招待
『そろそろ着くわ』
計人からのそんなメッセージを受け取った美奈は、シェフたちを振り返った。
「皆、そろそろ来るみたいなんだけど、準備はいい?」
「はい、お嬢様。後は、お客様がいらっしゃってから仕上げればいいものばかりです」
自信たっぷりの答えに満足して、頷く。辺りにはいい匂いが漂っていた。
『お嬢様、計人様方が、門にいらっしゃいました』
「あら、行かないと。それでは頼みますね」
「お任せください」
頼もしい返答を返すシェフに任せ、パタパタと玄関に向かう。たどり着いたときには、三人は扉の前にまで到達しているのが写っていた。
「いらっしゃいませ」
「来たぞ~」
「お、お邪魔します」
「邪魔をする。急にすまない」
開かれた扉ごしに挨拶をすると、三者三様の挨拶が返ってくる。要が、呼ばれてないのに来たことを恐縮しているのは分かるのだが、何故か梨亜まで緊張している。美奈は、不思議に思いながらもにっこりと歓迎の意を示した。
「いえいえ、大勢の方が楽しいので、来ていただけて嬉しいです」
まだ少し早い時間だったので、何か時間つぶしを、と思った美奈だったが、計人達は昼を食べ損ねたらしい。
すぐ食べたいと言われたので、早速用意することにした。
「おいしい! この小籠包!」
「それは良かった。こっちに海老の小籠包もあるので、よかったらどうぞ?」
「これは何だ?」
「あ、それは、鹹水角です。中は甘めの餡で味付けたお肉なんかが入ってますよ。さくさくもちっとした食感が美味しいので、食べてみてください」
「他に、まだあんのか?」
「デザート系除くと、あとは排骨麺とか、葱油餅出そうとしてるけど。計人好きだったよね?」
「おっ、そりゃ楽しみだ。梨亜、おやきみたいなん出るぞ、食ってみ」
わいわいがやがやと、大いに食べ、舌鼓を打つ。
皆がお腹いっぱいになったあと、談話室に移動して、最後にとっておきの茶壺で聞香杯を楽しみながら、飲茶は終了した。
「美味かった。急だったにも拘らず入れてもらえて、感謝する」
「いえいえ。見ての通り、まだまだ食べきれないくらい作ってましたし」
しきりと恐縮する要に、美奈が笑って手を振る。
「ところで、隊長さんは、ご用事はもう終えられたのですか?」
美奈の質問に、要が首を振る。
「いや、まだだ。暫くこちらにいることになるんだ」
ため息を吐いて、眉をしかめた要に、ふと落ち着く先が決まっているのか気になった。
「そうですか。では、今日泊まる場所とか、もう決まってらっしゃるんですか? 外は結構暗くなってきてますけど」
尋ねた美奈に、要は少し困った様子で呟くように答えた。
「まだなんだが、どうするかと思ってな」
何か特定の希望があるのかと首を傾げる美奈に、要は答える。
「基本的に、作業を地界人に見られるわけにはいかないし、夜中に出たり数日戻らなかったりする可能性もあるから、ホテルは難しいかと思ってな」
そうそう、とばかりに梨亜が頷く。
更に、詳しい日程が決まっておらず、戸籍を持っている訳でもないため、部屋を借りるのも難しいらしい。まぁ、例え戸籍を用意しても、見た目小学生の要が、契約できるかという問題は大いにあるが、そこを口に出す人間はこの場所にはいなかった。賢明である。
「ちなみに、おれんちは、居候一匹でいっぱいいっぱいだからな」
計人が、梨亜を居候呼ばわりしたせいで、二人のいい争いが始まってしまった。まぁ、仲が良い証拠なので、美奈は気にせず話すことにした。
「ホテルでも、中に入らないようにすることは出来ますよ。掃除してほしい時以外、ゴミやタオルだけ外に出して、交換しておいてくれるようにすればいいかと」
「だが、いつまでか分からないような客、ホテルも困るだろう」
「そんなことありません。ホテルって、いつでも客がいるわけではないので、長期になる可能性のあるお客様は、結構助かるんです。一室開けておくくらい、何の損失にもなりませんよ」
だから構わず取ってしまったほうがいいと説明するが、要の表情は晴れない。
「とはいえ、いたりいなかったり、戻る時間も予測できないじゃあ、不審に思われるだろうからな。どこか、目立たず、テント張ったりしてもいい場所知らないか?」
「え、それ、野宿ということですか?」
「あぁ」
あっさりと頷いた要に、美奈が驚く。
「駄目ですよ、野宿なんて! うちのホテルなら、言われない限り中に入りませんし、融通は利かせられますよ? 無料でいいですし」
「申し出はありがたいが、さすがにそこまでは甘えられん」
「料金なら、滅多に使われない特別室を使ってもらうので、こちらもメリットあります。空き室を痛まないようにするのは、結構手間かかりますから」
何とか思いとどまらせようと、前のめりで説得に掛かる美奈だったが、明後日の方向から反論が来た。
「それは、結構難しいと思うぞー」
「え?」
美奈は計人を振り返った。
まさに、ぶった切るという終わり方ですね。ごめんなさい。




