取り調べ
おとなしく連行された二人が連れてこられた場所は、一面真っ白な建物だった。
四角いショートケーキみたい、と暢気なことを美奈は思ったが、それにしては、建物を取り囲む塀が物々しすぎる。明らかに脱走など企てさせないという意志を感じる高い塀を眺めていると、入り口を守っていた者の前に突き出される。
「地界人二名を連行した。手続きを頼む」
元々連絡が行っていたのか、そもそもそういうものかは知らないが、手続きは短い時間で終わり、一旦、書類が山積みになっている部屋へ通される。
罪人に、そんなもの見せていいのかしら? とも思うが、手を後ろに縛られている状態では、無理矢理暴れて見ようとしなければ見れるわけでもないので、いいのかもしれない。
部屋の主は入ってきたこちらを気にせず、頭を抱えながら、書類と格闘している。対応したのは、その部下と思しき男だった。
「やぁ、拘束してしまってすまないね。君達は暫くこの建物にいてもらうことになる。部屋に入ったら拘束は解くから我慢してくれ」
どうやら、今回の対応者はこちらに対しての害意はないようだった。
「さて、少しだけ聞かないとならないんだが、まず、君達はここがどこか知っているかい?」
ここ、とは、どのレベルの話だろうか? 天界の中、という話なのか、地域名なのか、建物の名称なのか。
美奈が質問の意図自体に首をかしげている内に、計人は吐き捨てるように言った。
「無理矢理連れてこられて、どこも何もねーだろ。知るか、んなもん」
「そうか、そうだよね。ここは天界というんだ。君達にとっては異世界ということになる。迷い込む人間はとっても珍しいんだよ」
ましてや、二人同時にというのは、滅多にない、と続ける相手を見て、美奈はがっかりした。
この相手は何も知らない。今回の裏どころか、自分達が梨亜ちゃんに連れられてきたことすら分かっていない。どうやら、偶然にも迷い込んでしまった不運な人間という認識のようだ。
ひょっとすると奥の相手なら何か知っているのではないかと、丁寧にこれからの処遇を教えてくれているのを聞き流しながら、そちらを盗み見ていたが、特にこちらに対しての関心が感じられない。むしろ、こちらに気を回している余裕がないように見える。
――この人、新人さんなのかしら?
新人にしては、やけに手馴れている気はするが、奥の人の関心は大半が目の前の書類、ほんの少しだけ目の前の人がきちんと対応できているかで、監視されている目の前の人の注意は、奥の人に駄目出しされないかに向けられている様だ。
この状態で、二人が何か事情を知っている可能性は低い。
部屋に閉じ込められた後に、黒幕登場ということもありえないでもないが、放っておかれる可能性が高い予感がする。
ひょっとすると選択を誤ったのかもしれない。自分達で天界に行く事が出来ない以上、仕方がないけれど。
美奈は、まだまだ波乱の待ち受けてみえる先行きに、こっそり息をついた。