行動開始
美奈は、少し考え、眼を瞑った。
――ここは異世界。私にとって、異世界。
梨亜に夢追人について教わって、分かったことがある。それは、知っているということは、より効率よく力を使えるということ。
元々美奈には夢人としての才能があった。自分の中に存在するそれを無意識に操って共鳴していたわけだが、梨亜によって力があることを頭で認識した途端、その精度は格段に上がった。
力自体の存在とその使い方、それを知ると知らずとで差が出るのは当たり前。
美奈は、自分の力を知って以来、どのような力があるのかを梨亜に聞きまくっていた。今まで聞いた話と、その話を元に試してきた自分の力。共鳴の際、動物やものをイメージし、それらに自分の意識を同調させるようにすることで、物語の核や自分の知りたいこと、それらをより詳細に知ることが出来るようになっていた。それを発揮できれば、この世界を視ることも可能なはず……。
美奈は、異世界に意識を飛ばすように、この牢屋に意識を溶かした。
どうやら成功の様で、この建物の様子が感じられる。先程の部屋の溜まりに溜まった書類なども読むことができるようだ。
――さて、状況はっと。
先程ちらりと話題に上がっていた、監察というのが始まっているのだろう。全体的に規則を守ろうという緊張感はあるが、不測の事態が起こったという雰囲気は感じられない。
とすると、この牢は、梨亜の敵側に回ったということか。
――決め付けるのは早いけど、少なくとも味方にはなりそうにない、と。
自分達が巻き込まれぬよう不干渉を決め込んだだけか、はっきりと敵側に回っているのかは分からないが、それだけは確かだろう。美奈達の味方に今の事態を話すだけでいいのに、それもさせてもらえないほど厄介な敵だったなら、ここの人達にはそこまでの無茶をして二人に義理を通す筋合いはないのだし。
ならば、自分達自身で声を上げねば、最悪二人ともここで死ぬ羽目になる。
美奈は、意識を戻して何度か深呼吸をすると、真剣な顔をして呟いた。
「……やっぱ、ネズミかな?」
計人は、自分の座る椅子の下に、おかしなものを発見する。
それは、椅子の脚をトントンと叩くハツカネズミの姿だった。しかも、このネズミ、摘み上げても逃げず暴れず、『ケェト』と鳴く。
自分の頭を疑いたくなる事態に、計人が常識と目の前に横たわる純然たる事実とで壮絶な争いを繰り広げていると、ネズミは『大丈夫?』と心配までしてきた。
計人は、暫くじぃっとネズミを見たりつついたり揺らしたりしていたが、やがて大きなため息をつきながら言葉を吐き出した。
「この短期間にダイエットしすぎじゃね? 美奈」
そう。このネズミは、この世界で動き回るために美奈が作った仮の姿だった。
美奈達のいる地球では、人が動物に変わるような真似は出来ない。計人の驚きも尤もなのだが、美奈はそんなことは意に介さずに返した。
『変かな?』
長い付き合いで色々と悟っていた計人は、ひとまず常識の再来は諦めて、現状把握に努めることにした。まことに正しい判断だった。
「で、どうするつもりだ?」
『ひとまず外に行って、梨亜ちゃんを助けてくれそうな人がいないか探してみるよ』
「っつったって、そんなん、分かんのか?」
『駄目で元々、かな? 梨亜ちゃんが今日、私達と会わせようとしていた人達が見つかればいいんだけど、そうでなくても、『北』ってのの情報を探ってみる』
小さな前脚をきゅっと丸め、えいえいおー! とばかりに振り上げたネズミナは、何かあったときのための自分への連絡方法を提示しつつ、鳥の形に姿を変えて、空へと飛び立った。
『それじゃあ、行ってきます!』




