしまい、貴方が気絶したという感じです」
言われてみたら、記憶が戻ってきた。どうやら、タイムリープでもなんでもなかったらしい。
「そういえば、そうだったな。てか、どうせだったら貴方じゃなくて名前で呼んでくれないか?」
「そっそうですか。分かりました。では、ごほんっ、カイトックス」
「ん? カイトックス?」
「あー。一応、ニックネームで呼んでみようかと。ダメでしたか?」
「いや、別にアトネンがそれでいいなら、いいんだ。カイトックスなんて呼ばれたことなかったからビックリしただけだ」
--しまった!
確か恋愛マニュアルでは、女性の好意は無条件で受けとる事と書いてあったはずだ。
「えーでは、普通にカイトと呼びます。あまり気に入っていただけなかったようなので」
一度踏んだ地雷は回収出来そうになかった。うん。次頑張ろう。
てことで、気分を入れ替え俺はアトネに質問する。
「でだ、届けられたこの品物はいったい何なんだ?」
「えーと、開けて見れば分かると思います。てことで、二人で開けて見ましょう」
とにかく、二人でその品物を守るため?につけられている包装を取っていく。
--すごい犯罪臭がプンプンするのだが。
人型だ完全に人型だ。
どんどん包装を取っていくと徐々に中に入っているものの形が分かっていく。
臭いは無臭だが、俺の予想あっているとすれば--
「やっぱりって、ミイラ!?」
--俺は人間が入っているのかと思ったが、中身は人間でも既に死んでから何年経っているのだろうか、ミイラだった。
「どうですか? ビックリしましたか?」
「いや、どうですか? ってただただ怖いわーって感じだ」
「まー、普通はそうですよね。ちなみに貴方もこんな感じでしたよ?」
「まじか!? てか異世界転生の裏側ってこんなショッキングなのか!?」
「えーと、まぁだいたいこんな感じです。可愛い女主人公も最初はこんなミイラなんですよ。《神意》の保護なしに下界から上界に魂が昇ってくると、こんな感じに磨り減ってみんなミイラになります」
「聞き慣れない言葉が何個も出てきたんだが、てかこれ魂なのか!? そこんとこ説明を要求してもいいか!?」
ミイラの姿がかなりショッキングなので、なんだかテンションがおかしくなっている。
「えーそれじゃあ、ざっとですが説明しますね」
そういうとアトネは紙を持ってきて、手から光輝く文字をだし、指一本で紙に文字を書いていく。
「さっきから気になっていたんだが、その魔法みたいのは何なんだ?」
「まー待ってください。それも追って説明しますから。とりあえず分かりやすいように、紙に書いて説明しますね」
そう前置きをした後、アトネは説明を開始した。
「えーまずカイトが住む世界、異世界アースやその他の異世界がある世界を私達はまとめて《下界》と呼んでいます。で、まー単純なんですけど、私達女神や神がいる世界の事は《上界》と呼んでいます。で、先程少し話したように《下界》で死んだ魂は《上界》にその魂を磨り減らしながらやって来ます。酷く魂を磨り減らしてそこにあるようにミイラ化した魂を私達は《転生者候補》といいます。まー要するに魂が磨り減っているので元の世界との癒着も少ないし、転生させやすいんですよね。それに空っぽに近いので《神意》を授ける事も容易いので一石二鳥ですし」
そう話し、紙に書きながら説明してくれるアトネ。
--そこで寝ているミイラは放って置いてもいいのだろうか?
「で《神意》についてですが、まー簡潔に言うとなんでもできる力です。さっき見たいに印鑑証明に使ったり、そこで置き去りにされているミイラを元の姿に戻したり、異世界へ転生する人間に力を与えたり、その使い方は様々です。ちなみにですが、今カイトが私の言葉をちゃんと認識出来ているのも《神意》の力のおかげですよ」
「そうだったのか!? 確かに、よく考えて見れば俺の住んでいた世界ですら言葉がいろいろあったのに、違う世界で言葉が一緒なんてことはないよな。《神意》についてはとりあえず分かった。ただそもそも、なんで異世界転生なんてしないといけないんだ?」
「あーそうですね。そこが一番重要ですね。えーそうですね、分かりやすく言うと《下界》には数々の異世界がありますが、その異世界が滅ぶ度に強大なエネルギーが天災となって《上界》に降りかかるんですよ、まぁやっぱり阻止できるのなら阻止できた方がいいですよねって感じです。ちなみに女神や神は基本的には《神令条約》によって《下界》に降りることは出来ません。まぁ神様なんかが《下界》に降りたらどうなるか何となく想像してください。まー、一応例外として上から許可が降りれば条件付きで行けない事もないですが、わざわざ下界に降りたいって神や女神はいないと思います」
「何でだ? むしろ、物語とかだと神様はだいたい楽しそうーって感じで下界に降りてくる感じじゃないか?」
「えーと、物語はあくまでもフィクションですよ。実際に異世界転生指導係をやってると、見たくないものを見てしまうですよ。生物の欲とか……いろいろ」
「そんな話を聞くとやっぱり働きたくないなー。ちなみに異世界転生指導係っていうのは?」
「んー《異世界転生指導係》はここ神界リピースに住む女神の事を指しています。ちなみに《下界》と同じように《上界》も世界が分かれています。で、《異世界転生指導係》の説明に戻りますが《異世界転生指導係》は地区毎にランク分けされているんです。A~Eの地区に分かれていて、Aに近づく程、難易度の高い異世界の問題を解決しなければなりませんが、その分、給料なんかも上がります。まぁ給料に関しては別にどうでもいいんですけどね。とりあえず私はA地区目指して、日々頑張ってる最中ってわけです」
「なるほどな、大体は分かった。でも給料がどうでもいいなら、なんでアトネは頑張っているんだ?」
少し逡巡した様子を見せたアトネはやがて、口を開いた。
「えー、ちょっと小っ恥ずかしいですけど、理由は女神だからですかね。私はやっぱり、いろんな生き物に幸せになってほしいんですよ。みんなが、笑顔なら私も幸せなんです。だから、A地区を目指していろんな生き物を幸せにしたいです。A地区に近づく程、いろんな世界を救うことができると思うんです」
そう話すアトネの笑顔はとても輝いていた。
「かっけぇ……よ。かっこいいよ……ぐすっ……アトネン」
「ちょっ、なっ何泣いているんですか!? 情緒不安定ですか!? 大丈夫ですか!?」
アトネは先程説明に使っていた紙を渡してくる。
少し固くて痛いがそれで俺は鼻をかむ。
「いやな、俺……グスッ……今までの人生、自分の事しか考えてなかったよ。まぁもう人生は終わってるけど。アトネン凄いな。グスッ……そっか……他人のために尽くすってことは本当はこういうことだったんだな。……よし、俺も頑張るわ! 仕事はしないけど、アトネンをちゃんとしっかりサポートするぜ!」
どうやらアトネはただのチョロインではなかったらしい、かっこいいチョロインだ。
不意にクスッとアトネが笑った。
「急に泣いたり、急にやる気になったり本当、面白い人ですね。それではしっかりサポートよろしくお願いします」
「おう、任せとけ!」
「えー差し当たっては、とりあえず彼を元に戻しましょうか」
そう言ってアトネは先程《神意》と説明された力--手から光輝く文字を出現させて、その文字をミイラに向かって放つ!
閃光。
目映い光で視界が多い尽くされ、世界が真っ白になる。
やがて--
--開けた視界の中には一人の老人が立っていた。
すいません3000文字程度を目指して書いていたつもりが少し長くなりました。