行方知れず
「ゆかちゃん、またねー」
島田のお見送りに、ぶんぶんと手を振って応え、牢から遠ざかる。
十分に離れて、島田が見えなくなったところで、三人はふぅ、とため息をついた。
「緊張しましたー」
「でも、見事なお芝居でしたよ。本当に子供にしか見えませんでした」
「あぁ、島田もこれっぽっちも疑ってなかったしな」
鳥谷と要が、疲れた様子の美奈を労う。繋いでいた手をぽんぽんと叩かれ、美奈はくすぐったそうに笑った。
「こうしてると、お兄ちゃんが出来たみたいですねー」
見上げつつ言う美奈に、要も笑ってしみじみと言う。
「俺も、こんな妹がほしいな」
「隊長、可愛らしい妹さんいるじゃないですか」
鳥谷の言葉に、拗ねた様に口を尖らせる。
「俺を見下ろしてくる妹なんて可愛くない……」
「それは……」
隊長の背丈ならしょうがないでしょう、とは流石に口に出せない鳥谷だった。
「隊長さん、妹さんいるんですね。私、一人っ子だったから、兄弟って憧れだったんですよねぇ」
「あぁ。といっても、既に社会人でそれぞれ一人暮らしだから、暫く会ってないけどな」
「へぇ、そうなんですか」
美奈は、咄嗟に普通に返事できた自分自身を褒めてやりたくなった。妹が成人しているということは、当然本人も……。
確かに、梨亜は隊長が年上だ、と言っていたが、成人しているのか。
美奈本体の映像を横流しされて見ている計人なんて、前情報が一切なかったせいで、聞き間違えかと耳をほじっている。つくづく聞いたのが本体じゃなくて良かった、と思った美奈であった。
「ところで美奈、鳥に戻れるか?」
目的地に近づいたため、再度変身を促す。
今度こそ安全な場所で待っていてもらおうとした要だったが、美奈は小型端末へと姿を変えた。
【こんなのも出来ますけど】
要は、ふよふよと浮かび画面に文字を浮かべる機体を前にして、大して驚いていない自分に、慣れとは恐ろしいものだ、とひとりごちた。
とりあえず、どこで見てるのかよく分からないので、カメラレンズを塞がぬ様に手に持つ。
画面に♪が踊っているので、多分大丈夫だと判断した要は、美奈をうっかり握りつぶさないように気をつけながら『北』へと入っていった。
「来ていない?」
要の疑念がたっぷり含んだ声に、門兵たちは少し気圧されつつも頷く。
「本日、こちらに新たな囚人は一人も入っておりません」
「それは確かなのか? 交代前に入っているとかないのか?」
それはないだろうなと考えつつも、一応聞いてみた要だが、やはり答えは予想通り。
「確か、本日『風』に、不法侵入を試みて暴れた地界人が捕らえられていると伺っておりますが、それは関係ありませんか?」
ある。それは大いに関係あるが、残念、別人だ。
思わず話題に挙がった地界人に視線を落とすと、自分達が原因で捕まえられたかの様な言われ様に荒れていた。
画面内に閃く、黒い渦巻きに、怒りマーク、竜巻に、雷鳴まで。怒りは十分に伝わったが、落ち着いてほしい。
端末相手に宥めるわけにもいかない要は、何度かぎゅっと握りながら、相手に見えない様に隠す。反対向きにしたら、頭に血が上るかもと思い、多少変な姿勢で持っていたが、幸いなことに門兵たちが気にすることはなかった。
それから暫く話を聞いてみたが、新しい情報もないと判断した二人(と一台)は、『北』を後にした。




