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お手伝い

このお話は、前みたいに毎日更新はしないと思われます。ゆったりのんびり書いていくので、気が向いた時にでも覗いてやってください。

「夢人?」


いつもの帰り道。途中まで方角が一緒である計人と美奈は、一緒に帰ることも多い。そこに梨亜も加わって、三人で帰るのが最近見られるようになった光景だ。


美奈が平均よりも小さく、反対に梨亜が高めの身長ではあるが、二人ともそれぞれ整った見目をしているため、両者を引き連れる計人に殺気のこもった視線が寄せられることも少なくない。ま、本人はどこ吹く風で、全く気にしていないのだが。


今日は辺りに人はおらず、話を聞くのは空を飛ぶ鳥位の状態の中、首を傾げる美奈の言葉に頷き、梨亜が説明する。


「そう。他世界の事柄を見ることの出来る共鳴の能力を持った人のことを、うちの世界ではそう呼んでいるの」


他人に聞かれたら、何かの冗談か、物語等の話だろうと言われること間違いなしの会話だが、本人達は極真面目に話をしている。実はここだけの話、梨亜はこの世界の人間ではないのだ。


この世には、様々な世界が存在し、それらは通常重なり合うことはない。


しかし、中には自分の生きている場所とは異なる世界の様子を窺うことのできる者がおり、彼らはそれを、自分の創造した世界だと思って生きている。


例えば、作家。例えば、画家。何かを無から生み出し、創造している者は、多かれ少なかれ無意識のうちに他世界を覗いて構想を練っている場合が多い。


数多の世界の住民は、世界が多数存在することを知らないため、自分の想像上の世界が実在することを知らず、想像上の世界が自分の望むようにならないと、それを壊そうとする場合がある。それを防ぐべく、複数の世界の仕組みについて知っている唯一の界である天界の人間が、他世界同士の干渉による被害から、各世界を守ろうと動いている。


梨亜は、そんな天界の一員であり、ここ地球世界を担当する守護者 ――夢追人―― なのである。


そんな梨亜が何故、自分の幼馴染みの計人と知り合い、計人が仕事を手伝うようになったのか、詳しいことを美奈は知らないし、特に知ろうという気もしなかった。


美奈には「梨亜ちゃんのすることは信じて大丈夫」という自信があり、それだけで十分だったのである。


「――んで美奈、お前も夢人の一人なんだと」


計人の言った言葉に、美奈はふぅんと返事をしつつ、目の前の幼馴染みが一体何を言おうとしているのかを考える。


計人は現在、梨亜の仕事を手伝っている。けれど、基本的にその仕事は計人にとって面白いものではないだろう。


夢追人の仕事は、基本的に辺りを見回り、この世界に悪影響を及ぼす念が見つかったら、それが大きくなる前に消す、というもの。


本職の夢追人なら、もっと役割もあるし、移動も徒歩で地道に、ということはないが、現地人としてするお手伝いの計人は、恐らくは本人の世界観を壊さないためにも、この世界の常識の範囲内で出来る行動のみを手伝っている。


よって、ただただ辺りを練り歩くことに早々に飽きたのではないか。細かい捜索とか探知とかにおいて、計人に才能がないということではない。自分の興味関心の向くものについては、見事なまでの集中力を見せることを知っている。


反面、自分から興味を持ったわけではないものについては、同じ人物かと疑われるくらいその精度が落ちる。


多分、梨亜ちゃんのお願いを叶えたくて手伝いを承知したものの、その内容が思ったよりつまらなくて、やる気がでなくなったんだろうな、と見当をつける。


――だとすると、私にも手伝ってほしいっていうお誘いかな?


梨亜ちゃんの力にはなりたいが、面白みもない単純作業を続けるのも辛い、という状態なのだろう。真面目な梨亜ちゃんは見回りをお喋りしながら、とかやったりはしないだろうし。


いくら気になる女の子と一緒だからといって、黙々と街を練り歩くというのは計人にとって、そんなに続けられる作業ではないだろうから。


そこまで考え、自分の採るべき行動を口にする。


「なら、私も夢追人のお手伝いする力があったりするってことかな?」


案の定、計人の眼が一瞬光を帯びる。


「あるんじゃねーか? なぁ、梨亜?」


「うーん、確かに、共鳴出来る人なら、力を持ってるってことだからね。――ちょっとだけ試してみる?」


そう言って梨亜は、鞄から取り出したものを美奈に渡した。


「ヘアピン?」


「そう。特別製のね。それをちょっと付けてみてくれる?」


言われた通りピンを頭に付けると、ピンが当たっている部分に意識が引き寄せられるのが分かる。


――うーん、何かこめかみに変な圧力が掛かってるような?


その圧力に意識を集中しながら辺りを見回すと、何だか不思議な煙が見えた。


「付けてみて、何か変わった感じはない?」


「変わったというか、いつもの風景にセロファンを一枚貼り付けたような見え方になった感じかな?」


美奈の返答に手を叩いて喜ぶ。


「うんうん、そんな感じ! それで、いつもとは違う何か見える?」


梨亜の問いかけに、もう一度辺りを眺め、美奈は答えた。


「うーん、ここら辺にオーロラみたいに揺れる靄と、あっちの方に靄と妙に動きが合ってる毛玉が飛び跳ねてるかな? 後は、そこの狼煙みたいに細く流れてる煙。流れる方向が下ってのがちょっと変だけど」


正直に見えたものを答えると、梨亜は一瞬ビックリした顔をした後、少し興奮気味に言った。


「凄い。普通、最初っからそこまでは見えないよ! 現段階では、計人よりずっと良い眼を持ってる!」


この分なら、ちょっと慣れればすぐにでも補助なしでも見れそうだ、と言われ、ピンを外してみる。


先程と同じ様に、こめかみの辺りに意識を集中させ……。


「あ、出来た」


ピンの感触を思い出しつつ、先程と同じような感覚を意識すると、カチリとスイッチが切り替わるように視界に靄が入る。


「うーん、でも、思いっきり集中しないと駄目みたいだから、慣れるまではピンがあった方がいいみたい」


やっぱり最初からそう上手くはいかないね、と振り向いた先には、口を開けて驚いている梨亜と、肩を落として項垂れる計人がいた。


――しまった、ちょっとやりすぎたかも。


こうして、十分な力を見せ付けた美奈は、二人の見回りのお手伝いをすることになった。

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