夢
シャボン玉が飛んでいる。
何処からともなく現れて、空へ向かって飛んでいっては消えていく。
空は真っ青で雲一つない。
見上げていると、私までこのシャボン玉のように空へ吸い込まれそうだ。
そこから歩みを進めると、花の咲き乱れる美しい花園にたどり着く。
色鮮やかな花たちが絡み合い、あの空に勝るとも劣らない幻想的な世界を生み出している。
これは美しい夢。
せめて覚めるまでは、この夢に魅せられていよう。
どれだけの時間が流れたか。
目前に広がる楽園とも言える景色に魅せられていると。
現れる一つの影。
その影が一つ、また一つと、花を摘み取っていく。
私の楽園が壊されていく。
やめろ、やめてくれ。
私はとっさに駆け出して、手に握られていた何かを影に突き立てた。
柔らかい感触。
突き立てた何かが、ゆっくりと影に沈み込んでいく。
手に力を込める度、まるで沼に飲み込まれるようだ。
その感触に、打ち震える。
気持ちが、よかった。
何度も、何度も突き立てた。
そのたびに、景色が赤くなっていく。
青かった空も、咲いていた花も、全てが赤く。
なんだ、こっちの方が美しいじゃないか。
どうせこれは夢。
ならば、もっとこの楽園を美しくしよう。
私はまた突き立てる。
もっと赤く、もっと美しくするために。
私はまた、何かを突き立てた。
この何かが、何なのかなんてどうでもいい。
どうせこれは夢だもの。
この影が、何なのかなんてどうでもいい。
どうせ、これは夢だもの。
影が何かを叫んでいる。
痛い、助けて、許して。
でも、どうでもいい。
どうせ、これは、夢だもの。
繰り返した。
突き立てては駆け巡る甘い感触に体を震わせて、赤くなっていく楽園には心を震わせる。
そのうち、影は冷たくなった。
声も、もう聞こえない。
でも、どうでもいい。
どうせこれは夢だもの。
美しく染まったであろう楽園を見る。
でも、そんなものはなく。
あるのは汚れたものだけ。
でも、どうでもいい。
どうでもいい。
これは夢だ。
夢に決まっている。
ありがとうございました。