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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

八十億の塵芥

作者: 佐野ライト

リハビリ小説です。

 ──人間は、無限の可能性を秘めている。

 そんな言葉を耳にする。

 いつ誰が言ったかは、わからない。が、そんな虚言が巷にあるのは事実だ。

 それは、素晴らしい名言とばかりに人々はその言葉を賞賛し、それを敬愛する。

 時に、その虚言を語り、引用し自己陶酔に溺れるのだ。

 ──これらの人間のどこが無限の可能性なのか。

 希望に溢れている的内容の暗示台詞に縋り付きながら、どの生き物にも勝っているこの世の大王のように街という名の玉座でふんぞり返っている。

 ──人間全てに無限の可能性があるわけではない。

 何故、そう言い切らないのか。

 数学の計算で人間には一生分かり得ない物が発見されているのに。

 そこに可能性を求めるのか。


 人間は何もわかって居ないだろう。

 自分達は結局、生物界で一番薄い生き物だと。


 ☆



 薄暗い路地。

 上方は気持ち悪いぐらいに青々としていて逆に毒々しかった。

 太陽はきっと出ている。しかし、人間のようにかたく冷え切ったビルに囲まれたじめじめとした此処は光はやって来ない。

 黴か黒ずみかわからないがビルの壁は汚れ、居るだけで肺が汚れそうになる空気。

 それを拒むかのように嘔吐感が湧き上がる。

 少し進むと、行き止まりだ。

 けれども、その行き止まりは少しばかり広くサッカーの練習には使えるかもしれない。

 もっとも、その行き止まりにはゴミが溢れ、子供が入るのは危険そうな店の入口がある。

 基本、こんな所にあるのは、違法関係だからだ。

 賭博か何かでタバコの臭いも捨てられたゴミの臭いが混ざり嘔吐感は更に増す。


 三日前此処で殺人事件が起こった。

 しかし、警察には知られていないだろう。

 特に此処は違法関係が並ぶ場所なのだから、殺人事件が起これば行き止まりのこの場所は封鎖され、この場所にある店も調べが入ったりして仕事が出来なくなる。

 それを恐れて、店側の方が殺人事件で出来た芥を棄てたのだろう。

 そして、その殺人犯も殺されて事件など無かった事にする。

 殺人犯の自首、自供も恐ろしいものの一つだ。

 調べる為に警察が来るだけでは済まない。

 死体遺棄は、立派な犯罪。二重に罪を課せられる。

 さすれば、この店どころか自分達の人生さえも終わりを迎え、金の為にやっているのに実に本末転倒な結果になるだろう。

 ──けれども、実際最初から本末転倒なのだ。

 初めから犯罪に手を染めてまで無理矢理金を稼ごうとしなければ、こんな二重三重と犯罪に犯罪で固める事も無かった。

 しかし、彼らは犯罪の道を選んだ。

 欲望に負け、全てを捨ててまで選んだのだ。


 人々は、彼らを最低のゴミ屑として見ている。

 法や秩序を平気で崩壊させ、自分達の都合しか考えず生きて、やりたい事だけやる。

 表世界の枠から外れ、白い目で追いやられるだろう。

 そんな彼らに一番世界中で動物らしく生活している人間と敬を示そう。


 ──中指はご自由に。




 嘔吐感のする臭いもある程度慣れては来たが、流石にもう用事も無いので出ることにする。

 現場には赤い文字でルミノールと書いて置けば、後はあいつ等が働いてくれる筈。

 もっとも、あいつ等程嫌いな者は居ないが、あいつ等以外が行動すると何か裏があるのではと目を付けられて叱りを受ける。

 また、酷い場合は強要される、現代の言葉の拷問を喰らう事になり、俺は社会に見下される。

 それも腹立つので、今回はあいつ等に連絡しないといけない事に腹立つ気持ちを抑えつけ携帯の番号を押す。

 今時に、スマートフォンでは無いのはただ単に思春期の反抗精神と同様、スマートフォンが持ってる人が凄いとか進んでるって言ってるのが気に食わない。

 たかが、それだけの事で優劣なんて付けられないものなのに。

 大切な物に優劣を付けず、他のどうでもよい事に優劣を付けたがる。それが嫌いでならなかった。

 軽快なプッシュ音を三つ鳴らし、コールを掛ける。


「もしもし──」


 声を抑えながら話しているからかビルの間で反響する音が殆ど無かった。

 表の車のクラックションやバイクのエンジン音の方がよく響いている。


 バタンと勢いよくケータイを閉めた。

 これは、スマートフォンでは出来ない事だろう。


 裏世界から出た時、太陽は眩しかった。

 ──あいつが希望だろうか。

 太陽は無限の可能性なのだろうか──。

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