お出かけ前
「と、いう訳で、明日は飲茶なのよ」
土曜日。遊びに来たゆかりに、明日の予定を報告する。
「へぇ、いいなぁ。おいしそう」
羨ましげな声を上げるゆかりを見た美奈は、嬉しそうに提案した。
「なら、今日の帰り、食べていく? 明日だけじゃ準備追いつかないから、用意はもう始まってるから。簡単なのいくつかは作れるよ」
「蝦餃とか出来る?」
「うん、包み物系は、皮をとにかく大量に作るから、今日のうちから作り始めてるし」
最初は食材調達だけ任せ、全てを自分で作ろうかとしていた美奈だったが、作りたいメニューの多さに諦めた。作りきるには、仕込みだけで丸一日掛かりきりになる必要があったからだ。
今頃シェフ達が、せっせと各種皮作りに勤しんでいることだろう。
「飲茶なのに、そんなにがっつり?」
飲茶とは、本来文字通り、軽く食べながらお茶を飲むものであり、お茶の方がメインなものである。フードファイトになりそうな量の料理が用意されるのが不思議なのだろう。そんな素朴な疑問に、美奈は笑って手を振る。
「本格的なものじゃなくて、なんちゃって点心がいいみたいだからね。流石に北京ダックは入れないけど、麻婆豆腐や炒飯なんかも用意するし」
「なるほど。日本式点心ね」
確かに、大雑把な計人のこと。飲茶というより点心、もっといえば中華全般を食べたいという気持ちで言ったのだろうと納得する。
飲茶で満漢全席が食べたいとのたまったことすらある計人。飲茶の定義など気にするだけ無駄だろう。
「うん、だから適当に味見してくださいな。鉄観音のいいのも入ったし、茶器もちゃんとしたのあるしね」
さらりと言われたその言葉に、ゆかりが乾いた笑いをもらす。鉄観音が茶器を選ぶのは、身を以って経験済みだった。
「私、前に信楽使っちゃったのよね……」
「あぁ……、ご愁傷様」
微妙に視線をそらして言われてしまい、慌てて反論する。
「い、いや、不味くはなかったよ? 不味くは」
「でも、おいしさは逃げた、よね」
痛いところを突っ込まれ、言葉に詰まる。
「う……。あまり手に入らないやつだから、お気に入りの容器で、とか思った私が悪かった。無難に陶器にしておけば、あんなことには!」
ふるふると握り拳を振るわせるゆかりを、美奈がまぁまぁと宥める。
「今日は、そんなことにはならないから大丈夫。ゆっくり味わってね」
「ありがとー、ミナ! 大好き!」
仮にも恋人の前で、他人に愛を叫んで、ひしと抱きつくゆかり。それを見つつ、空気と化していた秀が口を挟んだ。
「どうでもいいけど、出かけないのか?」
言われた二人は壁の時計を見た。ゆかり達が来てから、既に結構な時間が経っている。本日行く予定の新装開店のお店は、もうとっくに開いている時間だ。
「あら。ひとまず行きますか」
「そうしましょう」
その後、お店に着くまでの間も一通り点心の話で盛り上がった三人は、お昼に中華を食べるかどうかを悩んでしまったのだった。




