天界へ
目の前に、天界へと続く道が開かれている。
それは、梨亜が小さなピコピコハンマーの様なものを使って地面に開けたもので、如何にも異世界へと続いていきそうな果ての見えない穴だった。
美奈は、穴に手をぷらぷらと入れてみた後、待ちきれず真っ先に飛び込んだ。
――ここを抜ければ、夢にまで見た天界の地!
今日が来るまでの四日間、美奈は常になくそわそわと今日が来るのを待った。天界の人にご挨拶するのに、何か手土産が必要じゃないかと梨亜に相談したり、当日の服装を考えてみたり。
使用人達にも、何か良い事があったんですか? と笑いながら聞かれるくらい、彼の地へ行くのを待ったのだ。
どきどきと躍る胸を押さえつつ、流されるまま進んでいく。やがて見えた門に、美奈の期待は大きく膨れ上がった。
「異世界人の入国許可もらうから、まずここで待ってもらえる?」
梨亜の言葉に、計人と二人、同時に答える。
「はーい」
「許可って先に取ってないのか?」
素直に返事した美奈とは違い、計人は不思議そうに首を傾げる。
その姿に、申請は事前に出来ても、本人確認がされないと許可が下りないことを知っていた美奈も首を傾げたが、そういえばその説明については計人と一緒に聞いていたわけではないことを思い出した。
梨亜が計人に説明をし、許可をもらいにいこうとしていると、内側から門が開き、数人の人間がこちらの方へと向かってきた。
受付の人かな? と思いつつ、近づいてくるのを見ていた美奈は、初めて出会う梨亜以外の天界人にわくわくとしていたが、どうにも様子が変だった。
「――すみません、結城梨亜さんですね?」
「はい? そうですけど」
梨亜が心当たりもなさそうな感じで答えると、相手は愛想をどこかに置き忘れたかのように淡々と告げてくる。
「ちょっとご同行願えますか?」
ますます訳が分からない、といった梨亜に、北へ連れて行くよう命令が出ていると告げられる。どうも、これは入国手続きの一環ではなく、想定外の事態らしい。
当初、美奈達の入国手続きを理由に断ろうとしていた梨亜は、従った方が早いと判断した様だ。
「――分かりました。二人共、悪いんだけど、ちょっとそこの待機所で待っててくれる? すぐ戻るから」
あまり乗り気でない感じでため息をついた梨亜が心配になり、大丈夫か聞いてみるも、返ってくるのは、不手際のお詫びの言葉のみ。
態々来てもらったのに申し訳ない、という思いを全面に出した態度に、慌てて話を逸らす。
――梨亜ちゃんが悪いんじゃないのに!
「何か気を付けないといけないこととか、ある?」
「うーん。ここからふらふら歩いて、いつの間にか密入国、とかなければ、別に」
多少無理矢理な方向転換に梨亜が答えると、計人が少々つまらなさそうに便乗してきた。
「待ちくたびれて帰りてぇ、とか思ったらどーすりゃいい?」
計人の質問に答えたのは、待機所の人だった。
「お戻りの際には、お送りしますよ?」
計人が、梨亜を連れて行こうとしている人たちの態度を面白くないと感じていることに気付いていた美奈は、係りの人は丁寧な態度であったことに、ほっと息をついた。
質問がなくなると、梨亜は迎えに来た人に連れられて、門の中へと入っていってしまった。
「最初から波乱万丈だねぇ」
「まったくだ」
出鼻を挫かれてがっかりする美奈と、先程の人達の態度にまだ怒りの見える計人。とりあえず、係りの人に勧められたベンチに座り、梨亜の帰りを待つことにした。