テラスで朝食を
サブタイトル書いてて、ティファニーで朝食を、を思い出した。
ので、テラスで朝食、の予定に「を」を付け足してみた。何となく。意味はない。
コンコンコン。
要が、控え目なノックの音に答えると、山口家のメイドが礼をして入ってくる。
「お早うございます、隊長様」
美奈の隊長さん呼びに合わせ、隊長様などという呼び方をしてくるメイドさん。彼女達からしたら、自分は得体の知れない小学生程度にしか見えないはずなのだが、それにしては、扱いが丁重すぎる。
「お早う、矢島さん。何度か言ったと思うが、隊長様ってのは変じゃないか? 無理矢理居ついた居候の餓鬼なんて、要とでも呼び捨てにしてくれて構わないんだが」
要は、半ば諦めながら、ここ数日の間にすっかり言い慣れた訴えを繰り返した。それに対する返答もまた、すっかり聞きなれたものだった。
「お嬢様がお認めになった、大切なお客様ですわ。ましてや、主が敬称をつけている方に、呼び捨てなど、とんでもございません」
「だが俺は、この家で何らかの隊長になった覚えはないんだが」
「そちらに関しましては、お嬢様と交渉なさってください。わたくし共は、お嬢様の呼び方にあわせているだけですので」
人は変わることはあれど、代わり映えのしないやり取りに、はぁっとため息を吐く。いきなり押しかけた自分を、快く受け入れてくれた美奈。そんな美奈に、呼び方が気に入らない、とは言い出しにくい。
幸い、といっていいのか、この家の人間は、子供を隊長と呼ぶことに抵抗も疑問もないようなので、構わないだろう、と暗示をかけることにした要だった。
メイドに連れられてテラスに行くと、二人分には多い量の食事が用意されていた。
「お早う、美奈。いい天気だな」
席に座っていた美奈が、要の方に視線を向けた。
「はい、お早うございます、隊長さん。とても気持ちのいい朝なので、今日はこちらで朝にしようかな、と」
確かに、これだけの陽気だと、外で食べるのも良いだろう。異論もなかった要が頷くと、沢山のパンに、ハムやチーズ、ジャムやクリームに、卵やソーセージ、マリネにサラダにフルーツと、彩りも豊かなメニューがテーブルに並べられる。
「大量だな……」
「好きなだけ取ってください。後は、皆の朝食に回されますから」
言いながら座る美奈の向かいに座った要は、少し考え、スコーンにクロテッドクリームとメープルシロップをかけた。最初に甘いものになるが、気にしない。
「飲み物は、紅茶にしますか? ジュースやコーヒーなんかもありますけど」
ライ麦パンにチリビーンズのディップをつけながら、美奈が聞く。
「ヌワラエリヤのストレートで。――それもうまそうだな」
思わず呟くと、美奈がパンをこちらに差し出す。
「少し食べてみます? うちでは偽タコスとか呼んでますけど」
そうか、偽タコスか。なるほど。
それはいいんだが、自分の作ったものを、相手に先に食べさせるのはいいのか、とか、甘いスコーンを食べてるときに、その味を混ぜるのは危険だろう、とか、こんなにいっぱいあるのに一つのパンを分け合わないとならないってのはどうなんだ、とか、いろんなツッコミが頭をよぎる。
「いや、これの次に試させてもらうさ」
結局、スコーンを持ち上げ、遠慮の意を表すことにした。
「今日もお出かけですか?」
結局、色々なメニューを試して、お腹も十分に膨れたところで、美奈がこの後の予定を聞いてくる。要は、食後のコーヒーを一口飲んで、答えた。
「いや、今日は今のところ、何の予定もないんだ。美奈はどうするんだ?」
「今日は、スモモのシュトゥルーデルが作りたいんです。よろしければ、一緒に作りませんか?」
さて、シュトゥルーデルとは何かと、要は首を捻った。確か、こちらの言葉で「渦」を表す言葉だったという知識だけ、頭の片隅にあるが。多分、ロールケーキのようなものか、とあたりをつけた要は、頷いた。
「菓子作りというのは、殆どやったことないから、どれだけ役に立てるかは分からないが」
謙遜ではなく、本当にたいして役に立たないのだが、美奈は要の答えに瞳を輝かせた。
「それじゃあお願いします。いつ頃から作り始めましょうか?」
「いつごろからがいいんだ? 俺はいつでもいいが」
「そうですね、丁度いい李を取りに行くので、一時間後くらいでいかがですか?」
「取る?」
「はい。うちの庭に、李の樹があるんです。庭師さんが、そろそろ完熟の李が多くなってきた、と教えてくれたので、取りに行くんです」
基本、果実は庭師が収穫をしておいてくれるらしいが、取り頃のものが多くなると、お遊びついでに、果実狩りをすることがあるらしい。その規模は、ふらっと自分だけで行くこともあれば、友人を呼んで、大々的にやることもあるそうだ。
要が、荷物持ちがてら、収穫についていくことを望むと、美奈は二つ返事で喜んだ。




