お菓子作り
「さて、実は、以前にうちの李で作ったスモモジャムがあります。今回、これも使っちゃいます」
ジャムは、少し酸味の利いた李を使っているらしい。ジャムには完熟より未完熟の方が、味がしっかりするらしい。
要は、美奈に言われるまま、ボウルに薄力粉と強力粉、サラダ油に塩を入れ、水と一緒にひたすら混ぜた。踏み台に乗って懸命に混ぜるその姿に、偶然通りかかっては、様子を見ていく使用人の姿が増えていた。
「粘りが出るようにべったんべったん打ち付けちゃってください。そのうち、綺麗に一固まりになってきますから」
その言葉通り、最初は手やボウルにくっついていた生地が、段々とくっつかなくなっていく。
要が生地をこねている間に、美奈は李を切って、フライパンで溶かした砂糖カラメルの中に入れていた。
甘い香りが辺りに漂う。
「美奈、こんな感じでどうだ?」
「はい、ありがとうございます。それで十分です。後は、こちらのお皿に丸く置いて、冷蔵庫で寝かせておいてください」
やることが終わったので、美奈の作る中身 ――フィリングというらしい―― 作りを見にいく。
カラメルが程よく混ざった李を火からおろし、スモモジャムを回し掛けて混ぜられる。
味見、といって、美奈がスプーンに少し取って、差し出してくれた。
「はい、あーん」
「あーん。……うん、美味い」
甘い李に、スモモジャムの程よい酸味がプラスされて、それだけでも、パンにつけて食べても美味そうだ。
「あとは、生地がなじんだら、薄く延ばして、中身を入れて、焼くだけです。お好みで、甘くないホイップクリームなんかをつけても良いと思いますよ」
そう言いつつ、美奈はまだ余っている李を半分に切っていく。
「それはどうするんだ?」
要が聞くと、美奈はにっこり答えた。
「待ってる間に、ワインゼリーを作ろうかなって」
水と砂糖、ワインを入れた鍋を煮立たせる。要は赤、美奈は白ワインだ。二人仲良くコンロの前に立っているのを、使用人は、にこにこと見守っていた。
「そっちに、李を入れて、少し煮てください」
美奈の鍋は火を止め、ゼラチンとレモン汁を混ぜて、バットに流し入れている。要の方も、李にワインの色がついてきた程度で、火からおろす。
「そうです、鍋から少し取って、ゼラチンを溶かしてから全体に入れてください。そうしないと、全体に混ざらないので」
「こんなもんか?」
「はい。では、このグラスに、李の断面を上にして、真ん中においてください」
「断面が下だと駄目なのか?」
「下だと種の部分が空洞になっちゃったりすることがあるんです。液をきちんと入れるようにすれば、どちらでも構いませんよ」
わいわいと、質問しながらゼリーを作っていく要。やったことはなかったが、こういった単純作業は、案外楽しい。
二種類のゼリーを冷蔵庫に入れ、こちらも待ち状態になった。
「他にも何か作るのか?」
「あとはそうですね。スモモジュースを作ります。ただし、出来上がりは数週間後ですけどね」
そういって、美奈が取り出してきたのは、氷砂糖。
まずは、李をよく洗い、布巾できゅっきゅと磨いて、へたも綺麗に取った後、ホワイトリカーにくぐらせる。
大きな瓶を煮沸消毒し、氷砂糖を敷き詰め、その上に李、氷砂糖、李、氷砂糖と乗せて、段々を作っていく。
「後は、待つだけですね。やることと言えば、時々揺すって中身を回すくらい。出来上がったら、水で割って飲んだり、ソーダで割ったり、かき氷にかけたり、しゃりしゃりシャーベットにしたりしても美味しいですよ」
氷砂糖が完全に溶け切り、果実も溶けた感じになると出来上がりらしい。思ったより簡単な工程だったが、思ったより時間がかかった。
そうこうしている間に、時間になったようだ。
「そろそろシュトゥルーデルタイクが馴染んだころだと思うので、薄く伸ばしていきましょうか」
言われるまま、布巾の上に打ち粉をたっぷりつけた生地を載せ、麺棒で伸ばしていく。
「薄ければ薄いほど、さくさくの触感になるんですよ」
ところどころで、美奈の手を借り、均等に伸ばされた生地の上に、スモモフィリングを乗せ、くるくると巻いていく。
後は予熱したオーブンに入れ、三十分ほど焼けば完成らしい。
「お疲れ様でした」
「あぁ。美奈も、な」
「ふふふ。二人でやったので、早く出来ちゃいました。ありがとうございます」
にこにことエプロンを外す美奈。要としては、手伝うというより足を引っ張っていた気がしないでもないが、こうまで手放しで喜ばれると、こちらも楽しくなってくる。
「こんな手際でもよければ、いつでも手を貸すぞ」
言われた言葉に美奈は、それは嬉しそうに笑った。
最近、お菓子作りがあんまり出来てないなー。がっつり作りたいなー。




