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今までにない自分  作者: にごらせ生茶
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ラーメン屋ひまわり①

 麦わらの女の子は万が一、『ひまわり』に客がいても同じ大学の学生ではなく、他の一般のお客さんが少しいるくらいならいいかなと思っていた。男子学生たち3人が『ひまわり』に入っていくのを見て、どうしよう、やっぱりやめようか、このまま引き返してしまおうかと悩んだ。


 「・・まさかこの暑さでラーメンを食べに来る学生がいるなんて・・思ってもみなかった・・やっぱり今日はやめに・・・・いやでも、せっかくここまできたし・・。・・あの後輩の二人は笑われたり、好奇の目で見られたりはしていたけれど、自分が良いと思ったことを勇敢にも実行していた・・。・・私もこの程度のことで負けてはいられないか・・。・・よしっ! 決めた!」


 そうさらに意を決すると『ひまわり』の前まで歩いていき、上を向き気味だった麦わら帽子を目深に被り直し、半透明の戸の前に立ち止まりふ~っと胸に手を当てて呼吸を整え、思い切って引き戸をガラッと全開に開けた。テレビドラマやアニメなら[ガラーッ、ダンッ!!]と店の引き戸を開けるシーンが3連発くらい繰り返し流されるような勢いで引き戸を開けた。


 勢い余ってつい店の引き戸を思いっきり開けてしまった・・。店内の人たちから、一人だし好奇の視線があたしに注がれているかもな・・と恐る恐る下向き加減だった顔を徐々にあげてみたが、麦わらの女の子はのれんが自分の目の前を覆うほどにかかっているのを忘れていた。前方の視界はほぼ塞がれている。


 めちゃくちゃ注目されているだろうなと意識しながら怖々と顔をあげたものの、目の前にはまだのれんがただぶら下がっている。


 麦わらの女の子は少しの間、自分の目の前に垂れ下がったのれんを寄り目気味にじっと見つめた。あら・・? のれんだ・・忘れてた・・のれんかきわけーの、引き戸あけーのだった・・もしくは、もっと落ち着いて引き戸静かにあけーの、のれんかきわけーのだったか・・とその場に佇んだ。


 「・・い、いらっしゃいませ~・・」


と麦わらの女の子のあまりにも勢いのある登場の仕方に驚き、中年であろう男のたじろいだような声が聞こえた。


 麦わらの女の子はその声にはっとして我に返り、躊躇いながらも、今となっては思わせぶりなくらいのタイミングになってしまったところで、ようやく遅ればせながらのれんをそろそろと少しだけかき分け、客の状況はどんな感じなのかと店内の様子をチラチラと伺った。この暑さだし、駐車場には車が一台も止まっていなかったので予想はしていたが混雑は全くしていないようだ。

 

 外が快晴に近い晴れ空で、とても明るかったためにのれんの隙間から垣間見られる店内はとても暗く感じた。[ジャーッ]と鍋で何かを炒める音と、テレビの音声が耳に入ってくる。


 思ったとおり客はほとんどいないようで安心し、すっかりとのれんをかき分けて店内がはっきりと見えるようにすると、カウンター席に先程店に入った男子学生たちが座っているのが見えた。麦わらの女の子の勢いのある登場の仕方に視線が釘付けになっているようだ。


 男子学生たちは麦わらの女の子をじっと驚いたように見つめていたが、麦わらの女の子が男子学生たちの方を見ると、男子学生たちは視線を何気なく逸らした。店主の方を見ると、店主も視線を逸らし、ラーメン作りに慌てて戻った。

                        

 麦わらの女の子はのれんをくぐって店に一歩を踏み入れ、引き戸を背中の方に手を回しながらゆっくりと閉めると、数歩だけ店内に入ってまだ薄暗く感じる店内をキョロキョロと見回した。どうやら客は男子学生たちだけのようだ。


 麦わらの女の子が学生たちの方から視線を逸らすと、やはり男子学生たちが自分をチラチラと見ていることが分かった。しかし、その視線を気にしないようにしながら、男子学生たちが座っているカウンター席から何席か離れて座った。


 「・・いらっしゃいませ~・・ご注文はお決まりですか?」


とても暑そうにふうふうと汗をかいている店主が曇ったメガネ越しに、麦わらの女の子がカウンター席に腰を下ろして間もなく注文を取った。


 「・・ああっ、はい・・それでは・・え~っとですね・・え~っと・・味噌ラーメンを・・一つ・・」


 「・・はい、味噌一つですね~、少々お待ちくださ~い・・」


 麦わらの女の子は店内の壁を目を凝らしてキョロキョロと慌てて見回し、入ってきた引き戸の方を振り返り、その右斜め上の壁にメニューが表示されているのをやっと見つけ、それにざっと目を通すと、何とかそう答えた。


 店主は注文を受けると男子学生たちのラーメン作りに戻っていった。


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