申し開き3
暫くの間、怒れる妻に、怒りの火を鎮火させつつ油も注ぐ夫、時に茶々を入れつつ大いに楽しむ隣人、という構図が続いていたが、風早派の一人が、そんな穏やかな空間を引き裂いた。
「いい加減にしてください!」
悲鳴の様に叫ばれた言葉に、言い合いをしていた三人もそちらを向く。
「今は、痴話喧嘩を披露する場ではございません! 城崎姓を持つ方が、そのようなことでどうなさいます!」
申し訳なさそうに黙った夫妻を見た後、もう一人の元凶にも声をかける。
「風早様も! 煽るのはおよしください、今は遊びの場ではございません」
正論なので、文句も言えない。首を竦めた風早をキッと一睨みして諌めると、そのままくるりと顔を動かし、要に向かって宣言した。
「ともかく! 少女は、許可もなく力を行使し、挙句の果てに、力の欠片を残して帰りました。これは、天界に対して弓引く行為と見做しても構わないかと思います」
「大体、この天界で、その様な技が使えるとは、世界に危機をもたらすかも知れぬ危険な存在といえましょう」
「そうだ。罪を犯した者を何故そのまま放置したか、その責任を問うべきではないでしょうか!?」
他の風早派も、これ幸いとばかりに糾弾し始める。
「待て。少女は、こちらのミスで拘束されたのだ。それなのに、訳も分からずやった事に対して、悪意と断ずるのは性急ではないか?」
「ですが、力を行使できるほどこちらについて知っていたのでしょう? 本当に訳が分からなかったのかは怪しいとみるべきです」
「そうです。そもそもが、計画通りという可能性だってあるではないですか!」
その言葉に、ピクリと動いた城崎に気付かず、風早派の主張はどんどんとヒートアップしていった。
「案内者とはぐれた体を装い、何も知らない振りをして、天界に害なそうとするよう、予定していたということは考えられませんか?」
「少女は、協力者ではなく、その付き添いだったということです。つまりは、そのような目的のために持ち込まれたということではないでしょうか」
「案内者に唆されたか、自分で考えたか。それは定かではありませんが、どちらにしろ、碌な事ではないでしょう」
「一人で考えたこととも思えぬし、背後にいる者ごと吐かせるのが良いのではないかと」
風早派の勢いが出てきたのにつられ、本来、発言権のない統括区職員達まで口を挟み始めたところで、城崎が声を発した。それは、決して大きくはないのによく響き、それ以上に怒りを伝えていた。
「つまり、我が妹が地界人を唆し、反逆を働いたかも知れぬ、と?」
「い、いえ! そ、そんなことは……」
「我が妹を尋問し、ない罪を吐かせて罰しようというのか?」
ゆっくりと、穏やかに話される言葉が却って恐怖を誘う。
「め、滅相もございません」
「では、どういうこと? 私の可愛い義妹が天界に仇なすために、地界の少女を騙し利用した、と、貴方達はそう言いたかったのでしょう? それにはまず、義妹が少女と別れないとならないから、当然、そのきっかけを作った夫も共犯と言いたいのよね?」
城崎夫妻に、ひたと見つめられた者達が、がたがたと震え始めたところで、風早がため息をつきながら口を挟む。
「お前達、話を勝手に広げすぎだ。統括者なら、裏から小細工をせずとも、十分天界に害なす存在となれる。よって城崎殿が企む理由がない。そも、夢守隊の大隊長が善と判断したなら、その信憑性は高い。邪推はよせ」
自分の取り巻きをたしなめた後、冷たい眼で相手を見下ろす城崎夫妻に話しかける。
「少女が、許可なしに力を扱えたことは事実。何故そんなことが出来たのかを解明する必要があるため、どうにかせねば、と焦り、心にもないことを言ってしまったようだ。妹御を貶められて憤るのは尤もだが、よく言い聞かせておくので、ここは私に免じて許してはくれまいか?」
「風早様がそこまで仰るなら」
城崎は全く納得はしていない表情で周りをじろりと睨みつけた後、渋々といった面持ちで息をつく。
「そうか、いや、ありがたい」
態と明るく言われた言葉で、何とかその場の雰囲気が元に戻った。




