告げられた事実
武器を向け、距離を詰めてくる包囲網に、計人が切れて物騒なことを考えている気配がしたので、落ち着いて、と腕を押さえて訴える。
腕に乗せた手の上にぽんっと自らの手を被せ、頷いた計人に頷き返し、美奈は相手をきっと見つめてきっぱりと言い返した。
「分かりました。但し、梨亜ちゃんが戻ってきたら、私達の居場所を伝えるようにしてください。そうでなければ、ついていくことは出来ません」
強い意志を載せたダークブラウンの瞳に見つめられ、少し表情を動かした相手は、しかし淡々と告げた。
「結城梨亜は、北に投獄されました」
「はぁ?」
もう戻ることはない、と続ける相手に、計人は呆気にとられた。
そもそも、元々今日は梨亜と共に天界に行き、案内されて帰ってくるだけの予定だったのだ。
それが、天界に来るように勧めた当の本人は途中でいなくなり、その上、一生待っても戻ることはない。更に、自分達は罪人として連れて行かれるのだと言われれば、流石に冷静に物事を判断するのは難しい。
怒ることすら忘れ、何だそりゃ、と呆れる計人を横に、美奈が言いつのる。
「北って……、北のどこですか? 投獄とはどういうことですか?」
相手は、面倒だなというそぶりを見せたが、じっと無言で自分を見つめる美奈に、肩をすくめると、渋々答えた。
「『北』というのは凶悪犯罪者の入る牢のことです。ここに入った者は、殆どが獄中死を遂げることとなります」
二人の頭が真っ白になる。
――凶悪犯罪者!?
あの梨亜が、凶悪犯罪者と呼ばれる立場になる意味が分からない。何せ、本人は最近ずっと、自分達と共に地界にいたのだ。
過去の罪が暴かれたということも考えられないでもないが、それなら反対に、暢気に梨亜が来るまで待っているだろうか? 地界人二人の目の前で連れ去るくらい形振り構わない状態だったら、普通、本人が帰ってくるまで待たずに確保に来るんじゃないだろうか。
考えた美奈は、梨亜がどんな罪を犯したか聞いてみることにしたが、返ってくるのは「さぁ?」というそっけない返答のみ。
更に詰め寄っても、自分達を連れ込もうとしたからじゃないか? と、一生を牢獄で過ごすことには到底ならなさそうなことしか返ってこない。
そのおざなりな態度の中に、少しの焦りといらつきが混じっているのを感じた美奈は、心の中で首をかしげる。
――この人たち、梨亜ちゃんの罪状を知らない?
ひょっとして、下っ端には知らされないだけかもしれないし、自分や計人の態度が気に入らないから教えたくないだけかもしれない。しかし、本当は梨亜ちゃんに罪などないのだとしたら?
そうすると、おとなしく捕まって、事情を知る捕縛者の元に赴いて聞いた方がいいのかもしれない。
けれど、問題は、目の前の相手が梨亜を捕まえた相手とは別の指示で動いている場合だ。その場合、ここで連れて行かれることは、梨亜との繋がりを完全に断ち切ることになりかねない。
もし、梨亜とは関係なく、偶々そこに取り残された地界人を何らかの陰謀に加担させてやれ、という相手だったら……。
美奈はうつむいてじっと考えた。