天界への誘い
美奈がゆかりに、何か進展あったら教えてね、と言われて数週間。
見回りの最中、美奈がことあるごとに梨亜や計人に話しかけた甲斐あって、会話しながら見回るのが普通となった。
計人のやる気も回復したようなので、毎日付いていくことはないが、二人はそれなりに上手くやっているようだ。
ただ、計人は細かいところまで見ようとしないため、一人だと結構見逃しがある。梨亜からの注意が多いと、計人がまたやる気をなくしかねないので、ちょくちょくついて回る必要はあるが。
その日も、二人と一緒に見回っている時、計人が梨亜に必殺技の存在を問い、一笑に付されて口論になりかかったところに割り入って話をしていると、梨亜から週末の予定を聞かれる。
また何をやるのかと、多少面倒くさそうな顔をしつつも、何の予定もないことを告げる計人に、美奈も頷く。
梨亜の用件は、天界へのお誘いだった。
何でも、計人が夢追人の手伝いをするにあたり、天界の方にその旨を申請しておくと、後々特典がつくらしい。
色々言っていたが、その中に『こちらで死んだ後、人格や記憶をそのままに、天界へ移住できる権利』があるというのに、美奈は飛びついた。
勿論全員ではなく、それだけの価値があると見做され、本人も望んだ場合に限られるらしいが、それが出来るなら、異世界間の恋愛のハードルが下がることは間違いない。将来恋人同士となった二人が、計人の死によって別たれることはないということなのだから。
美奈としては是非とも実現してもらいたい未来だったので、是が非でも行く事を決め、あまり気の進まない様子の計人も説得した。
計人は、普段自分の希望に沿わない意見を出すことのない美奈が口にしたお願いを聞いて、行くことを了承した。
行くのは面倒だが、美奈が行きたいなら行く価値はある。行くことが決まった途端、二人の顔が輝いたのを見たら尚更。折角のなかなかできない体験、楽しんでみようと思ったのだった。
天界へ行けることになった美奈は喜んだ。元々、梨亜から聞く天界の話は楽しく、その文化に触れてみたいと思っていたのだ。
それに、行きたい理由はそれだけではなく。
――ひょっとすると、話に聞くだけだった天界の人たちに会えるかもしれない。梨亜ちゃんの上司や先輩に挨拶できるかもしれない。運がよければ、梨亜ちゃんの家族にも……。
その考えは美奈の心を思い切り浮き立たせた。
その日の夜、美奈は婚約者候補に週末に都合がつくなら会わないかと言われたが、予定があると言って断った。